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第38章
決意の出陣
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「さく、さく。」
弥三郎の後を追って大広間を出たさくは、後ろから呼び止められる。誰かと思い振り向くと、父の国安であった。
「良くやった。これで宮脇家は安泰だ。」
「よう御座いました。」
「後はさくに弥三郎様のお手が付けば万々歳。」
「・・・・・・。」
「どうなのじゃ?」
「どうなのじゃ。とは?」
「もうとっくにお手は付いたのであろう?」
「・・・・・・。」
「まだなのか?」
毎夜、弥三郎の性欲処理に付き合わされるさくであったが、性交はしていない。一線を越えてはいないこの状況は、お手が付いたと言って良いものかどうかと思案していると、
「何をやっているのか。さくがこんな奥手だったとはな。」
国安は歯噛みして言った。さくが何も言えずにいると尚も、
「向こうはさくに気が有るのだから、裸になって口吸いすれば、その気になるだろうに。なぜそれしきの事が出来ないのだ。こんな事なら儂の矛をさくに捻じ込んで、寝屋ごとの事を教え込んでおくべきだった。」
等と、とんでもない事を言い出した。
「弥三郎様は男女の睦みごとのやりようをご存じないのではあるまいか。」
いいえ、父上。弥三郎様は私よりもよくご存じです。春画を何百冊集める変態ですから。と、言ってやりたいのを、さくはぐっと我慢した。
「儂がさくにたっぷり教え込んでやる。折を見てこちらに帰って参れ。儂がそなたを孕ませてやる。孕んだら弥三郎様のお子だと言えば良い。」
さくは戦慄した。実の娘を孕ませて主家の子にするという、国安の鬼畜っぷりに呆れかえった。父はいつ頃から自分を性の対象だと認識していたのだろう。さくは身震いした。
「実の父に孕まされる、親子戯けなどお断りします。その様な事をしようものならば、父上の矛を切り取ります。」
今度は国安が戦慄した。さくには賊の矛を切り取った前科がある。これは本当に切られる。睦みごとを教えると云う建前で、さくに性交を強いるという国安の邪まな企みは頓挫した。国安は咳払いをして、話を転換させる。
「ゴホゴホ。まあ、この話は後だ。今は戦じゃ。弥三郎様は準備はしておるのか?」
「勿論。女てつはう隊に、動員した農民兵も参陣させるつもりに御座います。」
「・・・・・・。さくよ。此度の戦、勝ち目は無いぞ。」
国安は渋い顔をしてポツリと言った。さくは聞き咎めて言う。
「何故で御座いましょう。弥三郎様の初陣の前にその様な不吉な事を仰るとは。理由をお聞かせ願えますか。」
「弥三郎様の体たらくぶりは皆、知っておる。敵方も其処を突いて、集中攻撃に遭うぞ。だが、弥三郎様は縮こまって兵を統率する事は出来まい。敵方はただでさえ我が方の二倍の兵力じゃ。弥三郎様の陣が崩されて、総崩れになるであろう事は容易に想像出来ように。」
弥三郎を担ごうとする国安でさえ悲観的な見方をするという事は、おそらく味方はすべからく弥三郎の統率力に懸念を持っているだろう。さくも内心では負け戦を覚悟していた。だが、全く勝ち目が無いという訳でもないだろう。さくは勝つ為の武略を国安に披露する。
「確かに父上の言う通り、弥三郎様の陣は集中攻撃を受けるでしょう。ですが、そこを持ち堪えられれば、手薄になった敵方の陣を味方が打ち破る隙が出来ます。父上にはその期を逃さず、敵方の陣を突き崩して頂きたいのです。」
「う~~ん。成程のう。」
娘の武略に国安は唸った。そう言われてみると確かに勝機がある様に思えてくる。
「しかし、・・・・・・。そう上手く良くかのう・・・・・。弥三郎様にその様な器量があるのか?」
「大将は掛からぬ者、逃げざる者に御座います。弥三郎様が槍を取って戦う必要はないのです。その場に居さえすれば良い。後はさくが統率します。」
「・・・・・・。」
国安は娘の決意に不安を覚えた。
「お前、死ぬ気ではないよな。」
「御冗談を。さくが居なくては弥三郎様は独り立ち出来ません。弥三郎様が居なくては宮脇の家の栄達は無し。さくも弥三郎様も無事に戻って来ます。」
「・・・・・・それならいいが・・・・。かなり厳しい戦になるぞ。無理はするな。戦に負けても弥三郎様が無事であれば、我らはそれで良いのじゃからな。」
「・・・・・・。はい。肝に銘じておきます。」
さくは国安にその様に答えたが、もし、戦に敗れたら・・・・・。敗因が弥三郎の陣が崩された事であったのならば、誰かが責を負わねばならぬと思った。弥三郎に責が及ぶと、やはり後継者には不適ではないかと、家中が騒がしくなる。弥三郎に累が及ばぬようにするには、教育係の自分が責を負わねば・・・・・。さくはそう肝に銘じると、父の顔をじっと見つめた。今生の別れになるやも知れなかった。
「父上、それでは行って参ります。」
「うむ。弥三郎様をしっかりとお守りするのじゃぞ。」
「はい。」
さくは弥三郎の様に女々しい事を言うのは嫌いだ。いつもと変わらぬように別れを告げた。国安の子はさくと姉の二人だけ。男児がいなかった。自分が死んだ後、宮脇の家はどうなるか?まあ、今更、そんな事を考えても詮無き事である。父は姉に婿を取りでもするだろう。もしくは、娘を孕ますことを考える程、精力に溢れた父である。これから若いおなごに男児を産ますかもしれない。まあ、なるようになるだろう。さくは考えるのを止めた。
「では、後ほど。」
