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第4章 ケズレルモノ
37 日常とそれを侵すモノ
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「ねえ、これ見てよ、これあんたの弟のことだよね?」
私の隣の席の友達、真緒が急にそんなことを言った。
教室で次の授業が始まる前の休み時間のことだ。
私は耳を疑った。弟のこと? 習字か漢検、じゃなきゃデザインのこと? それともクライミング? 私は思いながら、友人が見せるスマホの画面を覗き込んだ。
そこに映っていたのはミーパイプという配信サイトの動画。問題の動画内の下部には字幕スーパーみたいに電話番号らしき数字が並んでいる。その上に顔写真。弟の顔に似てる、というより、少し前の弟の顔……そのものだ。
その動画からは声も。その内容を聞いた私は、この状況の意味がよく分からない、と思うことくらいしかできなかった。
この話に参加しているのは、スマホを見せてきた友人と私を含めて四人。そのうちの一人、私の後ろから覗き込んでいた有希はこう言った。
「映画の宣伝か何か……じゃ説明付かないよね? その『なんで弟の名前と顔がわざわざ?』ってのがよく分からないとこよね。……あ、何か心当たりあるんだ?」
言い当てられた。顔に出てた?
どう言えば? 悩んでしまう。
「えっと……」
「大丈夫だって。みんな味方なんだから」
そう言ったのは有希の隣、真緒の後ろの席から覗き込んでいた一人、水奈穂だった。
水奈穂は続けた。
「最近さ、なんか尾行みたいなのされてたの、知ってる? 目配せしてたかも……っていう瞬間を見たことがあるんだけど」
「え、どういうこと? 私が目配せした瞬間をってこと?」
私がそう聞くと、水奈穂は。「んー、というか、あんたが目配せを受けてうなずいてたって感じかな。……だからさ、何かあるんでしょ? なんか……SPみたいだったし、あれ」
確かにそんな時期はあったけど。
と、私が思い出す間を挟んだ直後、真緒の声が。
「何か事情があるとしても。大樹くんはいい子らしいじゃん、前から聞いてる話によるとさ。じゃあ、だったらさ、私らは『大樹くんの正体は悪者』って部分は嘘だって信じるからさ、私らのあいだでは気にしないでよ。でも、ほかの人には何か言わないとやばいよね」
「そ、そうだね」
私はスマホを手に取った。このことを大樹がまだ知らないかも、伝えないと――と思ったから。
椅子から立ち上がった。
その頃には、周りはざわついていた。
みんなの視線が私に向く。そして聞こえる。
「藤宮。お前、弟いるって言ってたよな、大樹って奴」前の方の席の間山くんだった。
私と話していた友人以外、ここにいるほぼ全員が怪訝な目で私を見ている。
間山くんは自分のスマホを指差しながら、更に。
「これ、本当なのか」
――もう、言うしかない。
「本当だよ。ただ、本当なのは、弟が不思議な力を持ってるってことだけ」
私もだけど――とまでは、さすがに言えなかった。すると。
「はあ?」間山くんは、ありえないって顔で言ってる、そんな感じ。「マジかよ……。いや、なんていうか、俺も藤宮やお前の弟を信じたいよ――」
でも、と言われる気がした。
「何よ、本当なんだってば。……マジなの!」
私がそう軽く叫んでしまうと、間山くんは一旦深く息を吸って、小さく何かを言った。微かに聞こえた。「嘘だろ……」と現状を嘆くような声。
それから信じたらしく、態度が変わった。「さっきの話、少し聞こえたよ。半信半疑だったけど、お前らの話が本当なら……ほら、その弟がいい奴ならさ、電波ジャックしてる奴が嘘をついてるってことになるよな?」
「う、うん、多分……」
私がそう言うと、また間山くんが。
「ジャックが取り締まるためで弟がいい奴ならこんなことする必要ない――俺なら違う方法を取る。だから……藤宮のことは信じられる。で思ったんだけどさ。特殊能力のことが本当なら、それを狙ってるって線、ありそうだろ? ジャック犯がいい奴の振りをして……。目的は分かんないけどそれっぽくね? ってことは……というか、お前も狙われるんじゃ――?」
