野球の王子様2 芦田愛菜はマネージャーになりたい。

軽部雄二

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第1章

あいつの名前は越前春馬。

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 なんだ、一体何をやっているのだ?なつきはギャル友の芦田愛菜の挙動不審な行動に眉を顰めた。愛菜は教室の窓から身を乗り出して、一心不乱に双眼鏡で何かを覗いている。なつきは声を掛けた。
「愛菜、おはよう。」
「キャッ!何?ビックリした。」
 なつきは愛菜が覗いていた視線の先を覗き見る。グラウンドには野球部が練習のただ中であった。
「ばっかだね。うちの野球部。」
「何が馬鹿なの?」
「だって、読書部に野球で負けるんだよ。もはや練習するだけ無意味じゃん。」
「・・・・・・・。」
 愛菜は複雑な表情を浮かべた。なつきは尚も続ける。
「よくもまあ、あれだけの醜態を晒して練習する気になるね。世界中の笑いものになってるのに。」
「・・・・・・・。」
 実は球技大会における野球部対読書部の戦いの模様は、なつきに寄り撮影・編集され、ユーチューブにアップされていた。現時点での視聴者数は40万を超える。この動画の所為で聖ミカエル青春学園野球部の名は地に堕ちる事になってしまった。
「どれどれ。私にも野球部の間抜け共を見せて。」
 なつきは愛菜の双眼鏡を引っ手繰ると、グラウンドを覗いた。
「おっ。やってるやってる。」
 なつきは双眼鏡を覗きながら、あくまで上から目線で野球部を扱き下ろす。
「夏の大会は出ない方が良いんじゃないの。100点ぐらい取られて、無様に負けるのは目に見えてるよね。いっその事、野球部は解散するべきでしょ。」
「・・・・・・・。」
 愛菜はなつきの罵詈雑言を黙って聞いていた。愛菜も最初は馬鹿にしていた。だが、力投の末、読書部に敗れ、泣き崩れるあのピッチャーを目にした瞬間、胸に刃が突き刺さる様な痛みを覚えたのだ。それは何の目的も無く、ただ漠然と生きてきた愛菜が初めて抱く感情だった。その事があって以来、寝ても覚めても野球部の事が気になって仕方がない。あのピッチャーの為に何かしてあげたかった。だが、何をすればいいか分からない愛菜は、ストーカーの様に双眼鏡を使って、練習を覗く事しか出来なかった。
「そういえば、球技大会の後、手塚先輩が野球部に入部したんだって。手塚先輩は野球の名門・大阪藤蔭から転校して来たって聞いたけど。」
「えっ!本当!」
 野球に詳しくない愛菜でも大阪藤蔭は知っている。よくテレビのニュースなどで見るからだ。まさかあの試合でサヨナラヒットを放った手塚先輩が藤蔭出身だなんて!
「それじゃあ、野球部がヘボと言うよりも、手塚先輩が凄いんだよ。」
 愛菜は野球部を擁護した。
「ん~~~。どうかね?」
 なつきはそれを聞き流した。
「だってさ、あの野球部のピッチャー、凄い速いボールを投げていたじゃない。」
「あ~~~~。コシマエ君ね。確かに。」
 愛菜はなつきの一言を聞き逃さなかった。
「コシマエ君?あのピッチャー、コシマエ君て言うんだ?」
「コシマエっていうか正確には、越前って書いてエチゼン。越前春馬。アメリカ育ちなんだって。」
「越前・・・・春馬。」
 愛菜はあのピッチャーが気になってはいたものの、名前すら知らなかった。越前春馬。しかもアメリカ育ちとは。これは良い情報を得たぞ。
「手塚先輩が越前にコーチしてるんだってさ。」
「ふ~~ん。そうなんだ。」
 これまた有益な情報だ。愛菜はほくそ笑んだ。

 愛菜は頭の中で思考を巡らす。あのピッチャーの名前は越前春馬。アメリカ育ち。大阪藤蔭出身の手塚先輩がコーチしている・・・・。何故、手塚先輩は読書部から野球部に鞍替えして、越前をコーチする事にしたのか?それは越前に何かしら光るモノを見出したから教えてみようと思ったに違いない。越前は大阪藤蔭の人から目を掛けれれる程、凄い人だったのだ。それは愛菜の勝手な解釈であったのだが、そう考えると、自分が凄い人に認められた様に感じられ、居ても立ってもいられなくなる。自分に何か出来ることはないか?そこで思い立ったのが、越前が手塚にコーチされている所を撮影して、大阪藤蔭の人に目を掛けられている越前は凄いんだと動画でアピールしようと思い至った。愛菜はなつきがアップした動画で、野球部の名が地に堕ちた事を悔いていた。アップしたのはなつきだが、元はと云えば自分が囃し立てた様なものである。越前の名前を回復させるにはこれしかないように思われた。よし、それでは放課後の練習風景を撮影しよう。
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