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第1部
第4章:鋼の使者ー003ー
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もらった服に無邪気な笑顔を浮かべる雪南に、円眞は思い出す。
先方からの声がけであった。事務所に一人だから、と夏波が連絡を寄越してきたのだ。
円眞は真意は計りかねた。命を奪いにきた相手と二人きりで話そうと言うのである。本当に関係性修復を図っての誘いであろうか。
風間夏波は、彩香より一つ上の二十三歳。能力を持たない一般人だと聞いているが、実際はどうだろうか? 能力を保持していても秘密している者は多い。
そもそも能力者が生き難い面を持つ現代社会である。隠す者のほうが断然に多いはずだ。
逢魔街くらいである、大ぴらに能力を標榜できる場所は。
それでも住む者として、単純な決めつけほど危ないものはない。文字通り無法の時間帯を有する街で、いざという際まで己れの能力を伏せておくなど充分に考えられた。
昨夜の襲撃を気に病んでいた雪南は、今すぐにでも飛んで行きたそうだ。
円眞からすれば、なにはともあれ確認が先だった。
まず夬斗へ連絡を取ってみた。慎重を期したい円眞としては拒否を期待していた。ところが「いいんじゃないか」とあっさり快諾の一言である。ただし諦めたような口調だったのが気になる。
だから夬斗の許可に、雪南が飛び出して行った直ぐ後だ。円眞は黛莉へ電話をかけた。夬斗と同じ内容で訊ねる。
「夏ねぇーから聞いてる。昨日のあれじゃ、いくと思った。どうせお着替えよ。だから安心しなさい」
黛莉の太鼓判に、円眞は胸を撫で下ろす。
「わかった、ありがとう」
感謝で連絡を切ろうとしたら、受話口から聞こえてきた。
「クロガネが、あたしなんかを信用していいの」
「そりゃあ、黛莉さんだからね。信用するよ」
ここで円眞は、はたと気づく。慌てて続けた。
「用心したいのは夬斗くんや黛莉さんのほうだよね。やっぱり雪南を止めようか」
よくよく考えれば、被害者になる側はアスモクリーン株式会社の女性事務員だ。雪南のほうこそが、殺害を行える立場にある。
ついつい雪南の立場ばかりを慮って、当然あるべき視点を失っていた。和須如兄妹に負担を強いていないか、心配になった円眞だ。
大丈夫よ、と黛莉が受話口から杞憂を吹き飛ばしてくる。
「あいつが夏ねぇーにこだわるのだって、クロガネのことを想えばじゃない」
「え、えっ、どういうこと?」
「だって、あいつはずっと傍に……」
電話の声が途切れた。
円眞は心配に突き上げられた。逢魔ヶ刻ではないとはいえ、危険が蔓延る土地柄だ。電話の最中に、何か襲撃を受けた可能性だってある。
「ど、どうしたの、黛莉さん。なんか、あった。返事して!」
「なによ、急に。耳が痛くなるじゃない」
威勢いい返事は、普段の黛莉である。
「良かったぁ~、無事で。声が聞こえなくなったから、黛莉さんに何かあったかと心配しちゃったよ」
円眞は心底から安心したらである。
「……バカ」
小さな声がしたかと思えば、ブチっと切られた。
まったく何がなにやら解らないまま少しだけ流れた時間に、円眞は目をぱちくりされるだけだ。でもおかげで、雪南についてやきもきせずに済んだのかもしれない。
昼過ぎに戻ってきた雪南は着替えていた。なんだか奇妙な格好だ。だが夏波という女性に心酔にも似た感想を述べてくる。どうやら関係性は修復以上の結果が得られたようだ。
円眞は夏波をよく知らない。事務所へ訪れても奥の席で音もなく座っている印象がある。和須如兄妹の精神的支柱になっているに違いない静かな佇まいが脳裏に浮かんでくる。
