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第2部
第6章:神々との対峙ー002ー
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真紅の円眞が手にした短剣の刃は伸びた。
どさっと崩れ落ちる音がした。右肩を貫かれたマテオが胸に抱く流花ごと砂塵を上げて地面へ倒れ込んでいる。
慌てて起き上がった流花は、肩から血を流してうつ伏したマテオの身体を揺すった。
「マテオ、大丈夫。ねぇー、大丈夫なの」
「バカ、怪我してんだぞ、力つえーよ」
ご、ごめん……としおらく謝る珍しい流花の姿だ。片膝を着く姿勢まで起き上がったマテオが向ける声は優しい。
「引きこもって自分が見たいものだけ見ているから、感情に流されて判断を間違えるんだよ。でも流花はしょうがないか。何でも見えてしまうんだもんな。世間なんか見えすぎちゃ、保たないか」
「いいよ、怒ってくれて。楓ちゃんにまこちゃんがあんなになったのも、流花のせいだから」
流花はズタボロになった二人の友人を見やる。不意に涙を浮かべて「ごめんなさい」と呟いていた。
ずるいよなぁ~、とごちるマテオの表情に決意が閃く。
「流花、泣いている暇があったら逃げろ。ボクが紅い黎銕円眞を斬り込んでいる間に」
「マテオ、勝ち目はあるの?」
「あるわけないだろ。でも時間稼ぎくらいにはなるさ」
「そんな、むちゃ……」
「それしか策はないんだ。それだけ紅い黎銕円眞とスキル獲得者なんて言われるボクらとはレベルが違いすぎる。けれど気を逸らすくらいはやってやるさ」
真紅の円眞が短剣を握る腕を突き出している。流花へ狙いを定めていれば、刃を伸ばしてくるだろう。
あーあ、とマテオは半ば諦めた調子でこぼす。
「姉さんのために捨てるボクの命だったのに、選りによって流花のためとはなぁ~。でもまぁ、姉さんを守るのにこれ以上にない人が傍に付いたわけだし、陽乃さんの妹ならば、いいとするか」
流花としては、こんな場になっても面白くない。せめて声にしないでくれる、と言いそうになる逢魔街の魔女だった。
行け! とマテオの鋭い声だ。
もう、と気にいらない命令口調と不甲斐ない自分に腹を立てながら、流花は駆け出した……はずだった。
あれ? と、流花は目をぱちくりさせる。
先までいた場所よりかなり離れていた。普通なら一瞬の間に果たせる移動距離ではない。自分の抱える人物の能力があってこその実現だった。
「助かったぁ~」
流花と共に場を逃れたマテオが、大きく安堵の息と台詞を吐いた。
流花は慌てて振り返る。
そこには真紅の円眞へ拳を叩き込む巨漢の『地の神』こと奈薙の姿があった。
「流花ちゃ~ん、良かった」
駆け寄ってくる中学生くらいにしか見えない美少女は、妹の悠羽だ。流花へ飛びついてくる。
「ありがとう、うれ」
頭を撫でる流花は姉そのものといった姿だった。
「もう大丈夫だよ、うれと奈薙が来たから」
顔を上げた悠羽は戦況を確かめるべく振り返る。揺るがぬ信頼を湛えた眼差しが、たちまちにして驚愕に彩られる。
巨漢の奈薙が叩き込む豪腕だ。神々の中で突出した怪力、すなわち世界においてもという意味へ通じる。少なくとも『地の神』が繰り出す拳の一撃は大地に亀裂を走らせるほどの威力を持っている。
「凄まじい力だな」
そう評する真紅の円眞は、片手で受け止めていた。
なにっ、と、奈薙が動揺を隠せない。パンチをまともに受け止められた。しかも片手でなど考えられないことだ。
「しかし『地の神』奈薙よ、よく能力を剣へ昇華せず挑んできてくれたな。感謝する」
「礼には及ばん。俺自身が、あの力は好かん」
「甘いな、と言いたいところだが、我れもそれに応えたいと思う。それにしてもさすが鬼の三女を夢中にさせるだけある、いい男だ」
くだらんことを、と奈薙は受け止められた腕へさらに力を入れる。
じりっと後ずさる真紅の円眞へ、奈薙は動いた。豪腕を封じられれば、長期戦はあり得ない。次の手へ移す冷静さは、さすがは『逢魔街の神々』の一人であった。
