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第2章 X
22-2 ついに実千夏が
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止まっている東側のエスカレーターを駆け上がった。
それから二階を少し走ると、壁深くまで刺さるティッシュは飛んでこなくなった。
犯人は一階にいた? いや、断定はできないかな、共犯者が一階にいただけとも取れる。
そうだ、犯人が二人以上いる場合も考えないと……!
一階の僕に狙い撃ちした奴はきっと別ルートで近付いてくる。
そしてまた僕を狙う。
僕はどうする? どうすれば――。
救いたいのに、狙われている僕が助けようとして実千夏に近付いたら巻き添えが……。どうすれば……。どうにかしたくて芯を持ってきはしたけど……。
考えに考えて、だったら――と、一つの答えが出た。
そんな時、持たされているスマホにまた着信が。出てみる。
相手の声。
「避けたくなるのは分かる。が、本当に避け続けてしまうのはどうなんだ? 俺の狙いがこれで分かっただろう、機嫌を損ねる気がある――と、そういうことかな?」
「ふざけんなよ交渉だってまだだってのに。僕がなんで来たと思ってるんだ。それよりあんた、実千夏に何かしたら――」
「だったら! 避けてほしくないんだがなあ」
くそ、怒らせたか? と思ったけど、その一瞬後。「よし、じゃあ今交渉しよう。攻撃を受けろ。受ければ女を解放してやる。そういう条件だ」
このまま避け続けたら、実千夏に危険が及ぶ……。考えて怖くなる。
「どうしても殺したいの? 僕を?」
これに、相手は何も返してこなかった。余計なことを言わずに返事をしろ、そういうことなのかな。
「この身を投げ出したっていいよ、助けられるんならね。でも、それで僕が死んだら、あんたどうするってんだよ。その子を本当に自由にするのか?」
その時だ。
「大ちゃん!」
実千夏の声だ。スマホから。この声の男と一緒にいるのか。
「私だって、怖いよ」実千夏の、いつもとは違う弱々しい声。それが大きくなって――「だけど、犠牲になんてなってほしくない! なんでこんなことになってるか分かんないけど! ほかに方法があるとかないとか分かんないけど! 私は! 大ちゃんに助かってほしい!」
想いが伝わる。切実な想いが。
こう言われて、自分が犠牲にならないようになんて、できるワケない。
何が何でも助けたくなっちゃうよ――実千夏。
僕は『絶対に助ける』って言おうとしたけど、男の声の方が早かった。
「黙れ、次に許可なく喋ったらそこの女を八つ裂きにする」
実千夏への脅しだ。なんて酷い物言いをするんだ、こいつは。
『そこの女』というフレーズ自体も気になった。
ピアペアというビデオ通話アプリの画面内で実千夏の隣にいた女性。あの女性はまだ生きてる。
そう理解して少しだけほっとする。
まだ助けられる、二人とも。どうにか頑張れば――。
多分、男は、本当に実千夏を解放する気があるなら、顔を今も隠したままなんだろう。もし顔を見られているなら、解放する訳がないし、そうなら殺すだろう、こんなタイプの奴は、それを簡単にやってしまう、そんな気がした。
だからさっき『まだ助けられる』と思えたのかもしれない。まあ念の為なら顔を隠す以外にも何だってやっていそうではあるけど。
さっき別の廃ビルにいた時にはマスクをしてた。あれがこの犯人だ、きっと間違いない、声質からそう感じた。でもそういった記憶は、僕らが死ぬことで役立たずになる、そういう計算なのかもしれない……。
用意のいい男だし、多分自信もかなりあるんだ。
この男が顔を隠していると信じて、僕は言った。
「解放する所を見せろ、それが先だ」
この男が僕に顔を見られないと考えていれば、この要求を飲んでくれるかもしれない――マスクを今もしているのなら――。
