ブルーピーシーズ

弧川ふき@ひのかみゆみ

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第4章 ケズレルモノ

35 不明瞭さ

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 狙われるかもと思われている僕が全面に出るのはどうなんだろう?
 それでも戦いながら逃げることを念頭に置いていれば、最悪の事態にはそうそうならない?
 でもどうなんだろう。

 そんなことを思いながら椅子の片付けを手伝う。このあと少しマギウトの練習をしたかったし、手伝えば早く始められる。
 折り畳んだパイプ椅子を両手に一脚ずつ持って、一階下の施設備品倉庫へ。運びながら歌川うたがわさんが僕に。
「そう言えば昨日、なんか聞いてたよな、何のことか忘れたが」
「え?」
「ほら、あいつの――粋暁きよあきくんの……元燐治りんじくんの――話をしたあとで、彼女が現れたから話を切っただろ、昨日」
「ああ、えと、なんだっけ」
 数秒考えて、思い出してから。「そうだ、えっと、血がつながってないのかなって話です、粋暁さんと、佐倉守さくらもり家の誰かとが。粋暁さんの父方の……でしたよね? 父方のお爺さんはルオセウ人だったけど、母方の方で佐倉守と繋がってたら、僕と同じかもしれない、でしょう?」
「ああ、そうだな。でも、それも違ったよ。つまり、大樹だいきくんが変身の危険性について注意したのは正解だったってことだな。君みたいに変身の維持ができつつ種類も豊富で戻れる……とは限らなかったんだ、彼は」

 そうなんだよなあ、と僕が思っていると、歌川さんが。「犬神いぬがみが、よく気付いたよって言ってたぞ。『それに事の重大さも分かってた』ってね」
 それでも余計なことを言った、その感情がずっと僕の中に残ってる。それは数秒、顔に出たんだと思う。
 だからか、歌川さんが僕に言った。「おい、まだ気にしてんのか?」
「うっ、はい……」
「変身については誰が言ってしまっても不思議じゃなかったけどな。大樹くんが気にしてたから言葉にしてしまったことではあるけど、だからこそ早めに対処できたとも言える。気にすんな――ってそりゃ無責任なことは言えない、か? 俺達自身への戒めもあったしな。でもまあ、とにかく……尻拭いを自分でできてよかったな」

 そう聞いて、胸が温かくなった。
 確かに、謝って済むことじゃないというか、謝ればいいなんて考えは、少し怖い。だけど――大事なのはそこだけじゃなくて――彼にちゃんと伝えられたこと、注意をうながせたというのが第一だったんだ。
 すでに間違えてたなら、そのあとに必要な第一のことをできてよかった。
 間違えたなら間違えたなりにその中での最善を。
 それができてよかった。

 だけど。やっぱり気にしちゃう。二度と同じような間違いはしたくない。苦しくて申し訳なくて、いてもたってもいられなかった、あんな想いは。

 しばらくして、今度は別のことが気になった。「あの」
「何だ?」歌川さんが聞いてくる。
 椅子を置いてマギウト練習場に戻りながら。「今でも、不思議に思ってるんですけど……奴らが粋暁さんを致しに来たのは偶然だったんですかね、あの時期だったから、今思えば怪しいなって……本当に偶然かなって思って……」
「多分、奴らも独自に追ってたんだ。あの住所を俺達が知ってから向かうまでのあいだに、かなり時間が掛かったろ、大樹くんに知らせて君を待って連れていこうとしてたから。時間がかなり経ったはずだが、間に合った。つまり、奴らは俺達の動きを参考にはしてなかったんだ。もし俺達の動きが追われてて、あの住所を奴らも同時に知ってたのなら、燐治くん――粋暁くんは今ここにいなかったな。奴らも似たような捜査をしたんだろう、だから同じくらい時間が掛かった、着眼点も似てたんだろう。だから同日に――あんなことになった」
「……そっか」
 確かにありうる。

 この話を聞いていたようで、檀野だんのさんが「たとえば」と説明を始めた。
「あの時の『燐治くん』が家に帰ってきたその一度目を目撃して住所が分かったのが俺達だとして……、そのあと『燐治くん』が一旦出掛け、そのあとに帰ってきた所を奴らが目撃して奴らもそこが燐治くんの家だと知った――。って具合なら、たまたま同じような場所にいた、だからあんな日になった……と言えるな。十分ありうるだろ? ま、まだ気になるならあの日何してたか粋暁くんに聞くといい」

 そっかそれなら、とは思ったものの、どうやって聞こうか、と思った。あの人はもう帰ってしまった、多分誰かのゲートで。希美子きみこさんか誰かの。『彼自身の』かもしれないけど。
 檀野さんに聞けば分かるかな。と思った通り、檀野さんは「ああ、知ってるよ」って。

 その頃には椅子の片付けももう終わってた。
 番号を教わる。
 そして練習場の隅で、掛けてみた。
 聞いてみる。と、粋暁さんはこう言った。

「ああ、そういうことか。もう印象強くて覚えちゃってるよ、あの日のこと。あの日の昼、バイトから帰ってきた所だったんだよ、その時を隈射目くまいめの調査員が見たってことだよな。そのあと俺、友達に呼ばれて一旦大学に行ったんだ。多分そのあと帰ってきた時にあいつらに見られたんだなぁ」