奈薙は残った腕で拳を繰り出す。肘を曲げたまま、真紅の円眞の顎を狙った。
捉えた、と奈薙が思った瞬間だった。放つアッパーカットが当たるより先に、強烈な衝撃が走る。ストレートのパンチが身体に喰い込んでいた。
真紅の円眞が残った腕で決めてきた、まさかの先んじられたボディストレートだった。
奈薙の巨漢が吹っ飛んでいく。距離がある後方のビルへ叩きつけられるまで、さほど時間はかからなかった。
奈薙ほどの巨体も隠す巻き上がった粉塵へ、「奈薙!」と悠羽が呼ぶ。
「大丈夫だ、姫」
返答に合わせるかのように砂埃は引き、奈薙の姿が現れる。立ち上がろうとしているが、ダメージのため上体さえ起こせないのは傍からも知れた。
「うれの奈薙を……許さない」
怒りに任せるまま悠羽は突っ込んでいく。
真紅の円眞は右手に短剣を発現させた。向かってくる『粉砕の姫』の異名を持つ少女へ、刃を伸ばした。
効かないよ、と悠羽が伸ばした手に触れれば、刃は砂状化する。円眞の伸縮自在な剣が刺し貫くことはない。にこりとした顔だったが、忽ちにして不審で彩られた。
悠羽は先へ進めない。刃を砂へ変えられたが、押し進めない。砂状化されても刃が伸びてくる勢いに陰りは見えない。
むしろ絶え間ない刃の伸長に、悠羽は還した砂に押され始める。量を増す砂にこのままでは形成逆転を招きそうだが、やめたら砂の代わりに刃が襲ってくるだろう。やめたくてもやめようがなかった。
真紅の円眞は柄を握る手に、ぐっと力を入れる。
悠羽は勢いよく逆流してきた砂に身体を弾き飛ばされた。きゃー、と叫ぶまま宙を舞う。地面へ叩きつけられることはなく、ドスンと奈薙の身体へ落ちていった。
「どんだけ能力へ変えられるチカラを持っているのよ」
悔しさと驚きがない混ぜになっている悠羽を横目にマテオが負傷した右肩を押さえつつ立ち上がる。マジかよ、と呟かずにはいられない。予想以上にあっさりやられてしまった。世界にその名を轟かす『地の神』と『粉砕の姫』のコンビを退ける、紅い黎銕円眞は途方もなかった。
真紅の円眞が、マテオというより流花へ目を向けてきた。
どさっと崩れ落ちる音がした。右肩を貫かれたマテオが胸に抱く流花ごと砂塵を上げて地面へ倒れ込んでいる。
慌てて起き上がった流花は、肩から血を流してうつ伏したマテオの身体を揺すった。
「マテオ、大丈夫。ねぇー、大丈夫なの」
「バカ、怪我してんだぞ、力つえーよ」
ご、ごめん……としおらく謝る珍しい流花の姿だ。片膝を着く姿勢まで起き上がったマテオが向ける声は優しい。
「引きこもって自分が見たいものだけ見ているから、感情に流されて判断を間違えるんだよ。でも流花はしょうがないか。何でも見えてしまうんだもんな。世間なんか見えすぎちゃ、保たないか」
「いいよ、怒ってくれて。楓ちゃんにまこちゃんがあんなになったのも、流花のせいだから」
流花はズタボロになった二人の友人を見やる。不意に涙を浮かべて「ごめんなさい」と呟いていた。
ずるいよなぁ~、とごちるマテオの表情に決意が閃く。
「流花、泣いている暇があったら逃げろ。ボクが紅い黎銕円眞を斬り込んでいる間に」
「マテオ、勝ち目はあるの?」
「あるわけないだろ。でも時間稼ぎくらいにはなるさ」
「そんな、むちゃ……」
「それしか策はないんだ。それだけ紅い黎銕円眞とスキル獲得者なんて言われるボクらとはレベルが違いすぎる。けれど気を逸らすくらいはやってやるさ」
真紅の円眞が短剣を握る腕を突き出している。流花へ狙いを定めていれば、刃を伸ばしてくるだろう。
あーあ、とマテオは半ば諦めた調子でこぼす。
「姉さんのために捨てるボクの命だったのに、選りによって流花のためとはなぁ~。でもまぁ、姉さんを守るのにこれ以上にない人が傍に付いたわけだし、陽乃さんの妹ならば、いいとするか」
流花としては、こんな場になっても面白くない。せめて声にしないでくれる、と言いそうになる逢魔街の魔女だった。
行け! とマテオの鋭い声だ。
もう、と気にいらない命令口調と不甲斐ない自分に腹を立てながら、流花は駆け出した……はずだった。