何かを失うのは、とても怖い。この要求で激怒させてしまうかもしれない。それでも言わなかったら助けられる道筋も生まれない、そう思った。
だけど。
何なんだ、この感覚。この状況。まるで細くて暗いコンクリの崖の上――それも微妙に曲がりくねった――それを減速せず正確に走り抜けなきゃいけないみたいな、そんな途轍もない怖さの中にいる気分。
それでもこの男の、攻撃を受ければ女を解放してやるという言葉に、その姿勢に、まだ付け入る隙がある、そう思いたかった。そんな隙がなければ、僕らは全員……。
男はしばらく考えたみたいだった。
無音が続く。
ふと。
「そんなに言うなら解放する所を先に見せてやってもいい」
粘った甲斐があった。そう思うけど、それで満足して油断してはいけない。
よし。条件を付けよう。
「スマホ越しじゃなくこの目で確認させてよ、そうじゃなきゃ駄目だ。というよりむしろ、そうさせてくれるなら、この身をさらしてやるから。確認させてくれる場所は、そっちが指定すればいい。いい条件だ、でしょ? だから……だから会わせて、頼むから――」
「それは――」犯人も困ったらしい。「どうするかな」
この分だと多分、単独犯のような気がする。ほかの人の声もないし、一人で判断してるんじゃ? って思えたからだ。それに、相談相手がいるようには感じなかったし。
だったらやっぱり、どうにか実千夏を解放させられれば……。こいつじゃなく、僕が実千夏を解放させられれば……。
「分かった。会わせてやろう。それから解放してやる」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
大笑いしたくてしょうがない。会わせてやって、女とその護衛のロープを解いてやる――と見せかけよう。
少年は少女を逃がそうとするかもしれない。が、二人が俺から見て前後に重なって見える瞬間に、狙い撃ちにしてやる。そうすれば奴は避けないだろう。避ければまだ縛られたままの女共に当たる――。
そうやって殺せれば、現状で俺にとって脅威だと分かっている存在は、いなくなる。
――ふふ。
おっと、声が漏れそうになった。抑えなければな、相手に聞こえてしまわないように。
それと、証拠隠滅だけは注意しないとな――。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
スマホ越しに指示される通りに歩いて階段を上がった。
早く助けたい。
安全を確かめたい。
気持ちが逸るけど、走らないように気を付けた。この男の指定通りに動かないと、どうなるか分からないからだ。
四階奥のとある柱から数メートル前まで、入口側から歩かされた時、ようやく見付けた。柱に括り付けられた実千夏。泣き疲れたような顔で僕を見る、そんな実千夏――。
怖かったよね、そうだよね……。
この男のこと……本当に許せない……。
そう思ってゆっくりと更に近付く。
大きな怪我はない、そんな実千夏のそばには護衛だったという女性の姿も。横たわって動かないけど、眠ってるだけなんだろう。
近くに爆弾とかもなかった。ってことは、この犯人は、僕が妙な行動をすればその手で直接ふたりを殺すつもりだったんじゃないかな、その方が周囲の人間にも怪しまれない……。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
近くまできて、少女から見て奥の位置から観察した。つまり俺の位置は少年の背後側だ。少年からは死角となっていた、より入口側の柱の陰に隠れ、そこから見やった。
どうやら少年が少女とその護衛を発見してすぐの状況らしい。
俺はそこかしこに念のために置いていたティッシュの箱の一つから数枚のティッシュを念力で引っ張り出し、それが剃刀のようによく切れるものになるように念じ、空中浮遊させ、高速で向かわせた。
これは当たったな、と思った。
その時だ。少年が振り返った。
音でバレたのか? それとも運か?
すぐに少年と俺の間に黒い円盤状の盾のようなものが現れた。
それに俺のティッシュの刃が突き刺さって止まり、俺はそれを引っこ抜かなければならなくなった。だがそれに労力を掛けたくもない。少年の操作力に抗う必要性が出るくらいなら、新しく近くのティッシュに念じて放つ。その方が労力は少ない。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
微かな音にも敏感になってた。それだけじゃなくて、奴が僕と実千夏を簡単に会わせることに何か思惑がある気がした。
だから背後に気を配ってた。だから振り返れたし、相手の得物が見えたから、黒い盾で防ぐこともできた。
その盾を右方の遠くへと素早く念動で動かす。
こうすることで犯人も突き刺さった分の武器を見失う。
僕の右側、西側エスカレーターの位置まで円盤が動いた時、サクラを込めるのをやめた。芯は小さくなってポトリと落ちただろうし、敵の得物であるティッシュもハラリと舞い落ちているはず。対象の位置が分からない場合はサクラを込めにくい。そのことが分かっていたからとっさに遠くへ飛ばしたんだ。
またスマホ越しに男が言う。
「抵抗していいのか?」
実千夏を痛い目に遭わせる気だ。ったく最低な奴だ。
でも僕には考えがある。
「さあ早く」
実千夏と女性に促した。女性は起きていた。というか起こした。
僕は既に四本の芯をドア枠のように設置済みで、それをゲート化していた。この二人をそこから避難させたかった。そのための『さあ早く』だった。
「さあ」
僕がまた念を押すと、二人はゲートの向こうへ小走りに向かった。
二人が動けたのは、僕が既に、二人を柱に縛り付けるロープを切っていたからだ。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
大樹くんは私達にどこへ逃げてほしかったのか。
周りを確認してみた。
ここは……! マギウト練習場……!
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
なんでこんなことになってるんだろう。
誰かの恨みを大ちゃんが買ったとは思えない。多分、目を付けられただけ。
大ちゃんの何に目を付けたっていうの?
理解できないことばかりだけど、目を付けられることを大ちゃんがするとは思えない、それだけは確か。
理解できないことが残るまま、言われるままに、黒いドア枠のようなものを超えて、全く違う場所に出た。
え? ここどこ? 何なの、もう。
混乱してる私に女性がこう言った。
「ここは、まあ、避難所みたいな所よ」
ますます混乱する。ここへ送ったのは大ちゃんなのに、なんでこの場所をこの女性が知っている風なんだろう、しかもあまり教えたくなさそうだし、この流れをまるで当然のように受け入れてるみたい。
そもそも誰?
さっきから変なことばかり。説明が付かないような……。特殊能力? そうとしか思えない。
しかも夢じゃないし。
あ。だから大ちゃん、今まで色々と狙われてたの?
嘘でしょ、辻褄が合っちゃう……。
それから二階を少し走ると、壁深くまで刺さるティッシュは飛んでこなくなった。
犯人は一階にいた? いや、断定はできないかな、共犯者が一階にいただけとも取れる。
そうだ、犯人が二人以上いる場合も考えないと……!
一階の僕に狙い撃ちした奴はきっと別ルートで近付いてくる。
そしてまた僕を狙う。
僕はどうする? どうすれば――。
救いたいのに、狙われている僕が助けようとして実千夏に近付いたら巻き添えが……。どうすれば……。どうにかしたくて芯を持ってきはしたけど……。
考えに考えて、だったら――と、一つの答えが出た。
そんな時、持たされているスマホにまた着信が。出てみる。
相手の声。
「避けたくなるのは分かる。が、本当に避け続けてしまうのはどうなんだ? 俺の狙いがこれで分かっただろう、機嫌を損ねる気がある――と、そういうことかな?」
「ふざけんなよ交渉だってまだだってのに。僕がなんで来たと思ってるんだ。それよりあんた、実千夏に何かしたら――」
「だったら! 避けてほしくないんだがなあ」
くそ、怒らせたか? と思ったけど、その一瞬後。「よし、じゃあ今交渉しよう。攻撃を受けろ。受ければ女を解放してやる。そういう条件だ」
このまま避け続けたら、実千夏に危険が及ぶ……。考えて怖くなる。
「どうしても殺したいの? 僕を?」
これに、相手は何も返してこなかった。余計なことを言わずに返事をしろ、そういうことなのかな。
