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-忌まわしき古竜の血-
第五節【邪竜騎士ハデス】
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「ハクビ、遠慮せずに食べな」
申し訳なさそうに、前菜ばかりを食べるハクビに、スペアリブを取り分ける。この地域では、摩天狼の肉が使われるのだが、臭みがなくて意外とあっさりしている。
肉も柔らかくて、甘いタレが口の中で油と溶け合って絶妙なハーモニーを奏でる。
「ハウタはきちんと、野菜も食べないと……ハウゾウ。食べ過ぎない様にね」
ハウタは好き嫌いが多くて、バランスを考えてあげないと栄養が偏る。
ハウゾウは、放っておくと幾らでも食べてしまう。余り酷いと、下痢をする。
「美味しい?」
恥ずかしそうに、スペアリブにかぶり付くハクビと目が合った。
「ほぉいふぃふぇす……」
「ごめん。何言ってるか解らない」
口いっぱいに頬張るハクビが、とても可愛らしい。
「あんた、お母さんみたいだね?」
豪快にスペアリブを齧りながら、レゼが言う。
「そうかな?」
生まれて直ぐに、両親が死んだので、お母さんと言う物がどんな存在なのかは解らないが、そうなのだろう。
「で? アンタらの目的は?」
厄介な事なら、断るつもりだ。
「貴方たちも、【アサシン・ファング】の連中に襲われなかった?」
ギルドの連中が何故、山賊まがいの事をしているのかは、確かに疑問だ。
「アイツら一体、何なんだ?」
「この先にある村は、邪竜を崇拝している。貴方たちの目的も、邪竜討伐なんでしょう?」
気付けば、ハクビが不安そうな眼差しを送っている。何か言いたげだったが、無視した。
「邪竜について、知ってる事が有るなら教えてくれ。内容次第で、協力してやる」
「パパ、上から目線なんに~!」
「パパ上、人に物事を頼む態度では、ござらぬ!」
「お前らは、少し黙ってな」
ハクビは終始無言だ。
「続けてくれ」
「村の名前は、アスラム。私達は、そこで生まれ育った」
レゼは胸元をはだけさせると、竜の刺青を見せた。
「邪竜の名は、ケイオスグリュード」
「ちょっと、待て。今、何て言った? ケイオスグリュードって言った?」
竜にはそれぞれ、頭級が付いている。と言っても、滅竜士が勝手に付けた物だ。
E~SS級まであるのだが、レウスが討伐可能なのは、A級までだ。邪竜ケイオスグリュードは、SS級だ。曾て祖父が、命懸けで封印を施したのが、邪竜ケイオスグリュードだと言う話だが、完全にレウスの手には負えない相手であった。恐らく、バウルもそれは理解っている。
「ハウゾウ、ハウタ。帰ろっか?」
「帰るでござるか?」
「うん。無理だろ?」
勝てる訳がない。
バウルが何を考えているかは解らないが、やりたくない。
「ちょっと、待ってくれ!」
ダリアが、口を挟む。
「俺達には、切り札が在る」
「切り札って?」
レゼが懐から、小さな蒼い石を取り出した。
半透明のそれからは、不思議な力を感じた。
「これって、龍鳳石じゃね?」
竜がその生命を終える時に、最後の力を一粒の石に籠める。
見た所、目の前の龍鳳石はSS級の力を感じる。
「これは邪竜を奉る祭壇に在った物を、私達が盗んできた物。連中は今、血眼になって探してるわ。わざわざ【アサシン・ファング】に依頼してでも、必要としている」
大体の話は、読めた。
邪竜復活には、龍鳳石の力が必要だ。
「これを、貴方に託す。だから、邪竜復活を何としても、阻止して欲しいの」
「あ~……めんどくせぇ」
龍鳳石を乱暴に受け取ると、レウスは立ち上がっていた。
「ようは俺に全部、丸投げするってんだな?」
「別に、そんなつもりは……」
立ち上がろうとするレゼを、手で制するレウス。
「良いよ、別に。どうせ、やらないと、バウルにボコられるし」
