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三十九章
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ショッピングモールの駐車場を出てからも、
車内の空気はどこか“さっきまでの4人”の余韻をまとっていた。
運転席の大我は、信号待ちのたびにちらっと隣を見る。
「……疲れてないか?」
「ううん。楽しかった。」
冴夢は袋を胸に抱えたまま、ふわっと笑う。
「美琴も瑠偉先輩も……すごく仲良しで……
見てて、すごく安心するっていうか……」
「まぁ、あいつらは……分かりやすくバカップルだな。」
口ではそう言いながら、大我の声はどこか楽しそうだ。
「……でも、ありがとな。」
「え?」
「冴夢の友達が、瑠偉みたいな奴でよかったって意味。」
信号が青に変わる。
アクセルを踏みながら、ぽつりと続ける。
「全部見てて分かった。
美琴のこと、ちゃんと大事にしてた。
……頼れる先輩って感じだった。」
「うん……瑠偉先輩、優しいよね。」
「お前の“環境”がちゃんとしてると、俺は安心する。」
何気ない言い方なのに、
そのひとことが胸にじんわり広がる。
(……大我、ちゃんと見てくれてたんだ……)
冴夢は、膝の上の紺色の袋をそっと撫でた。
「……でもね。」
「ん?」
「今日いちばん“かっこよかった”のは、大我だよ。」
「……は?」
静かな車内に、大我の素っ頓狂な声が落ちた。
信号がまた赤に変わる。
車が止まると、冴夢は少しだけ運転席の方へ身体を向けた。
「だって……挨拶も、会計も……
ちゃんと“大人”で……すごく、かっこよかった。」
大我の耳が、分かりやすく赤くなる。
「……そんなことねぇだろ。」
「あるもん。」
きっぱり。
「瑠偉先輩もかっこいいけど……
大我の“こんな彼氏です”って、ちゃんと胸張れる感じ……
すごく、よかった。」
「…………」
一瞬、言葉を失った大我は、
咳払いでごまかしながら前を向き直った。
「……前、見るから。
そういうのは……家で言え。」
「え、じゃあ、帰ってからまた言うね。」
「やめろ。死ぬ。」
そう言いながらも、
横顔は照れくさそうで、どこか嬉しそうだった。
──────────────────────────
──夜。マンション。
「ただいま。」
「……ただいま。」
いつもの玄関。
けれど“今日”は、心の温度がひとつ高い。
コートをハンガーにかけていると、
大我がふと振り返り、冴夢の手から袋を受け取った。
「これが……美琴に買ってもらったワンピース?」
「う、うん……」
「……見てもいいか?」
「今は、ダメ。」
冴夢は袋をひょいっと取り返して、後ろに隠す。
大我が眉を上げる。
「なんでだよ。」
「着てから……見て欲しいから。」
一拍置いて、その意味を理解した大我の目がわずかに見開かれる。
「……着るのか。」
「着るよ。せっかく美琴が選んでくれたんだもん。」
「……じゃあ、リビングで待つ。」
即答だった。
(……わかりやす……)
冴夢は笑いを噛み殺しながら、袋を抱えて寝室へ向かった。
──────────────────────────
寝室。
袋から取り出した紺色のニットワンピを、そっと広げる。
(……やっぱり、かわいい……)
落ち着いた深い紺色。
襟元はきゅっと詰まっているのに、
ウエストのリボンでさりげなくシルエットが出る。
「大我……どんな顔するかな……」
胸が少しだけ高鳴る。
着替えを終えて鏡の前に立つと、
見慣れた自分じゃないみたいだった。
(……ちょっと、大人っぽい……かも……)
頬がほんのり熱くなるのを感じながら、
マフラーもストールも何もつけず、そのままリビングへ向かう。
──扉の前で、一度だけ深呼吸。
ノブをゆっくり回して、扉を開ける。
「……大我。」
呼んだ声は、自分でも驚くほど小さかった。
ソファに座っていた大我が、何気なく顔を上げる。
その瞬間——
本当に、時間が止まったみたいだった。
数秒の沈黙。
ぱちり、と瞬き。
もう一回、じっくり見る。
「………………」
声が出てこないらしい。
(……え……そんなに変……?)