 そうだったのか。
 ただ、納得しただけじゃなく、話す粋暁さんの言葉に、哀愁が込められてるとも感じた。友達――が彼をどう思っているのか……それを気にしてるんじゃないかな。
「あの、すみません、変なこと聞いて。話はそれだけで……。その……もやもやしたくなかったんです、あの連中の調査能力がどのぐらいか――みたいなことも、何となく知っておくべきだと思って。その……、知ることが誰かのためになればとは思うんですけど、自分本位だったかなって。もし嫌なこと思い出させたりしたなら、すみません」
「いやいいよ、謝ることじゃないよマジで。俺もそういう状況だったって改めて思い知れて、感じる所があったし、こういう情報が大事になるかもってのは大樹くんが言ってる通りだしな」
「……なら、いいんですけど。……えっと、じゃあ、話はそれだけなので」
「そか。じゃな」
「はい。……あの」
「ん?」
「その……。これからも、お元気で」
「おう、じゃあな、大樹くんもね」
「はい、じゃあまた」
「じゃ」そう言われてから通話を切った。

 スマホの画面をホーム画面に戻してズボンの右前のポケットに入れた。
 それから、『さっきの推測が成り立つということは』って考えてみた。

 奴らは多分、『燐治りんじさん』が鉄の吸収をしていたのを、風浦かざうらさん達と違う場所で目撃したのかもしれない。
 タイミング的にやっぱり偶然。少し運命の歯車が食い違ってたら――隈射目くまいめよりも奴らが先に見付けて先に接していたら、救えなかったのか……。

 僕はゾッとしながら考えた。奴らの調査力を甘く見ない方がいいんだなって。
 今後はそれを隈射目くまいめも分かった上で動くんだろう、きっと。

 ほかにも何か気になることはないかな、なければ練習を始めるか、と思って、あ、そういえば、と思い出した。だから誰かを呼び止めようとしたんだけど、そんな時、犬神いぬがみさんの姿が目に入った。
「犬神さん、隈射目くまいめが元から僕に付けている護衛はどうするんですか? 今後シリクスラさんも付くことになりますけど」

 僕に付くからか、シリクスラさんも近くにいた。彼女も聞いている。
「ああ、えっと」と犬神さんが言い、そして続けた。「どうする? 同時警護ってことにする? どっちかだけにするなら、人目さえなければ臨機応変にいけるシリクスラさんがいいと思うけど。そもそも銃だって目立つワケだし」

 するとシリクスラさんが。「色々と装い方はある訳ですから、減らす意味はあまりないでしょう。同時警護で構いません。少し離れて、ほかの人に分からないように護衛対象として追尾します」
「じゃあそういうことで」犬神さんは、最後の椅子を手に持って、僕らに「じゃ」と言い残して去っていった。

 さて練習だ。
「あの。これからマギウトの練習をしますけど、シリクスラさんも一緒にします?」
 すると。「まあある程度は。あまり根を詰めないようお願いします、万が一のために」
 熱とノイズのない声に対し、うなずく。
「そうですね」と返事をしたあとで練習を始めようとした。

 その時。「ああ、ちょっと待ってください」シリクスラさんに言われた。彼女が僕に。「マギウト……と言いましたよね」
「え、そうですけど……それが何か?」
「マギュート……の方が私達の発音に近いのです。この翻訳機で聞く際に支障はそこまでないとは思いますが、念のため」
「そうなんだ。マギュート。へえ~」
 発音に関する話を思い出した。居那正いなまささんが言っていたこと。ほぼ正確に伝わっていたとしても不思議じゃなかったけど、正確じゃなかったワケだ。きっとこのことはメモ紙なんかに書かれるだろうし、あの古書なんかと一緒に資料として置かれることになるんだろうな。

 このことを知ればみんなも呼び方を変えるはず。これからはマギュートか。

 ただ、それならと、もう一つ気になる。「サクラ――は合ってるんですか?」
「その発音はとても近いです。大丈夫ですよ」
 なら安心だな。


 その日の夜。
 寝る前までと決めて、僕は自分の部屋でスケッチブックにデザイン画を描いていた。椅子にあぐらを掻いて、自分の太ももを机にして。

 描いていたのはパン屋のロゴデザイン。パンの絵をIに見立てたり、フレームをお盆のようにしたり。パンが大きい方が気付きやすくて存在感もある。それにその店の独自性を想像しながらそれを表現できなきゃ、とも思う。そして緑の木枠で装飾した。緑のイメージカラーの店だったらこんな手もある、という感じ。

 アリだなと思いながら、『肝心なのは諸々の線や絵の太さもだな』と、次の試行錯誤に入る。
 段々と絵にまとまりを感じるようになっていく。そんな作業の時間。

 ある時、ドアからコンコンと音がした。描く手を止めずに椅子を回転させ、振り返って、
「はーい」
 って返事をした。
「どうも、私です」言いながら入ってきたのはシリクスラさん。

 僕が視線をやって「ああ、何ですか?」と聞くと、彼女が言った。
「私は理美りみさんの部屋で寝ます。では」
「ども。明日もよろしく」
 そう言ったのは、僕の部屋のベッドに腰掛けている右柳うりゅうさんだった。
「はい、では」
 そう言うとシリクスラさんは部屋を出、ドアを閉めた。

 もちろん僕は自分の部屋のベッドで寝る。ただ、一人じゃない。右柳さんがそのそばに敷いた布団で寝る。これも護衛のため。
 正直、どこかに引っ越してその上で警護されてもいいんじゃ? って思った。その方が確実なんじゃ? って。
 でも、すぐにその考えを否定した。その方法を取っていないのは、きっと、『住所を変える』という手続きやその辺の情報なんかからバレることをけるためなのかもって。余計な行動をする方が危険なのかも――多分。
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