出会う美女に「必ず殺す」と言われてますーやまの逢魔街綺譚ー

ふみんのゆめ

文字の大きさ
108 / 165
第2部

第8章:虹彩ー004ー

しおりを挟む
 真紅の円眞えんま夕夜ゆうやは飛ぶ。赤みが差し込みだした空に黒い人影が二つ、くっきり浮かんでいた。 
 
「さあ、さっさとアンタたちブチ殺して、紅いヤツをぶっ殺さなきゃ」

 莉音りおんの宣戦布告に、夬斗かいとが笑いながら言う。

「凄い美人なのに、もったいないな。汚い言葉が似合う今の形相を自分で見たら、がっかりするぜ。普段はモテてるんだろう」
「あんたには関係ないわよ」
「つれないなぁ~。こんな出会いじゃなければ、絶対に口説きにかかるけどな」

 顔を真っ赤にして莉音が身体を震わせた。ふざけた男の台詞にプライドが許さない。

 そんな莉音へ砲弾が向かっていた。

 黛莉まゆりが抱えるのは、迫撃砲の砲身のみだ。発射された黒光りした弾は百二十ミリ口径用である。先が尖る流線型の大きな弾体が、目標を的確に捉えて飛んでいく。
 迎え打つ莉音が嘲りの笑みを浮かべた。

「そんなもんでどうにか出来るなんて、ずいぶんナメられたもんね」

 雷の剣はその一振りで跡形もなく粉砕し消滅させる。

 第二弾が飛んできた。

 何度やっても、と莉音が口にしかけた時だ。
 飛行する砲弾に巻きつく糸があった。黒色が白き砲弾へ変わっていく。
 雷の剣が白き砲弾へ振り降ろされた。

 なに? と莉音が驚きを隠せない。
 神とされるだけの能力を最大限に攻撃化した剣が斬り裂くことさえ出来ない。砲弾を雷の刃が捕らえるまま、一進一退の押し合いだ。うぐぐと唸るほど力を込める莉音が手にする剣は、バチバチ放電していた。
 ついに砲弾が雷の刃を押し切った。莉音の身体は吹っ飛んでは地面へ落ちていく。完全に力負けだ。だがいつまでも転がってはいない。
 莉音は軽やかに跳ねるように起き上がた。そこへ次の砲弾が飛んできた。黛莉の発射した弾に、夬斗の能力糸が巻き付く、また白の色をしたものだ。
 莉音が繰り出した剣の軌道は横だった。砲弾を真正面から受け止めるではなく、流す。刃の上を火花に似た光を撒き散らしながら滑るようにして方向を変えられる。
 能力糸と合体した砲弾は標的の剣さばきにうまく流された。

 くっと悔しそうな黛莉の横で、夬斗は苦笑いしながら言った。

「驚いたぜ。まさか一発で徹甲弾と見極めて、逃れるための太刀筋を決められるなんて。さすが神様なのか、それとも莉音という女性が凄いかだな」
「気味の悪い賞賛に喜んで応えてあげれば、特に夬斗と呼ばれる、アンタ。スキル獲得者なんて呼ばれるレベルを遥かに越えているわね」

 莉音もまた自分を取り戻し冷静な分析だ。

「だから言っただろう。俺たちだって、まるきり当てなしで円眞のアシストに来たわけじゃないぜ」
「どんな手を使ったのよ」
「どんな手もなにも、俺の能力は逢魔街おうまがいの神様に対抗できるだけの潜在能力があるって教えてもらったのさ。『金』に属するという、俺にとっては師匠と呼べる人にさ」

 知らされた事実に、莉音は感情を激らせた。

道輝どうきが! ウソでしょ」
「本当さ。俺が子供の時から世話に成りっ放しで、感謝してもしきれない人さ」 

 夬斗の真情が伝わってくるからこそ、莉音はいっそう苛立った。

「なによ、なんなのよ。新冶しんやといい、奈薙だいちといい、百年前を忘れたの。緋人ひいとが殺されて、冷鵞れいががあんな目に遭ってんのに」

 何を思ったか、莉音が雷の剣を消した。人差し指を立てた右手を掲げる。本来の能力である稲妻を放つ体勢へ入っていく。

「よくよく考えてみれば、アンタたちに剣の力はいらなかったわ。むしろいつもの方が攻撃しやすいから、覚悟しなさい」

 言葉が終わると同時に、轟音を伴った閃光が走った。
 夬斗が頭上に網となる糸を張る。稲妻を受けて眩いほど煌めく。和須如あすも兄妹までには届かない。
 莉音は目を怒らせて再び能力を繰り出すべく右手を掲げた。