最後の二言三言を発する時、間山くんは今気付いたという顔をした。
言われて私もハッとした。自分のことも不安になる。
もしかしてまた何かされる? あんなのはもう嫌だ。
今、教室のドアを騒がしく開けて、
「おい藤宮(ふじみや)! 今大変なことになってるぞ!」
って言った人がいた。その方を見た。担任の鬼戸先生だった。
私はまた答えなきゃと思った。今度はみんなに聞こえるように。
「私の弟は、酷い人なんかじゃないし、その情報のほとんどはデタラメです。みんな信じないで。先生も」
「あ、ああ……そうだよな。そうだそうだ、うん、あるワケないよな。イタズラだイタズラ。電波ジャックの件、みんなも信じるなよ」
鬼戸先生はこの場を和ませながら去っていった。
鬼戸先生は多分、職員室に、私と話した手応えを知らせに行った、それで余計な行動を取る人が出なくなるなら、まあ引き留める必要もない。
本当はもっと詳しく教えておくべきかもしれない、そのことで迷いもした。けど、今はそれよりも。
私はみんなに、特に間山くんに向けて告げた。
「気付かせてくれてありがとう。私、早退する」
荷物をまとめている時、聞こえた。
「マジなら早く行けっての」
「ここが危なくなったらどうすんだよ」
そんな声が聞こえた。そんな時、荷物をまとめる手が一瞬止まったり、ゆっくりになってしまったり。
私は何も言えなかったけど、代わりみたいに間山くんの声が。
「おい。分かってるから今急いで用意してるんだろ。こいつだって自分の身を守りたいワケだし。気持ちは分かるけど言ってやるなよ」
声のした方へ、指摘ではあるけど、まあまあ穏やかに言ってくれた。
「今の酷い言葉がなきゃもっと早く去ってたかも」
っていうのは、真緒の声だった。
私は――こんな心に痛い状況だからこそ、全員に向けて告げたくなった。
「ごめんね、そんな思いさせて」
間山くんと真緒にはさっきのことを感謝したくなった。
「ありがとう」
同時に荷物をまとめ終える。それから、「じゃ」とだけ言うと、急いで教室をあとにした。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
俺は大樹から受け取った画材を棚に戻した。
――本当に戻ってくるのかよ。
そう思いながら入れ込んだ。
教科書はあいつの机に。入れた時、その机の横のフックに掛けられた鞄から、何かの振動するような音がした。多分ケータイとかのバイブ音。
――あいつのか。
鞄のポケットから見付けて取り出して、その画面を見た。
スマホの液晶には『藤宮理美』ってある。姉だっけ?
ここにいない大樹の代わりに出てみた。
「もしもし」
「大樹? あんた今どうしてるの? 大変な――」
「俺、友達の須田川要太っていいます。大樹はもうどこかに行きましたよ」
「えっ」
「周りに、通報しないように言い残して、被害を出させないために、自分からどこかに行ったんです」
「そっか」
何やら感慨深くなったのか、少し間があった。きっと思いやってるんだ。
それからまた理美さんの声が。
「そのスマホ、今日の夕方にでも、うちに届けてくれない?」
「分かりました。一応、必要そうなのは全部届けます」
「ありがとう」
この一言の直後に通話は切れた。こんなの、まるで現実に引き戻すスイッチだな――そんな風に思った。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
通報は、実際あった。
通報者には『フジミヤダイキがどこにいるのか』まで言わせた。
だがそれに留まらず、俺は解析機などの扱いが得意な仲間に言った。
「カシュル。シャグ、ボゼレカサモ」
『特定しろ。この、発信元を』という意味だ。
こうするのは、通報者が口頭で位置を言っても、それが俺達を誘導する嘘かもしれないからだ。奴らの仲間がもし通報者だったらそんなこともありうる。
特定した結果、発信者の言う位置と発信元の位置はほぼ同じだと分かった。しかもそこは学校らしい。発信者が奴らの仲間なら人のほぼいない場所に誘導するだろう。『あの時の黒いゲートの先』もそうだった。……どうやら罠ではなさそうだ。
