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第二十八話
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――静かな遠征
サクは、日本を離れた。
表向きには、
どこにも記録は残らない。
南雲朔夜という名は、
すでに“消失した存在”だ。
*
最初に向かったのは、中東だった。
血の流れが濃く、
純血種が“王”として振る舞える土地。
時間をかけて、
争いは起こさない。
事故でも、粛清でもない。
病死。
失踪。
内紛。
原因はすべて、
吸血鬼以外の理由に置き換えられた。
眷属は、散る。
命令を失い、
補給を失い、
増えることもできないまま――
自然に、消えていった。
*
次は、ルーマニア。
歴史と血統を誇る土地ほど、
純血種は慢心する。
「外部から来た者」を、
最後まで敵だと認識しない。
それが、致命傷になった。
ここでも、
痕跡は残さない。
宗教。
政治。
経済。
すべてに“別の理由”を用意し、
純血種だけが、静かに消える。
*
同時に、
サクは“情報”を潰し続けた。
ウルドの名。
古い研究記録。
吸血鬼と魔女の接点。
見つけ次第、
燃やすか、書き換えるか、
あるいは――
意味を失わせた。
真実を隠すより、
誤情報を溢れさせる方が、効果的だった。
アイリーンとは、
定期的に接触していた。
半年に一度。
多くても、年に三度。
場所は毎回変え、
話題も限定する。
彼女が見ているのは、
「日本に戻らないサク」。
ウルドの“答え”として、
自分の側に立つ可能性を
まだ残している存在。
だから――
疑われない。
(……まだ、だ)
サクは常に一線を引いた。
近づきすぎず、
遠ざかりすぎない。
誤解を、
意図的に維持する。
*
二年。
長いようで、
短い時間だった。
純血種は、
ほぼ表舞台から姿を消した。
眷属は、
増えなくなった。
血の流通は細り、
吸血鬼という“種”そのものが、
静かに衰退へ向かう。
誰も、
それを“戦争”とは呼ばない。
*
サクは、
最後の仕事を終えた夜、
一人で夜空を見上げた。
(……約束は、守った)
生きている。
取りに行く。
それだけを、
胸の奥に残したまま。
日本行きの便に、
静かに乗り込む。
二年分の闇を背負って。
だが――
帰る場所だけは、失わずに。
サクは、日本を離れた。
表向きには、
どこにも記録は残らない。
南雲朔夜という名は、
すでに“消失した存在”だ。
*
最初に向かったのは、中東だった。
血の流れが濃く、
純血種が“王”として振る舞える土地。
時間をかけて、
争いは起こさない。
事故でも、粛清でもない。
病死。
失踪。
内紛。
原因はすべて、
吸血鬼以外の理由に置き換えられた。
眷属は、散る。
命令を失い、
補給を失い、
増えることもできないまま――
自然に、消えていった。
*
次は、ルーマニア。
歴史と血統を誇る土地ほど、
純血種は慢心する。
「外部から来た者」を、
最後まで敵だと認識しない。
それが、致命傷になった。
ここでも、
痕跡は残さない。
宗教。
政治。
経済。
すべてに“別の理由”を用意し、
純血種だけが、静かに消える。
*
同時に、
サクは“情報”を潰し続けた。
ウルドの名。
古い研究記録。
吸血鬼と魔女の接点。
見つけ次第、
燃やすか、書き換えるか、
あるいは――
意味を失わせた。
真実を隠すより、
誤情報を溢れさせる方が、効果的だった。
アイリーンとは、
定期的に接触していた。
半年に一度。
多くても、年に三度。
場所は毎回変え、
話題も限定する。
彼女が見ているのは、
「日本に戻らないサク」。
ウルドの“答え”として、
自分の側に立つ可能性を
まだ残している存在。
だから――
疑われない。
(……まだ、だ)
サクは常に一線を引いた。
近づきすぎず、
遠ざかりすぎない。
誤解を、
意図的に維持する。
*
二年。
長いようで、
短い時間だった。
純血種は、
ほぼ表舞台から姿を消した。
眷属は、
増えなくなった。
血の流通は細り、
吸血鬼という“種”そのものが、
静かに衰退へ向かう。
誰も、
それを“戦争”とは呼ばない。
*
サクは、
最後の仕事を終えた夜、
一人で夜空を見上げた。
(……約束は、守った)
生きている。
取りに行く。
それだけを、
胸の奥に残したまま。
日本行きの便に、
静かに乗り込む。
二年分の闇を背負って。
だが――
帰る場所だけは、失わずに。
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