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第1章 始まりの受難
06 秘密
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「じゃあ私ぁさっきの部屋に戻るから」
居那正さんはマギウト練習場の扉の前に僕を案内すると、そそくさと戻っていった。ただ、一度だけ振り向いた。
「あ、そうそう、ゲートルームの確認はあとでいいよ、ゲートを作れるようになってからでいいしね。ただ、中に人がいると思うから、色々と聞いとくようにね」
「はい」
「んむ、じゃあまた」
「はい、また」
居那正さんは向こうを見て歩き出した。そして振り返らなかった。あの部屋に戻ったら手荷物を整えて帰るのかもしれない。
扉に向き直る。
目の前の扉は観音開き。それを開けて入った。
マギウト練習場。そこは武道場に似ている。
天井のライトはとても明るい、だから部屋全体がよく見える。奥半分は畳張りだけど、手前半分は板敷き。
そんな部屋の奥の方に女性が三人。その女性の一人は扇子使いだった。そしてその手前に――入口近くに――男性が二人。その男性の一人が僕に声を掛けた。「なんだあ? 何かあったのか?」
するとその隣にいた男性が。
「あ、あれじゃね? このあいだ助けたっていう新しいマギウト使い」
「ああ! なぜか俺達以外にも使えるっていう!」
目の前の人同士で会話が成り立って、何を言えばいいのか分からなくなった。でもまあ、とりあえず挨拶だ。
「あの。初めまして。藤宮大樹です。大きな木の意味のタイジュと書いて、ダイキ」
「大樹くんか。初めまして。俺はカナタ。『多く奏でる』で奏多」
「奏多さん」
響きを確認しながら奏多さんと握手をした。
すぐあとに、もう一人、手を差し出してきた男性がいた。彼とも握手。するとその男性が。「俺はゼンジ。坐禅のゼンに慈しむで禅慈」
「禅慈さん。よろしく」
「よろしく」
そんな風に女性とも挨拶をした。
女性のうち、扇子使いの名前は舞佳というらしい。舞佳さんは十七歳。
スタンガンをサイコキネシスで動かしている女性もいた。彼女は紫音さん、二十一歳。
四十歳の女性もいて、その人はタオルを操っていた。希美子さんというらしい。
ちなみに奏多さんは消しゴムを操る二十歳で、禅慈さんは座布団を操る十八歳。で、ここにいる全員が佐倉守家の人間。
これらのマギウトに彼らが目覚めた理由を聞いた時、なんて切ないんだと思った。
紫音さんは十五歳の時にストーカー被害に遭ったらしい。初めて確証が持てた時に、対策すべくスタンガンを買い、持っていたけど、それでも実際に相手を目の前にすると怖くて持つ手が震え、体が硬直……それで目覚めたって話だ。
その事件当夜よりも少し前までは、居那正さんや希美子さんが紫音さんを護衛したため一旦ストーキングの気配がなくなったものの、その犯人が諦めたと思ってから再び気配がしたのが問題の当夜で、現場には紫音さんと舞佳さんしかいなかった、ということらしくて。
舞佳さんの目覚め方も切ない。
そのストーカーを警察に突き出すために紫音さんを守ろうとして――でも、催涙スプレーや護身武器を持っていなかったから、とりあえず武器になりそうな物をと思って手に取ったのが扇子だった。和のテイストを加えたダンスを練習中であるために持っていた、という話。
その際、扇子を硬化させ、ナイフを持ち出してきたストーカーをそれで殴って撃退したのが初めての発動だったという。
「うまくできても、できなくても、行動しないと姉を失うかもしれない、そう思うと怖かったから――」
舞佳さんはそう話した。家族愛が切ない。しかも、それは舞佳さんが十一歳のこと。