あれ? と、流花は目をぱちくりさせる。
先までいた場所よりかなり離れていた。普通なら一瞬の間に果たせる移動距離ではない。自分の抱える人物の能力があってこその実現だった。
「助かったぁ~」
流花と共に場を逃れたマテオが、大きく安堵の息と台詞を吐いた。
流花は慌てて振り返る。
そこには真紅の円眞へ拳を叩き込む巨漢の『地の神』こと奈薙の姿があった。
「流花ちゃ~ん、良かった」
駆け寄ってくる中学生くらいにしか見えない美少女は、妹の悠羽だ。流花へ飛びついてくる。
「ありがとう、うれ」
頭を撫でる流花は姉そのものといった姿だった。
「もう大丈夫だよ、うれと奈薙が来たから」
顔を上げた悠羽は戦況を確かめるべく振り返る。揺るがぬ信頼を湛えた眼差しが、たちまちにして驚愕に彩られる。
巨漢の奈薙が叩き込む豪腕だ。神々の中で突出した怪力、すなわち世界においてもという意味へ通じる。少なくとも『地の神』が繰り出す拳の一撃は大地に亀裂を走らせるほどの威力を持っている。
「凄まじい力だな」
そう評する真紅の円眞は、片手で受け止めていた。
なにっ、と、奈薙が動揺を隠せない。パンチをまともに受け止められた。しかも片手でなど考えられないことだ。
「しかし『地の神』奈薙よ、よく能力を剣へ昇華せず挑んできてくれたな。感謝する」
「礼には及ばん。俺自身が、あの力は好かん」
「甘いな、と言いたいところだが、我れもそれに応えたいと思う。それにしてもさすが鬼の三女を夢中にさせるだけある、いい男だ」
くだらんことを、と奈薙は受け止められた腕へさらに力を入れる。
じりっと後ずさる真紅の円眞へ、奈薙は動いた。豪腕を封じられれば、長期戦はあり得ない。次の手へ移す冷静さは、さすがは『逢魔街の神々』の一人であった。
奈薙は残った腕で拳を繰り出す。肘を曲げたまま、真紅の円眞の顎を狙った。
捉えた、と奈薙が思った瞬間だった。放つアッパーカットが当たるより先に、強烈な衝撃が走る。ストレートのパンチが身体に喰い込んでいた。
真紅の円眞が残った腕で決めてきた、まさかの先んじられたボディストレートだった。
奈薙の巨漢が吹っ飛んでいく。距離がある後方のビルへ叩きつけられるまで、さほど時間はかからなかった。
奈薙ほどの巨体も隠す巻き上がった粉塵へ、「奈薙!」と悠羽が呼ぶ。
「大丈夫だ、姫」
返答に合わせるかのように砂埃は引き、奈薙の姿が現れる。立ち上がろうとしているが、ダメージのため上体さえ起こせないのは傍からも知れた。
「うれの奈薙を……許さない」
怒りに任せるまま悠羽は突っ込んでいく。
真紅の円眞は右手に短剣を発現させた。向かってくる『粉砕の姫』の異名を持つ少女へ、刃を伸ばした。
効かないよ、と悠羽が伸ばした手に触れれば、刃は砂状化する。円眞の伸縮自在な剣が刺し貫くことはない。にこりとした顔だったが、忽ちにして不審で彩られた。
悠羽は先へ進めない。刃を砂へ変えられたが、押し進めない。砂状化されても刃が伸びてくる勢いに陰りは見えない。
むしろ絶え間ない刃の伸長に、悠羽は還した砂に押され始める。量を増す砂にこのままでは形成逆転を招きそうだが、やめたら砂の代わりに刃が襲ってくるだろう。やめたくてもやめようがなかった。
真紅の円眞は柄を握る手に、ぐっと力を入れる。
悠羽は勢いよく逆流してきた砂に身体を弾き飛ばされた。きゃー、と叫ぶまま宙を舞う。地面へ叩きつけられることはなく、ドスンと奈薙の身体へ落ちていった。
「どんだけ能力へ変えられるチカラを持っているのよ」
悔しさと驚きがない混ぜになっている悠羽を横目にマテオが負傷した右肩を押さえつつ立ち上がる。マジかよ、と呟かずにはいられない。予想以上にあっさりやられてしまった。世界にその名を轟かす『地の神』と『粉砕の姫』のコンビを退ける、紅い黎銕円眞は途方もなかった。
真紅の円眞が、マテオというより流花へ目を向けてきた。
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