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一緒に来てほしい場所があると言われて館を出ると、そこには部外者の目から見ても、寂れた山里が広がっていた。
山肌を削るように作られた狭い田畑には、耕作されていないものが多い。家々も空き家になっているらしく、朽ち果てていたり、窓や入口に板を打ち付けていたりしていて、何より道を歩いていても、すれ違う人間がまったくいなかった。
旅の間は通常の女ものの小袖に旅装束をしていたるいは、里に帰って、少年のような野袴姿に着替えていた。これは雅勝と彼女が初めて会った時と同じいで立ちだが、今はもう年頃の娘が男装をしているようにしか見えない。これの着物を脱がしたなら、完全に犯罪者だろう。過去の自分の振る舞いを振り返って、何故か背筋が寒くなる。るいが変わったのか、雅勝の見る目が変わったのか――恐らく、その両方なのだろう。
先を行く細い背の少し後ろを歩きながら、話題は先ほど一緒に竹とんぼを作った兄妹のことだった。もちろん、初対面なので詳しい事情はわからないが、年齢の割にやけに妹をかばうような仕草が健気に見えた。
「あの子達、今は二人だけの家族なんです」
「孤児なのか」
「いえ、正確には父親はいるんですけどね……」
兄妹の父親は城下に出稼ぎに行って、母親とは違う女と懇ろになって帰って来なくなった。母親はその後一人で子ども達を育てていたのだが、昨年病で亡くなり、その後は里の皆で手分けして面倒を見ているという。
身近で聞いたことはないがありそうな話だと思ったし、実際、そのような話は、この里では珍しくもない話だという。山を開いた土地では全員の口を養うだけの収穫は見込めない。若い男も所帯持ちの男もほとんど街場に出稼ぎに行き、そのうちの何割かは確実に帰ってこないので、里の人員構成が女子供と老人に偏ってしまっている。――それがあの荒れた田畑の一因か。
「男の人って奥さんや許嫁がいても、違う女の人に目移りしますよね。誰でもそういうものなんですか?」
「いや、それは男全般ではなく、人によるだろう……」
男というだけで十把ひとからげにするのもどうかと思うし、そもそも所帯や許嫁以前に、特定の女を持ったことのない俺にその手の意見を求めるな……とは言えなかった。不意にるいが立ち止った先に、石をくり抜いた大きな手水のようなものがあり、無色透明の澄んだ水がこんこんと沸き出している。彼女がその中に手を浸したので、雅勝も隣に立って水面に触れてみるとほんのり暖かい。温泉の一種だろうか。
「このお湯で目を洗ってみてもらえませんか」
「は?」
「ここのお湯は眼病によく効くんです。……雅勝殿、時々、太陽の光を眩しそうにしてますよね?虫の毒が目に残っているんじゃないでしょうか」
無論、るいは雅勝がくらった南国の毒虫の特性を知らない。だが蜘蛛毒や蛇毒が目に残る事例があることは知っていたという。眼病に霊験あらたかなこの地の湯は、そのような場合にとてもよく効くので、里の住人が壺に汲んで、街の薬屋に売りに行くと高い値で買い取ってもらえるのだと言った。
「……お前、気づいていたのか」
恐らく、忠雅から御見の方を経由して話を聞いているとは思っていた。だが雅勝は少なくとも彼女といる時には、症状が出ても気づかれずに済んでいると思っていた。
「もちろん、効くかどうかはわかりません。けど、試してみる価値はあると思うんです。本当はわたし一人で汲んで行こうかと思っていたんですけど、やっぱり汲み置きは効能が落ちますし」
それがあの時、呼び止められた理由――いや、もしかすると、彼女がわざわざ雅勝と連れだってこの地までやってきた理由なのか。
しかし、どうしてここまでしてくれるのか。
明野領で暮らすようになって以来、雅勝には他人に身を案じられたり心配されたりという経験がない。唯一の例外は元同輩の忠雅だけだが、奴は雅勝を来年まで生かすことで自分の目的を果たそうとしているのだし、影衆時代に忠雅が傷を負ったり死にかけたりした時、誰より親身に世話を焼いたのが雅勝なのでその恩もまだ残っているのだろう。だが雅勝はこの娘に対し、これほど案じてもらうほどの何かをしてやった覚えはないし、そもそも雅勝が生きていたところで、彼女の利になることなど何もない。
――なのに、何故。