希美子さんは十六歳ぐらいの時に、護身のため覚えろと居那正さんに言われて剣道の『死合』みたいなことをさせられて、辛かったから怒って、とっさに手に取ったタオルを操ることに成功したという。
禅慈さんは十一歳の頃に掃除道具で殴られたりゴミ扱いされたり等のいじめを受けていて、ある時、座布団を顔に――主に口に――押さえ付けられて息苦しくて目覚めたそうだ。あまりにも残酷だ。
ただ、奏多さんだけは僕と同じような理由だった。「俺は音楽が好きでさ、楽譜書いてた時なんだけど、持ってた消しゴムが一つだけで、それももう小さくなり過ぎちゃってて、それで」
それを聞いて嬉しくなった。
なんでだろう、嫌なことばかりがあると思いたくないのと、自分と同じような人がいて共感したくなったのと……その両方が理由かも。ほっとしちゃうなぁ……。
佐倉守家では、男女両方とも、十歳頃にはマギウトについて知らされるらしい。そして女は十六、男は十八で目覚めていなかったら、親が強制的にいじめ抜いて目覚めさせるんだって。遺伝しないなんてことがないように、しかも万が一に備えるためらしいけど、どんな万が一に備えるため? 僕にはよく分からない。
元々、地球人にはマギウトは使えない、使えなくなっても普通のことだと思うけど……。
それを聞こうとした時、紫音さんが言った。
「それより奏多、あんた、増やしたくても消しゴムがなかったんじゃないの? あんたの性格じゃ予備なんて持ってなさそうだけど」
奏多さんはそれに対し、なぜか申し訳なさそうに。
「実はみんなの部屋で消しゴムを探してさ、紫音姉の部屋には新品の消しゴムがあったから、それをコピーしたんだよ。暑くてさぁ、買いに出たくなかったし、誰か持ってないかなって思って」
「ああ、そっか、なるほど? でもそれ初耳なんだけど。勝手に入ったんじゃないの?」
「ああ、うん、勝手に入ったよ、覚えてる」
「えー」紫音さんは否定してほしかったのかもしれない。
「いや、しょうがないって。確か紫音姉いなかったし」
「……まあ、大したことがなかったならいいけど。ノックはしてよね」
「そりゃもちろん」
そこで二人の会話が終わった。
ならばと、今度は僕が疑問をぶつける。
「あの。一族はもしかして……異星人が地球に来るかもって考えて、それに備えるためにマギウト……サクラを遺伝させてるってことなんですか?」
すると希美子さんが。
「ええ、そうよ。そりゃあ、ルオセウ人が昔の日本に来たくらいだもの、また来るかもしれないでしょ? それに、もし来るとして、その異星人がいい人ばかりとは限らないしね」
「うん、それは確かに……」
それでも、何だか実感が湧かない。
居那正さんのサクラは六十年くらい前から反応機に観測されているはずだ、映り方が変わってなければだけど。その六十年間ずっと宇宙人は地球に来ていないだろうし……。来ていたら多分、大事になってると思う。僕や居那正さんの周りは特に。
聞いてみた。すると。
「うん、来てないと思うよ」
奏多さんがそう言った。そして言葉を止めない。
「爺ちゃんのサクラに対する反応機の観測状態ってさ、マギウトを覚えた時からず~っとらしいし。宇宙人がいたら何かアクションあるだろうな。でもないってことは、ないんでしょ。来てないよ多分。まあ……もしかしたら反応機を掻い潜れる、なんてことがあるかもしれないから、あるかもっちゃあるかもか。でも、それらしい事件も起こってないっぽい。隈射目はいっぱい不可解な事件を調査してるらしいし。それで何も出ない以上、やっぱ来てないんじゃないかなぁ」
そんな風に聞いてしまうと、ますます実感が湧かない。
今、実は、そんなに危険にさらされてないんじゃ?
