君に捧ぐ花

ancco

文字の大きさ
上 下
83 / 110
第十一章 Break the Ice

第八十三話 subject: 初めまして

しおりを挟む
From: kyoko_hillfield@__________.co.jp
To: wifjdisk9834@_________.co.jp
Date: 2015/7/3, Fri 12:53
subject: 初めまして

****************

宮部真奈美様

初めまして、と言うべきかどうかわかりませんが、初めて貴女にメールします。

もうお兄さんから聞いているかも知れませんが、私は、岡田杏子といいます。去年、貴女とずっとチャットをしていた杏は、私です。
まずは、お礼を言わせてください。毎日愚痴ばかりだった私に、根気よく付き合ってくれたこと、温かい励ましを沢山くれたこと、本当にありがとうございました。当時の私には、貴女とのチャットがどれほど救いになっていたか知れません。でも、それは貴女もご存じですよね。私はナツキが大好きでした。

それから、私は、真奈美さんに謝らないといけないことも沢山あります。

何より申し訳無いのは、私はナツキにとても助けられていたのに、私は一つも貴女の支えにはなれなかったことです。もちろん、貴女はあのとき、真奈美では無くナツキだったのだから、真奈美さんが抱えていた悩みを私が知りようが無かったと言えばそれまでです。
でも、私は、辛いことをパソコンの前で吐き出して、温かい言葉で気持ちを楽にしてくれる、そんな貴女との都合の良い関係に心底甘えていたのだと思います。
そのことに気付かせてくれたのは、貴女のお兄さんです。

実は、お兄さんのことに関しても、謝らないといけないことが山盛りです。
そもそもの事の発端は、私が、偶然にナツキの正体を突き止めて、貴女のお兄さんの元へ勝手に押しかけたことです。
チャットで知り合っただけの相手に、所在を突き止められて押しかけられるなど、普通に考えれば気持ち悪いというか、恐ろしいというか、貴女にもお兄さんにも、嫌悪されても仕方の無いことをしました。ごめんなさい。
特に、お兄さんには、全ての事情を隠して近づき、大変にご迷惑をおかけしてしまいました。静子さんの家をお借りしたことも、その一つです。
本当に、申し訳ありませんでした。

当然かも知れませんが、私はずっと、貴女のお兄さんがナツキであると思っていました。
貴女がナツキであったと知ったのは、私が意を決して全ての事情をお兄さんに打ち明けて、自分が杏であると白状したときでした。
お兄さんは、大変に驚かれたと思います。酷くお叱りを受けましたし、お兄さんは今でも私に腹を立てていらっしゃると思います。
もしかしたら、真奈美さんもお兄さんにお叱りを受けたでしょうか。そうだとしたら、私のせいですね。ごめんなさい。
お兄さんの厳しい言葉の一つ一つは、今でも時々私の心を痛めます。どれも、図星だと思ったからです。

今私は、越して来たこの町で、自分の愚かな行いの数々を反省しながら、新たにやり直そうとしています。
もし、真奈美さんが許してくださるなら、今度は杏とナツキではなく、杏子と真奈美として、もう一度お友達になってもらうことはできないでしょうか。
お返事はもらえなくても構いません。
ただ、時々、こうしてお便りをすることを許してもらえれば、とても嬉しいです。

岡田杏子
しおりを挟む

処理中です...