【完結】とあるリュート弾きの少年の物語

衿乃 光希

文字の大きさ
47 / 157
第一部

47 言葉のないレッスン

しおりを挟む
 リノとロドヴィーゴの打ち合わせは、五日間に及んだ。

 使用する木の素材、ロゼッタのデザイン、ロドヴィーゴが望む高めの音にするための楽器本体の大きさ。ここまでこだわる奏者は少ないが、打ち合わせ中のリノが難しそうな顔をしつつも楽しんでいるように、ディーノには見えた。

 ロドヴィーゴが几帳面なのか、ピエールの性格なのか、契約書の項目は細かいものになっていた。

 リノから文字を習い、ある程度の読み書きができるようになっていたディーノがちらっと見て驚いたのは、半年の製作期間を設けつつも、二人が納得できるものが出来ない限りは、その限りではないと記されていたことだった。
 ロドヴィーゴが納得しない場合の作り直しはあるだろうが、職人側の納得まで記されているということは、リノというリュート製作家に対してロドヴィーゴが多大な信頼と尊敬の念を抱いている証だろう。

 演奏家が製作家に対して同等か、それ以上の扱いをすることが普通のことなのか、それともロドヴィーゴが変わり者であるのか。
 ロドヴィーゴ以外の奏者を知らないディーノにとっては判断がつかないが、なんとなく依頼主のほうが上という認識をもっていたディーノに軽い衝撃を与えた。

 ロドヴィーゴがここに来て六日目の晩。彼の演奏に変化があった。

 一度として同じ曲を弾いたことがなかったのに、その日はかつて聴いた曲から弾き始めた。

 寝台で横になって聞き耳を立てていたディーノは、思わずむくりと起きあがり、傍らのリュートを手にした。練習をしたことの確認ができる、と左手をネックにあてがった。演奏に合わせて指を動かす。

 一度聴いただけでは憶えきれていないところがあり、聴き間違えている個所や、リズムが自分流だったところを修正していく。やはりプロの演奏だと納得させられ、少しでも追いつきたいと火がつく。

 その熱い思いが、小さく奏でていた筈の音量を遠慮のない音量に変えていた。

 ディーノのミスをロドヴィーゴが庇い、導くように演奏する。

 ディーノもロドヴィーゴの音をよく聴きながら、言葉のないレッスンを受けている気持ちになり、ついていこうと必死になった。

 壁を隔てた場所で二つのリュートが同時に音を奏で、いつの間にか一つの曲に仕上がっていた。音の高さの違いが、曲に深みを与えていた。

 無言のままに繰り返し同じ曲が演奏され、ディーノの演奏技術は急速に上達していった。

 ディーノは楽しくて仕方がなかった。集落の人に新しい曲を教えてもらうときも、気分の赴くままに演奏をするときも楽しかったが、はるかな高みにいる人から教わることはもとより、誰かと一緒に演奏をすることも楽しいと感じた。

 このままずっといつまでも弾いていたい。たくさんのことを教わりたい。

 ディーノはそう感じていたが、さずがに夜も更けてくると周囲の家のことも考えなければならない。四回同じ曲を練習したところで、ロドヴィーゴからの音はもう聞えなくなった。

 ディーノはしばらく様子を伺っていたが、話し声が聞こえた後に何の音もしなくなった。眠ってしまったようだ。

 明日また早く起きて森で練習をしよう。

 気持ちは昂ぶっていて眠くはなかったが、横になるとここしばらくの睡眠不足のせいか、意識がすぐに落ちた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】物置小屋の魔法使いの娘~父の再婚相手と義妹に家を追い出され、婚約者には捨てられた。でも、私は……

buchi
恋愛
大公爵家の父が再婚して新しくやって来たのは、義母と義妹。当たり前のようにダーナの部屋を取り上げ、義妹のマチルダのものに。そして社交界への出入りを禁止し、館の隣の物置小屋に移動するよう命じた。ダーナは亡くなった母の血を受け継いで魔法が使えた。これまでは使う必要がなかった。だけど、汚い小屋に閉じ込められた時は、使用人がいるので自粛していた魔法力を存分に使った。魔法力のことは、母と母と同じ国から嫁いできた王妃様だけが知る秘密だった。 みすぼらしい物置小屋はパラダイスに。だけど、ある晩、王太子殿下のフィルがダーナを心配になってやって来て……

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?

シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。 クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。 貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ? 魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。 ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。 私の生活を邪魔をするなら潰すわよ? 1月5日 誤字脱字修正 54話 ★━戦闘シーンや猟奇的発言あり 流血シーンあり。 魔法・魔物あり。 ざぁま薄め。 恋愛要素あり。

A級パーティから追放された俺はギルド職員になって安定した生活を手に入れる

国光
ファンタジー
A級パーティの裏方として全てを支えてきたリオン・アルディス。しかし、リーダーで幼馴染のカイルに「お荷物」として追放されてしまう。失意の中で再会したギルド受付嬢・エリナ・ランフォードに導かれ、リオンはギルド職員として新たな道を歩み始める。 持ち前の数字感覚と管理能力で次々と問題を解決し、ギルド内で頭角を現していくリオン。一方、彼を失った元パーティは内部崩壊の道を辿っていく――。 これは、支えることに誇りを持った男が、自らの価値を証明し、安定した未来を掴み取る物語。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

ダンジョンでオーブを拾って『』を手に入れた。代償は体で払います

とみっしぇる
ファンタジー
スキルなし、魔力なし、1000人に1人の劣等人。 食っていくのがギリギリの冒険者ユリナは同じ境遇の友達3人と、先輩冒険者ジュリアから率のいい仕事に誘われる。それが罠と気づいたときには、絶対絶命のピンチに陥っていた。 もうあとがない。そのとき起死回生のスキルオーブを手に入れたはずなのにオーブは無反応。『』の中には何が入るのだ。 ギリギリの状況でユリアは瀕死の仲間のために叫ぶ。 ユリナはスキルを手に入れ、ささやかな幸せを手に入れられるのだろうか。

処理中です...