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第一部
47 言葉のないレッスン
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リノとロドヴィーゴの打ち合わせは、五日間に及んだ。
使用する木の素材、ロゼッタのデザイン、ロドヴィーゴが望む高めの音にするための楽器本体の大きさ。ここまでこだわる奏者は少ないが、打ち合わせ中のリノが難しそうな顔をしつつも楽しんでいるように、ディーノには見えた。
ロドヴィーゴが几帳面なのか、ピエールの性格なのか、契約書の項目は細かいものになっていた。
リノから文字を習い、ある程度の読み書きができるようになっていたディーノがちらっと見て驚いたのは、半年の製作期間を設けつつも、二人が納得できるものが出来ない限りは、その限りではないと記されていたことだった。
ロドヴィーゴが納得しない場合の作り直しはあるだろうが、職人側の納得まで記されているということは、リノというリュート製作家に対してロドヴィーゴが多大な信頼と尊敬の念を抱いている証だろう。
演奏家が製作家に対して同等か、それ以上の扱いをすることが普通のことなのか、それともロドヴィーゴが変わり者であるのか。
ロドヴィーゴ以外の奏者を知らないディーノにとっては判断がつかないが、なんとなく依頼主のほうが上という認識をもっていたディーノに軽い衝撃を与えた。
ロドヴィーゴがここに来て六日目の晩。彼の演奏に変化があった。
一度として同じ曲を弾いたことがなかったのに、その日はかつて聴いた曲から弾き始めた。
寝台で横になって聞き耳を立てていたディーノは、思わずむくりと起きあがり、傍らのリュートを手にした。練習をしたことの確認ができる、と左手をネックにあてがった。演奏に合わせて指を動かす。
一度聴いただけでは憶えきれていないところがあり、聴き間違えている個所や、リズムが自分流だったところを修正していく。やはりプロの演奏だと納得させられ、少しでも追いつきたいと火がつく。
その熱い思いが、小さく奏でていた筈の音量を遠慮のない音量に変えていた。
ディーノのミスをロドヴィーゴが庇い、導くように演奏する。
ディーノもロドヴィーゴの音をよく聴きながら、言葉のないレッスンを受けている気持ちになり、ついていこうと必死になった。
壁を隔てた場所で二つのリュートが同時に音を奏で、いつの間にか一つの曲に仕上がっていた。音の高さの違いが、曲に深みを与えていた。
無言のままに繰り返し同じ曲が演奏され、ディーノの演奏技術は急速に上達していった。
ディーノは楽しくて仕方がなかった。集落の人に新しい曲を教えてもらうときも、気分の赴くままに演奏をするときも楽しかったが、はるかな高みにいる人から教わることはもとより、誰かと一緒に演奏をすることも楽しいと感じた。
このままずっといつまでも弾いていたい。たくさんのことを教わりたい。
ディーノはそう感じていたが、さずがに夜も更けてくると周囲の家のことも考えなければならない。四回同じ曲を練習したところで、ロドヴィーゴからの音はもう聞えなくなった。
ディーノはしばらく様子を伺っていたが、話し声が聞こえた後に何の音もしなくなった。眠ってしまったようだ。
明日また早く起きて森で練習をしよう。
気持ちは昂ぶっていて眠くはなかったが、横になるとここしばらくの睡眠不足のせいか、意識がすぐに落ちた。
使用する木の素材、ロゼッタのデザイン、ロドヴィーゴが望む高めの音にするための楽器本体の大きさ。ここまでこだわる奏者は少ないが、打ち合わせ中のリノが難しそうな顔をしつつも楽しんでいるように、ディーノには見えた。
ロドヴィーゴが几帳面なのか、ピエールの性格なのか、契約書の項目は細かいものになっていた。
リノから文字を習い、ある程度の読み書きができるようになっていたディーノがちらっと見て驚いたのは、半年の製作期間を設けつつも、二人が納得できるものが出来ない限りは、その限りではないと記されていたことだった。
ロドヴィーゴが納得しない場合の作り直しはあるだろうが、職人側の納得まで記されているということは、リノというリュート製作家に対してロドヴィーゴが多大な信頼と尊敬の念を抱いている証だろう。
演奏家が製作家に対して同等か、それ以上の扱いをすることが普通のことなのか、それともロドヴィーゴが変わり者であるのか。
ロドヴィーゴ以外の奏者を知らないディーノにとっては判断がつかないが、なんとなく依頼主のほうが上という認識をもっていたディーノに軽い衝撃を与えた。
ロドヴィーゴがここに来て六日目の晩。彼の演奏に変化があった。
一度として同じ曲を弾いたことがなかったのに、その日はかつて聴いた曲から弾き始めた。
寝台で横になって聞き耳を立てていたディーノは、思わずむくりと起きあがり、傍らのリュートを手にした。練習をしたことの確認ができる、と左手をネックにあてがった。演奏に合わせて指を動かす。
一度聴いただけでは憶えきれていないところがあり、聴き間違えている個所や、リズムが自分流だったところを修正していく。やはりプロの演奏だと納得させられ、少しでも追いつきたいと火がつく。
その熱い思いが、小さく奏でていた筈の音量を遠慮のない音量に変えていた。
ディーノのミスをロドヴィーゴが庇い、導くように演奏する。
ディーノもロドヴィーゴの音をよく聴きながら、言葉のないレッスンを受けている気持ちになり、ついていこうと必死になった。
壁を隔てた場所で二つのリュートが同時に音を奏で、いつの間にか一つの曲に仕上がっていた。音の高さの違いが、曲に深みを与えていた。
無言のままに繰り返し同じ曲が演奏され、ディーノの演奏技術は急速に上達していった。
ディーノは楽しくて仕方がなかった。集落の人に新しい曲を教えてもらうときも、気分の赴くままに演奏をするときも楽しかったが、はるかな高みにいる人から教わることはもとより、誰かと一緒に演奏をすることも楽しいと感じた。
このままずっといつまでも弾いていたい。たくさんのことを教わりたい。
ディーノはそう感じていたが、さずがに夜も更けてくると周囲の家のことも考えなければならない。四回同じ曲を練習したところで、ロドヴィーゴからの音はもう聞えなくなった。
ディーノはしばらく様子を伺っていたが、話し声が聞こえた後に何の音もしなくなった。眠ってしまったようだ。
明日また早く起きて森で練習をしよう。
気持ちは昂ぶっていて眠くはなかったが、横になるとここしばらくの睡眠不足のせいか、意識がすぐに落ちた。
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