まったく前触れもなく、ただ衝動に従って後ろから抱き締めたので、当然ながらるいは驚いたようだった。一瞬、身体を固くして逃げ出そうとして、雅勝に離す気がないとわかると身をよじって顔を覗き込もうとした。顔を見られたくなかったので、細い肩に額を押し当て息を吐き出した時、彼女を抱いた手の甲に一回り小さな手が重なった。突然訳のわからない行動に出た男を咎めるでも拒むでもなく、また、こちらの身を案じてくる。
「あ、あの雅勝殿?どうしたんですか?……大丈夫ですか?」
気づかない方がよいことに気づかないふりをしていることが、苦しくなってきていた。
いつの間に、こんなに近くにまで入り込んでしまったのだろう。もっと早くに離れておくべきだった。目の前を歩いていた少年が侍の袖に手を突っ込んだのを見たあの時、係り合いになることを避けて行ってしまえばよかった。いやきっとそれよりもっと前、あの日あの時間にあの道を通らなければよかったのだ。
打ち捨てられたような山里の眼病によく効くという湯の前で、雅勝は心の底から真剣に、この女と出会ってしまったことの不運を呪った。
目的を果たして戻ってくると、実家の前には父が仁王立ちで立っていた。二人とも姿が見えないことに気づいてから、一体どれだけの時間、そうして立っていたのだろう。ただでさえ恐ろしい顔をさらにしかめて懐手している。るいも我が父ながら、地獄の閻魔様というのはこんな顔をしているのかと思ったことが度々あるが、父は昔から基本的にるいには甘い。特にここ三年程は、父親の方が娘との接し方に悩んで距離を置いている風でもあった。
父の横には大きな檻があり、その中には薄灰色の毛並みの大きな狼が捕えてあった。狼はこの山では珍しくないし、捕えて毛皮を売りに行くこともあるのだけど、どうして今それをこの場所に出してきたのだろう。
一応、里長の家なので門をくぐった先の敷地は広い。家の前にはわりと面積の広い前庭があって、盆や秋祭りの時には住人達がそこで仮装したり踊ったりもする。今、その広い前庭には人の気配はなかった。初夏の遅い夕暮れが遠くの稜線を緋色に染めていて、地面の上に三人分の影が長く伸びている。
怒れる熊男の隣に、檻に入った狼。恐らく、知らぬ者の目にはかなり恐ろしい光景だと思うのだが、るいの隣で雅勝はどこか悠然とした様子で構えている。父がこちらに向けて一歩足を踏み出したので、前に出ようとした時、軽く手で制された。まるでるいがその場にいないかのように振舞って、男達は互いだけを見ている。殺気ではないのだろうが、友好的とは言い難い鋭い空気に、雅勝の半歩後ろから動けなくなった。
「樋口殿」
「はい」
「貴殿もこの里がどういう場所かは、娘から聞き及んでおろう」
「……はい」
出会って間もない頃、忍びの出かと問われたので簡単に出自を話したことはある。だがもちろん、里の成り立ちや歴史を語ったことはない。
「この里はかつて上杉謙信公にお仕えした忍びの里。一見、そうは見えずとも里人は皆、今でも忍びの業を身につけている。そうでなければこの里の人間とは認められない――それを承知で、貴殿は我が娘を妻にと望まれるか」
「――お許しいただけるのであれば」
適当に話を合わせてくれとは言ったけれど、そこまで力強く即答してくれと言った覚えはない。自分が吐いた嘘が自分の手を離れ、勝手にどんどんと違う道に進んで行くような気がして、るいは心底、途方にくれたくなった。
「さようか。それでは貴殿の力、試させていただこう。よろしいな」
雅勝の目が険しく眇められる。忍びと隠密は似て非なるものではあるが、似ていると言えないこともない。明らかに今、雅勝は現役の隠密として現状を把握しようとしていた。
「して、それがしに何をお求めか」
「この狼を倒していただきたい。――ただし刀を使わず、一滴の血も流さずに、だ」
「え、ちょ、ちょっと父様?待って――」
武士に刀を使わず戦えとはおかしな話だし、猪の件で実感したが、雅勝は獣との戦いに慣れていない。いやそもそも、本当は恋仲でも許嫁でもないのだから、そんな途方もなく訳のわからないことを引き受けるいわれもない。
「――承知仕った」
いえ、承知しないでくださいと言う前に、雅勝が外した大小の刀を手渡してきたので、るいは思わずそれらを受け取ってしまった。もしも本当に彼の妻ならば当然の振る舞いなのだろうが、これまでこんな形で刀を手渡されたことはない。ずっしりとした重みに一瞬、取り落してしまいそうになる。
