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第一部
36 客人
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リノが村人たちを集めリュート奏者が村にやってくることを伝えると、集落のみんなは一瞬呆けたような顔をしたあと、一斉に沸き立つような声をあげた。
そして集落総出で奏者を迎える準備を始めることになった。
奏者一向をリノの自宅に泊めるため、新しい寝台を三台作るところから始まり、寝台が出来あがるとリノとディーノの寝台を工房に運び入れた。空いた部屋には新しい寝台を運び入れ。布団は集落からほぼ新しいものをかき集め、太陽の出ているときに順に干していった。
料理を振舞うためメニューの相談から始まり、誰が何を担当するかを決め、保存可能なものは早くから作り置いた。
狩りの準備も整えられ、前々日と前日には山に入って獣を捕まえた。
忙しない準備の合間に、リュート奏者の使いだという者が手紙を携えて馬で知らせてきた。
そしていよいよ、リュート奏者がやってくる日を迎えた。
プロのリュート奏者を見たことのない子供たちは、朝から興奮して集落と街を繋ぐ唯一の道にまで行って、見えもしないのに背を伸ばして向こうを見ていた。馬車で半日少しかかる道程であるから、到着は昼過ぎから夕方だろう。大人たちは畑仕事や料理の支度をする者と、一向を出迎える準備をする者に分かれて準備をしていた。
今日は集落のみんなで外で食事をとるため、ディーノは木々を紐で結わえて集落の何箇所かに置く松明やかがり火の準備をしていた。子供たちのように道に行きたい衝動に駆られていたがそこはぐっと抑えた。
やがて幾人かの子供たちの「来たよー」という歓声が届いた。
昼は過ぎ、日が暮れるにはまだ少し時間がある頃だった。
手を止められる大人たちはワルター老を中心に集落の入り口に集まった。松明の準備を終えたディーノとロマーリオもその中の先頭にいた。みんなで固唾をのんで道を見つめる。
立ち並ぶ木の間から車輪の揺れる音が近づいてきて、やがて二頭の馬がその姿を現した。
騒ぎ立てる者はいなかった。異常なほどの静けさが場を支配し、近づいてくる馬車を注視している。
ディーノにいたっては興奮しすぎて、呼吸がしっかりとできないでいた。
馬車が止まると、ひょろりと細い男性が馬車を降りてきた。四十代は過ぎていると思われる。頭に撫でつけた金色の短髪がぴたっと固まっている。
金髪の男の後から顎の下に黒い髭のある帽子を被った人物が姿を現した。やや恰幅がよく、動作は緩慢としている。
どちらがリュート奏者なのだろうと、ディーノはどきどきしていた。
リュート奏者を知っているリノが代表として馬車に近づいた。
そして後から馬車を降りた男性に向かって頭を下げた。
その男こそがリュート奏者だった。
村人たちから低いうなりのようなどよめきが起こった。「彼が!」「あの人なのね」口々に呟く声が風に乗る。
リノとリュート奏者が握手を交わしてから、人々に顔を向けた奏者が軽く頭を下げた。
人々から拍手が起こって歓迎されていることを感じたのか、男は帽子を振り、身体の向きを変えて全体に向けて挨拶をした。
大人たちの緊張が緩んだのが伝わっていったのか、子供たちがわあっと沸いた。集落の幾人かと握手を交わしている周囲に集まっていった。
ディーノは出遅れてしまった。気持ちはあったけれど、動けなかった。
「ディーノ。握手してもらおうぜ」
ロマーリオがを肩を叩いてきたが、ディーノは反応できなかった。リュート奏者のことで頭がいっぱいで言葉が届かなかった。ロマーリオも興奮のせいなのかディーノに反応がないことを確認せず、一団に駆け寄って行った。輪の中に入ろうとあちらこちらを覗いてもがいている。
「嬉しそうね」
耳元で突然囁かれて、ディーノはびくっと身を縮めた。隣にイレーネが来ていた。
「行かなくていいの?」
イレーネは団子状態になった集団を指差す。
「行きたいんだけど……」
