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三章 過去の行い
2.宮前宅
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「次はどうする?」
「まだついて来るんですか」
取材を終えて、それぞれに支払いを済ませてカフェを出た。美智琉が当然のように隣で歩く。
「一人しか取材してないじゃないか」
「……宮前亜澄の自宅とお母さんの実家周辺に行きます」
溜め息をついてから答える。
「聞き込み?」
「ええ、そうです」
外村が調べた宮前家は、山岸邸の最寄り駅から三駅先の指扇駅の南にあった。
スマホの地図アプリを頼りに、20分ほど歩く。
アプリがゴールを告げる建物で足を止める。真新しい淡いクリーム色の外観の3階建てオートロックマンション。
郵便ポストに名前は出ていないが、ここの3階に住んでいるはず。
宮前宅の部屋番号を押してみたが、応答はなかった。
土曜日の昼2時過ぎ。母親は病院にいるのかもしれない。
隣家も応答はなかったが、2階の住人がインターホンに出てくれた。
50代か60代頃と思われる女性の声だった。
「上の階の宮前さんをご存じでしょうか」
「上? さあ、入居の挨拶がなかったから、わからないです」
「いつ頃、引っ越してこられたか覚えておられますか」
「年が明けてしばらくしてからだったと思いますが」
「物音が気になったことはありませんか」
「物音? 静かに住んでくれてますけどね。日中はほとんど家におられないみたいですし、夜に多少生活音はありますけど、腹が立つほどうるさかったことはないです。土日も静かですよ」
「そうですか。ありがとうございました」
すべての部屋のインターホンを鳴らしたが、他はどこも出なかった。芙季子はマンションを離れた。
「空振りだな」
残念そうな口調で美智琉が呟く。
「いくつかわかったことはあります。居留守を使われるのもざらですから、些細な情報でもありがたいです」
「でも記事にはできないじゃないか」
「記事を書くには、膨大な量の裏取りがないと書けません。無駄はないんです」
「前向きだな」
「じゃないと続けられませんよ。次は母親の実家に向かいます」
5分ほど歩くと、商店の並ぶ一角に出た。美容院、服飾と並んで写真館があった。
「宮前写真館、あれですね」
看板はあるが、戸口にはシャッターが下りていた。しばらくの間休みますと紙が貼られていた。
「きれいな人だな」
美智琉の声が聞こえて近寄る。
美智琉は見本写真を見ていた。5枚のポートレイトが貼られている。
左上の一枚だけがモノトーンで、20台半ば頃の女性がイスに座ってこちらを見ている。太い眉に大きな瞳が印象的で、オードリー・ヘップバーンに少しだけ似ているような気がした。
中央はお宮帰りなのか、同じ人物が着物姿で赤ん坊を抱いている。
右端はその人物が30代半ば頃で、一緒にセーラー服の少女と写っている。二人はあまり似ていない。
下段の左はウェディング写真。おそらくセーラー服の少女の数年後だろう。ウェディングドレスを着てタキシードの男性と腕を組んでいる。
右端は着物姿の女性が赤ん坊を抱き、40代半ば頃の女性と写っている。
「宮前一家でしょうか」
宮前家の家族写真であれば、貴重な情報だ。芙季子はスマホで一枚ずつ写真を撮っておく。
店の横手の路地に入ると、インターホンがついた扉を見つけた。
「店の裏口か」
美智琉は裏口と予想したが、芙季子の予想は違った。
「2階に直接向かう玄関かもしれません」
店舗は3階建て。
上の部分が居住部分になっていると思われた。
インターホンを押したが応答はなかった。
「留守のようだな。どうするんだ?」
「聞き込みをします」
通りに戻った芙季子は右隣のクリーニング店に顔を向けた。
ちょうどお客が出ていって、他のお客はいなかった。
50代頃の女性が作業をしている。ICレコーダーのスイッチを入れて、店に入った。
「お忙しいところすみません。お隣の宮前写真館は長く閉めておられるのですか」
「宮前さん? 2ヶ月ぐらい前からですけど」
ジャケットのポケットの中を確認する作業をしながら、受付の女性が答えてくれた。
「いつ頃再開されるか、ご存じですか」
「わからないですね。奥さんが入院するから、看病に専念するって聞きましたけど。いらっしゃいませ」
女性の目線が芙季子の背後に移る。