逃げ帰れば、バウルにどんな仕打ちを受けるか解った物ではない。
●
「ケイオスグリュード様の導きにより、我等に新たな同胞が遣わされた!」
司祭が壇上で、叫んでいる。
村の中央に有る広場に、大勢の人が集まっている。
壇上の片隅には、腰に剣を携えた男がいる。一目で邪竜を守護する騎士だと理解った。邪竜騎士の男は、相当な腕前だ。あとの奴らは、秒で沈めれる。
司祭の横には、見慣れた男の姿がある。
「諸君。私が来たからには、邪竜を必ず降臨させる事を約束しよう。私には、大きな力が有る。龍鳳石の力を借りずとも、封印を解く術を持っている!」
村全体を、熱が帯びている。
皆、レウス達の来訪には興味がないと言った風に、男の演説に共感を示している。多くの歓声に包まれて、壇上の男――バウルは拳を天に掲げている。
「ふざけるなよ、おっさんっ……」
意味が、解らなかった。
邪竜討伐を依頼しておいて、わざわざ復活させようとしているバウルの真意が理解できない。
「レウスさん。知ってる人なの?」
申し訳なさそうに、ハクビが問い掛ける。
「知ってるも何も、ウチのマスターだ。イカれ過ぎて、訳解んねぇ……」
バウルの視線が、こちらに向いている。
「諸君、招かれざる者が、紛れ込んでいるようだ!」
こちらを指差して、バウルが叫んでいた。
言下の内に、全員の視線が注がれる。
「逃げるぞッ!」
ハクビの手を引いて、走る。
「祭りみたいで、楽しいでござる!」
「ハウタ。お祭り、好き~!」
二人の笑い声が、場違いすぎて滑稽に思えた。
人混みを掻き分けて、ひたすら走り抜ける。ハクビはずっと、不安そうな表情をしている。どうしてだろう。とても、愛おしく感じている。ハクビを護りたいと、感じている。だから、不安な表情なんて見たくない。
背後からは、大きな魔力を感じた。バウルではない。恐らく、邪竜騎士だ。
「ハクビ、覚悟して!」
振り向くと、邪竜騎士が居た。
呼吸を整えると、全身を竜鱗が覆う。
破竜刀を抜き放ち、前傾姿勢に構える。ハクビは既に闇の装束を纏っている。
「我が名は、ハデス。小僧、名前は?」
剣を抜き放つと、男は誰何する。
「レウスだッ!」
大きく踏み込んで、破竜刀を振り上げ気味に放った。鈍い衝撃が、破竜刀を通して伝わってくる。
爆ぜる金属音。交わる刃を通して、ハデスの力量が伝わる。周囲の空気が、冷たく全身を撫でる。紫色の光が、ハデスの剣に纏わり付いている。
「良い名だな、レウスよ。それに、良い目をしている。我等に従うのなら、命を助けてやるが……どうする?」
「ふざけるなッ!」
闇色の吐息を、吐き掛ける。
真面に喰らって、呼吸困難に陥れば勝機が訪れる。
「それが、答えか……残念だ」
全身に寒気を感じて、飛び退いていた。
ハデスの全身を、闇色の光が包み込んでいる。相当量の魔力を感じる。
「レウスさんを、傷付けさせないッ!」
ハクビが闇色の斬撃を放つ。
ハデスは剣で、軽く往なす。
その隙を衝いて、切り付けるが紫色の光に阻まれる。
明らかな実力差を感じていたが、手を休める事が出来ない。無呼吸運動を利用した連続斬撃を只、ひたすらに続ける。
――無尽竜刃。
斬撃を放ちながら、魔力を練り込んでいる。その全てを、ハデスは制している。一撃を放つごとに、レウスの魔力は増大している。魔力が絶頂を迎えると同時に、ハデスの全身を包む力も増大していた。
紫色の光と、闇色の斬撃が、二頭の竜と為って喰らい合っている。その瞬間、大きな力が生まれて両者の間で爆発が起きる。
砂埃が両者の姿を、覆い隠している。
瞬間的にレウスは、気配だけを頼りに破竜刀を振るう。ハデスの剣と、破竜刀がぶつかり合うと、再び爆発が起きた。尚も両者は止まらない。三度、四度と爆発が重なっていく。激しい力の衝突が続く中、ハクビが闇の力を練り込んでいる気配を感じている。
同時に遠くから、禍々しい力も感じた。
