ブルーピーシーズ

弧川ふき@ひのかみゆみ

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第2章 X

20-2 脱出

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右柳うりゅう」と俺に声を掛けたのは歌川うたがわだった。
「ああ、俺は右、お前は左な」
 俺達はサイドにもある扉から敵が来た時のため、左右に分かれて動いた。
 そして右の扉から、警戒しながら一人の男がやって来た。しかも隈射目くまいめそろえているのと同じタイプの小型サイレンサー付きの銃を持っていた。

 いや、同じタイプというより俺達が奪われた銃そのものか。そうに違いない。こんな偶然はそうそうない。俺達のものは少しカスタマイズもされているし。

 思うのもほどほどにして、若干こちらを向いた男の一瞬の隙を突いて、目の前に飛び出した。相手の手首と銃をつかみ、手首を逆に曲げさせる。
 男は痛がる。その流れで銃を素早く奪った。
「くっ」
 男がうめいて即座に逃げようとする。が、俺は、取り返した銃をその男に向けて。
「動くな! 逃げたら撃つ!」
 俺が言い放つと、相手は手を上げて「はあ、やれやれ」と言った。

 ったく、やれやれだと? こっちのセリフだ、ひどいことしやがって。

 心中で吐き捨てながら、俺は男に手をもっと高く上げるように言った。

 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 ……みんなが対処してくれてる。お兄ちゃんも。みんな。みんな。

 そう思うだけで満たされる気分になる。
 でも助からないで満足なんてしたくない。ここから出るんだ絶対。その一心で、再度、周囲を観察だ!

 お、右柳うりゅうさんが銃を奪ってる。その位置から少し奥にも扉がある。そこに向かおう。
 地をい、壁を這い、僕は巨大なヤモリの体を揺らして猛スピードで走った。

 もしかして右柳さんは、奥からもうすぐ来そうなもう一人の気配に気付いてない……?

 僕には聞こえていた、その足音が。というより、靴を床でゆっくりこする音が、っていう感じ。多分これは、静かに近付こうとした敵が靴でり足をした音。

 右柳うりゅうさんはやっぱり気付いてない。
 僕は今どうやら聴覚が優れてるらしい、それでようやく聞こえる程度だ、無理もない。
 全力で右柳さんの前へと向かう。
 でも問題の扉が勢いよく開いて、僕が到着するより前に、そこから一人の男が現れた!
 男は銃を持ってる。
 すでに目の高さで目標を捉えようともしている。
 その銃が、一秒半も掛からずに右柳うりゅうさんの方を向いた。

 駄目だ! やめろ! 間に合え!

 壁を全力以上の力で突っ走った。でも、壁が丈夫であまり音を立てないから敵も僕に気付いていない。その銃口を僕の方に向けさせるには至っていない。
 鳴く余裕はなかった。「ケ!」と短く鳴いたとは思うけど、気付かれてない。

 とにかく速く――!

 想えば想うほど声が出ない。
 それほどの――体が痛んでも構わないくらいの力を込めて、壁を走った。
 そしてその男に飛び掛かる――。

 直後、銃声が鳴り響いた。

 男は僕が飛び掛かった直後にようやく気付いて驚き、僕に銃口を向け直した。その銃弾は僕の方に飛んだ。
 この左腕に巨大な針が刺さった。その感覚と痛みの一瞬に、僕は悲鳴も上げずに、すぐに男を張り倒した。

 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 俺が気付かなかった敵を大樹だいきくんが倒した、そのことに俺は正直驚いた、そんなことまでできるのかと。
 これでも大きな隙を見せているつもりはなかったが、大樹くんに俺が目を向けた瞬間、手を高く上げていた男が俺の銃を奪いに来た。
 速やかな行動だ、無駄もない。敵ながら天晴あっぱれってか。

