52 / 52
終章
しおりを挟む
──数年後。
春の昼下がり、
会議を終えた大我はゆっくり資料を閉じた。
ー 枢木グループ本社・会議室前
部下たちが一斉に立ち上がる。
「枢木専務、ありがとうございました!」
「細かい調整は任せた。無理するなよ。」
落ち着いた声と、
若手が自然と道を空けてしまう存在感。
外で見せる“枢木専務”の顔——
毅然としていて、責任感があり、どこか静かに優しい。
廊下を歩きながら、
スマホに表示された冴夢からのメッセージが目に入り、
大我の表情がふっと緩んだ。
《今日は夕飯、早めに作ってるよ。帰れる?》
(……帰りてぇ…)
誰にも聞こえない独白。
でも、その一行が彼のすべてだった。
──────────────────────────
ーレストラン(聖の店)
窓から暖かい陽が差し込む中、
冴夢と美琴はランチプレートを前に
楽しそうに話していた。
「でね冴夢……聞いてほしいことがあって!」
美琴がバッグからそっと紙を取り出す。
「……婚姻届?」
「そう!!私、結婚するの!!」
「えぇぇ!ほんと!?おめでとう美琴!!」
「ありがと~!! しかもね……その……」
頬を真っ赤にしながら、美琴は声をひそめる。
「……授かりまして。」
「……わぁ……!! 美琴、本当におめでとう……!」
胸の真ん中がじん、と熱くなる。
(……昔の私だったら、
“置いていかれる”って思って怯えたのかもしれない。
でも今は違う。
こうして一緒に未来へ行けるんだ……)
カフェの奥から、聖が顔を出す。
「……あいつ、プロポーズのとき秒で泣いてたからな。」
「オーナー、それ言わなくていいの!!」
みんなで笑い合う声が、
柔らかい午後の光にとけていく。
──────────────────────────
ー夕方・マンション前
仕事を終え、早足で家へ向かう大我。
エレベーターに映る自分の顔が、
思った以上に優しくて、少し照れ臭い。
(……冴夢、何作ってんだろ。
早く……会いてぇな……)
玄関を開けた瞬間、
キッチンから顔を出した冴夢が笑った。
「……おかえり、大我。」
その声を聞いた瞬間、
大我の胸の奥がほっと緩む。
靴を脱ぐより早く、
彼は息を吸うように冴夢を抱き寄せた。
「……会いたかった。」
「うわ……おかえりのハグ……」
「……冴夢が“おかえり”って言う声、
俺……好きなんだよ。」
冴夢の頬が一瞬で赤くなる。
「……大我が帰ってくる音、私も好き。」
腕の力がそっと強まった。
「……冴夢……」
「なに……?」
「好き。」
「……知ってる。」
柔らかい、夫婦の空気。
──────────────────────────
夕飯を食べながら、
冴夢は美琴の結婚報告を嬉しそうに話した。
大我は真剣に聞いて、
ふと優しく笑う。
「……幸せって、こうやって広がるんだな。」
「うん……すごく、そう思う。」
「冴夢が誰かの幸せを“自分の未来の一部”として
ちゃんと受け止めてるの……俺は嬉しいよ。」
冴夢は照れながら視線をそらす。
「……大我がいるから、だよ。」
その言葉だけで、
大我は静かに息を吸った。
(……ほんと……幸せだ……)
──────────────────────────
ふたりは食後、並んで座り、
ゆっくりと夜の灯りを眺める。
冴夢がそっと呼ぶ。
「大我。」
「ん?」
「……今日も、おかえり。」
微笑んだ大我が、
春の風みたいに優しい指先で
冴夢の髪を撫でる。
「……ただいま。」
その言葉は、
小さな儀式みたいに
ふたりの一日をそっと閉じていった。
──明日も、明後日も。
これからずっと。
ふたりはこうして生きていく。
柔らかな光の中で、
手と手を重ねながら。
春の昼下がり、
会議を終えた大我はゆっくり資料を閉じた。
ー 枢木グループ本社・会議室前
部下たちが一斉に立ち上がる。
「枢木専務、ありがとうございました!」
「細かい調整は任せた。無理するなよ。」
落ち着いた声と、
若手が自然と道を空けてしまう存在感。
外で見せる“枢木専務”の顔——
毅然としていて、責任感があり、どこか静かに優しい。
廊下を歩きながら、
スマホに表示された冴夢からのメッセージが目に入り、
大我の表情がふっと緩んだ。
《今日は夕飯、早めに作ってるよ。帰れる?》
(……帰りてぇ…)
誰にも聞こえない独白。
でも、その一行が彼のすべてだった。
──────────────────────────
ーレストラン(聖の店)
窓から暖かい陽が差し込む中、
冴夢と美琴はランチプレートを前に
楽しそうに話していた。
「でね冴夢……聞いてほしいことがあって!」
美琴がバッグからそっと紙を取り出す。
「……婚姻届?」
「そう!!私、結婚するの!!」
「えぇぇ!ほんと!?おめでとう美琴!!」
「ありがと~!! しかもね……その……」
頬を真っ赤にしながら、美琴は声をひそめる。
「……授かりまして。」
「……わぁ……!! 美琴、本当におめでとう……!」
胸の真ん中がじん、と熱くなる。
(……昔の私だったら、
“置いていかれる”って思って怯えたのかもしれない。
でも今は違う。
こうして一緒に未来へ行けるんだ……)
カフェの奥から、聖が顔を出す。
