【完結】とあるリュート弾きの少年の物語

衿乃 光希

文字の大きさ
14 / 157
第一部

14 たっぷりの食事

しおりを挟む
 食事をしていた女性がレーヴェに気がついて顔を上げた。背中を向けていた男性も振り向く。

「お腹すいたかい?」

 聞かれて、思わず腹に手をやった。たしかに空腹だった。空腹なのはいつものことだったから慣れていたけれど、食べ物を前にすると抑えられるものではなかった。またも鳴った腹の虫に、女性が微笑んで手招きした。

 食卓の前で立ち尽くすと、男性が隣席の椅子を引いた。指示されるままに腰を下ろす。

「今日は鹿が獲れたから、分けてもらえてね。たくさんあるから遠慮なく食べな」

 女性にナイフとフォークを手渡されて、反射的に受け取りはしたが、レーヴェは二人の顔を見つめたまま固まった。

 使い方がわからなかった。スープやパンぐらいしか食べさせてもらえなかったから、匙の使い方はわかっても、目の前にあるものが切るものと刺すものであることがわからなかった。二人が食事を再開してくれれば見よう見真似で使ってみるのに、なぜか二人はレーヴェを見つめてくる。

 子供が珍しいわけでもあるまいし、なぜ見つめられているのか不思議だった。使い方のわからない食器は食卓に置いた。二人を見返しながら恐る恐るパンを手に取り、口に運ぶ。

「パンに挟んで食うとうまいんだ」

 男性はパンを広げ、フォークを刺して肉を取り、パンに挟んだ。レタスも一緒に挟んで大きくかぶりつく。

 それをきっかけに女性も食事を再開した。

 レーヴェも男性の食べ方を真似してみる。一度取った肉が滑り落ちて食卓を汚してしまった。

 怒られる。

 反射的に首をすくめてしまったけれど、叱りつけるような言葉はかけられなかった。

「手掴みでもいいんだよ」

 女性が言うと、男性が実際にして見せた。指についたソースまで舐めとり、にやりと笑ってみせる。

 レーヴェも遠慮なく指でつまむことにした。

 生まれて初めて食べた肉はびっくりするほど柔らかくて、味も格別だった。あの屋敷で調理中の肉を見たことがあったが、とても固そうな印象だった。貴族はあんな固そうなものを食べているのだから、さぞや顎の力が強いのだろうと思っていたが、自分の認識が誤っていたことを知った。

「あの子ね、あんたが目を覚まして、しばらくしてから気づいたよ」

 夢中になって肉に食らいついていると、女性の言葉が自分に向けられたことに気がついて手を止めた。

「イレーネ、何か言ってた?」

「声をだす元気もなかったね。でもスープを少し口にしたから、しばらく寝て食べていたら元気になるよ。なにせ若いんだからね」

 と言って彼女は笑った。

 食事を終えると、あんたもしっかり寝ておいで、と女性に言われたが、寝る前にイレーネの顔を見たいと訴えると、ついておいでと別の部屋に案内された。

 ランプの明かりの下で見るイレーネの顔色は良いのか悪いのかわからなかったが、表情は落ち着いているように見えた。寝息をたて、すやすやと眠っている。

「今晩はあたしがついているし、目を覚ましたらまたスープを飲ませるから、あんたもよく眠るんだよ」

 耳もとで囁やかれ、頷いた。自分に何ができるのかわからなかったし、自分もまだ身体の疲れはとれていなかった。

 寝台にもぐりこみ、二人がなぜ何も聞いてこないのか疑問に感じながらも、睡魔に襲われすぐに瞼を閉じた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】物置小屋の魔法使いの娘~父の再婚相手と義妹に家を追い出され、婚約者には捨てられた。でも、私は……

buchi
恋愛
大公爵家の父が再婚して新しくやって来たのは、義母と義妹。当たり前のようにダーナの部屋を取り上げ、義妹のマチルダのものに。そして社交界への出入りを禁止し、館の隣の物置小屋に移動するよう命じた。ダーナは亡くなった母の血を受け継いで魔法が使えた。これまでは使う必要がなかった。だけど、汚い小屋に閉じ込められた時は、使用人がいるので自粛していた魔法力を存分に使った。魔法力のことは、母と母と同じ国から嫁いできた王妃様だけが知る秘密だった。 みすぼらしい物置小屋はパラダイスに。だけど、ある晩、王太子殿下のフィルがダーナを心配になってやって来て……

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?

シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。 クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。 貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ? 魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。 ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。 私の生活を邪魔をするなら潰すわよ? 1月5日 誤字脱字修正 54話 ★━戦闘シーンや猟奇的発言あり 流血シーンあり。 魔法・魔物あり。 ざぁま薄め。 恋愛要素あり。

A級パーティから追放された俺はギルド職員になって安定した生活を手に入れる

国光
ファンタジー
A級パーティの裏方として全てを支えてきたリオン・アルディス。しかし、リーダーで幼馴染のカイルに「お荷物」として追放されてしまう。失意の中で再会したギルド受付嬢・エリナ・ランフォードに導かれ、リオンはギルド職員として新たな道を歩み始める。 持ち前の数字感覚と管理能力で次々と問題を解決し、ギルド内で頭角を現していくリオン。一方、彼を失った元パーティは内部崩壊の道を辿っていく――。 これは、支えることに誇りを持った男が、自らの価値を証明し、安定した未来を掴み取る物語。

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

ダンジョンでオーブを拾って『』を手に入れた。代償は体で払います

とみっしぇる
ファンタジー
スキルなし、魔力なし、1000人に1人の劣等人。 食っていくのがギリギリの冒険者ユリナは同じ境遇の友達3人と、先輩冒険者ジュリアから率のいい仕事に誘われる。それが罠と気づいたときには、絶対絶命のピンチに陥っていた。 もうあとがない。そのとき起死回生のスキルオーブを手に入れたはずなのにオーブは無反応。『』の中には何が入るのだ。 ギリギリの状況でユリアは瀕死の仲間のために叫ぶ。 ユリナはスキルを手に入れ、ささやかな幸せを手に入れられるのだろうか。

処理中です...