バウルが祭壇から、衝撃疾走を放とうとでも謂うのか、悪い予感が脳裏を掠めている。ハウゾウ達は、相変わらず楽しそうな笑い声を上げている。
申し訳なさそうに、前菜ばかりを食べるハクビに、スペアリブを取り分ける。この地域では、摩天狼の肉が使われるのだが、臭みがなくて意外とあっさりしている。
肉も柔らかくて、甘いタレが口の中で油と溶け合って絶妙なハーモニーを奏でる。
「ハウタはきちんと、野菜も食べないと……ハウゾウ。食べ過ぎない様にね」
ハウタは好き嫌いが多くて、バランスを考えてあげないと栄養が偏る。
ハウゾウは、放っておくと幾らでも食べてしまう。余り酷いと、下痢をする。
「美味しい?」
恥ずかしそうに、スペアリブにかぶり付くハクビと目が合った。
「ほぉいふぃふぇす……」
「ごめん。何言ってるか解らない」
口いっぱいに頬張るハクビが、とても可愛らしい。
「あんた、お母さんみたいだね?」
豪快にスペアリブを齧りながら、レゼが言う。
「そうかな?」
生まれて直ぐに、両親が死んだので、お母さんと言う物がどんな存在なのかは解らないが、そうなのだろう。
「で? アンタらの目的は?」
厄介な事なら、断るつもりだ。
「貴方たちも、【アサシン・ファング】の連中に襲われなかった?」
ギルドの連中が何故、山賊まがいの事をしているのかは、確かに疑問だ。
「アイツら一体、何なんだ?」
「この先にある村は、邪竜を崇拝している。貴方たちの目的も、邪竜討伐なんでしょう?」
気付けば、ハクビが不安そうな眼差しを送っている。何か言いたげだったが、無視した。
「邪竜について、知ってる事が有るなら教えてくれ。内容次第で、協力してやる」
「パパ、上から目線なんに~!」
「パパ上、人に物事を頼む態度では、ござらぬ!」
「お前らは、少し黙ってな」
ハクビは終始無言だ。
「続けてくれ」
「村の名前は、アスラム。私達は、そこで生まれ育った」
レゼは胸元をはだけさせると、竜の刺青を見せた。
「邪竜の名は、ケイオスグリュード」
「ちょっと、待て。今、何て言った? ケイオスグリュードって言った?」
竜にはそれぞれ、頭級が付いている。と言っても、滅竜士が勝手に付けた物だ。
E~SS級まであるのだが、レウスが討伐可能なのは、A級までだ。邪竜ケイオスグリュードは、SS級だ。曾て祖父が、命懸けで封印を施したのが、邪竜ケイオスグリュードだと言う話だが、完全にレウスの手には負えない相手であった。恐らく、バウルもそれは理解っている。
「ハウゾウ、ハウタ。帰ろっか?」
「帰るでござるか?」
「うん。無理だろ?」
勝てる訳がない。
バウルが何を考えているかは解らないが、やりたくない。
「ちょっと、待ってくれ!」
ダリアが、口を挟む。
「俺達には、切り札が在る」
「切り札って?」
レゼが懐から、小さな蒼い石を取り出した。
半透明のそれからは、不思議な力を感じた。
「これって、龍鳳石じゃね?」
竜がその生命を終える時に、最後の力を一粒の石に籠める。
見た所、目の前の龍鳳石はSS級の力を感じる。
「これは邪竜を奉る祭壇に在った物を、私達が盗んできた物。連中は今、血眼になって探してるわ。わざわざ【アサシン・ファング】に依頼してでも、必要としている」
大体の話は、読めた。
邪竜復活には、龍鳳石の力が必要だ。
「これを、貴方に託す。だから、邪竜復活を何としても、阻止して欲しいの」
「あ~……めんどくせぇ」
龍鳳石を乱暴に受け取ると、レウスは立ち上がっていた。
「ようは俺に全部、丸投げするってんだな?」
「別に、そんなつもりは……」
立ち上がろうとするレゼを、手で制するレウス。
「良いよ、別に。どうせ、やらないと、バウルにボコられるし」
逃げ帰れば、バウルにどんな仕打ちを受けるか解った物ではない。
●
「ケイオスグリュード様の導きにより、我等に新たな同胞が遣わされた!」
司祭が壇上で、叫んでいる。
村の中央に有る広場に、大勢の人が集まっている。
