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第六章 新しい門出
第三十七話 話題の女
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がっしりとした体つきとは打って変わり、宮部の顔立ちは至って繊細だった。細面にすっと通った細めの鼻柱。涼しげな切れ長の目は垂れがちで、優美な曲線を描き、眉は凛々しく山を描きつつも、太すぎず細すぎず、洗練された男らしさを形作っている。
その宮部の顔が今、杏子の鼻先まで迫っている。今度こそ、杏子の思い上がりなどではないのではないか。杏子はそう思ったが、目を瞑ることもできなければ、避けることもできず、ただ息を詰めて硬直するばかりであった。
宮部の真剣な眼差しが、至近距離から杏子を射貫いている。その瞳の中には、熱情や恋慕は果たして存在するのだろうか。杏子には分からなかった。
宮部は、女性として杏子に想いを寄せているとまでは、言わなかったではないか。これから二人の間で、甘い何かが育まれていけばいいと、そうお互いに認識し合ったのではないか。だとすれば、この状況は一体何なのか。
「降りて。ほら。」
ガチャリ、とドアを開ける音がして、宮部が杏子を促した。すぐに宮部の体が離れ、再びルームライトが車内を明るく照らしている。
杏子は、呆然としたまま、運転席の宮部を見返すと、宮部の体はもう前を向いており、横目で杏子を見ていた。
「わかった?杏子さん、油断だらけ。簡単に男を家に上げない。」
宮部の声色は、まだ彼が不機嫌であることを示していたが、杏子が固く小さな声で謝罪を述べると、すぐに表情を緩めた。
「俺の方こそ、怖がらせてごめんな。でも、本当に気をつけて。杏子さん、今やこの辺の話題の人だから。独り身のいい歳のやつは、それこそ20代から50代まで、あわよくばってやつがわんさか出てくるよ。ほら、田舎の嫁不足。基本的に隣人としては気のいい人らばかりだけど、女のことになるとわかんないから。多少強引にでも既成事実作って、結婚に持ち込もうって腹のやつもいるかもしれないだろ。」
宮部は至って真剣な口調で杏子にそう説諭したが、杏子には信じがたい内容であった。それでも、宮部が杏子を心配してくれているのだという点は明白であったので、杏子は何も否定しなかった。
「わかった。気をつけるね。ありがとう。でも、私、誰彼構わず家に上げるような不用心な人間じゃないんだから。宮部さんと、もう少し一緒に居たかったから…そう言ってみただけで。確かに考えが足りなかったかもしれないけど…。あの…。」
杏子がもごもごと口ごもっていると、温かく柔らかいものが杏子の頬に触れた。寸前、衣擦れの音と空気の動きを感じたが、杏子が隣の宮部を確かめる間もなく、気づいたときには、宮部はもう運転席に体を沈め、杏子に甘い微笑みを向けていた。頬には、まだ微かに、宮部の熱の残渣があった。
「可愛いこと言わないで。これ以上何かしたくなる前に、早く家に入ってくれる?」
その声音は、確かに熱情を孕んでおり、杏子に有無を言わさない迫力があった。慌てて、杏子は、熱を帯びた右頬を抑えながら、おやすみなさいと告げて車を降りた。
杏子は、小走りで玄関に入り、扉を後ろ手に閉め、そして宮部の走り去る車の音を遠くに聞いた。
(宮部さん、心臓に悪いわ。女慣れしているんだろうな。ドキドキさせられっぱなしだった…。)
最後は、まるで追い出されるように車から降りて別れたが、今夜の宮部は情熱的だったと、杏子はうっとりと思い返した。あれやこれやの甘い場面を、何度も何度も頭の中でリプレイするという、杏子お得意のそれである。帰宅後、風呂に入り、布団に入ってもそれは延々と続き、おそらくは夢の中でも宮部を想っていたのだろう。翌朝、杏子は極めて爽快な気分で目覚めた。
その宮部の顔が今、杏子の鼻先まで迫っている。今度こそ、杏子の思い上がりなどではないのではないか。杏子はそう思ったが、目を瞑ることもできなければ、避けることもできず、ただ息を詰めて硬直するばかりであった。
宮部の真剣な眼差しが、至近距離から杏子を射貫いている。その瞳の中には、熱情や恋慕は果たして存在するのだろうか。杏子には分からなかった。
宮部は、女性として杏子に想いを寄せているとまでは、言わなかったではないか。これから二人の間で、甘い何かが育まれていけばいいと、そうお互いに認識し合ったのではないか。だとすれば、この状況は一体何なのか。
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「わかった?杏子さん、油断だらけ。簡単に男を家に上げない。」
宮部の声色は、まだ彼が不機嫌であることを示していたが、杏子が固く小さな声で謝罪を述べると、すぐに表情を緩めた。
「俺の方こそ、怖がらせてごめんな。でも、本当に気をつけて。杏子さん、今やこの辺の話題の人だから。独り身のいい歳のやつは、それこそ20代から50代まで、あわよくばってやつがわんさか出てくるよ。ほら、田舎の嫁不足。基本的に隣人としては気のいい人らばかりだけど、女のことになるとわかんないから。多少強引にでも既成事実作って、結婚に持ち込もうって腹のやつもいるかもしれないだろ。」
宮部は至って真剣な口調で杏子にそう説諭したが、杏子には信じがたい内容であった。それでも、宮部が杏子を心配してくれているのだという点は明白であったので、杏子は何も否定しなかった。
「わかった。気をつけるね。ありがとう。でも、私、誰彼構わず家に上げるような不用心な人間じゃないんだから。宮部さんと、もう少し一緒に居たかったから…そう言ってみただけで。確かに考えが足りなかったかもしれないけど…。あの…。」
杏子がもごもごと口ごもっていると、温かく柔らかいものが杏子の頬に触れた。寸前、衣擦れの音と空気の動きを感じたが、杏子が隣の宮部を確かめる間もなく、気づいたときには、宮部はもう運転席に体を沈め、杏子に甘い微笑みを向けていた。頬には、まだ微かに、宮部の熱の残渣があった。
「可愛いこと言わないで。これ以上何かしたくなる前に、早く家に入ってくれる?」
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