ブルーピーシーズ

弧川ふき@ひのかみゆみ

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第4章 ケズレルモノ

28-3 別の場所

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 目の前で起こったのは、佐倉守さくらもり家の誰からも聞いたことがない現象だった。

「ど、どうしたの? 大丈夫? ふらついてたけど……」
 実千夏みちかが僕にそう言った。
 男の子を助けたことに関しては何も言われなかった。『あれでいい』『あれが人としてすべきこと』実千夏もそう思ったんだ、きっと。

 とりあえず返事を――。
「ちょっといつもと違うことが……起こったから……。や、大丈夫、えっと……一気に使って疲れただけだよ、何でもない」
 気にさせないようにはしたかった、それが最低限、僕にできること。まあうまくできなかった気はするけど。

 立ち上がって実千夏の方へと少し進み出た。
 ふと気になった。
 フェンスの柱を右手で触ってみる。そっと。
 フェンスは鉄でできている。
 予感がした、目の前の柱の今触れている部分がなるんじゃないかと。手を引いて見てみる。予感通り、触れた所とその付近の部分は手の形に削れたようになった。

 なんでこんなことが?
 だるさが随分消えたのが分かった。頭もスッキリした……。もう一度触れる。今度は削れない。つまり?
 つまり……この手で削る必要がなくなった? だるさを消す必要がないから……?

 どうやら、手から直接鉄分を大量に吸収できるようになってる。
 そんな馬鹿な。
 あり得ないなんて言葉でさえも、もうくくれない。これはもう、それくらいの事態。
 こんなの聞いてない。誰かに相談しないと。
 と、僕が考えた時、実千夏は、フェンスの網のなくなった部分や柱の手形を見て首を傾げた。

「何これ、だいちゃんがやったの?」
 隠す必要は……ないな。
「うん、そうみたい。なぜか突然起こった……っていうか、吸収したみたい。摂取したってことだと思う、特別なサプリを飲むみたいに。でも、それより早く回復した……尋常じゃないペースで」
「そうなんだ……。よかったね、そんな風になれて?」
「え。……ああ、うん。そうだね」

 本当によかったのか? 確かにプラスのことかもしれないけど。

 僕が考え込んでしまう中、実千夏は気付いたらしい。
「ああ、だからさっき『いつもと違うことが』って言ったんだね」
「ああ、うん、そう」
 と、うなずいてから僕が最初に考えたのは、実千夏はこういうことを誰にも言わないと約束してるし、実際言わないから一々注意しないでおこう――ってことだった。

 だからあとは「さ、戻ろっか」って言って手を下げるだけ。
 それに、今これ以上考えてもしょうがない。
「そうだね」
 実千夏みちかの返事後、各自、屋上の出入口付近の壁際に置いていたサブバッグを手に持つと、屋内に戻った。


 帰宅後、「ただいま」と言ってから部屋に直行。
 その途中で、お姉ちゃんが部屋に友人を連れてきていることに気付いた。これじゃあまり騒げない、まあ騒ぐ気もないけど。

 部屋に来られたら困るな――そう思いながら自室に入った。
 通学かばんの側面のポケットからスマホを手に取って、その鞄を机に寄り掛からせるように置いた。そのスマホでとりあえず檀野だんのさんに掛けながら、ドアの向こうに耳を澄ませた。
 お姉ちゃんは、自分の部屋で、友人と二人くらいでしばらく駄弁だべりそうだ。

 そんな空気感だと思った時、電話口に声が。
「やあ大樹だいきくん、久しぶりだね」
 ゆったりとした声だった。

 よかった、忙しくないのかも。

「あの――」
 僕は廊下とは反対の壁際にサッと移動し、お姉ちゃんの部屋に声が届かないようにした。お姉ちゃんの友人に聞かれる訳には。念には念をだ。
 檀野さんに詳しく説明しながらポケットに手を突っ込んだ。そこから取り出す。シャー芯のケース。もし行く必要があればゲートを作る、その準備はできた。

 それまでのあいだに説明は終わっていた。
 そして問う。
「――どうですか? こんなことを佐倉守さくらもり家から聞いたことがあったりしませんか?」
 すると檀野さんの電話越しの声が。
「あの人達から聞いたことはないよ。でも鉄が手形にへこんでるかもってのは、もしかしたら……思い当たる節はある」
「え、教えてください、一体何が」
「いや、何が起こってるかを知ってる訳じゃない。大樹くんが言う鉄の凹み……と同じことが、もしかしたら今、別の場所でも起こってるかもしれないってだけだ」

 一瞬、そんなまさかと固まってしまう。別の場所でも……?

「え、それって、じゃあ、佐倉守とはまた別の」
「いや……さあ、どうなんだろうな」

『どうなんだろう?』と思うだけの間があった。

「今何も分かってないんだよ、今の今まで気にしてなかった。大樹くんの話を聞いてもしかしたらと初めて思ったくらいでね。これから調査する、何か分かったらまた連絡するよ」
「お願いします」

 今日はゲートを使わずじまいだったけど、また別の日に必要になる。そう思ってから、僕は、手の中のケースをいつの間にか、軽く握り締めていた。
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