「もうお止しなさい、莉音」

 いつの間にか傍まで来ていた新冶に、莉音はかみつく。

「手は出さないって約束だったんじゃないの、新冶。いいわよ、きなさいよ。全員まとめて相手してやる」
「落ち着いてください、もう奈薙も来てますよ」

 えっ、と莉音は意識を広げた。
 周囲の足場を悪さを考慮したのだろう。奈薙が両肩に美少女を乗せてやって来たようだ。莉音が目を向けた時は、流花と悠羽を降ろすところだった。

「なんで……」

 信じられないとばかりの莉音に、新冶が真上へ顔を向けて見せた。

「あの二人はもう、我々が届かない領域へ達しています」

 夜にはまだ遠い赤い空に、剣戟を知らせる響きが降りそそいでくる。
 人影はない。真紅の円眞と夕夜の姿は見えない。剣と剣が激しくぶつかり合う音は頻繁に聞こえてくるにも関わらずである。
 呆然した目を上へ向けている莉音へ、新冶が語りかける。

「もはや雷の剣を出したところで追いつくことは叶いません。もはやあの二人に莉音に限らず、我々の誰も付いてはいけないでしょう」

 円眞も人が悪いようなぁ~、と夬斗がごちている。

「あれだけのことが出来るなら、俺たちの助けなんかいらなかったんじゃないか」
「それは違うと思いますよ。まだ推測の域は出ませんが、ここへ来た時点では戦っている両人ともここまでいくとは想像していなかったのではないでしょうか」
「役に立たなかった、というわけでもなかったんだな」
「ええ、それに何より次元が違う戦いと知れるのが、破壊の波動を起こしていません」

 新冶に指摘されて、改めて全員が空を仰ぐ。
 景色を歪ませるような空気の揺らぎがない。街を壊滅される波動が存在する気配さえない。ただただ刃金が激しくかち合う音だけが聞こえてくる。

 戦況さえ捉えさせない真紅の円眞と夕夜の空中戦だった。

 剣を交えている二人も、今や自分たちが次元を超えた速さで動いている自覚はある。音速を超えることは願っていたが、光速の域までは考えていなかった。少なくとも夕夜はそうだった。

「なんか凄いことになったな」

 夕夜は呟きながらも移動を止めず風の双剣を振るう。
 火と氷といった各々の能力を有する双剣で受け止め弾く真紅の円眞もまた動きを止めない。今度は自分の番だと、逆に打ち込んでくる。
 迎え撃つ夕夜は飛行する中で剣を合わせつつ、言葉のない相手の代わりとばかりに口を動かす。

「まさか自分がここまでやれるなんて思っていなかった」

 剣を合わせるまま、今度は返事をした真紅の円眞だ。

「ああ、それは我れもだ。これは冴闇夕夜さえやみ ゆうや、お前が相手だからこそ達した高みだろう」

 夕夜の口許に微笑が浮かぶ。それは今までの酷薄めいたものとは違う、明らかに本来あるべき感情を表していた。 
 
「自分は婿養子に行ったから、今は祁邑きむら夕夜だよ。いい加減に覚えろ、オヤジ」
「それはこっちのセリフだ。お前の父親になったつもりはない」
「そう、つれないことを言うなよ。お互い訳わからない存在同士じゃないか、オヤジ」
「夕夜、お前。我れに女がいると知ってから、わざと言っているのではないか」

 にやり、として夕夜は答えない。

 図星か、と呟く真紅の円眞は剣を握る手に力を込めていく。

 お互い弾かれるように左右へ飛んだ。拮抗する力に、戦況がどちらかへ傾くか様相すら見せない。さらに二人の動く速度は増していく。剣と剣がぶつかり合っても、周囲に影響を与えなくなった事実が肌で感じ取れる。
 能力を具現化した剣の威力が現実へ干渉しなくなった。