不安になって、冴夢は裾をぎゅっとつまんだ。
「へ、変かな……似合ってない……?」
「似合ってないわけがねぇだろ。」
即答だった。
低くて、掠れた声。
大我は、ゆっくり立ち上がる。
「……ちょっと……待て。」
「え……?」
大股で近づいてきて、
真正面から一歩分の距離まで来て、じっと見つめる。
髪のライン。
首元。
ワンピースの形。
リボンの位置。
裾の揺れ。
全部、ひとつずつなぞるように視線が動く。
それからようやく——
絞り出すように言った。
「……やばい。」
「やばい……?」
「やばい。……好き。」
言葉の選び方が、いつもの大我じゃなかった。
(……あ……)
息が、少し詰まる。
次の瞬間、冴夢の腰に腕が回された。
「っ……大我……?」
「……これ、俺に見せるために買っただろ。」
「ちが……違くないけど……」
「美琴、マジで一生感謝するわ。」
小さく笑ってから、
大我は冴夢の額にそっとキスを落とした。
「……似合ってるどころじゃねぇ。
反則レベル。」
「……反則ってなに……」
「俺の理性に対しての犯罪。」
「や、やめてそういうこと言うの……!」
耳まで真っ赤になった冴夢を、
大我はその場でぎゅうっと抱きしめた。
大きな腕。
広い胸。
完全に包まれる感覚。
(……大型犬……)
思わずそんな言葉が浮かんでしまうくらい、
甘えてくる抱きしめ方だった。
「……大我?」
「……ちょっと黙ってて。今、幸せ噛み締めてる。」
「噛み締めてるの……?」
「うん。
“クリスマスの翌日に、新しいワンピ着た彼女がただいまって帰ってくる”
っていう状況、俺の想像の上を行きすぎてるから。」
胸元がくすぐったくて、
でも手を離したくなくて、冴夢はそっと背中に腕をまわした。
「……大我、かっこよかったよ。」
「またそれか。」
「今日、ずっと思ってたの。」
抱きしめられたまま、ぽつりぽつりと話し始める。
「最初、入口で会ったときも……
瑠偉先輩にちゃんと挨拶してくれて……
握手して、『冴夢がお世話になってます』って……」
大我の胸の鼓動が、少しだけ早くなる。
「会計も……
誰も気づかないうちに済ませてて……
“誘拐されたから身代金払った”って言い方も、
すごく、大我らしくて……」
「……冴夢。」
「すごいなって、思ったの。」
顔を上げる。
ワンピースの襟元の少し下。
その視線の先には、
冴夢だけを映している大我の目があった。
「大我のこと、大好きって気持ちと一緒に……
“かっこいい”って、何回も思った。」
「…………」
大我は一瞬言葉を失い、
そのあと、諦めたように小さく笑った。
「……それ以上言うと、本当にダメかもしれないんだけど。」
「ダメって……?」
「……襲う。」
「お、落ち着いて!?!?」
慌てる冴夢の頬に、
大我は指を添えて、くすっと笑った。
「冗談……半分。」
「半分は本気なんだね……」
「……でもさ。」
腕の力がすこし緩み、かわりに両肩を軽くつかまれる。
真剣な目で見つめられる。
「俺がかっこよく見えたのは、
冴夢が隣にいたからだよ。」
「え?」
「今日、俺が“誰の彼氏”かって、
ずっと胸張って言えたのは——
隣に冴夢がいたから。」
じわり、と胸の奥があたたかくなる。
「……冴夢が“かっこいい”って思ってくれるなら、
なんでも頑張れるわ。」
「なんでも……?」
「うん。“冴夢の彼氏、かっこいい”って思っててくれるなら、
スーツでも、会計でも、挨拶でも、
全部ちゃんとやる。」
冴夢は、喉の奥で小さく笑った。
「……それ、もう十分やってるよ。」
「じゃあ、もっとやる。」
大我は、ふっと目を細めた。
「“旦那”って呼ばれても恥ずかしくない男になる。」
「だ、だんっ……!」
また顔が一気に熱くなる。
「美琴、言ってたろ。
“さゆの旦那”って。」
