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第2部
第1章:最強の刺客ー002ー
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円眞が逢魔ヶ刻のみに起こせる刃の伸長、動きも自在である。発現させた短剣は、元の名称を失う長さへ伸びていく。曲線と描いて相手の背後を突いた。
円眞の刃は寸前で届かなかった。
ミゲルの背に登場した新たな人物が防いだからだ。円眞くらいの年頃かと思われるが、やけにほっそりした幼い顔立ちをしている。薄褐色の肌をした男性というより男の子といった感じだ。
「ミゲル兄さん、ここは逢魔街。いつもより注意が必要ですよ」
「すまない、エンゾ。助かる」
円眞の刃だけでなく周囲をトレンチナイフで振り払う背中合わせの弟へ、ミゲルが礼を述べている。
無効化の能力を有した新たな刺客は、驚く円眞を飛び越えた先へ声を届ける。
「これで死角はなくなりました。だから黎銕円眞の攻撃に合わせ、いくら自在に糸を扱おうと意味を為しませんよ」
「まったくだ、けっこうイケてるスキルだと思っていたんだけどな。おたくらにはお手上げだ」
夬斗くん! と振り返った円眞の正面には、バニラ色のハイネック・ニットセーターを着た人物がいた。緩めのスパイラルパーマが決まっている、まさにイケメンである。
「やっと見つけたぞ、親友! と募る友誼について語りたいところだが、今は後回しだ。いいか、黛莉」
夬斗は近くのビル屋上を見上げる。
両手に機関銃を抱えたピンクのゴスロリの格好をした少女がいた。逢魔街の『最凶』と謳われる銃火器の発現を能力とする黛莉が、尖った口調で返す。
「なによ、えっらそーに。あんまり遅いから、先に撃っちゃったじゃない。どうせアニ……兄さんのことだから、ホテルにでもいたんでしょ」
「さぁ、黛莉。兄妹、力を合わせて敵に立ち向かうぞ」
どうやら図星らしい夬斗だ。
つい微笑が浮かんだ円眞だ。もう何ヶ月ぶりのことだろう。
夬斗が能力糸を放射状にして投げた。黛莉が頭上から間断ない銃撃を浴びせた。円眞もまた敵わないことを承知のうえで、刃を相手へ向けて伸ばした。
「いくらやっても無駄だ、黎銕円眞も解っていながら、なぜやる」
悉く攻撃を退けたミゲルが問えば、訊かれた当人は返した。
「夬斗くんと黛莉さんが意味もない行動をするなんて思えないからね」
「おっ、さすが親友! 実は俺が遅れた理由には、もう一つあるんだ」
夬斗がニヤリとすれば、敵対するミゲルからすれば流せるわけもない。
「何を考えているか知らないけれど、僕たち兄弟の力の前に、君たち兄妹のスキルは何の役に立たないよ」
「だからさ。それほど凄いスキルだったら、もう少し評判になってもいいはずだろ。なのに今初めて知るようなお前たちのスキルは、隠さなければいけない類いなんじゃないかって考えた」
微かだがミゲルの表情に動きが見えた。動揺が生んだ所作だと見逃さなかった夬斗に躊躇いはない。
「お前たち兄弟のスキルは、スキルにしか有効に働かない。だから高度レベルとされる発現系にしか対抗し得ない。むしろ強化系のほうに苦戦するんじゃないか」
能力と呼ばれる大半は武器などの威力を増長させる類いである。何か物質を介在させなければ発揮できない。無から形にする具現系に比べれば種類にはよるものの劣勢感は否めない。占める割合の高さからも汎用と捉えられがちな強化系の能力だ。
円眞や黛莉が一目置かれている理由は、具現系といった点にも大きく依っていた。
「だからなんだと言うんだい。今、僕たちが相手にしているのは具現系とスキルがなければ軟弱な糸でしかないじゃないか」
ミゲルの口ぶりは嘲りで満ちていたが、目つきは用心を湛えたままだ。なぜなら夬斗の表情にさらなる余裕を認めたからだ。
まったくだ、と認めながらも夬斗は口の端を吊り上げた。
「俺たち、役立たずだからな。時間稼ぎしたわけだ。ろくでもない逢魔街でも住んでいれば、助力は請えるわけさ」
