【完結】とあるリュート弾きの少年の物語

衿乃 光希

文字の大きさ
33 / 157
第一部

33 家族

しおりを挟む
「ただいま。二人ともちゃんと食べていたかい」

 ロゼッタのいつにも増して元気で明るい声が台所に響いた。

 馬車からたくさんの荷物を下ろしてくるだろうリノを手伝いに行こうとしたディーノは、ロゼッタに捕まった。

「ただいま」

 と言いながらディーノを力強く抱きしめ、頬をすり寄せる。

 一足先にロゼッタの熱い抱擁を受けていたイレーネは、困った顔をしているディーノを見て、ロゼッタの背後で笑いをこらえていた。

 数日ぶりの再会の喜びを堪能したロゼッタに開放されると、ディーノは少しよろめいた。ロゼッタの力は男性に勝るとも劣らない。愛情もしっかり込められているからなおさらだ。

「実家から着れなくなった服をたくさんもらってきたからね。好きなもの持って行きなさい。みんなにも分けておやり」

「わあ。ありがとう」

 イレーネは華やかな表情をして、荷解きにかかった。古着であっても新しい服は嬉しいらしい。さっそく取り出して身にあてている。

「どう? ディーノ。これ似合うかしら。こっちもステキ」

 ディーノの返事を待つことなく、もう次の服に目移りしている。新しいおもちゃを前にした子供ように眸を輝かせ、笑顔を浮かべている。今にも踊りだしそうだ。

「ほらほら、そんなところで店開きしてないで、部屋に持って行って」

 はしゃいでいるイレーネを見て、そう言うロゼッタも嬉しそうな顔をしている。それからリノを手伝いに行った。ディーノも後を追いかける。

「お帰りなさい」

「ただいま」

 リノと短い挨拶を交わし、ディーノは荷物を受け取った。

 家に持って入ると、イレーネもさすがに店開きは止めて服の入った袋を自室に持って行こうと奮闘していた。相当詰まっていて重いのか、その移動距離は非常に短い。日ごろからロゼッタの仕事を手伝っているとはいえ、イレーネの力は弱い。畑仕事より掃除や料理のほうを得意としていた。

「こっち持つから、そっち持てる?」

 見かねたディーノが手伝い、女物が詰まっている三袋をイレーネとロゼッタの部屋に運び入れ、男物の一袋はリノとディーノの部屋に入れる。

 食料は台所の床を一部引き上げ、小さな地下室に運び入れた。

 それからリノとロゼッタは馬を借りたワルター老の家に向かった。老人から頼まれた買い物と馬を借りたお礼の手土産のいくつかを手に。

 ディーノは女物の服の荷を解いているイレーネを手伝った。

「これすてき」

 取り出すたびにイレーネは感嘆の声をあげているから、作業は遅々として進まない。でも急ぐわけでもないし、全身で喜びを表しているイレーネを急かすのも可哀相だし、とディーノもゆっくり服を取り出した。

「見て見て。ディーノ」

 イレーネがいつのまにか薄青色の服に着替えていて、くるんと一回転してみせた。普段着使用にはもったいない綺麗なデザインだった。

「似合う?」

「すてきだよ」

 ディーノが言ってやると、イレーネは顔を輝かせた。

 無邪気で可愛らしいイレーネが、いとおしくてたまらなかった。

 想いが表情に出ていたのか、ディーノの顔を見たイレーネがさらに笑顔になった。まるでどっちが素晴らしい笑顔を浮かべられるか対決をしているかのようだ。

 イレーネはその顔のまま、とことことディーノの傍にやってきた。

 すとんと腰を下ろし、真ん丸い眸で見上げてくる。

 ディーノがすばやく顔を近づけ一瞬だけ唇を重ねると、耳が真っ赤になった。

「もう」

 小さく呟いてディーノの左肩を軽くつつく。照れつつも嬉しそうだ。

 扉の向こうでリノとロゼッタが戻ってきた音がして、二人は何事もなかったように身を離した。

「どうだい、イレーネ。お気に入りは見つかったかい」

「ええ、お母さん。これ着てみたの。どう?」

 イレーネは部屋を出て台所に行った。

 ディーノは振り返って戸口から二人の様子を眺める。

「よく似合ってるじゃないか。それはあたしが十七のころに着てた物だったんだよ。あんたにはちょっと早いかとも思ったんだけどね。もう二・三年もすればあたしが着てた年になるかと思って、持ってきたんだよ」

「お母さんが着てたの? うそぉ」

 けたけたと笑った。ロゼッタは太っているわけではない。少し肉付きがいいだけだ。イレーネと比べると少しではないかもしれないが、イレーネが細すぎるのだ。

 察したロゼッタが腰に手をあて、怒ったふりをする。

「いつのまにそんな酷いことを言う子になっちまったんだい、あんたは。そんな子にはこの服はやれないね。没収だよ、没収。ほーら脱いだ脱いだ」

「きゃあ。やめてえ、お母さん」

 ロゼッタが服を脱がそうとイレーネを追いかけ、イレーネは脱がされないように逃げ出す。狭い台所から部屋へと場所を移し、楽しそうに戯れている二人をしばし眺めたディーノは、無言で部屋を後にし、工房の扉を開けた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】物置小屋の魔法使いの娘~父の再婚相手と義妹に家を追い出され、婚約者には捨てられた。でも、私は……

buchi
恋愛
大公爵家の父が再婚して新しくやって来たのは、義母と義妹。当たり前のようにダーナの部屋を取り上げ、義妹のマチルダのものに。そして社交界への出入りを禁止し、館の隣の物置小屋に移動するよう命じた。ダーナは亡くなった母の血を受け継いで魔法が使えた。これまでは使う必要がなかった。だけど、汚い小屋に閉じ込められた時は、使用人がいるので自粛していた魔法力を存分に使った。魔法力のことは、母と母と同じ国から嫁いできた王妃様だけが知る秘密だった。 みすぼらしい物置小屋はパラダイスに。だけど、ある晩、王太子殿下のフィルがダーナを心配になってやって来て……

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?

シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。 クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。 貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ? 魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。 ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。 私の生活を邪魔をするなら潰すわよ? 1月5日 誤字脱字修正 54話 ★━戦闘シーンや猟奇的発言あり 流血シーンあり。 魔法・魔物あり。 ざぁま薄め。 恋愛要素あり。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

大好きなおねえさまが死んだ

Ruhuna
ファンタジー
大好きなエステルおねえさまが死んでしまった まだ18歳という若さで

処理中です...