さくは頭を下げると、父と別れ、弥三郎の後を追った。
弥三郎の後を追って大広間を出たさくは、後ろから呼び止められる。誰かと思い振り向くと、父の国安であった。
「良くやった。これで宮脇家は安泰だ。」
「よう御座いました。」
「後はさくに弥三郎様のお手が付けば万々歳。」
「・・・・・・。」
「どうなのじゃ?」
「どうなのじゃ。とは?」
「もうとっくにお手は付いたのであろう?」
「・・・・・・。」
「まだなのか?」
毎夜、弥三郎の性欲処理に付き合わされるさくであったが、性交はしていない。一線を越えてはいないこの状況は、お手が付いたと言って良いものかどうかと思案していると、
「何をやっているのか。さくがこんな奥手だったとはな。」
国安は歯噛みして言った。さくが何も言えずにいると尚も、
「向こうはさくに気が有るのだから、裸になって口吸いすれば、その気になるだろうに。なぜそれしきの事が出来ないのだ。こんな事なら儂の矛をさくに捻じ込んで、寝屋ごとの事を教え込んでおくべきだった。」
等と、とんでもない事を言い出した。
「弥三郎様は男女の睦みごとのやりようをご存じないのではあるまいか。」
いいえ、父上。弥三郎様は私よりもよくご存じです。春画を何百冊集める変態ですから。と、言ってやりたいのを、さくはぐっと我慢した。
「儂がさくにたっぷり教え込んでやる。折を見てこちらに帰って参れ。儂がそなたを孕ませてやる。孕んだら弥三郎様のお子だと言えば良い。」
さくは戦慄した。実の娘を孕ませて主家の子にするという、国安の鬼畜っぷりに呆れかえった。父はいつ頃から自分を性の対象だと認識していたのだろう。さくは身震いした。
「実の父に孕まされる、親子戯けなどお断りします。その様な事をしようものならば、父上の矛を切り取ります。」
今度は国安が戦慄した。さくには賊の矛を切り取った前科がある。これは本当に切られる。睦みごとを教えると云う建前で、さくに性交を強いるという国安の邪まな企みは頓挫した。国安は咳払いをして、話を転換させる。
「ゴホゴホ。まあ、この話は後だ。今は戦じゃ。弥三郎様は準備はしておるのか?」
「勿論。女てつはう隊に、動員した農民兵も参陣させるつもりに御座います。」
「・・・・・・。さくよ。此度の戦、勝ち目は無いぞ。」
国安は渋い顔をしてポツリと言った。さくは聞き咎めて言う。
「何故で御座いましょう。弥三郎様の初陣の前にその様な不吉な事を仰るとは。理由をお聞かせ願えますか。」
「弥三郎様の体たらくぶりは皆、知っておる。敵方も其処を突いて、集中攻撃に遭うぞ。だが、弥三郎様は縮こまって兵を統率する事は出来まい。敵方はただでさえ我が方の二倍の兵力じゃ。弥三郎様の陣が崩されて、総崩れになるであろう事は容易に想像出来ように。」
弥三郎を担ごうとする国安でさえ悲観的な見方をするという事は、おそらく味方はすべからく弥三郎の統率力に懸念を持っているだろう。さくも内心では負け戦を覚悟していた。だが、全く勝ち目が無いという訳でもないだろう。さくは勝つ為の武略を国安に披露する。
「確かに父上の言う通り、弥三郎様の陣は集中攻撃を受けるでしょう。ですが、そこを持ち堪えられれば、手薄になった敵方の陣を味方が打ち破る隙が出来ます。父上にはその期を逃さず、敵方の陣を突き崩して頂きたいのです。」
「う~~ん。成程のう。」
娘の武略に国安は唸った。そう言われてみると確かに勝機がある様に思えてくる。
「しかし、・・・・・・。そう上手く良くかのう・・・・・。弥三郎様にその様な器量があるのか?」
「大将は掛からぬ者、逃げざる者に御座います。弥三郎様が槍を取って戦う必要はないのです。その場に居さえすれば良い。後はさくが統率します。」
「・・・・・・。」
国安は娘の決意に不安を覚えた。
「お前、死ぬ気ではないよな。」
「御冗談を。さくが居なくては弥三郎様は独り立ち出来ません。弥三郎様が居なくては宮脇の家の栄達は無し。さくも弥三郎様も無事に戻って来ます。」
「・・・・・・それならいいが・・・・。かなり厳しい戦になるぞ。無理はするな。戦に負けても弥三郎様が無事であれば、我らはそれで良いのじゃからな。」
「・・・・・・。はい。肝に銘じておきます。」
さくは国安にその様に答えたが、もし、戦に敗れたら・・・・・。敗因が弥三郎の陣が崩された事であったのならば、誰かが責を負わねばならぬと思った。弥三郎に責が及ぶと、やはり後継者には不適ではないかと、家中が騒がしくなる。弥三郎に累が及ばぬようにするには、教育係の自分が責を負わねば・・・・・。さくはそう肝に銘じると、父の顔をじっと見つめた。今生の別れになるやも知れなかった。
「父上、それでは行って参ります。」
「うむ。弥三郎様をしっかりとお守りするのじゃぞ。」
「はい。」
さくは弥三郎の様に女々しい事を言うのは嫌いだ。いつもと変わらぬように別れを告げた。国安の子はさくと姉の二人だけ。男児がいなかった。自分が死んだ後、宮脇の家はどうなるか?まあ、今更、そんな事を考えても詮無き事である。父は姉に婿を取りでもするだろう。もしくは、娘を孕ますことを考える程、精力に溢れた父である。これから若いおなごに男児を産ますかもしれない。まあ、なるようになるだろう。さくは考えるのを止めた。
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さくは頭を下げると、父と別れ、弥三郎の後を追った。
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