「……あいつ、プロポーズのとき秒で泣いてたからな。」
「オーナー、それ言わなくていいの!!」
みんなで笑い合う声が、
柔らかい午後の光にとけていく。
──────────────────────────
ー夕方・マンション前
仕事を終え、早足で家へ向かう大我。
エレベーターに映る自分の顔が、
思った以上に優しくて、少し照れ臭い。
(……冴夢、何作ってんだろ。
早く……会いてぇな……)
玄関を開けた瞬間、
キッチンから顔を出した冴夢が笑った。
「……おかえり、大我。」
その声を聞いた瞬間、
大我の胸の奥がほっと緩む。
靴を脱ぐより早く、
彼は息を吸うように冴夢を抱き寄せた。
「……会いたかった。」
「うわ……おかえりのハグ……」
「……冴夢が“おかえり”って言う声、
俺……好きなんだよ。」
冴夢の頬が一瞬で赤くなる。
「……大我が帰ってくる音、私も好き。」
腕の力がそっと強まった。
「……冴夢……」
「なに……?」
「好き。」
「……知ってる。」
柔らかい、夫婦の空気。
──────────────────────────
夕飯を食べながら、
冴夢は美琴の結婚報告を嬉しそうに話した。
大我は真剣に聞いて、
ふと優しく笑う。
「……幸せって、こうやって広がるんだな。」
「うん……すごく、そう思う。」
「冴夢が誰かの幸せを“自分の未来の一部”として
ちゃんと受け止めてるの……俺は嬉しいよ。」
冴夢は照れながら視線をそらす。
「……大我がいるから、だよ。」
その言葉だけで、
大我は静かに息を吸った。
(……ほんと……幸せだ……)
──────────────────────────
ふたりは食後、並んで座り、
ゆっくりと夜の灯りを眺める。
冴夢がそっと呼ぶ。
「大我。」
「ん?」
「……今日も、おかえり。」
微笑んだ大我が、
春の風みたいに優しい指先で
冴夢の髪を撫でる。
「……ただいま。」
その言葉は、
小さな儀式みたいに
ふたりの一日をそっと閉じていった。
──明日も、明後日も。
これからずっと。
ふたりはこうして生きていく。
柔らかな光の中で、
手と手を重ねながら。
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~
放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」
大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。
生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。
しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。
「すまない。私は父としての責任を果たす」
かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。
だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。
これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。
エリート警察官の溺愛は甘く切ない
日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。
両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉
雪の日に
藤谷 郁
恋愛
私には許嫁がいる。
親同士の約束で、生まれる前から決まっていた結婚相手。
大学卒業を控えた冬。
私は彼に会うため、雪の金沢へと旅立つ――
※作品の初出は2014年(平成26年)。鉄道・駅などの描写は当時のものです。
お前が欲しくて堪らない〜年下御曹司との政略結婚
ラヴ KAZU
恋愛
忌まわしい過去から抜けられず、恋愛に臆病になっているアラフォー葉村美鈴。
五歳の時の初恋相手との結婚を願っている若き御曹司戸倉慶。
ある日美鈴の父親の会社の借金を支払う代わりに美鈴との政略結婚を申し出た慶。
年下御曹司との政略結婚に幸せを感じることが出来ず、諦めていたが、信じられない慶の愛情に困惑する美鈴。
慶に惹かれる気持ちと過去のトラウマから男性を拒否してしまう身体。
二人の恋の行方は……
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
Lost at sea〜不器用御曹司の密かな蜜愛〜
白山小梅
恋愛
大学に入学して以来、ずっと天敵だった六花と宗吾。しかし失恋をして落ち込む宗吾に話しかけたのをきっかけにわだかまりが解け、慰めの一度だけ関係を持ってしまう。それから卒業まで二人は友人として過ごす。
それから五年。同棲していた彼との関係が煮え切らず、別れ話の末に家を飛び出した六花。そんな彼女の前に現れたのは宗吾だった。行き場をなくした六花に、宗吾はある提案をしてきてーー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる