出会う美女に「必ず殺す」と言われてますーやまの逢魔街綺譚ー

ふみんのゆめ

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第2部

終わりの、もしくは始まりの最終章:黄昏の影ー上ー

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 騒がしかっただけに、静けさが身に沁みた。
 しん、とするクロガネ堂店内の奥で円眞えんまはため息を吐く。レジを前に腰掛ける黒い目をしたこの青年は、紅い目だった時について語る皆の会話や表情を思い出していた。

 円眞には、紅い目であった時の記憶はない。聞かなければ、現状が見えてこない。
 三日前は、まさしくその通りだった。
 荒れ果てた街の中に、いつの間にか立っていた。
 円眞は知らない時間を過ごしてきた自覚まではある。紅い目とするもう一人の自分の存在は知らずともしっかり認識している。紅い目の『彼』は円眞を戸惑わせても、すぐに事態を呑み込める状況で戻してくれていた、これまでだった。

 えぐれた地面に立って破壊されたビルが見渡していれば、円眞の名を呼ぶ声がする。
 ゴスロリの格好をした少女だ。一見して黛莉まゆりと判る。
 後ろには夬斗かいとが続いている。慌てて追う姿から、先を行く黛莉が相当な早さで駆けているのが知れた。

 円眞ー、と呼ぶ黛莉が胸へ飛び込んできた。

 訳が解らない円眞は、顔が赤くなる。だがすぐに尋常ならざる様子に真顔へ戻った。
 良かった、ホント良かった……、と円眞の胸をつかんで震えている黛莉だ。

「どうしたの、黛莉さん?」

 円眞が訊いた時、黛莉が固まったような反応を示した。涙いっぱい溜めて見上げてきた目が焦燥を湛えている。

「どうかしたの、黛莉さん?」

 もう一度、円眞が訊いた。すると黛莉が強く胸元を掴んでくる。

「ちょっと、いい加減に出て来なさいよ。あんなこと言われて、どれだけあたしが心配したか、わかってんの!」
「ごめん、黛莉さん。ボクじゃ、よくわからない」

 黛莉の目が見開いた。忽ちにして目元を歪ませる。再び涙を溢れさせては、円眞の胸を叩きだした。

「うそ、うそでしょ。出て来なさいよ、いつも肝心な時は必ず来てくれたじゃない。そうよ、あたしが困って呼んだ時は必ず、必ず来てくれていたのよ。だから、だから……」

 あまりに黛莉の叩く手が激しくなりすぎて、夬斗が背を抑えた。もうヤメろ、と力づくで円眞から引き剥がす。
 距離が開いてもなお黛莉は腕を振り続けた、叫び続けた。出来てきなさいよ、円眞ー! 胸が痛くなる響きを、向けられた黒い目の円眞は耳にしていた。

 円眞は和須如兄妹が必死に探しに来た理由を程なくして別の者から知らされた。

 そして今日、多田夫妻の息子がクロガネ堂へ訪れた。父と母がよく噂に挙げていた場所を一度見ておきたいという気持ちを受け入れた待ち合わせ場所だった。
 約束の時間より少し早くやって来た多田爺の息子は、きちんとした身なりの壮年であった。名前は幸せに太いと書いて『幸太こうた』だそうである。店前には高級そうな黒い車が付けている。高い役職にありそうだが、物腰は至って柔らかい。

 挨拶もそこそこに狭い店内を眺め歩く息子さんの姿に、円眞は多田爺ただじぃ八重やえの姿を重ねた。棚の品にあれこれ話し合う二人は羨ましくなるほど仲がいい。こういう歳の取り方をしたいと思わせる夫婦が、そこにいた。

 本来の目的を果たすべく華坂爺はなさかじぃ内山爺うちやまじぃに、新冶しんやは銀髪にした寛江かんこうの格好で来た。後には夬斗と黛莉が続く。当事者ということで伺いたいと事前に申し出ていた和須如あすも兄妹だった。

 オーナーだから寄ったという顔で彩香あやかも店へ入って来る。

 レジ前で顔を揃えれば、寛江の姿の新冶が差し出した。
 さらしの風呂敷に包まれた遺骨を収める箱だった。
 頭を下げる寛江の横で、華坂爺が言う。

 見分けもつかないほど一緒に押し潰されてしまった。区別つかず二人分をまとめてとなってしまった。申し訳ない限りだ。

 伝え終わった華坂爺がうな垂れれば寛江も倣う。内山爺もまた続く。
 黛莉も頭を下げようとしたが、それより先に多田幸太は遺骨を受け取りながら慌てて頭を上げるよう頼んできた。