ううむ……。
まあいい。念のため――というのは何にでも言えるし、使えて悪いことはない、多分。
話はこのくらいにして練習だ。
「ありがとうございました、色々聞けてよかったです。あ、でも嫌なことを言わせちゃって……すみません」
「いいのよ」とは、紫音さんが言った。
そこで、希美子さんが、みんなに、
「じゃあ私はこれで」
と言うと、こちらに手を振って遠ざかっていき、奥の部屋へと入っていった。
居那正さんはマギウト練習場の扉の前に僕を案内すると、そそくさと戻っていった。ただ、一度だけ振り向いた。
「あ、そうそう、ゲートルームの確認はあとでいいよ、ゲートを作れるようになってからでいいしね。ただ、中に人がいると思うから、色々と聞いとくようにね」
「はい」
「んむ、じゃあまた」
「はい、また」
居那正さんは向こうを見て歩き出した。そして振り返らなかった。あの部屋に戻ったら手荷物を整えて帰るのかもしれない。
扉に向き直る。
目の前の扉は観音開き。それを開けて入った。
マギウト練習場。そこは武道場に似ている。
天井のライトはとても明るい、だから部屋全体がよく見える。奥半分は畳張りだけど、手前半分は板敷き。
そんな部屋の奥の方に女性が三人。その女性の一人は扇子使いだった。そしてその手前に――入口近くに――男性が二人。その男性の一人が僕に声を掛けた。「なんだあ? 何かあったのか?」
するとその隣にいた男性が。
「あ、あれじゃね? このあいだ助けたっていう新しいマギウト使い」
「ああ! なぜか俺達以外にも使えるっていう!」
目の前の人同士で会話が成り立って、何を言えばいいのか分からなくなった。でもまあ、とりあえず挨拶だ。
「あの。初めまして。藤宮大樹です。大きな木の意味のタイジュと書いて、ダイキ」
「大樹くんか。初めまして。俺はカナタ。『多く奏でる』で奏多」
「奏多さん」
響きを確認しながら奏多さんと握手をした。
すぐあとに、もう一人、手を差し出してきた男性がいた。彼とも握手。するとその男性が。「俺はゼンジ。坐禅のゼンに慈しむで禅慈」
「禅慈さん。よろしく」
「よろしく」
そんな風に女性とも挨拶をした。
女性のうち、扇子使いの名前は舞佳というらしい。舞佳さんは十七歳。
スタンガンをサイコキネシスで動かしている女性もいた。彼女は紫音さん、二十一歳。
四十歳の女性もいて、その人はタオルを操っていた。希美子さんというらしい。
ちなみに奏多さんは消しゴムを操る二十歳で、禅慈さんは座布団を操る十八歳。で、ここにいる全員が佐倉守家の人間。
これらのマギウトに彼らが目覚めた理由を聞いた時、なんて切ないんだと思った。
紫音さんは十五歳の時にストーカー被害に遭ったらしい。初めて確証が持てた時に、対策すべくスタンガンを買い、持っていたけど、それでも実際に相手を目の前にすると怖くて持つ手が震え、体が硬直……それで目覚めたって話だ。
その事件当夜よりも少し前までは、居那正さんや希美子さんが紫音さんを護衛したため一旦ストーキングの気配がなくなったものの、その犯人が諦めたと思ってから再び気配がしたのが問題の当夜で、現場には紫音さんと舞佳さんしかいなかった、ということらしくて。
舞佳さんの目覚め方も切ない。
そのストーカーを警察に突き出すために紫音さんを守ろうとして――でも、催涙スプレーや護身武器を持っていなかったから、とりあえず武器になりそうな物をと思って手に取ったのが扇子だった。和のテイストを加えたダンスを練習中であるために持っていた、という話。
その際、扇子を硬化させ、ナイフを持ち出してきたストーカーをそれで殴って撃退したのが初めての発動だったという。
「うまくできても、できなくても、行動しないと姉を失うかもしれない、そう思うと怖かったから――」
舞佳さんはそう話した。家族愛が切ない。しかも、それは舞佳さんが十一歳のこと。
