兄嫁〜あなたがくれた世界で〜

SAKU

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終章

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──数年後。

春の昼下がり、
会議を終えた大我はゆっくり資料を閉じた。

 ー 枢木グループ本社・会議室前

部下たちが一斉に立ち上がる。

「枢木専務、ありがとうございました!」

「細かい調整は任せた。無理するなよ。」

落ち着いた声と、
若手が自然と道を空けてしまう存在感。

外で見せる“枢木専務”の顔——
毅然としていて、責任感があり、どこか静かに優しい。

廊下を歩きながら、
スマホに表示された冴夢からのメッセージが目に入り、
大我の表情がふっと緩んだ。

《今日は夕飯、早めに作ってるよ。帰れる?》

(……帰りてぇ…)

誰にも聞こえない独白。
でも、その一行が彼のすべてだった。

──────────────────────────

 ーレストラン(聖の店)

窓から暖かい陽が差し込む中、
冴夢と美琴はランチプレートを前に
楽しそうに話していた。

「でね冴夢……聞いてほしいことがあって!」

美琴がバッグからそっと紙を取り出す。

「……婚姻届?」

「そう!!私、結婚するの!!」

「えぇぇ!ほんと!?おめでとう美琴!!」

「ありがと~!! しかもね……その……」

頬を真っ赤にしながら、美琴は声をひそめる。

「……授かりまして。」

「……わぁ……!! 美琴、本当におめでとう……!」

胸の真ん中がじん、と熱くなる。

(……昔の私だったら、
 “置いていかれる”って思って怯えたのかもしれない。
 でも今は違う。
 こうして一緒に未来へ行けるんだ……)

カフェの奥から、聖が顔を出す。

「……あいつ、プロポーズのとき秒で泣いてたからな。」

「オーナー、それ言わなくていいの!!」

みんなで笑い合う声が、
柔らかい午後の光にとけていく。

──────────────────────────

 ー夕方・マンション前

仕事を終え、早足で家へ向かう大我。

エレベーターに映る自分の顔が、
思った以上に優しくて、少し照れ臭い。

(……冴夢、何作ってんだろ。
 早く……会いてぇな……)

玄関を開けた瞬間、
キッチンから顔を出した冴夢が笑った。

「……おかえり、大我。」

その声を聞いた瞬間、
大我の胸の奥がほっと緩む。

靴を脱ぐより早く、
彼は息を吸うように冴夢を抱き寄せた。

「……会いたかった。」

「うわ……おかえりのハグ……」

「……冴夢が“おかえり”って言う声、
 俺……好きなんだよ。」

冴夢の頬が一瞬で赤くなる。

「……大我が帰ってくる音、私も好き。」

腕の力がそっと強まった。

「……冴夢……」

「なに……?」

「好き。」

「……知ってる。」

柔らかい、夫婦の空気。

──────────────────────────

夕飯を食べながら、
冴夢は美琴の結婚報告を嬉しそうに話した。

大我は真剣に聞いて、
ふと優しく笑う。

「……幸せって、こうやって広がるんだな。」

「うん……すごく、そう思う。」

「冴夢が誰かの幸せを“自分の未来の一部”として
 ちゃんと受け止めてるの……俺は嬉しいよ。」

冴夢は照れながら視線をそらす。

「……大我がいるから、だよ。」

その言葉だけで、
大我は静かに息を吸った。

(……ほんと……幸せだ……)

──────────────────────────

ふたりは食後、並んで座り、
ゆっくりと夜の灯りを眺める。

冴夢がそっと呼ぶ。

「大我。」

「ん?」

「……今日も、おかえり。」

微笑んだ大我が、
春の風みたいに優しい指先で
冴夢の髪を撫でる。

「……ただいま。」

その言葉は、
小さな儀式みたいに
ふたりの一日をそっと閉じていった。

──明日も、明後日も。
これからずっと。
ふたりはこうして生きていく。

柔らかな光の中で、
手と手を重ねながら。
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