危ない、と咄嗟に前へ出てきたエンゾだ。手にしたトレンチナイフで上空から襲ってきた刃を受け止める。
ガキンッ、と派手な音を立てて刃が交錯した。
円眞の刃は寸前で届かなかった。
ミゲルの背に登場した新たな人物が防いだからだ。円眞くらいの年頃かと思われるが、やけにほっそりした幼い顔立ちをしている。薄褐色の肌をした男性というより男の子といった感じだ。
「ミゲル兄さん、ここは逢魔街。いつもより注意が必要ですよ」
「すまない、エンゾ。助かる」
円眞の刃だけでなく周囲をトレンチナイフで振り払う背中合わせの弟へ、ミゲルが礼を述べている。
無効化の能力を有した新たな刺客は、驚く円眞を飛び越えた先へ声を届ける。
「これで死角はなくなりました。だから黎銕円眞の攻撃に合わせ、いくら自在に糸を扱おうと意味を為しませんよ」
「まったくだ、けっこうイケてるスキルだと思っていたんだけどな。おたくらにはお手上げだ」
夬斗くん! と振り返った円眞の正面には、バニラ色のハイネック・ニットセーターを着た人物がいた。緩めのスパイラルパーマが決まっている、まさにイケメンである。
「やっと見つけたぞ、親友! と募る友誼について語りたいところだが、今は後回しだ。いいか、黛莉」
夬斗は近くのビル屋上を見上げる。
両手に機関銃を抱えたピンクのゴスロリの格好をした少女がいた。逢魔街の『最凶』と謳われる銃火器の発現を能力とする黛莉が、尖った口調で返す。
「なによ、えっらそーに。あんまり遅いから、先に撃っちゃったじゃない。どうせアニ……兄さんのことだから、ホテルにでもいたんでしょ」
「さぁ、黛莉。兄妹、力を合わせて敵に立ち向かうぞ」
どうやら図星らしい夬斗だ。
つい微笑が浮かんだ円眞だ。もう何ヶ月ぶりのことだろう。
夬斗が能力糸を放射状にして投げた。黛莉が頭上から間断ない銃撃を浴びせた。円眞もまた敵わないことを承知のうえで、刃を相手へ向けて伸ばした。
「いくらやっても無駄だ、黎銕円眞も解っていながら、なぜやる」
悉く攻撃を退けたミゲルが問えば、訊かれた当人は返した。
「夬斗くんと黛莉さんが意味もない行動をするなんて思えないからね」
「おっ、さすが親友! 実は俺が遅れた理由には、もう一つあるんだ」
夬斗がニヤリとすれば、敵対するミゲルからすれば流せるわけもない。
「何を考えているか知らないけれど、僕たち兄弟の力の前に、君たち兄妹のスキルは何の役に立たないよ」
「だからさ。それほど凄いスキルだったら、もう少し評判になってもいいはずだろ。なのに今初めて知るようなお前たちのスキルは、隠さなければいけない類いなんじゃないかって考えた」
微かだがミゲルの表情に動きが見えた。動揺が生んだ所作だと見逃さなかった夬斗に躊躇いはない。
「お前たち兄弟のスキルは、スキルにしか有効に働かない。だから高度レベルとされる発現系にしか対抗し得ない。むしろ強化系のほうに苦戦するんじゃないか」
能力と呼ばれる大半は武器などの威力を増長させる類いである。何か物質を介在させなければ発揮できない。無から形にする具現系に比べれば種類にはよるものの劣勢感は否めない。占める割合の高さからも汎用と捉えられがちな強化系の能力だ。
円眞や黛莉が一目置かれている理由は、具現系といった点にも大きく依っていた。
「だからなんだと言うんだい。今、僕たちが相手にしているのは具現系とスキルがなければ軟弱な糸でしかないじゃないか」
ミゲルの口ぶりは嘲りで満ちていたが、目つきは用心を湛えたままだ。なぜなら夬斗の表情にさらなる余裕を認めたからだ。
まったくだ、と認めながらも夬斗は口の端を吊り上げた。
「俺たち、役立たずだからな。時間稼ぎしたわけだ。ろくでもない逢魔街でも住んでいれば、助力は請えるわけさ」
危ない、と咄嗟に前へ出てきたエンゾだ。手にしたトレンチナイフで上空から襲ってきた刃を受け止める。
ガキンッ、と派手な音を立てて刃が交錯した。
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