「この身を投げ出したっていいよ、助けられるんならね。でも、それで僕が死んだら、あんたどうするってんだよ。その子を本当に自由にするのか?」
その時だ。
「大ちゃん!」
実千夏の声だ。スマホから。この声の男と一緒にいるのか。
「私だって、怖いよ」実千夏の、いつもとは違う弱々しい声。それが大きくなって――「だけど、犠牲になんてなってほしくない! なんでこんなことになってるか分かんないけど! ほかに方法があるとかないとか分かんないけど! 私は! 大ちゃんに助かってほしい!」
想いが伝わる。切実な想いが。
こう言われて、自分が犠牲にならないようになんて、できるワケない。
何が何でも助けたくなっちゃうよ――実千夏。
僕は『絶対に助ける』って言おうとしたけど、男の声の方が早かった。
「黙れ、次に許可なく喋ったらそこの女を八つ裂きにする」
実千夏への脅しだ。なんて酷い物言いをするんだ、こいつは。
『そこの女』というフレーズ自体も気になった。
ピアペアというビデオ通話アプリの画面内で実千夏の隣にいた女性。あの女性はまだ生きてる。
そう理解して少しだけほっとする。
まだ助けられる、二人とも。どうにか頑張れば――。
多分、男は、本当に実千夏を解放する気があるなら、顔を今も隠したままなんだろう。もし顔を見られているなら、解放する訳がないし、そうなら殺すだろう、こんなタイプの奴は、それを簡単にやってしまう、そんな気がした。
だからさっき『まだ助けられる』と思えたのかもしれない。まあ念の為なら顔を隠す以外にも何だってやっていそうではあるけど。
さっき別の廃ビルにいた時にはマスクをしてた。あれがこの犯人だ、きっと間違いない、声質からそう感じた。でもそういった記憶は、僕らが死ぬことで役立たずになる、そういう計算なのかもしれない……。
用意のいい男だし、多分自信もかなりあるんだ。
この男が顔を隠していると信じて、僕は言った。
「解放する所を見せろ、それが先だ」
この男が僕に顔を見られないと考えていれば、この要求を飲んでくれるかもしれない――マスクを今もしているのなら――。
何かを失うのは、とても怖い。この要求で激怒させてしまうかもしれない。それでも言わなかったら助けられる道筋も生まれない、そう思った。
だけど。
何なんだ、この感覚。この状況。まるで細くて暗いコンクリの崖の上――それも微妙に曲がりくねった――それを減速せず正確に走り抜けなきゃいけないみたいな、そんな途轍もない怖さの中にいる気分。
それでもこの男の、攻撃を受ければ女を解放してやるという言葉に、その姿勢に、まだ付け入る隙がある、そう思いたかった。そんな隙がなければ、僕らは全員……。
男はしばらく考えたみたいだった。
無音が続く。
ふと。
「そんなに言うなら解放する所を先に見せてやってもいい」
粘った甲斐があった。そう思うけど、それで満足して油断してはいけない。
よし。条件を付けよう。
「スマホ越しじゃなくこの目で確認させてよ、そうじゃなきゃ駄目だ。というよりむしろ、そうさせてくれるなら、この身をさらしてやるから。確認させてくれる場所は、そっちが指定すればいい。いい条件だ、でしょ? だから……だから会わせて、頼むから――」
「それは――」犯人も困ったらしい。「どうするかな」
この分だと多分、単独犯のような気がする。ほかの人の声もないし、一人で判断してるんじゃ? って思えたからだ。それに、相談相手がいるようには感じなかったし。
だったらやっぱり、どうにか実千夏を解放させられれば……。こいつじゃなく、僕が実千夏を解放させられれば……。
「分かった。会わせてやろう。それから解放してやる」
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大笑いしたくてしょうがない。会わせてやって、女とその護衛のロープを解いてやる――と見せかけよう。
少年は少女を逃がそうとするかもしれない。が、二人が俺から見て前後に重なって見える瞬間に、狙い撃ちにしてやる。そうすれば奴は避けないだろう。避ければまだ縛られたままの女共に当たる――。
そうやって殺せれば、現状で俺にとって脅威だと分かっている存在は、いなくなる。
――ふふ。
おっと、声が漏れそうになった。抑えなければな、相手に聞こえてしまわないように。
それと、証拠隠滅だけは注意しないとな――。
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スマホ越しに指示される通りに歩いて階段を上がった。
早く助けたい。
安全を確かめたい。
気持ちが逸るけど、走らないように気を付けた。この男の指定通りに動かないと、どうなるか分からないからだ。