 ふと、夕夜は思う。 
 このまま戦い続けたら、どうなるか。これほど長く攻撃力を最大にした能力で対等に渡り合う事例はなかったはずだ。自分は未知の領域へ達している。どんな影響や変化がもたらされるのか。このまま得体の知れない次元へ飛び込んでしまうか。そうなったら帰って来られるのか……光りの彼方に彼女の姿が、妻の姿が、ふと浮かんだ。

 なにっ! 夕夜は驚愕でうめく。

 視界から、真紅の円眞が消えた。いや消えたのではない、自分が速さを失っていたのだ。夕夜は足下が凍りついていることに気づく。絶対零度の能力で動きを封じられていた。
 夕夜はかろうじて双剣をかざせた。第六感が働いた、もしくは気配を察してという感じで、見えない太刀を受け止める。斬りつけられた刃から身体を守る。
 だが、そこまでだった。
 夕夜は力負けした。もの凄い速度で落下していく。地響きを立つほどに叩きつけられた。

「夕夜さん」「おい、夕夜」「お兄さん」「おじちゃん」

 自分を呼ぶ懐かしい声に、夕夜は笑みを洩れる。だが次の瞬間、口から血が吹き出した。手をついて上体を上げるが、やっとだ。片膝を着いて瀕死の息を吐けば、目前に降り立つ人影を認めた。

「我れの勝ちだ」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

僕のギフトは規格外!?〜大好きなもふもふたちと異世界で品質開拓を始めます〜

犬社護
ファンタジー
5歳の誕生日、アキトは不思議な夢を見た。舞台は日本、自分は小学生6年生の子供、様々なシーンが走馬灯のように進んでいき、突然の交通事故で終幕となり、そこでの経験と知識の一部を引き継いだまま目を覚ます。それが前世の記憶で、自分が異世界へと転生していることに気付かないまま日常生活を送るある日、父親の職場見学のため、街中にある遺跡へと出かけ、そこで出会った貴族の幼女と話し合っている時に誘拐されてしまい、大ピンチ! 目隠しされ不安の中でどうしようかと思案していると、小さなもふもふ精霊-白虎が救いの手を差し伸べて、アキトの秘めたる力が解放される。 この小さき白虎との出会いにより、アキトの運命が思わぬ方向へと動き出す。 これは、アキトと訳ありモフモフたちの起こす品質開拓物語。

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

異世界転生雑学無双譚 〜転生したのにスキルとか貰えなかったのですが〜

芍薬甘草湯
ファンタジー
エドガーはマルディア王国王都の五爵家の三男坊。幼い頃から神童天才と評されていたが七歳で前世の知識に目覚め、図書館に引き篭もる事に。 そして時は流れて十二歳になったエドガー。祝福の儀にてスキルを得られなかったエドガーは流刑者の村へ追放となるのだった。 【カクヨムにも投稿してます】

酔っぱらったせいで、勇者パーティーを洗脳してしまった

透けてるブランディシュカ
ファンタジー
悪友のせいで酔ったら。(※重複投稿しています)仲仁へび

クラスのマドンナがなぜか俺のメイドになっていた件について

沢田美
恋愛
名家の御曹司として何不自由ない生活を送りながらも、内気で陰気な性格のせいで孤独に生きてきた裕貴真一郎(ゆうき しんいちろう)。 かつてのいじめが原因で、彼は1年間も学校から遠ざかっていた。 しかし、久しぶりに登校したその日――彼は運命の出会いを果たす。 現れたのは、まるで絵から飛び出してきたかのような美少女。 その瞳にはどこかミステリアスな輝きが宿り、真一郎の心をかき乱していく。 「今日から私、あなたのメイドになります!」 なんと彼女は、突然メイドとして彼の家で働くことに!? 謎めいた美少女と陰キャ御曹司の、予測不能な主従ラブコメが幕を開ける! カクヨム、小説家になろうの方でも連載しています!

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

MP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

処理中です...