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第三部 最終話
40 四角関係(ロマーリオ目線)
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修行中のロマーリオのリュートは、最近になって楽器商に買い付けてもらえるようになった。かなりの安値ではあるのだが、認めてもらえたことで自信がつき、より一層励もうという気力が沸く。
その気力も一度は萎えかけたが、イレーネとディーノに会ったことで気持ちの整理がついたのか、製作にしっかりと向き合えるようになった。
工房の仕事はリュートの製作だけではない。修理や調整の依頼も受けている。
楽器は持ち込まれたり、知らせを受けて取りに行ったり、出来上がったものを渡しに行ったりと、外に行くことも多いので忙しい。合間の時間や、昼休憩の残り、終業後の時間を使ってリュートの製作している。
今作っている最中のリュートがもう少しで完成するため、ロマーリオは寝る間も惜しんで製作に向かった。
このリュートをディーノに持っていこう。
そう決めると、一日でも早く仕上げたくて、兄弟子や師匠に助言をもらいながら向き合った。
そうやって出来上がったリュートを抱えて、いつものように夕刻イレーネの店に向かった。
店のある路地に人だかりができているのが遠目に見えた。不審に思いながら近づいていく。
何か揉め事が起こっているらしい。しかもイレーネの務める仕立て屋が騒動の元のようだ。
ざわつく人々の頭の向こうに、店の表で話すイレーネとリカルドの姿が見えた。
イレーネの後ろで、心配そうな顔のおかみさんが見守るように佇んでいる。
「お店に迷惑をかけたくないので、お願いですから、こういうことは止めてください」
「だったら、辞めて俺のところに来いよ。俺と一緒になれば働かなくていいんだぞ」
「わたしはお金のためだけに働いてるんじゃありません。こんなの渡されても困るんです!」
イレーネがリカルドの胸元へ、袋を押し付けるようにして持っている。リカルドが受け取らないので、イレーネは袋を支えたまま精一杯腕を伸ばしている。リカルドから距離を取りたいからだろう。
「俺なら君を一人にしておかないよ。帰ってこないやつなんて待ってても仕方ないだろう」
「ディーノなら帰って来たわよ」
「どうせ嘘なんだろう」
リカルドがふんと鼻で笑うようなそぶりをした。
「嘘じゃないわよ!」
イレーネが悲鳴のような声を上げる。
「嘘じゃないよ」
ロマーリオが冷静な声で、二人の言い争いに割って入った。
袋に手をやり、イレーネが手を放してから、力を込めた。
胸を押された形になったリカルドが、仕方なさそうに袋を受け取る。金属が触れ合う音がした。中には硬貨でも入っているのだろうか。
「ディーノは帰ってきたよ。疲れから体調を崩してるけど、ちゃんと生きてるよ」
「なら連れて来いよ。そいつがディーノだっていう証拠も一緒にな」
「証拠って・・・・・・」
子供のようなことを云うリカルドに呆れてしまう。この街にディーノを知っているのは集落に住んでいた人だけだ。仲間など信用できないと難癖をつけられるに決まっている。
困ってロマーリオはイレーネと視線を交わした。
「やっぱりいないんじゃないか」
勝ち誇ったようなリカルドの顔に、ロマーリオはいらっとする。イレーネの勤め先に迷惑をかけてはいけないからと、努めて冷静に対処するつもりだったが、力に頼ってしまいそうになる。両手をぐっと握って堪えようとしたとき、おかみさんが声を上げた。
「嘘をつく従業員なんてうちでは雇わないよ。ここはあたしの顔を立ててくれないかい」
そんなおかみさんの言葉にも、リカルドは首を縦に振らなかった。
「ディーノさんは、リュート奏者なんだっけ?」
「はい」
おかみさんに訊かれて、イレーネは振り返って答えた。
「なら演奏してもらえばいいんじゃないのかい? この街に達者なリュート奏者なんていないしねえ」
その提案にも、ロマーリオとイレーネは返事ができなかった。
今のディーノにリュートを弾くことができるのかわからないから。それに、この八年の修行の成果とやらを、二人は耳にしていない。だから今の力量がわからない。
憂いが顔に出てしまったのだろう、めざとく見つけたリカルドはにやりと口端を上げた。
「いいだろう、そうしてやるよ。その男に俺を納得させる演奏ができたなら、イレーネのことは諦めよう。ただし、納得できなかったときは、潔く俺と結婚しろ」
