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次の階層に入った。

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「よう、待っていたぜ」
 次の階層に入った時、誰かが言った。
「誰なの?」
「俺か。俺は幽霊で昔勇者だったものだ」
「何でこんな所に勇者の幽霊がいるのよ」
「俺には勇者としての素質が無かった。剣の腕などはあったが、人間的な問題で勇者失格だったのだ」
「自分で言うかね」
「言うさ。俺は皆からの善を求められるプレッシャーに耐えきれず、逃げ出したんだ」
「あらあら」
「と言うより、魔王と手を組もうとしてそれがばれて追い詰められた」
「全然話が違う。悪質勇者ね! 最初のプレッシャーうんぬんは可哀そうって思いかけたけど最低最悪の勇者ね」
「ふん。そう言っただろう」
「開き直った!」
 鬼平が言った。
「黙れ。誰も俺の心の中など分かりはしない。俺の苦悩など」
「苦悩も何も悪い事している奴が苦悩しているのは自業自得だしね」
「うるさい。という事でこの階層では俺が相手だ」
「でも、幽霊だろ。結構まずくない?」
「そう、俺は幽霊。つまり物理攻撃はおろか魔法攻撃も効かない」
「そうなのね。でも私は魔法でお祓い系光魔法を使えるから多分あなたに効果あるわよ」
「わしの中にも幽霊がいるからそいつの力を借りれば何とかなるかも」
「何だよ。このデタラメ集団」
 元勇者幽霊はそう言って何か対策を施される前に動き出した。
「はい、引っかかった。幽霊ホイホイ魔法!」
 魔女が使った幽霊ホイホイ魔法は幽霊を具現化した壺の中に放り込む魔法で、そして幽霊は壺の中にホイホイされた。
「この壺の中はね。徐々に成仏させる為の成仏効果のある魔法で満たされているから徐々にあなたは消えて行くから、今までの勇者としての人生を悔い改めながら成仏して、そして私達に膨大な経験値をよこしなさい」
 元勇者は消え入るような声で「そんな~」と呟いたのが魔女の耳朶に届いた。
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