『この座標』の近くに俺達は行ったことがあった。まあこの学校に行ったことはなかったが。
――そこにフジミヤダイキが。ふふ。自然と口角が上がる。
さて行くか、ゲートを使えばすぐだ。
私の隣の席の友達、真緒が急にそんなことを言った。
教室で次の授業が始まる前の休み時間のことだ。
私は耳を疑った。弟のこと? 習字か漢検、じゃなきゃデザインのこと? それともクライミング? 私は思いながら、友人が見せるスマホの画面を覗き込んだ。
そこに映っていたのはミーパイプという配信サイトの動画。問題の動画内の下部には字幕スーパーみたいに電話番号らしき数字が並んでいる。その上に顔写真。弟の顔に似てる、というより、少し前の弟の顔……そのものだ。
その動画からは声も。その内容を聞いた私は、この状況の意味がよく分からない、と思うことくらいしかできなかった。
この話に参加しているのは、スマホを見せてきた友人と私を含めて四人。そのうちの一人、私の後ろから覗き込んでいた有希はこう言った。
「映画の宣伝か何か……じゃ説明付かないよね? その『なんで弟の名前と顔がわざわざ?』ってのがよく分からないとこよね。……あ、何か心当たりあるんだ?」
言い当てられた。顔に出てた?
どう言えば? 悩んでしまう。
「えっと……」
「大丈夫だって。みんな味方なんだから」
そう言ったのは有希の隣、真緒の後ろの席から覗き込んでいた一人、水奈穂だった。
水奈穂は続けた。
「最近さ、なんか尾行みたいなのされてたの、知ってる? 目配せしてたかも……っていう瞬間を見たことがあるんだけど」
「え、どういうこと? 私が目配せした瞬間をってこと?」
私がそう聞くと、水奈穂は。「んー、というか、あんたが目配せを受けてうなずいてたって感じかな。……だからさ、何かあるんでしょ? なんか……SPみたいだったし、あれ」
確かにそんな時期はあったけど。
と、私が思い出す間を挟んだ直後、真緒の声が。
「何か事情があるとしても。大樹くんはいい子らしいじゃん、前から聞いてる話によるとさ。じゃあ、だったらさ、私らは『大樹くんの正体は悪者』って部分は嘘だって信じるからさ、私らのあいだでは気にしないでよ。でも、ほかの人には何か言わないとやばいよね」
「そ、そうだね」
私はスマホを手に取った。このことを大樹がまだ知らないかも、伝えないと――と思ったから。
椅子から立ち上がった。
その頃には、周りはざわついていた。
みんなの視線が私に向く。そして聞こえる。
「藤宮。お前、弟いるって言ってたよな、大樹って奴」前の方の席の間山くんだった。
私と話していた友人以外、ここにいるほぼ全員が怪訝な目で私を見ている。
間山くんは自分のスマホを指差しながら、更に。
「これ、本当なのか」
――もう、言うしかない。
「本当だよ。ただ、本当なのは、弟が不思議な力を持ってるってことだけ」
私もだけど――とまでは、さすがに言えなかった。すると。
「はあ?」間山くんは、ありえないって顔で言ってる、そんな感じ。「マジかよ……。いや、なんていうか、俺も藤宮やお前の弟を信じたいよ――」
でも、と言われる気がした。
「何よ、本当なんだってば。……マジなの!」
私がそう軽く叫んでしまうと、間山くんは一旦深く息を吸って、小さく何かを言った。微かに聞こえた。「嘘だろ……」と現状を嘆くような声。
それから信じたらしく、態度が変わった。「さっきの話、少し聞こえたよ。半信半疑だったけど、お前らの話が本当なら……ほら、その弟がいい奴ならさ、電波ジャックしてる奴が嘘をついてるってことになるよな?」
「う、うん、多分……」
私がそう言うと、また間山くんが。
「ジャックが取り締まるためで弟がいい奴ならこんなことする必要ない――俺なら違う方法を取る。だから……藤宮のことは信じられる。で思ったんだけどさ。特殊能力のことが本当なら、それを狙ってるって線、ありそうだろ? ジャック犯がいい奴の振りをして……。目的は分かんないけどそれっぽくね? ってことは……というか、お前も狙われるんじゃ――?」
最後の二言三言を発する時、間山くんは今気付いたという顔をした。