イレーネの気持ちを無視した強引な言葉に、ロマーリオの中で何かがぷつんと音を立てた。
「なら、今度は俺が相手だ」
その気力も一度は萎えかけたが、イレーネとディーノに会ったことで気持ちの整理がついたのか、製作にしっかりと向き合えるようになった。
工房の仕事はリュートの製作だけではない。修理や調整の依頼も受けている。
楽器は持ち込まれたり、知らせを受けて取りに行ったり、出来上がったものを渡しに行ったりと、外に行くことも多いので忙しい。合間の時間や、昼休憩の残り、終業後の時間を使ってリュートの製作している。
今作っている最中のリュートがもう少しで完成するため、ロマーリオは寝る間も惜しんで製作に向かった。
このリュートをディーノに持っていこう。
そう決めると、一日でも早く仕上げたくて、兄弟子や師匠に助言をもらいながら向き合った。
そうやって出来上がったリュートを抱えて、いつものように夕刻イレーネの店に向かった。
店のある路地に人だかりができているのが遠目に見えた。不審に思いながら近づいていく。
何か揉め事が起こっているらしい。しかもイレーネの務める仕立て屋が騒動の元のようだ。
ざわつく人々の頭の向こうに、店の表で話すイレーネとリカルドの姿が見えた。
イレーネの後ろで、心配そうな顔のおかみさんが見守るように佇んでいる。
「お店に迷惑をかけたくないので、お願いですから、こういうことは止めてください」
「だったら、辞めて俺のところに来いよ。俺と一緒になれば働かなくていいんだぞ」
「わたしはお金のためだけに働いてるんじゃありません。こんなの渡されても困るんです!」
イレーネがリカルドの胸元へ、袋を押し付けるようにして持っている。リカルドが受け取らないので、イレーネは袋を支えたまま精一杯腕を伸ばしている。リカルドから距離を取りたいからだろう。
「俺なら君を一人にしておかないよ。帰ってこないやつなんて待ってても仕方ないだろう」
「ディーノなら帰って来たわよ」
「どうせ嘘なんだろう」
リカルドがふんと鼻で笑うようなそぶりをした。
「嘘じゃないわよ!」
イレーネが悲鳴のような声を上げる。
「嘘じゃないよ」
ロマーリオが冷静な声で、二人の言い争いに割って入った。
袋に手をやり、イレーネが手を放してから、力を込めた。
胸を押された形になったリカルドが、仕方なさそうに袋を受け取る。金属が触れ合う音がした。中には硬貨でも入っているのだろうか。
「ディーノは帰ってきたよ。疲れから体調を崩してるけど、ちゃんと生きてるよ」
「なら連れて来いよ。そいつがディーノだっていう証拠も一緒にな」
「証拠って・・・・・・」
子供のようなことを云うリカルドに呆れてしまう。この街にディーノを知っているのは集落に住んでいた人だけだ。仲間など信用できないと難癖をつけられるに決まっている。
困ってロマーリオはイレーネと視線を交わした。
「やっぱりいないんじゃないか」
勝ち誇ったようなリカルドの顔に、ロマーリオはいらっとする。イレーネの勤め先に迷惑をかけてはいけないからと、努めて冷静に対処するつもりだったが、力に頼ってしまいそうになる。両手をぐっと握って堪えようとしたとき、おかみさんが声を上げた。
「嘘をつく従業員なんてうちでは雇わないよ。ここはあたしの顔を立ててくれないかい」
そんなおかみさんの言葉にも、リカルドは首を縦に振らなかった。
「ディーノさんは、リュート奏者なんだっけ?」
「はい」
おかみさんに訊かれて、イレーネは振り返って答えた。
「なら演奏してもらえばいいんじゃないのかい? この街に達者なリュート奏者なんていないしねえ」
その提案にも、ロマーリオとイレーネは返事ができなかった。
今のディーノにリュートを弾くことができるのかわからないから。それに、この八年の修行の成果とやらを、二人は耳にしていない。だから今の力量がわからない。
憂いが顔に出てしまったのだろう、めざとく見つけたリカルドはにやりと口端を上げた。
「いいだろう、そうしてやるよ。その男に俺を納得させる演奏ができたなら、イレーネのことは諦めよう。ただし、納得できなかったときは、潔く俺と結婚しろ」
イレーネの気持ちを無視した強引な言葉に、ロマーリオの中で何かがぷつんと音を立てた。
「なら、今度は俺が相手だ」
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