「あれは……勢いで……」
「……俺は、否定しなかったけど。」
「…………」
言葉が出ない。
でも、大我の言葉の先にあるものは、
ちゃんと分かる。
(……“プロポーズ”は、まだ先でも……
大我の気持ちは、そこに向かってる……)
ワンピースの裾を、そっとつまんだ。
「……じゃあ、このワンピース……」
「ん?」
「大我の“かっこいい彼氏”用の、制服にする。」
「制服?」
「うん。
私が、“大我かっこいいな”って思う日に着るの。」
大我は思わず吹き出した。
「……それ、俺が毎日スーツ着て頑張るやつじゃん。」
「いいよ。毎日思ってるから。」
一瞬、空気が止まった。
「……言ったな?」
「言った。」
その瞬間、
大型犬はもう完全に尻尾を振った。
「……お前、ほんと……」
言葉の続きが見つからないのか、
大我はそのまま冴夢を抱き上げ、ソファの方へ連れていく。
「きゃ……!?」
「座れ。ワンピースしわになるから気をつけて。」
「持ち上げたのは大我だよ……!」
ふたりで笑う。
ソファに並んで座ると、
大我は冴夢の肩に腕を回し、こつんと額を寄せた。
「……ありがとな。」
「なにが……?」
「今日も、昨日も。
全部、“かっこいい”って言ってくれたこと。」
冴夢は、そっと笑った。
「……じゃあ、これからも言うね。」
「うん。何回でも聞く。」
「うざくない?」
「うざいくらいでいい。」
目をきゅっと細めて、
それでも表情は幸せそうで。
(……やっぱ、大型犬……)
やっぱりそう思いながら、
冴夢も素直に身体を預けた。
──クリスマスの翌日。
恋人と過ごした夜の余韻と、
親友とのショッピングの楽しさと、
新しいワンピース。
そして何より——
「かっこいい」と素直に言い合えるふたりの距離が、
静かに、でも確かに縮まった夜だった。
車内の空気はどこか“さっきまでの4人”の余韻をまとっていた。
運転席の大我は、信号待ちのたびにちらっと隣を見る。
「……疲れてないか?」
「ううん。楽しかった。」
冴夢は袋を胸に抱えたまま、ふわっと笑う。
「美琴も瑠偉先輩も……すごく仲良しで……
見てて、すごく安心するっていうか……」
「まぁ、あいつらは……分かりやすくバカップルだな。」
口ではそう言いながら、大我の声はどこか楽しそうだ。
「……でも、ありがとな。」
「え?」
「冴夢の友達が、瑠偉みたいな奴でよかったって意味。」
信号が青に変わる。
アクセルを踏みながら、ぽつりと続ける。
「全部見てて分かった。
美琴のこと、ちゃんと大事にしてた。
……頼れる先輩って感じだった。」
「うん……瑠偉先輩、優しいよね。」
「お前の“環境”がちゃんとしてると、俺は安心する。」
何気ない言い方なのに、
そのひとことが胸にじんわり広がる。
(……大我、ちゃんと見てくれてたんだ……)
冴夢は、膝の上の紺色の袋をそっと撫でた。
「……でもね。」
「ん?」
「今日いちばん“かっこよかった”のは、大我だよ。」
「……は?」
静かな車内に、大我の素っ頓狂な声が落ちた。
信号がまた赤に変わる。
車が止まると、冴夢は少しだけ運転席の方へ身体を向けた。
「だって……挨拶も、会計も……
ちゃんと“大人”で……すごく、かっこよかった。」
大我の耳が、分かりやすく赤くなる。
「……そんなことねぇだろ。」
「あるもん。」
きっぱり。
「瑠偉先輩もかっこいいけど……
大我の“こんな彼氏です”って、ちゃんと胸張れる感じ……
すごく、よかった。」
「…………」
一瞬、言葉を失った大我は、
咳払いでごまかしながら前を向き直った。
「……前、見るから。
そういうのは……家で言え。」
「え、じゃあ、帰ってからまた言うね。」
「やめろ。死ぬ。」
そう言いながらも、
横顔は照れくさそうで、どこか嬉しそうだった。
──────────────────────────