希美子さんは十六歳ぐらいの時に、護身のため覚えろと居那正さんに言われて剣道の『死合』みたいなことをさせられて、辛かったから怒って、とっさに手に取ったタオルを操ることに成功したという。
禅慈さんは十一歳の頃に掃除道具で殴られたりゴミ扱いされたり等のいじめを受けていて、ある時、座布団を顔に――主に口に――押さえ付けられて息苦しくて目覚めたそうだ。あまりにも残酷だ。
ただ、奏多さんだけは僕と同じような理由だった。「俺は音楽が好きでさ、楽譜書いてた時なんだけど、持ってた消しゴムが一つだけで、それももう小さくなり過ぎちゃってて、それで」
それを聞いて嬉しくなった。
なんでだろう、嫌なことばかりがあると思いたくないのと、自分と同じような人がいて共感したくなったのと……その両方が理由かも。ほっとしちゃうなぁ……。
佐倉守家では、男女両方とも、十歳頃にはマギウトについて知らされるらしい。そして女は十六、男は十八で目覚めていなかったら、親が強制的にいじめ抜いて目覚めさせるんだって。遺伝しないなんてことがないように、しかも万が一に備えるためらしいけど、どんな万が一に備えるため? 僕にはよく分からない。
元々、地球人にはマギウトは使えない、使えなくなっても普通のことだと思うけど……。
それを聞こうとした時、紫音さんが言った。
「それより奏多、あんた、増やしたくても消しゴムがなかったんじゃないの? あんたの性格じゃ予備なんて持ってなさそうだけど」
奏多さんはそれに対し、なぜか申し訳なさそうに。
「実はみんなの部屋で消しゴムを探してさ、紫音姉の部屋には新品の消しゴムがあったから、それをコピーしたんだよ。暑くてさぁ、買いに出たくなかったし、誰か持ってないかなって思って」
「ああ、そっか、なるほど? でもそれ初耳なんだけど。勝手に入ったんじゃないの?」
「ああ、うん、勝手に入ったよ、覚えてる」
「えー」紫音さんは否定してほしかったのかもしれない。
「いや、しょうがないって。確か紫音姉いなかったし」
「……まあ、大したことがなかったならいいけど。ノックはしてよね」
「そりゃもちろん」
そこで二人の会話が終わった。
ならばと、今度は僕が疑問をぶつける。
「あの。一族はもしかして……異星人が地球に来るかもって考えて、それに備えるためにマギウト……サクラを遺伝させてるってことなんですか?」
すると希美子さんが。
「ええ、そうよ。そりゃあ、ルオセウ人が昔の日本に来たくらいだもの、また来るかもしれないでしょ? それに、もし来るとして、その異星人がいい人ばかりとは限らないしね」
「うん、それは確かに……」
それでも、何だか実感が湧かない。
居那正さんのサクラは六十年くらい前から反応機に観測されているはずだ、映り方が変わってなければだけど。その六十年間ずっと宇宙人は地球に来ていないだろうし……。来ていたら多分、大事になってると思う。僕や居那正さんの周りは特に。
聞いてみた。すると。
「うん、来てないと思うよ」
奏多さんがそう言った。そして言葉を止めない。
「爺ちゃんのサクラに対する反応機の観測状態ってさ、マギウトを覚えた時からず~っとらしいし。宇宙人がいたら何かアクションあるだろうな。でもないってことは、ないんでしょ。来てないよ多分。まあ……もしかしたら反応機を掻い潜れる、なんてことがあるかもしれないから、あるかもっちゃあるかもか。でも、それらしい事件も起こってないっぽい。隈射目はいっぱい不可解な事件を調査してるらしいし。それで何も出ない以上、やっぱ来てないんじゃないかなぁ」
そんな風に聞いてしまうと、ますます実感が湧かない。
今、実は、そんなに危険にさらされてないんじゃ?
ううむ……。
まあいい。念のため――というのは何にでも言えるし、使えて悪いことはない、多分。
話はこのくらいにして練習だ。
「ありがとうございました、色々聞けてよかったです。あ、でも嫌なことを言わせちゃって……すみません」
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