壇上の片隅には、腰に剣を携えた男がいる。一目で邪竜を守護する騎士だと理解った。邪竜騎士の男は、相当な腕前だ。あとの奴らは、秒で沈めれる。
司祭の横には、見慣れた男の姿がある。
「諸君。私が来たからには、邪竜を必ず降臨させる事を約束しよう。私には、大きな力が有る。龍鳳石の力を借りずとも、封印を解く術を持っている!」
村全体を、熱が帯びている。
皆、レウス達の来訪には興味がないと言った風に、男の演説に共感を示している。多くの歓声に包まれて、壇上の男――バウルは拳を天に掲げている。
「ふざけるなよ、おっさんっ……」
意味が、解らなかった。
邪竜討伐を依頼しておいて、わざわざ復活させようとしているバウルの真意が理解できない。
「レウスさん。知ってる人なの?」
申し訳なさそうに、ハクビが問い掛ける。
「知ってるも何も、ウチのマスターだ。イカれ過ぎて、訳解んねぇ……」
バウルの視線が、こちらに向いている。
「諸君、招かれざる者が、紛れ込んでいるようだ!」
こちらを指差して、バウルが叫んでいた。
言下の内に、全員の視線が注がれる。
「逃げるぞッ!」
ハクビの手を引いて、走る。
「祭りみたいで、楽しいでござる!」
「ハウタ。お祭り、好き~!」
二人の笑い声が、場違いすぎて滑稽に思えた。
人混みを掻き分けて、ひたすら走り抜ける。ハクビはずっと、不安そうな表情をしている。どうしてだろう。とても、愛おしく感じている。ハクビを護りたいと、感じている。だから、不安な表情なんて見たくない。
背後からは、大きな魔力を感じた。バウルではない。恐らく、邪竜騎士だ。
「ハクビ、覚悟して!」
振り向くと、邪竜騎士が居た。
呼吸を整えると、全身を竜鱗が覆う。
破竜刀を抜き放ち、前傾姿勢に構える。ハクビは既に闇の装束を纏っている。
「我が名は、ハデス。小僧、名前は?」
剣を抜き放つと、男は誰何する。
「レウスだッ!」
大きく踏み込んで、破竜刀を振り上げ気味に放った。鈍い衝撃が、破竜刀を通して伝わってくる。
爆ぜる金属音。交わる刃を通して、ハデスの力量が伝わる。周囲の空気が、冷たく全身を撫でる。紫色の光が、ハデスの剣に纏わり付いている。
「良い名だな、レウスよ。それに、良い目をしている。我等に従うのなら、命を助けてやるが……どうする?」
「ふざけるなッ!」
闇色の吐息を、吐き掛ける。
真面に喰らって、呼吸困難に陥れば勝機が訪れる。
「それが、答えか……残念だ」
全身に寒気を感じて、飛び退いていた。
ハデスの全身を、闇色の光が包み込んでいる。相当量の魔力を感じる。
「レウスさんを、傷付けさせないッ!」
ハクビが闇色の斬撃を放つ。
ハデスは剣で、軽く往なす。
その隙を衝いて、切り付けるが紫色の光に阻まれる。
明らかな実力差を感じていたが、手を休める事が出来ない。無呼吸運動を利用した連続斬撃を只、ひたすらに続ける。
――無尽竜刃。
斬撃を放ちながら、魔力を練り込んでいる。その全てを、ハデスは制している。一撃を放つごとに、レウスの魔力は増大している。魔力が絶頂を迎えると同時に、ハデスの全身を包む力も増大していた。
紫色の光と、闇色の斬撃が、二頭の竜と為って喰らい合っている。その瞬間、大きな力が生まれて両者の間で爆発が起きる。
砂埃が両者の姿を、覆い隠している。
瞬間的にレウスは、気配だけを頼りに破竜刀を振るう。ハデスの剣と、破竜刀がぶつかり合うと、再び爆発が起きた。尚も両者は止まらない。三度、四度と爆発が重なっていく。激しい力の衝突が続く中、ハクビが闇の力を練り込んでいる気配を感じている。
同時に遠くから、禍々しい力も感じた。
バウルが祭壇から、衝撃疾走を放とうとでも謂うのか、悪い予感が脳裏を掠めている。ハウゾウ達は、相変わらず楽しそうな笑い声を上げている。
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