──夜。マンション。
「ただいま。」
「……ただいま。」
いつもの玄関。
けれど“今日”は、心の温度がひとつ高い。
コートをハンガーにかけていると、
大我がふと振り返り、冴夢の手から袋を受け取った。
「これが……美琴に買ってもらったワンピース?」
「う、うん……」
「……見てもいいか?」
「今は、ダメ。」
冴夢は袋をひょいっと取り返して、後ろに隠す。
大我が眉を上げる。
「なんでだよ。」
「着てから……見て欲しいから。」
一拍置いて、その意味を理解した大我の目がわずかに見開かれる。
「……着るのか。」
「着るよ。せっかく美琴が選んでくれたんだもん。」
「……じゃあ、リビングで待つ。」
即答だった。
(……わかりやす……)
冴夢は笑いを噛み殺しながら、袋を抱えて寝室へ向かった。
──────────────────────────
寝室。
袋から取り出した紺色のニットワンピを、そっと広げる。
(……やっぱり、かわいい……)
落ち着いた深い紺色。
襟元はきゅっと詰まっているのに、
ウエストのリボンでさりげなくシルエットが出る。
「大我……どんな顔するかな……」
胸が少しだけ高鳴る。
着替えを終えて鏡の前に立つと、
見慣れた自分じゃないみたいだった。
(……ちょっと、大人っぽい……かも……)
頬がほんのり熱くなるのを感じながら、
マフラーもストールも何もつけず、そのままリビングへ向かう。
──扉の前で、一度だけ深呼吸。
ノブをゆっくり回して、扉を開ける。
「……大我。」
呼んだ声は、自分でも驚くほど小さかった。
ソファに座っていた大我が、何気なく顔を上げる。
その瞬間——
本当に、時間が止まったみたいだった。
数秒の沈黙。
ぱちり、と瞬き。
もう一回、じっくり見る。
「………………」
声が出てこないらしい。
(……え……そんなに変……?)
不安になって、冴夢は裾をぎゅっとつまんだ。
「へ、変かな……似合ってない……?」
「似合ってないわけがねぇだろ。」
即答だった。
低くて、掠れた声。
大我は、ゆっくり立ち上がる。
「……ちょっと……待て。」
「え……?」
大股で近づいてきて、
真正面から一歩分の距離まで来て、じっと見つめる。
髪のライン。
首元。
ワンピースの形。
リボンの位置。
裾の揺れ。
全部、ひとつずつなぞるように視線が動く。
それからようやく——
絞り出すように言った。
「……やばい。」
「やばい……?」
「やばい。……好き。」
言葉の選び方が、いつもの大我じゃなかった。
(……あ……)
息が、少し詰まる。
次の瞬間、冴夢の腰に腕が回された。
「っ……大我……?」
「……これ、俺に見せるために買っただろ。」
「ちが……違くないけど……」
「美琴、マジで一生感謝するわ。」
小さく笑ってから、
大我は冴夢の額にそっとキスを落とした。
「……似合ってるどころじゃねぇ。
反則レベル。」
「……反則ってなに……」
「俺の理性に対しての犯罪。」
「や、やめてそういうこと言うの……!」
耳まで真っ赤になった冴夢を、
大我はその場でぎゅうっと抱きしめた。
大きな腕。
広い胸。
完全に包まれる感覚。
(……大型犬……)
思わずそんな言葉が浮かんでしまうくらい、
甘えてくる抱きしめ方だった。
「……大我?」
「……ちょっと黙ってて。今、幸せ噛み締めてる。」
「噛み締めてるの……?」
「うん。
“クリスマスの翌日に、新しいワンピ着た彼女がただいまって帰ってくる”
っていう状況、俺の想像の上を行きすぎてるから。」
胸元がくすぐったくて、
でも手を離したくなくて、冴夢はそっと背中に腕をまわした。
「……大我、かっこよかったよ。」
「またそれか。」
「今日、ずっと思ってたの。」
抱きしめられたまま、ぽつりぽつりと話し始める。
「最初、入口で会ったときも……
