料理旅館 青陽荘 新米女将の奮闘記 ~へこむこともあるけれど、めげずにがんばります~ 第6回ライト文芸大賞奨励賞受賞

衿乃 光希(キャラ文芸大賞短編で参加中)

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二章 閑古鳥よ啼かないで

2.サ飯

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 仲居たちにアンケートを取った結果、サウナ業務のユニフォームは、ポロシャツとジャージになった。動きやすく、汗の吸水がいいから。
 フロント業務は、旅館らしさを出すため、着物のままになった。
 榊はスーツ、男性風呂を担当する郡治は作務衣を希望し、みさえはフロントに立つシフトのときだけ、着物を着ることになった。

「嬉しい。皆さんのユニフォームに憧れていたんです」
 着物を渡されたみさえは、まるで少女のように無邪気に喜んでいた。

 事前予約制の食事にも、板前たちから許可が下りた。
 宿泊客がいないとき、腕を振るえないのを寂しく感じていたらしい。

「宿泊客が多いときは、どう対応しますか?」
 青田から訊ねられた。

 春風は少し考えた後、
「それなら、一日の数を限定しましょう。十食……は少ないかな? 二十食が多ければ、十五とか。限定にするとレア感が出て、リピートに繋がると思うし」
「わかりました。数は僕たちで決めましょうか?」
 青田に訊かれた板長が「うん」と頷いた。

「女将、すごいっすね。ぽんってアイデア浮かぶんすね」
「本業だったからね」

 柳竜太からの褒め言葉をそのまま受け取り、にっこりと笑いかけた。琴葉からの言葉であれば、嫌味と受け取っていただろう。

 以前の職場はたしかにイベント会社だったが、準備と進行のみで、企画はできなかった。
 ここは資金は乏しいが、アイデア次第で工夫して自由にやれる分、企画の出し甲斐があった。

「メニューと数は任せます。開始時期と値段は榊さんも交えて検討しましょう。あたしの方はホームページでの告知とチラシの準備をしておきます」

 数日後、サウナ客が落ち着いた夜に、試食会を始めた。
 春風の前には膳は二つ並んでいる。

 和の膳はしょうが焼きと五穀米、小付は春雨サラダ・冷奴・ブロッコリーのピーナッツ和え。ゴボウやしめじの入った具沢山の味噌汁。

 洋の膳はビニヤニライス、カレー、ラッシー。
 両方にシーザードレッシングのかかったサラダ、キウイとリンゴが添えられている。

 しょうが焼きを食べた春風は、想像より濃い味付けに軽くむせた。
「濃いんだけど、どうしたの?」
 和食なら父が作っているはずだと、板長を見やる。

「俺、サウナに入る習慣ないから、好きな奴に訊いてみたんだよ。そしたら、濃い味付けのがっつりしたものが食べたくなるって言っててさ。運動の後って飯が旨いじゃない」
「なるほど、それでか。ちょっとびっくりした。運動に喩えるとよくわかる」

 春風は中高とバスケ部で汗を流した。部活後のご飯は普段より美味しかった。
父の味らしくないから、体調が悪いのかと心配になったが、理由がわかって安心する。

「榊さんは、どう思う」
「僕は好きですね。しょうが焼きが濃い分、小付があっさりしているので、食が進みます」
 榊の感想に、父は嬉しそうな笑顔を見せた。

 洋の膳は、春風好みのピリ辛で、問題なく美味しかった。

「どちらも美味しかったです。濃い味付けなのはうちらしくないかもしれないけど、サウナ後だから、いいのかな。このお膳をどう売っていくか、だけど……一日二膳にするのか、日替わりか週替わりか」

「仲居さんたちの勤務体制はどうなりますか?」
 榊からの質問に答える。

「サウナ営業を始めてから、昼3人夜2人の体制でしょう。食堂はあたしも給仕に行くので、サウナから一人回して、2人体制でと考えています」

「慣れるまで、一膳で週替わりではどうですか?」
「完全予約制にするから、注文を受けるのはドリンクだけでしょう。そんなにばたばたしないと思うのよ。なんならあたし一人でもいいのかなって思ってるぐらい。甘い?」

「予約人数にもよると思いますが、数はどれくらいから開始しますか」
「まずはドリンク一杯付きで十食からにして、予約が増えるようなら、予約枠を増やしていこうかなと考えています」

 うーんと少し考えてから、春風は口を開いた。
「一日二膳、限定十食を二週間やってみようと思います。予約の問い合わせが増えるようなら、五食か十食に拡大。それで一ヶ月様子を見てましょう。できれば来月はメニューを替えたいですね」

「宿泊のお客様が増えたら、どう対応しますか?」
「平日のみの営業にするか、一時的に止めるか。本業の宿泊を優先する方向で考えます。どうですか」

 誰からも異論はなかった。

 新たに作ってもらったお膳の写真をホームページに載せ、メールでの予約を受け付けると、十食はすぐに埋まった。

 実際に食べたお客様に感想を伺うと、あっさりしたものだけだと物足りない、濃いものは食べたいがカロリーは気になる。和の膳はその両方がバランス良く食べられるのがいい。
 洋の膳は汗をかきながらも食べたいパンチ力がいい。

 どちらも好評で、二週間後に予約数を十食ずつ増やしても、すぐに予約が埋まった。


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