四階奥のとある柱から数メートル前まで、入口側から歩かされた時、ようやく見付けた。柱に括り付けられた実千夏。泣き疲れたような顔で僕を見る、そんな実千夏――。
怖かったよね、そうだよね……。
この男のこと……本当に許せない……。
そう思ってゆっくりと更に近付く。
大きな怪我はない、そんな実千夏のそばには護衛だったという女性の姿も。横たわって動かないけど、眠ってるだけなんだろう。
近くに爆弾とかもなかった。ってことは、この犯人は、僕が妙な行動をすればその手で直接ふたりを殺すつもりだったんじゃないかな、その方が周囲の人間にも怪しまれない……。
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近くまできて、少女から見て奥の位置から観察した。つまり俺の位置は少年の背後側だ。少年からは死角となっていた、より入口側の柱の陰に隠れ、そこから見やった。
どうやら少年が少女とその護衛を発見してすぐの状況らしい。
俺はそこかしこに念のために置いていたティッシュの箱の一つから数枚のティッシュを念力で引っ張り出し、それが剃刀のようによく切れるものになるように念じ、空中浮遊させ、高速で向かわせた。
これは当たったな、と思った。
その時だ。少年が振り返った。
音でバレたのか? それとも運か?
すぐに少年と俺の間に黒い円盤状の盾のようなものが現れた。
それに俺のティッシュの刃が突き刺さって止まり、俺はそれを引っこ抜かなければならなくなった。だがそれに労力を掛けたくもない。少年の操作力に抗う必要性が出るくらいなら、新しく近くのティッシュに念じて放つ。その方が労力は少ない。
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微かな音にも敏感になってた。それだけじゃなくて、奴が僕と実千夏を簡単に会わせることに何か思惑がある気がした。
だから背後に気を配ってた。だから振り返れたし、相手の得物が見えたから、黒い盾で防ぐこともできた。
その盾を右方の遠くへと素早く念動で動かす。
こうすることで犯人も突き刺さった分の武器を見失う。
僕の右側、西側エスカレーターの位置まで円盤が動いた時、サクラを込めるのをやめた。芯は小さくなってポトリと落ちただろうし、敵の得物であるティッシュもハラリと舞い落ちているはず。対象の位置が分からない場合はサクラを込めにくい。そのことが分かっていたからとっさに遠くへ飛ばしたんだ。
またスマホ越しに男が言う。
「抵抗していいのか?」
実千夏を痛い目に遭わせる気だ。ったく最低な奴だ。
でも僕には考えがある。
「さあ早く」
実千夏と女性に促した。女性は起きていた。というか起こした。
僕は既に四本の芯をドア枠のように設置済みで、それをゲート化していた。この二人をそこから避難させたかった。そのための『さあ早く』だった。
「さあ」
僕がまた念を押すと、二人はゲートの向こうへ小走りに向かった。
二人が動けたのは、僕が既に、二人を柱に縛り付けるロープを切っていたからだ。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
大樹くんは私達にどこへ逃げてほしかったのか。
周りを確認してみた。
ここは……! マギウト練習場……!
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
なんでこんなことになってるんだろう。
誰かの恨みを大ちゃんが買ったとは思えない。多分、目を付けられただけ。
大ちゃんの何に目を付けたっていうの?
理解できないことばかりだけど、目を付けられることを大ちゃんがするとは思えない、それだけは確か。
理解できないことが残るまま、言われるままに、黒いドア枠のようなものを超えて、全く違う場所に出た。
え? ここどこ? 何なの、もう。
混乱してる私に女性がこう言った。
「ここは、まあ、避難所みたいな所よ」
ますます混乱する。ここへ送ったのは大ちゃんなのに、なんでこの場所をこの女性が知っている風なんだろう、しかもあまり教えたくなさそうだし、この流れをまるで当然のように受け入れてるみたい。
そもそも誰?
さっきから変なことばかり。説明が付かないような……。特殊能力? そうとしか思えない。
しかも夢じゃないし。
あ。だから大ちゃん、今まで色々と狙われてたの?
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