瑠偉先輩にちゃんと挨拶してくれて……
握手して、『冴夢がお世話になってます』って……」
大我の胸の鼓動が、少しだけ早くなる。
「会計も……
誰も気づかないうちに済ませてて……
“誘拐されたから身代金払った”って言い方も、
すごく、大我らしくて……」
「……冴夢。」
「すごいなって、思ったの。」
顔を上げる。
ワンピースの襟元の少し下。
その視線の先には、
冴夢だけを映している大我の目があった。
「大我のこと、大好きって気持ちと一緒に……
“かっこいい”って、何回も思った。」
「…………」
大我は一瞬言葉を失い、
そのあと、諦めたように小さく笑った。
「……それ以上言うと、本当にダメかもしれないんだけど。」
「ダメって……?」
「……襲う。」
「お、落ち着いて!?!?」
慌てる冴夢の頬に、
大我は指を添えて、くすっと笑った。
「冗談……半分。」
「半分は本気なんだね……」
「……でもさ。」
腕の力がすこし緩み、かわりに両肩を軽くつかまれる。
真剣な目で見つめられる。
「俺がかっこよく見えたのは、
冴夢が隣にいたからだよ。」
「え?」
「今日、俺が“誰の彼氏”かって、
ずっと胸張って言えたのは——
隣に冴夢がいたから。」
じわり、と胸の奥があたたかくなる。
「……冴夢が“かっこいい”って思ってくれるなら、
なんでも頑張れるわ。」
「なんでも……?」
「うん。“冴夢の彼氏、かっこいい”って思っててくれるなら、
スーツでも、会計でも、挨拶でも、
全部ちゃんとやる。」
冴夢は、喉の奥で小さく笑った。
「……それ、もう十分やってるよ。」
「じゃあ、もっとやる。」
大我は、ふっと目を細めた。
「“旦那”って呼ばれても恥ずかしくない男になる。」
「だ、だんっ……!」
また顔が一気に熱くなる。
「美琴、言ってたろ。
“さゆの旦那”って。」
「あれは……勢いで……」
「……俺は、否定しなかったけど。」
「…………」
言葉が出ない。
でも、大我の言葉の先にあるものは、
ちゃんと分かる。
(……“プロポーズ”は、まだ先でも……
大我の気持ちは、そこに向かってる……)
ワンピースの裾を、そっとつまんだ。
「……じゃあ、このワンピース……」
「ん?」
「大我の“かっこいい彼氏”用の、制服にする。」
「制服?」
「うん。
私が、“大我かっこいいな”って思う日に着るの。」
大我は思わず吹き出した。
「……それ、俺が毎日スーツ着て頑張るやつじゃん。」
「いいよ。毎日思ってるから。」
一瞬、空気が止まった。
「……言ったな?」
「言った。」
その瞬間、
大型犬はもう完全に尻尾を振った。
「……お前、ほんと……」
言葉の続きが見つからないのか、
大我はそのまま冴夢を抱き上げ、ソファの方へ連れていく。
「きゃ……!?」
「座れ。ワンピースしわになるから気をつけて。」
「持ち上げたのは大我だよ……!」
ふたりで笑う。
ソファに並んで座ると、
大我は冴夢の肩に腕を回し、こつんと額を寄せた。
「……ありがとな。」
「なにが……?」
「今日も、昨日も。
全部、“かっこいい”って言ってくれたこと。」
冴夢は、そっと笑った。
「……じゃあ、これからも言うね。」
「うん。何回でも聞く。」
「うざくない?」
「うざいくらいでいい。」
目をきゅっと細めて、
それでも表情は幸せそうで。
(……やっぱ、大型犬……)
やっぱりそう思いながら、
冴夢も素直に身体を預けた。
──クリスマスの翌日。
恋人と過ごした夜の余韻と、
親友とのショッピングの楽しさと、
新しいワンピース。
そして何より——
「かっこいい」と素直に言い合えるふたりの距離が、
静かに、でも確かに縮まった夜だった。
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