「くっ――!」
 と、俺は銃を上に向けて離すまいとした。銃の取り合い。蹴り合いに発展しそうになった時、大樹くんがこちらにほぼ一瞬で近付き、男を殴って壁に叩き付けた。すると男は動かなくなった。気絶か。多分そうだ。

 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

「ありがとう大樹くん、すまない」
 右柳うりゅうさんがそう言ったけど、僕は首を横に振った。そしてすぐに右の扉を警戒して、そちらに向かった。
 でも、僕が対処しようとした敵の物音はすぐに聞こえなくなった。ウタガワさんが倒したらしい。

 敵の気配はなくなった。そう思った僕は、左腕がじくじくと痛むのを感じながら元の姿に戻った。
 服は破れていて布切れすら近くにない今、僕は真っ裸のまま腕の痛みに苦しんだ。
「くっ……う……」
 でも――守れた。痛いのなんてどうでもいい。

 銃弾を受けた所に異物感がある。多分、腕の中に弾がある。
 国邑くにむらさん辺りに取ってもらおうと思いながら、敵のスーツなんかのズボンを拝借。裾を曲げて着たあとで、上着まではいいやと上半身は裸のまま、みんなと合流した。

 お兄ちゃん、お姉ちゃん、お父さんの近くに、右柳うりゅうさん、ウタガワさん、ほか全員も集まった。
「大丈夫か?」って、檀野だんのさんが僕に。
「痛いのは平気です。腕ン中の弾丸だけはあとで取ってもらわないと」
「そうか、それだけで済んでよかった。とりあえず応急処置しないとな」
 檀野さんはそう言ってシャツを脱いで、それを僕の左の二の腕に巻いた。

 撃たれたのは左腕の肘から先だった。血が出にくくなる。
「あ、ありがとうございます」
「ああ」
 そんな時、ウタガワさんは倒したを引きってきた。まだ名前を聞いてない女性とサワタリって呼ばれた女性も、二人でだけど、一人の気絶した男を引き摺ってきた。どちらかが一人で倒したのか協力して倒したのかは分からないけど、そんな細かいことまで確認しなくていい。

 それから数秒、十数秒と経った。
 でも、それまで新たな襲撃はなかった。
 ここにいた敵は、多分、全部で……ええと……お兄ちゃんが倒した三人、右柳うりゅうさんが倒した一人、僕が倒した四人、ウタガワさんが倒した二人、サワタリさんらが運んできた一人で……合計十一人だったのかもしれない。
 多分これで終わり。
 だけど、もしかしたらまだ敵が潜んではいるかもしれない。

 そう考慮して、警戒しながら、敵の衣服からベルトを取った。
 で、それらで手りなんかに縛り付けることで、十一人の敵を動けなくさせた。そのうち一人は僕がズボンを着るためにベルトごと奪われていたから、そいつだけは、右柳うりゅうさんが脱いだシャツを使って縛った。

 そのあとすぐ声が。
「さあ早くここを出ましょう」
 お父さんの声だった。

 襲撃の為に開いた扉のうち、僕が最初に向かった扉の前へと、僕自身がみんなを集めた。これは、そちらから外の音が強かった気がしたからだ。多分、僕だけがそれを知ってた。
 その扉を通った先にある細い通路を、出口に続いていると信じて、ひたすら走る。

 走りながら考えた。そういえば、自分の意思で変身を解けた、そういう感覚があった、時間的にもそうだ、八分経たずに自在に変身を解けた。

 元の姿を取り戻せてよかったけど、どういうことなんだろう。コツをつかんだってこと? 多分そうかもしれないけど。

 いや、だとしても、二種類以上の変身をしてる……これはどうして可能?

 僕はそう思いながら、みんなを追うように通路を走った。

 その最後――外の光のようなものを見て、まぶしいと思いながら光の方へ進んだ時――こちらに命じる声が聞こえた。
「動くな!」

 服装からすると、機動隊員の声。しかも僕ら、銃を向けられてる……!
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