ブルーピーシーズ

弧川ふき@ひのかみゆみ

文字の大きさ
58 / 158
第2章 X

24-2 愛

しおりを挟む
 ……あれから数日が経ってしまった。
 今もなお、大樹だいきは目を覚まさない。
 お母さんはもう知っている。今回ばかりは、嘘で隠しておく訳にもいかない、それが分かっていたから檀野だんのさんに許可されて、私の知る限りのほとんど全てを話している。
 ただ、隈射目くまいめが人に言えないことをやってでも人を守っていることまでは教えてはいない。
「組織の実態に関しては教えなくてもいい、マギウト使いをサポートしている点だけを話すので構わないんじゃないか、不安にさせてしまう情報が増えるよりはな……」
 と、壇野さんから言われてる。
 負担に少しでもなるなら暗い情報を教える必要はない――私自身も思ってる。
 なぜ帰りが遅いのか――それはあんな風に巻き込まれていたからだ――ということに納得できても、今度は、お母さんの心に、『本当に帰ってくるのか』『術後何か起こりやしないか』と、疑問が、不安が、どうしてもいたと思う。

 お母さんは毎日花を買っては家に飾るようになった。
 きっと願掛けだ。
 うちのダイニングテーブルを生きた花が彩るうちは大樹もきっと生きている、容態が悪くなったりなんかしない、帰ってきた大樹と、この華やかさを楽しめる日が来る、きっと――そう願って飾り続けているんじゃないか――私はそう思ってしまう。
 お母さんは顔に出さないようにしているかもしれない。でも私には分かる。最近あまり笑わないし、目の下にも隈。食事量も減ってる。「ちゃんと食べないと」とお母さんに言ったけど、それでもまだ……。

 お母さんはここ数日で少しやつれた。
 だからか、息の詰まる毎日に感じた。
 私も食欲が普段のようにはないけど、生理現象には抗えない、食べる時は食べる。私も普段より参ってるけど、それ以上にお母さんは食べない。

 ……早く起きて、大樹。お母さんのためだけじゃない。私にだって言いたいことがあったのよ。あの時のこと。謝らせてもくれないの?
 目を覚ましてよ、こんなの気が気じゃないよ、大樹。

 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 ある日。午後二時。かなりの暑さ。お母さんが倒れるんじゃないかと俺は思った。
 そんな晴天の日に電話が鳴った。家の固定電話。それに出る。
「もしもし」
 相手の『男の』声。「ああ、近延ちかのぶくん? ……ついさっきなんだけどね、大樹だいきくんが――」
 その連絡の内容を、俺は震える指で家族全員に文字にして送った。
 そしてその夕方。
 家に帰ってきた両親と妹と一緒に、奏多かなたって奴の操作する四個の消しゴムで作られたゲートを通った。
 まずはどこかの部屋の中に移動した。
 その後ゲート化を解いた消しゴムを操作して手に持った奏多かなたが、それをポケットに入れながら、俺達に――主に父さんに向けて。「こっちです」
 その部屋から出た先にある扉をも超えて、プレートを見て把握。さっきのはゲートルームという場所らしい。ゲート開通専用の場所か、多分――まあ、俺はそんな力があること自体知らなかったけど――。
 今いる場所は体育館のような場所。そこの本来の入口らしき扉から出て階段へ急いだら、上の階へと向かった。

 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 大樹くんの寝ていたベッドを整えてから、私は、隈射目くまいめ組織内の看護師担当である入戸いりとメイさんに指示した。「その点滴も片付けて」
「分かりました。新しく出すのは同じので大丈夫ですか?」
「うん、大丈夫、よろしく」
「はい」彼女はその返事のあとで、てきぱきと点滴をスタンドから外す。
 その彼女が、私に。「それより、国邑くにむら先生もお疲れでしょ? 昨日、包囲作戦の負傷者のために現場に出向いたのに、それから夜番まで。ベッドでゆっくりしていいんですよ」
「私が連絡したし、もう少しだけ」
「本当に、お疲れ様です」
「ん」
 そう返事してから数秒くらいだった。扉が勢いよく開いたのは。

 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 お母さんはプレートの文字を目で追った。病室だと分かった所の扉を、お母さんは勢いよく開けて、
「だ、大樹だいき……は……」
 そう言った。
 駆け付けた私達に、国邑くにむらという女性が意味深な薄い笑顔を向けた。明らかに陰りのある感じに見えた。

 ま、まさか着くまでのあいだに何かあった? その表情はどういう――?

 説明を待った。私以外の三人とも、国邑さんの言葉を待ったのかもしれない、何も言わなかった。
 少しのあいだだけ、場が無音になる。その間のあとで――どう話すか脳内で整えていたようで、それから――国邑さんが言った。
「今は植物研究管理室にいると思います、すぐそこです」

 よかった、何もなかったんだ、目を覚ましたとは聞いたけど……、何もなくてよかった……。

 私がそんなことを思ったあとも国邑くにむらさんの言葉は続いた。
「ここに散歩できる場所がろくになくて……庭園なんかが下の方にありますけど、でもまだ階段は歩くなって言ってあるんで。まあ、歩くの自体、今はゆっくりしかできませんけどね。ああ、えっと、彼、ここの緑がどんな風に植えられたり研究されたりしてるかってことに興味があったみたいなんですよ。それで、すぐそこの植物研究管理室に――今もいるかと」
 そのあとで、国邑さんは微笑ほほえみを浮かべて。「何にしても、よかったですね、目が覚めて」
 お母さんの顔が明るくなる。涙もにじむ。それをこらえたような顔になる。そうなってからお母さんが頭を下げた。
「ありがとうございました!」
 それに対し、国邑くにむらさんが。「当然のことをしただけです」それだけかと思ったら、違った。「ほら、行ってやってください、面会謝絶でもないです。会いたがってますよ」
 そう言われると、お母さんは、次の瞬間には頭を持ち上げていた。
「では失礼しますっ」
 そう言い残すと、お母さんは、すぐに駆け出してこの部屋を出て行った。
 それを見ていた私も、一礼し、お母さんを追いかけた。きっと私とお母さんの気持ちは似ていたんだと思う。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

処理中です...