『Jam On The Rock』

松野栄司

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-忌まわしき古竜の血-

第四節【呼吸を合わせて】

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「パパ上ッ!」

「パパ、倒れた~ッ!」

 目の前で、レウスが倒れた。

 目の前が、真っ暗になった。どうしたら良いのか解らなくなって、不安が胸の中を埋めていく。どうしようもない程の恐怖が、心を満たしていく。レウスの存在に、どれだけ支えられていたのかが解る。押し寄せる負の感情が、悪い想像ばかりを連想させている。

「レウスさんが、死んじゃう……どうしよう?」

 涙目で、ハウゾウに問い掛ける。

「ママ上。弱気になっては、駄目でござる!」

 こんな時でも、ハウゾウは凛々りりしい。自分なんかよりも、よっぽど大人だと感心させられてしまう。

「ママがパパ、担いで歩けなんに!」

 ハウタの言葉に従って、レウスを背にする。

 背中全体に、レウスの温もりが伝わって、胸の鼓動が早鐘を打つ。

「……重いっ」

 一歩目を踏み出した途端、倒れてしまった。

「大丈夫でござるか?」

 ハウゾウは、何て可愛らしいんだろう。

「ママ、根性なしなんに」

 性格が余りよろしくないみたいだけど、ハウタも可愛らしい。

 このままレウスの温もりに包まれて、自分も眠りたい衝動に襲われる。それがとても素敵な思い付きの様に感じて、思わず目を閉じてしまう。昨夜からの疲労の所為せいなのか、レウスの温もりに癒されてしまった所為せいなのか、急激な睡魔が全身を麻痺させていく。

 甘い微睡まどろみの中、ハウゾウ達の声が遠く響いているけど、すぐに意識の底に沈んでしまった。


   ●


 目覚めると、何故なぜか裸だった。

 薄闇の中で、同じく裸でレウスと密着する様に縛られている。

 混乱よりも、恥ずかしさよりも、嬉しさの方が勝っている自分はきっと最低な女だ。少しでも、長くこのままで居たいと思う程、自分は駄目な女なのだ。出逢であったばかりなのに、レウスに恋をしている。初めてった時に、すでに恋にちてしまったのだ。

 レウスと向い合せの為、唇が触れれるほどに顔が近い。異常に跳ね上がる心拍が、いけない衝動を自分にもたらす。

 周囲には、誰も居ない。そう言えば、ハウゾウやハウタも居ない。

 出来るだけ意識しない様に、レウスから視線をらすがどうしても、目に入ってしまう。

 どうしたって、レウスを見てしまう。

「何で、裸なの?」

「ご、ごめんなさいっ……」

 いつの間にか、レウスが目を覚ましている。

 至近距離で見詰められて、死んでしまうくらい恥ずかしい。しかも、お互い裸だ。

「ハウゾウ達が、近くに隠れてるね。気配で、解るんだ」

 優しく笑うレウスが、めちゃくちゃ格好いい。

「何で捕まったか知らないけど、何とかなるよ」

 月だけが、自分たちを見ている。

 見える範囲内には誰も居ないけど、人の気配は感じている。

「ねぇ。もっかい、闇の能力ちからを使う体力、残ってる?」

 真顔で問い掛けられて、呼吸が止まるぐらい胸が締め付けられた。

「出来るけど……上手く、使えるかな?」

「大丈夫。俺が、ちゃんとリードするから、呼吸を合わせて」

 密着してる所為せいで、レウスの息遣いきづかいが感じられた。

 レウスに言われるままに、能力ちからを開放させる。レウスの力強い呼吸が、不安な心を温かく包み込んでくれる錯覚を呼び起こす。

 全身を、不思議な感覚が包み込んでいる。

 闇の装束が、自分だけではなくレウスをも包み込んでいる。

「やっぱり、思った通りだ」

 優しく笑うレウスが、凄く好きだ。

 自分たちを縛っている縄を、レウスはいとも簡単に切る。

「動かないでッ……何もしなければ、殺さないッ!」

 気付けば、若い女が居た。

「信用、出来ねぇな。まずは、刀と服を返せ。話は、それからだッ!」

 立ち上がるレウスを、恥ずかしくて直視できなかった。

「フルチンで、すごまれても恐くないわよ?」

 両手で顔を覆うけど、少しだけ気になる。

 気付けば、武装した男達が集まってきている。

「あなた達の目的は、何?」

 殺気立つ男達。

 一触即発の空気だ。

「俺は仕事で、邪竜を倒しに来ただけだ。アンタらに、用はない。邪魔するってんなら、ぶっ殺すけどな?」

 相手を刺激するような事を、平然と言うレウスに不安を覚えた。

 思わず視線を向けるけど、とんでもない物が目に入って、慌てて眼を伏せる。

 そんな自分には、興味がないと言った風に男達は構えている。

「随分と威勢が良いみたいだけど、この人数を相手に勝てるの?」

「やるってんなら、いつでも良いぜ?」

 男の一人が、前に出ようとする。

 だが、女が手で制する。

「坊やに、服と刀を返してやんな」

「レゼ、どういうつもりだ?」

 男の一人が、女に問い掛ける。

 額に竜の刺青タトゥーが、彫られている。

「どうもこうもない。私達は、舐められてるのよ?」

「だったら何故なぜ、向こうの要求を呑むんだ?」

 不思議だと言った風に、男が問う。

「だから、決闘すんのさ。ダリア、アンタが坊やに教えてやんなッ!」

「なるほど、そういう事か」

 男は好戦的に笑った。


   ●


「俺が勝ったら、解放してくれんだな?」

 刀を入念に確認しながら、レウスが問い掛ける。

「約束するわ。だけど、ダリアは強いわよ?」

「あ~……気にすんな。五秒で、勝てる」

 レウスが空を見ている。

 その視線の先には、二頭の子竜が飛んでいる。

余所見よそみとは、余裕だな?」

 ダリアがレウスに、殴り掛かる。

 だけど、レウスの顔を拳がり抜けたと思ったら、ダリアは地に伏している。

「五秒、らなかったね?」

 驚愕の表情を張り付けながら、レゼが何かを言いたげにレウスを見ている。

「何か、言いたそうだね。良いよ、言いな?」

 ハウゾウ達が、急降下してレウスに絡みつく。

 二人の笑い声が、楽しげだ。

「力を貸して欲しい」

「嫌だ」

 即答だった。

「ハクビ、行こうか?」

 歩を進めるレウスに、駆け足で歩み寄る。

 ハウタが笑顔で、飛び付いてくる。物凄く、ふわふわしている。

 ハウゾウも、飛び付いてきた。少しだけ、ごわごわしている。

「待て!」

 ダリアが立ち上がると、レウスに歩み寄る。

「まだ、やる気?」

 面倒だと言った顔で、レウスが問い掛ける。

「お前、強いな。気に入った!」

 拳を前に、差し出す。

 それを無言で見ていたレウスが、溜め息をついた。

「腹が減った。何か食わせてくれたら、話ぐらいなら聞いてやる」
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