約束の時

igavic

文字の大きさ
1 / 15

出会い

しおりを挟む
知人に誘われるまま、
とあるクリスマスパーティーに参加した。
今思えばその日が人生のターニングポイントになった気がする。

27歳で嫁をもらった私は僅か3年で離婚。
子供はできなかった。
離婚後の私は特に目的もなく
何となく生きているような日々が続いていた。
今でこそIT関係と言えば聞こえはいいが、
まだ情報処理業と言われる職種だった。
年齢にしてはそこそこの収入を得ていた私は
いわゆる独身貴族に戻っていた。
そして30歳になって初めて
クリスマスパーティーというものに参加することになる。
子供の頃の集まりは除外しての話だが、
まあそれくらい華やかな場所にはまったく
縁がない人生を過ごしてきた人間、
それが私ということになる。

30歳の誕生日に赤いGTOを買い、
週末はアクセル全開の生活を送っていたある日、
レーシングチームをモチーフにした
高価な服が並ぶ地元のブティックに立ち寄った。
パーティーに誘ってくれたのはその店のオーナー夫妻だった。

アイリッシュパブ風のお店を貸し切りにした
パーティーはブティックの常連客で大盛況、
自分の居場所を確保するのに苦労していた時、
彼女は現れた。

オーナー夫婦からは事前に紹介したい人がいると
言われていた私は既に動揺していた。

「初めまして、聖子です。」

その声は自分が知り得る限り聞いたことがないような
甘い心地よい響きだった。

「ど、どうも五十嵐です。」

緊張していた。
その後のことはよく覚えていない。

パーティーで連絡先を交換していた私たちは
その後、何度目かの電話でまた会うことになった。
まだ携帯が普及していない時代だから
連絡はもっぱら固定電話だ。

そして年明け、地元ではなく職場近くの
何度か行ったことがある台湾料理店にした。

バーカウンターで待つ私に

「ごめーん、待たせちゃった」

「だ、大丈夫、大丈夫」 

動揺していた。
まるで付き合いの長い恋人同士のようで、
なんとも心地よい響きがさらに畳みかける。

「何飲む?私はビールかな」

「じゃぁ僕も」

パーティーの時とは少し違う印象で
主導権を握られたまま、

「五十嵐くんは彼女いるの?」

いきなりの右ストレート。

「実は離婚したばかりなんだ」

「私もなの、実はあのオーナー夫婦から
 聞いていたの五十嵐くんの離婚のこと、
 私のほうは成田離婚に近いかな」

驚いていた。離婚のことではなく
こんな素敵な人と結婚しておきながら
簡単に別れてしまう男の気が知れないと
心の声が叫んでいた。

「五十嵐くん正直だね、だと思った
 パーティーで話してみて誠実だなって」

そんな男でないことは
自分が一番よく解っていた。
一人の女を幸せに出来なかったくせに、と。
正直だったのはしばらくは
恋愛も出来ないだろうなと思っていたからに過ぎない。

でも、彼女の言葉は
ひねくれた心をほぐすには充分だった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

盗み聞き

凛子
恋愛
あ、そういうこと。

壊れていく音を聞きながら

夢窓(ゆめまど)
恋愛
結婚してまだ一か月。 妻の留守中、夫婦の家に突然やってきた母と姉と姪 何気ない日常のひと幕が、 思いもよらない“ひび”を生んでいく。 母と嫁、そしてその狭間で揺れる息子。 誰も気づきがないまま、 家族のかたちが静かに崩れていく――。 壊れていく音を聞きながら、 それでも誰かを思うことはできるのか。

灰かぶりの姉

吉野 那生
恋愛
父の死後、母が連れてきたのは優しそうな男性と可愛い女の子だった。 「今日からあなたのお父さんと妹だよ」 そう言われたあの日から…。 * * * 『ソツのない彼氏とスキのない彼女』のスピンオフ。 国枝 那月×野口 航平の過去編です。

愛のバランス

凛子
恋愛
愛情は注ぎっぱなしだと無くなっちゃうんだよ。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

靴屋の娘と三人のお兄様

こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!? ※小説家になろうにも投稿しています。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

処理中です...