「この街で最後を迎えたいと言われた時から、こうした事態は覚悟していたことです。お気になさらないでください。本当に仲がいい夫婦でしたから。でもまさかここまで一緒とは思いませんでしたが」

 そう言って笑う息子さんは、どこか泣いているようでもあった。こみ上げてくるものもあったのだろう。お礼や詳細はまた後日に、と早々に引き上げる旨を告げてくる。
 華坂爺が了解の返事をすれば、「では」と息子さんは踵を返した。

「あ、あの……」黛莉が呼び止める。

 遺骨を胸に振り返る多田幸太に、黛莉は思い切ったように訊く。

「多田さんやそのご家族は、スキルを所有していたりするのですか?」

 おいっ、と夬斗がたしなめる。失礼といったレベルではなく、他人には迂闊には漏らせない有無の真偽だ。能力の有無は、この世界でますます根が深くなっていきそうな問題だ。 
 実際、幸太は表情を消して回答した。

「私を含めて妻や子供たち、親類縁者にもスキル所有の確認は為されていません」

 黛莉があからさまに胸を撫で下ろして見せてくれば、幸太は表情を緩めた。和須如黛莉さんですね? と確認してくる。はい、とうなずいた黛莉に微笑を向けた。

「母から和須如さんのことは、よく伺っておりました。ずいぶん母の話し相手になってくれたみたいで感謝に絶えません。たぶん家族に出来ない話しも口に出来たと思います」

 では、と今度こそ幸太はクロガネ堂を出て行った。店先に待たせていた車に乗り込み発進する様子を音で店内へ運んでくる。
 多田爺と八重は遺骨となって、家族の元へ還っていった。

「もういい加減、顔を上げたらどうじゃ」

 華坂爺が声を投げた先は、寛江だ。内山爺はすでに顔を上げている。
 ずっと下げていた寛江の頭は上がらなかった。代わりに返事がある。

「多田さんとその奥方さまが亡くなったのは、私の責任です。逢魔街おうまがいの神々などと呼ばれる存在の近くにいたためです。私が巻き込んだも同然です」
「それは、寛江。お主だけとは言い切れないじゃろ、現に……」

 華坂爺は途中で言い淀む。つい円眞へ顔を向けてしまったのは、気持ちの弱さゆえだった。即座に失敗と気づいたものの、視線の意味を悟ったクロガネ堂の若店主はむしろ述べて欲しいと表情で訴えている。
 観念するように華坂爺は続けた。

「世界総連の声明によれば、世界の敵と目される人物を標的にしたということじゃ。儂らからすればそれがなんじゃ、といった話しじゃがの。だから寛江、いやこの場合は新冶と呼ぶべきか。一人、背負う必要はないぞ。かばって逝かせてしまった儂らも同罪じゃ」
「いえ、あれはエンさんだけを狙ったわけではありません。明らかに強力な能力を有する逢魔街の神々と呼ばれる者たちも標的に入っていました。完全に我々はハメられたのです。能力を持たざる人々の総意によって」

 銀髪の寛江こと新冶は、ようやく上げた顔は震えていた。

 考えすぎじゃろ、と言う華坂爺は本心からというよりなだめる感じだ。

 新冶は結論づけた根拠を口にする。対能力用弾道ミサイルの誘導装置はまだ緻密な性能まで至っていなかった。『能力』を目掛けていく精度は、ざっくりでしかない。命中させる公算は感知できるだけの強力な能力を必要とする。

「あの日あの場所で我々が集うことは前夜から周知されていることでした。逢魔街に滞在していた者から伝えられたとして、なんら不思議でもありません。虎視眈々と強大な能力者一掃を狙っていた側からすれば、好機到来でした」
「ならば逢魔街の神々と呼ばれる人たちが責任を感じる必要なんてないではありませんか」

 珍しく内山爺が真面目な口調で割って入ってきた。 
 しかし新冶は片手で額を押さえる沈痛なポーズを取った。

「私は総連からの意向で『逢魔七人衆おうましちにんしゅう』によって不穏化した逢魔街の状況確認と報告要請に応えてきました。まさかそれを逆手に取られ、今回の企みに気づけないだけでなく、近づいた者の命を奪う真似まで仕出かしてしまいました」

 一旦、言葉を置いた新冶は大きく呼吸をしてから再び口を開く。

「全て、そう全て私の責任です」

 声を失う静けさが支配した。
 破ったのは奥のレジからだった。

「責任を問うならば、第一はボクだと思います」
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