静謐な大人な女性を描いていた円眞へ、華坂爺が重々しく口を開いた。
「風間夏波。あれは、ヘンタイじゃからな」
先方からの声がけであった。事務所に一人だから、と夏波が連絡を寄越してきたのだ。
円眞は真意は計りかねた。命を奪いにきた相手と二人きりで話そうと言うのである。本当に関係性修復を図っての誘いであろうか。
風間夏波は、彩香より一つ上の二十三歳。能力を持たない一般人だと聞いているが、実際はどうだろうか? 能力を保持していても秘密している者は多い。
そもそも能力者が生き難い面を持つ現代社会である。隠す者のほうが断然に多いはずだ。
逢魔街くらいである、大ぴらに能力を標榜できる場所は。
それでも住む者として、単純な決めつけほど危ないものはない。文字通り無法の時間帯を有する街で、いざという際まで己れの能力を伏せておくなど充分に考えられた。
昨夜の襲撃を気に病んでいた雪南は、今すぐにでも飛んで行きたそうだ。
円眞からすれば、なにはともあれ確認が先だった。
まず夬斗へ連絡を取ってみた。慎重を期したい円眞としては拒否を期待していた。ところが「いいんじゃないか」とあっさり快諾の一言である。ただし諦めたような口調だったのが気になる。
だから夬斗の許可に、雪南が飛び出して行った直ぐ後だ。円眞は黛莉へ電話をかけた。夬斗と同じ内容で訊ねる。
「夏ねぇーから聞いてる。昨日のあれじゃ、いくと思った。どうせお着替えよ。だから安心しなさい」
黛莉の太鼓判に、円眞は胸を撫で下ろす。
「わかった、ありがとう」
感謝で連絡を切ろうとしたら、受話口から聞こえてきた。
「クロガネが、あたしなんかを信用していいの」
「そりゃあ、黛莉さんだからね。信用するよ」
ここで円眞は、はたと気づく。慌てて続けた。
「用心したいのは夬斗くんや黛莉さんのほうだよね。やっぱり雪南を止めようか」
よくよく考えれば、被害者になる側はアスモクリーン株式会社の女性事務員だ。雪南のほうこそが、殺害を行える立場にある。
ついつい雪南の立場ばかりを慮って、当然あるべき視点を失っていた。和須如兄妹に負担を強いていないか、心配になった円眞だ。
大丈夫よ、と黛莉が受話口から杞憂を吹き飛ばしてくる。
「あいつが夏ねぇーにこだわるのだって、クロガネのことを想えばじゃない」
「え、えっ、どういうこと?」
「だって、あいつはずっと傍に……」
電話の声が途切れた。
円眞は心配に突き上げられた。逢魔ヶ刻ではないとはいえ、危険が蔓延る土地柄だ。電話の最中に、何か襲撃を受けた可能性だってある。
「ど、どうしたの、黛莉さん。なんか、あった。返事して!」
「なによ、急に。耳が痛くなるじゃない」
威勢いい返事は、普段の黛莉である。
「良かったぁ~、無事で。声が聞こえなくなったから、黛莉さんに何かあったかと心配しちゃったよ」
円眞は心底から安心したらである。
「……バカ」
小さな声がしたかと思えば、ブチっと切られた。
まったく何がなにやら解らないまま少しだけ流れた時間に、円眞は目をぱちくりされるだけだ。でもおかげで、雪南についてやきもきせずに済んだのかもしれない。
昼過ぎに戻ってきた雪南は着替えていた。なんだか奇妙な格好だ。だが夏波という女性に心酔にも似た感想を述べてくる。どうやら関係性は修復以上の結果が得られたようだ。
円眞は夏波をよく知らない。事務所へ訪れても奥の席で音もなく座っている印象がある。和須如兄妹の精神的支柱になっているに違いない静かな佇まいが脳裏に浮かんでくる。
静謐な大人な女性を描いていた円眞へ、華坂爺が重々しく口を開いた。
「風間夏波。あれは、ヘンタイじゃからな」
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