言われて私もハッとした。自分のことも不安になる。
もしかしてまた何かされる? あんなのはもう嫌だ。
今、教室のドアを騒がしく開けて、
「おい藤宮(ふじみや)! 今大変なことになってるぞ!」
って言った人がいた。その方を見た。担任の鬼戸先生だった。
私はまた答えなきゃと思った。今度はみんなに聞こえるように。
「私の弟は、酷い人なんかじゃないし、その情報のほとんどはデタラメです。みんな信じないで。先生も」
「あ、ああ……そうだよな。そうだそうだ、うん、あるワケないよな。イタズラだイタズラ。電波ジャックの件、みんなも信じるなよ」
鬼戸先生はこの場を和ませながら去っていった。
鬼戸先生は多分、職員室に、私と話した手応えを知らせに行った、それで余計な行動を取る人が出なくなるなら、まあ引き留める必要もない。
本当はもっと詳しく教えておくべきかもしれない、そのことで迷いもした。けど、今はそれよりも。
私はみんなに、特に間山くんに向けて告げた。
「気付かせてくれてありがとう。私、早退する」
荷物をまとめている時、聞こえた。
「マジなら早く行けっての」
「ここが危なくなったらどうすんだよ」
そんな声が聞こえた。そんな時、荷物をまとめる手が一瞬止まったり、ゆっくりになってしまったり。
私は何も言えなかったけど、代わりみたいに間山くんの声が。
「おい。分かってるから今急いで用意してるんだろ。こいつだって自分の身を守りたいワケだし。気持ちは分かるけど言ってやるなよ」
声のした方へ、指摘ではあるけど、まあまあ穏やかに言ってくれた。
「今の酷い言葉がなきゃもっと早く去ってたかも」
っていうのは、真緒の声だった。
私は――こんな心に痛い状況だからこそ、全員に向けて告げたくなった。
「ごめんね、そんな思いさせて」
間山くんと真緒にはさっきのことを感謝したくなった。
「ありがとう」
同時に荷物をまとめ終える。それから、「じゃ」とだけ言うと、急いで教室をあとにした。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
俺は大樹から受け取った画材を棚に戻した。
――本当に戻ってくるのかよ。
そう思いながら入れ込んだ。
教科書はあいつの机に。入れた時、その机の横のフックに掛けられた鞄から、何かの振動するような音がした。多分ケータイとかのバイブ音。
――あいつのか。
鞄のポケットから見付けて取り出して、その画面を見た。
スマホの液晶には『藤宮理美』ってある。姉だっけ?
ここにいない大樹の代わりに出てみた。
「もしもし」
「大樹? あんた今どうしてるの? 大変な――」
「俺、友達の須田川要太っていいます。大樹はもうどこかに行きましたよ」
「えっ」
「周りに、通報しないように言い残して、被害を出させないために、自分からどこかに行ったんです」
「そっか」
何やら感慨深くなったのか、少し間があった。きっと思いやってるんだ。
それからまた理美さんの声が。
「そのスマホ、今日の夕方にでも、うちに届けてくれない?」
「分かりました。一応、必要そうなのは全部届けます」
「ありがとう」
この一言の直後に通話は切れた。こんなの、まるで現実に引き戻すスイッチだな――そんな風に思った。
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通報者には『フジミヤダイキがどこにいるのか』まで言わせた。
だがそれに留まらず、俺は解析機などの扱いが得意な仲間に言った。
「カシュル。シャグ、ボゼレカサモ」
『特定しろ。この、発信元を』という意味だ。
こうするのは、通報者が口頭で位置を言っても、それが俺達を誘導する嘘かもしれないからだ。奴らの仲間がもし通報者だったらそんなこともありうる。
特定した結果、発信者の言う位置と発信元の位置はほぼ同じだと分かった。しかもそこは学校らしい。発信者が奴らの仲間なら人のほぼいない場所に誘導するだろう。『あの時の黒いゲートの先』もそうだった。……どうやら罠ではなさそうだ。
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