【約束の時】スピンオフ①

igavic

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TATOU TOKYOの夜 ー彼女は恋するカレン?ー

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彼女と出会って1ヶ月くらいのことである。
六本木のタトゥー東京というショークラブ系?の
レストランで食事をすることになった。
ちなみにまだ付き合っているわけではない。

そういう華やかな世界とは縁の無い所に居た私は
そこが一体どんな場所なのか全く知らなかったが
半ば強引に連れていかれるように歩いていた。

店に入るとそこは直ぐに彼女の独壇場となる。
近寄るドアマンのようなボーイさんに耳打ちし
私達は右側の階段を上がるよう促された。

通された席はバルコニーのような階下が見渡せる
低めのソファーが置かれた個室のような席だった。
通路とは厚いベルベット調のカーテンで仕切られ、
席の様子は伺い知ることが出来なくなっていた。
"えらいところに来てしまった"と後悔するも
腹をくくり、ここは彼女に任せるしかなかった。

「聖子さん、予約してたの?」

「いつもそうしてるから」

「あっそう、よく来るんだここ」

「たまに友達と、で何にする?」

「こういうところは初めてだから任せるよ」

「オッケー、好き嫌いなしね?」

「大丈夫」

慣れた感じで注文を終えると彼女は下を見渡して
何か見つけた様子で急に席を離れた。

「ちょっと待ってて」

そして、ひとりの男性を連れて戻って来た。

「こちらクラブ○○のオーナーの佐伯さん、
 こちら○○○でSEをなさってる五十嵐さん」

「佐伯です、どうぞよろしく」

「初めまして、五十嵐です」

「今日はパーティーの流れか何かですか?」

「いえ、あの、えと、食事でも……と」

佐伯さんとの慣れない会話に意気消沈している私に
彼女は助け船を出すように

「五十嵐さんと食事しに無理やり連れて来たの、
 この後、ダンスタイムもあるし、ねー」

「いやー、こういう場は慣れてなくて
 私はダンスはちょっと…」

会話が途切れがちになったタイミングで彼が

「そうですか、ご紹介頂きまして
 ありがとうございました、聖子さん、ではまた」

「もう行かれます?ごめんなさいお呼び立てして
 お連れの方々にもよろしく」

やはり連れて来られた感が滲み出ていたのか。
しかしどうにも馴染めない、これぞセレブの会話。
私は"あーひとりで牛丼にすればよかった"と
心の中で呟いていた。
ちなみに彼女は吉野家をまだ食べたことがない、
これまでの人生で、そんな人は彼女が初めてだ。

「こめんね、あの人ねクルーザーとか持ってて
 花火大会とか特等席で見れたりするから
 顔つなぎしておくといいかなって」

「そう、凄い人なんだ」

カートしか乗ったことのない男が何の説明もなく
いきなりF1に乗せられたようなものだ。
"初号機を初めて見た碇シンジ"のほうが判るか。
どちらにしても住む世界が違い過ぎた。
それに私といる時と他の人といる時、
どちらが本当の彼女かもう解らなくなっていた。


食事を済ませた私達は、というか彼女は
ダンスタイムが始まるのを待っていたようだ。

爆音でダンスミュージックが始まると
彼女は私に向かって右手を伸ばし

「行こう」

「ちょっと無理かなー」

と私が言うと、彼女は残念そうに

「えー、ほんとにー?
 楽しみにしてたのにー」

とそこへタイミングよく佐伯さんが現れた。
イヤな予感しかしない。

「食事は済んだ? 踊らないの?聖子さん」

「今日はやめとくみたい」

「じゃ僕と踊ろう」

彼女は遊園地へ行く子供のように

「踊るー、ちょっと行ってくるね」

と言うと楽しそうに降りて行った。
私は内心ホッとしながら、当然いじけていた。
激しい曲がかかってる間は下を見なかったが
スローバラードに変わったので帰ってくるかなと
見下ろすとそこでは…

あの歌の一節そのものの光景が
眼前に繰り広げられていた。

*******************
以下、恋するカレンの一節

キャンドルを暗くして
スローな曲がかかると
君が彼の背中に手をまわし
踊るのを壁で見ていたよ
振られるとわかるまで
何秒かかっただろう
誰か話しかけても
ぼくの眼は上の空
君に釘づけさ

~以下略

作詞  :松本 隆
作曲、唄:大滝詠一
*******************

場内は別の曲がかかっているというのに
私の中ではこの曲がエンドレスで流れていた。
もう既にトランス状態でめまいがする。
曲が終わると散り散りに全員が席へ戻っていった。
少しして彼女も戻ってきた。

「佐伯さんは?」

「彼女のところへ戻ったよ」

彼女と一緒に来ていたのか!と驚愕し
セレブリティの生態が更に謎に包まれていった。
無駄に大滝詠一を聞き、もう限界を感じていた私は
(実際は聞こえてません)

「そろそろ出ようか」

「そう、じゃ次どこ行く?」

"次があるのか!"と心の声が叫んでいた。

「知ってるお店あるから行こ
 カラオケしよ!」

「ラジャ」

こうして二人は六本木の街の中に消えていった。




※次回、スピンオフ②をお楽しみ











    
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