お客が来てしまったため、聞き込みは諦め、礼を言って店舗から出た。
「まだついて来るんですか」
取材を終えて、それぞれに支払いを済ませてカフェを出た。美智琉が当然のように隣で歩く。
「一人しか取材してないじゃないか」
「……宮前亜澄の自宅とお母さんの実家周辺に行きます」
溜め息をついてから答える。
「聞き込み?」
「ええ、そうです」
外村が調べた宮前家は、山岸邸の最寄り駅から三駅先の指扇駅の南にあった。
スマホの地図アプリを頼りに、20分ほど歩く。
アプリがゴールを告げる建物で足を止める。真新しい淡いクリーム色の外観の3階建てオートロックマンション。
郵便ポストに名前は出ていないが、ここの3階に住んでいるはず。
宮前宅の部屋番号を押してみたが、応答はなかった。
土曜日の昼2時過ぎ。母親は病院にいるのかもしれない。
隣家も応答はなかったが、2階の住人がインターホンに出てくれた。
50代か60代頃と思われる女性の声だった。
「上の階の宮前さんをご存じでしょうか」
「上? さあ、入居の挨拶がなかったから、わからないです」
「いつ頃、引っ越してこられたか覚えておられますか」
「年が明けてしばらくしてからだったと思いますが」
「物音が気になったことはありませんか」
「物音? 静かに住んでくれてますけどね。日中はほとんど家におられないみたいですし、夜に多少生活音はありますけど、腹が立つほどうるさかったことはないです。土日も静かですよ」
「そうですか。ありがとうございました」
すべての部屋のインターホンを鳴らしたが、他はどこも出なかった。芙季子はマンションを離れた。
「空振りだな」
残念そうな口調で美智琉が呟く。
「いくつかわかったことはあります。居留守を使われるのもざらですから、些細な情報でもありがたいです」
「でも記事にはできないじゃないか」
「記事を書くには、膨大な量の裏取りがないと書けません。無駄はないんです」
「前向きだな」
「じゃないと続けられませんよ。次は母親の実家に向かいます」
5分ほど歩くと、商店の並ぶ一角に出た。美容院、服飾と並んで写真館があった。
「宮前写真館、あれですね」
看板はあるが、戸口にはシャッターが下りていた。しばらくの間休みますと紙が貼られていた。
「きれいな人だな」
美智琉の声が聞こえて近寄る。
美智琉は見本写真を見ていた。5枚のポートレイトが貼られている。
左上の一枚だけがモノトーンで、20台半ば頃の女性がイスに座ってこちらを見ている。太い眉に大きな瞳が印象的で、オードリー・ヘップバーンに少しだけ似ているような気がした。
中央はお宮帰りなのか、同じ人物が着物姿で赤ん坊を抱いている。
右端はその人物が30代半ば頃で、一緒にセーラー服の少女と写っている。二人はあまり似ていない。
下段の左はウェディング写真。おそらくセーラー服の少女の数年後だろう。ウェディングドレスを着てタキシードの男性と腕を組んでいる。
右端は着物姿の女性が赤ん坊を抱き、40代半ば頃の女性と写っている。
「宮前一家でしょうか」
宮前家の家族写真であれば、貴重な情報だ。芙季子はスマホで一枚ずつ写真を撮っておく。
店の横手の路地に入ると、インターホンがついた扉を見つけた。
「店の裏口か」
美智琉は裏口と予想したが、芙季子の予想は違った。
「2階に直接向かう玄関かもしれません」
店舗は3階建て。
上の部分が居住部分になっていると思われた。
インターホンを押したが応答はなかった。
「留守のようだな。どうするんだ?」
「聞き込みをします」
通りに戻った芙季子は右隣のクリーニング店に顔を向けた。
ちょうどお客が出ていって、他のお客はいなかった。
50代頃の女性が作業をしている。ICレコーダーのスイッチを入れて、店に入った。
「お忙しいところすみません。お隣の宮前写真館は長く閉めておられるのですか」
「宮前さん? 2ヶ月ぐらい前からですけど」
ジャケットのポケットの中を確認する作業をしながら、受付の女性が答えてくれた。
「いつ頃再開されるか、ご存じですか」
「わからないですね。奥さんが入院するから、看病に専念するって聞きましたけど。いらっしゃいませ」
女性の目線が芙季子の背後に移る。
お客が来てしまったため、聞き込みは諦め、礼を言って店舗から出た。
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