まさか武士の魂を地面に放り投げてしまうわけにもいかない。慌てて抱え直した時、檻が空き、そこから狼の遠吠えが鳴り響いた。
山肌を削るように作られた狭い田畑には、耕作されていないものが多い。家々も空き家になっているらしく、朽ち果てていたり、窓や入口に板を打ち付けていたりしていて、何より道を歩いていても、すれ違う人間がまったくいなかった。
旅の間は通常の女ものの小袖に旅装束をしていたるいは、里に帰って、少年のような野袴姿に着替えていた。これは雅勝と彼女が初めて会った時と同じいで立ちだが、今はもう年頃の娘が男装をしているようにしか見えない。これの着物を脱がしたなら、完全に犯罪者だろう。過去の自分の振る舞いを振り返って、何故か背筋が寒くなる。るいが変わったのか、雅勝の見る目が変わったのか――恐らく、その両方なのだろう。
先を行く細い背の少し後ろを歩きながら、話題は先ほど一緒に竹とんぼを作った兄妹のことだった。もちろん、初対面なので詳しい事情はわからないが、年齢の割にやけに妹をかばうような仕草が健気に見えた。
「あの子達、今は二人だけの家族なんです」
「孤児なのか」
「いえ、正確には父親はいるんですけどね……」
兄妹の父親は城下に出稼ぎに行って、母親とは違う女と懇ろになって帰って来なくなった。母親はその後一人で子ども達を育てていたのだが、昨年病で亡くなり、その後は里の皆で手分けして面倒を見ているという。
身近で聞いたことはないがありそうな話だと思ったし、実際、そのような話は、この里では珍しくもない話だという。山を開いた土地では全員の口を養うだけの収穫は見込めない。若い男も所帯持ちの男もほとんど街場に出稼ぎに行き、そのうちの何割かは確実に帰ってこないので、里の人員構成が女子供と老人に偏ってしまっている。――それがあの荒れた田畑の一因か。
「男の人って奥さんや許嫁がいても、違う女の人に目移りしますよね。誰でもそういうものなんですか?」
「いや、それは男全般ではなく、人によるだろう……」
男というだけで十把ひとからげにするのもどうかと思うし、そもそも所帯や許嫁以前に、特定の女を持ったことのない俺にその手の意見を求めるな……とは言えなかった。不意にるいが立ち止った先に、石をくり抜いた大きな手水のようなものがあり、無色透明の澄んだ水がこんこんと沸き出している。彼女がその中に手を浸したので、雅勝も隣に立って水面に触れてみるとほんのり暖かい。温泉の一種だろうか。
「このお湯で目を洗ってみてもらえませんか」
「は?」
「ここのお湯は眼病によく効くんです。……雅勝殿、時々、太陽の光を眩しそうにしてますよね?虫の毒が目に残っているんじゃないでしょうか」
無論、るいは雅勝がくらった南国の毒虫の特性を知らない。だが蜘蛛毒や蛇毒が目に残る事例があることは知っていたという。眼病に霊験あらたかなこの地の湯は、そのような場合にとてもよく効くので、里の住人が壺に汲んで、街の薬屋に売りに行くと高い値で買い取ってもらえるのだと言った。
「……お前、気づいていたのか」
恐らく、忠雅から御見の方を経由して話を聞いているとは思っていた。だが雅勝は少なくとも彼女といる時には、症状が出ても気づかれずに済んでいると思っていた。
「もちろん、効くかどうかはわかりません。けど、試してみる価値はあると思うんです。本当はわたし一人で汲んで行こうかと思っていたんですけど、やっぱり汲み置きは効能が落ちますし」
それがあの時、呼び止められた理由――いや、もしかすると、彼女がわざわざ雅勝と連れだってこの地までやってきた理由なのか。
しかし、どうしてここまでしてくれるのか。
明野領で暮らすようになって以来、雅勝には他人に身を案じられたり心配されたりという経験がない。唯一の例外は元同輩の忠雅だけだが、奴は雅勝を来年まで生かすことで自分の目的を果たそうとしているのだし、影衆時代に忠雅が傷を負ったり死にかけたりした時、誰より親身に世話を焼いたのが雅勝なのでその恩もまだ残っているのだろう。だが雅勝はこの娘に対し、これほど案じてもらうほどの何かをしてやった覚えはないし、そもそも雅勝が生きていたところで、彼女の利になることなど何もない。
――なのに、何故。