呟き、ディーノは自身の足を見下ろす。
「足が動かないんだ」
ディーノが視線を下げて指差したその足は、小刻みに震えていた。
そして集落総出で奏者を迎える準備を始めることになった。
奏者一向をリノの自宅に泊めるため、新しい寝台を三台作るところから始まり、寝台が出来あがるとリノとディーノの寝台を工房に運び入れた。空いた部屋には新しい寝台を運び入れ。布団は集落からほぼ新しいものをかき集め、太陽の出ているときに順に干していった。
料理を振舞うためメニューの相談から始まり、誰が何を担当するかを決め、保存可能なものは早くから作り置いた。
狩りの準備も整えられ、前々日と前日には山に入って獣を捕まえた。
忙しない準備の合間に、リュート奏者の使いだという者が手紙を携えて馬で知らせてきた。
そしていよいよ、リュート奏者がやってくる日を迎えた。
プロのリュート奏者を見たことのない子供たちは、朝から興奮して集落と街を繋ぐ唯一の道にまで行って、見えもしないのに背を伸ばして向こうを見ていた。馬車で半日少しかかる道程であるから、到着は昼過ぎから夕方だろう。大人たちは畑仕事や料理の支度をする者と、一向を出迎える準備をする者に分かれて準備をしていた。
今日は集落のみんなで外で食事をとるため、ディーノは木々を紐で結わえて集落の何箇所かに置く松明やかがり火の準備をしていた。子供たちのように道に行きたい衝動に駆られていたがそこはぐっと抑えた。
やがて幾人かの子供たちの「来たよー」という歓声が届いた。
昼は過ぎ、日が暮れるにはまだ少し時間がある頃だった。
手を止められる大人たちはワルター老を中心に集落の入り口に集まった。松明の準備を終えたディーノとロマーリオもその中の先頭にいた。みんなで固唾をのんで道を見つめる。
立ち並ぶ木の間から車輪の揺れる音が近づいてきて、やがて二頭の馬がその姿を現した。
騒ぎ立てる者はいなかった。異常なほどの静けさが場を支配し、近づいてくる馬車を注視している。
ディーノにいたっては興奮しすぎて、呼吸がしっかりとできないでいた。
馬車が止まると、ひょろりと細い男性が馬車を降りてきた。四十代は過ぎていると思われる。頭に撫でつけた金色の短髪がぴたっと固まっている。
金髪の男の後から顎の下に黒い髭のある帽子を被った人物が姿を現した。やや恰幅がよく、動作は緩慢としている。
どちらがリュート奏者なのだろうと、ディーノはどきどきしていた。
リュート奏者を知っているリノが代表として馬車に近づいた。
そして後から馬車を降りた男性に向かって頭を下げた。
その男こそがリュート奏者だった。
村人たちから低いうなりのようなどよめきが起こった。「彼が!」「あの人なのね」口々に呟く声が風に乗る。
リノとリュート奏者が握手を交わしてから、人々に顔を向けた奏者が軽く頭を下げた。
人々から拍手が起こって歓迎されていることを感じたのか、男は帽子を振り、身体の向きを変えて全体に向けて挨拶をした。
大人たちの緊張が緩んだのが伝わっていったのか、子供たちがわあっと沸いた。集落の幾人かと握手を交わしている周囲に集まっていった。
ディーノは出遅れてしまった。気持ちはあったけれど、動けなかった。
「ディーノ。握手してもらおうぜ」
ロマーリオがを肩を叩いてきたが、ディーノは反応できなかった。リュート奏者のことで頭がいっぱいで言葉が届かなかった。ロマーリオも興奮のせいなのかディーノに反応がないことを確認せず、一団に駆け寄って行った。輪の中に入ろうとあちらこちらを覗いてもがいている。
「嬉しそうね」
耳元で突然囁かれて、ディーノはびくっと身を縮めた。隣にイレーネが来ていた。
「行かなくていいの?」
イレーネは団子状態になった集団を指差す。
「行きたいんだけど……」
呟き、ディーノは自身の足を見下ろす。
「足が動かないんだ」
ディーノが視線を下げて指差したその足は、小刻みに震えていた。
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