まったく前触れもなく、ただ衝動に従って後ろから抱き締めたので、当然ながらるいは驚いたようだった。一瞬、身体を固くして逃げ出そうとして、雅勝に離す気がないとわかると身をよじって顔を覗き込もうとした。顔を見られたくなかったので、細い肩に額を押し当て息を吐き出した時、彼女を抱いた手の甲に一回り小さな手が重なった。突然訳のわからない行動に出た男を咎めるでも拒むでもなく、また、こちらの身を案じてくる。
「あ、あの雅勝殿?どうしたんですか?……大丈夫ですか?」
気づかない方がよいことに気づかないふりをしていることが、苦しくなってきていた。
いつの間に、こんなに近くにまで入り込んでしまったのだろう。もっと早くに離れておくべきだった。目の前を歩いていた少年が侍の袖に手を突っ込んだのを見たあの時、係り合いになることを避けて行ってしまえばよかった。いやきっとそれよりもっと前、あの日あの時間にあの道を通らなければよかったのだ。
打ち捨てられたような山里の眼病によく効くという湯の前で、雅勝は心の底から真剣に、この女と出会ってしまったことの不運を呪った。
目的を果たして戻ってくると、実家の前には父が仁王立ちで立っていた。二人とも姿が見えないことに気づいてから、一体どれだけの時間、そうして立っていたのだろう。ただでさえ恐ろしい顔をさらにしかめて懐手している。るいも我が父ながら、地獄の閻魔様というのはこんな顔をしているのかと思ったことが度々あるが、父は昔から基本的にるいには甘い。特にここ三年程は、父親の方が娘との接し方に悩んで距離を置いている風でもあった。
父の横には大きな檻があり、その中には薄灰色の毛並みの大きな狼が捕えてあった。狼はこの山では珍しくないし、捕えて毛皮を売りに行くこともあるのだけど、どうして今それをこの場所に出してきたのだろう。
一応、里長の家なので門をくぐった先の敷地は広い。家の前にはわりと面積の広い前庭があって、盆や秋祭りの時には住人達がそこで仮装したり踊ったりもする。今、その広い前庭には人の気配はなかった。初夏の遅い夕暮れが遠くの稜線を緋色に染めていて、地面の上に三人分の影が長く伸びている。
怒れる熊男の隣に、檻に入った狼。恐らく、知らぬ者の目にはかなり恐ろしい光景だと思うのだが、るいの隣で雅勝はどこか悠然とした様子で構えている。父がこちらに向けて一歩足を踏み出したので、前に出ようとした時、軽く手で制された。まるでるいがその場にいないかのように振舞って、男達は互いだけを見ている。殺気ではないのだろうが、友好的とは言い難い鋭い空気に、雅勝の半歩後ろから動けなくなった。
「樋口殿」
「はい」
「貴殿もこの里がどういう場所かは、娘から聞き及んでおろう」
「……はい」
出会って間もない頃、忍びの出かと問われたので簡単に出自を話したことはある。だがもちろん、里の成り立ちや歴史を語ったことはない。
「この里はかつて上杉謙信公にお仕えした忍びの里。一見、そうは見えずとも里人は皆、今でも忍びの業を身につけている。そうでなければこの里の人間とは認められない――それを承知で、貴殿は我が娘を妻にと望まれるか」
「――お許しいただけるのであれば」
適当に話を合わせてくれとは言ったけれど、そこまで力強く即答してくれと言った覚えはない。自分が吐いた嘘が自分の手を離れ、勝手にどんどんと違う道に進んで行くような気がして、るいは心底、途方にくれたくなった。
「さようか。それでは貴殿の力、試させていただこう。よろしいな」
雅勝の目が険しく眇められる。忍びと隠密は似て非なるものではあるが、似ていると言えないこともない。明らかに今、雅勝は現役の隠密として現状を把握しようとしていた。
「して、それがしに何をお求めか」
「この狼を倒していただきたい。――ただし刀を使わず、一滴の血も流さずに、だ」
「え、ちょ、ちょっと父様?待って――」
武士に刀を使わず戦えとはおかしな話だし、猪の件で実感したが、雅勝は獣との戦いに慣れていない。いやそもそも、本当は恋仲でも許嫁でもないのだから、そんな途方もなく訳のわからないことを引き受けるいわれもない。
「――承知仕った」
いえ、承知しないでくださいと言う前に、雅勝が外した大小の刀を手渡してきたので、るいは思わずそれらを受け取ってしまった。もしも本当に彼の妻ならば当然の振る舞いなのだろうが、これまでこんな形で刀を手渡されたことはない。ずっしりとした重みに一瞬、取り落してしまいそうになる。
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