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九章 父の五年間
5.三人で作った夕食
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「鯖の皮目に斜めに切り込みを入れておくの。火の通りがよくなるからね。浅くでいいのよ」
母に教えてもらいながら、鯖の皮に包丁を入れる。
「次に、霜降りっていって、鯖に熱湯をかけるの。臭み取りになるからね」
ボウルに鯖を入れて、沸かしておいた熱湯をかける。お湯が汚れて、白濁した。
「これが臭みの元?」
「そうそう。生臭いの食べられないからね。お水で洗って、霜降りは完了。生姜を薄切りにして一緒に煮込むことで、臭みが取れるからね」
生姜の繊維を断つように薄く切って、水を張ったお鍋に入れる。料理酒と砂糖も入れて火にかけて、沸いてきたら鯖を入れる。皮を上にして。
「あくが出てきたら取ってね」
気泡が立ち、やがてぐつぐつと音がしだした。あくをすくって、火を止める。
お玉で煮汁を一杯分ボウルに取り、味噌を溶かして、お鍋に戻した。
火をつけ、煮汁が再沸騰したら火を弱めて、鍋より少し小さい木の蓋を乗せる。
「蓋がなかったら、アルミホイルに穴を何カ所あけて乗せたら蓋になるからね」
母から落し蓋の代替の仕方を教えてもらった。
このまま五分ほど煮込めば鯖の味噌煮は出来上がる。だけれど、一度火から離して冷ました方が、味がよく染みるらしい。
けんちん汁、きんぴらごぼう、鯖の味噌煮が出来上がり、ご飯も炊きあがった。
テーブルからキッチンの様子を見ていた父が、「そろそろ、お父さんも作っていいか?」と腕まくりを始めた。
キッチンにやってきた父は、冷蔵庫から木綿豆腐を取り出す。豆腐をキッチンペーパーで包み、電子レンジに入れた。余分な水分を取るらしい。
熱々の豆腐を、油を温めたフライパンに入れる。塩を振りかけ、ざっくりと割り、焼いていく。
美味しそうに茶色く色付いた豆腐をいったんバットにあげた。
フライパンに豚バラ肉を炒め、塩を振る。
スライスされたゴーヤを投入し、豚と一緒に炒めていく。香りが立ち、すごく美味しそう。
豆腐を戻して、炒め、少し醤油を垂らした。
火を止めて、溶き卵を回しかけ、余熱で火を通す。
「さあ、出来上がったぞ」
味見をした父は、納得するようにうんうんと頷いた。
料理をする父の手は手慣れていた。
食卓にすべての料理が並び、
「いただきます」
手を合わせた。
両親がどれから食べるのか。気になって見ていると、二人はけんちん汁から口をつけた。
おつゆを口に含んだ二人は、おおーと目を見開いた。
「美味しい」
「うん。いい味だ」
良かった、と胸をなでおろす。
私もけんちん汁を飲む。野菜の旨味が溶け込んだ醤油ベースのおつゆが、優しい味をしている。こっくりと煮た野菜も、とても美味しい。体が温まる。
次に鯖の味噌煮を食べた。
味噌に混ざって生姜がほんの少し香る。生臭さはまったくない。とても美味しくできた。
料理の行程は難しくなかったから、ひとりでも作れそう。
きんぴらごぼうもしゃきしゃきした歯ごたえがちょうどよくて、美味しい。
さて、初めてのゴーヤチャンプルー。
両親はばくばく食べている。「沖縄の材料じゃなくても、美味しくできるのね」と言いながら。
私も一口取って、食べてみた。
「苦い」
思わずうわーとなってしまう苦さ。味付けがシンプルなだけに、ゴーヤの苦さが際立った。
「この苦さがいいんだよ」
「お母さんも平気」
「依織の舌は、まだまだお子ちゃまだな」
父にからかわれた。
ちょっと悔しくて、向きになっても食べてみたけど、苦いものは慣れない。
豆腐と豚肉は美味しいから、ゴーヤをよけながら食べることにした。
「ご馳走様でした」
実家で、家族全員が揃っての食事。ようやく帰省した実感が湧いた。場所だけでは、成立しない。やっぱり三人が揃ってこその、家族なんだ。
いまさらながら、嬉しさがこみ上げた。
「明日、お昼を食べたら私は向こうに戻るけど、年に数回こうやって顔を合わせられたらいいな」
「そうね。お母さんも、家族みんなが元気で、お腹いっぱいご飯が食べれて、幸せだなって思ってた」
「また帰ってくるよ。それに沖縄旅行においで。お父さんが案内するよ」
なんだか祭りの後の静けさ、みたいで少し寂しくなった。
里心がついてしまったのか、名残惜しい。
「お母さんの仕事が休みの日に、お店に来てよ。年末年始は休業だから、それまでに。グルメバーガー食べに来て。私が完食できちゃうほど美味しいんだから」
食後に食べ物の話はどうかと思うけど、両親にとまり木に来てほしい。大好きなグルメバーガーを食べてほしい。
いきなり訪ねてきた父に私はそっけない対応をしてしまったけど、今ならそんな態度は取らない。とまり木で美味しく楽しく食事をしてほしいから。
「そうね。大家さんにもお会いしたいから、依織ちゃん、段取りしてくれる?」
「うん。沙耶さんの都合を聞いてみるね」
後片付けをしてくれるという両親に任せて私は沙耶さんにメッセージを送った。
沙耶さんはすぐにスマホを見てくれて、いつでもOKだよ、と返信をくれた。≪お客さん用のお布団があるから、泊まってもらって大丈夫だよ。と提案までしてくれた。
お泊りなんてご迷惑だからと母は渋ったけれど、結局折れた。土曜日の午後に来てもらって、松本宅に泊まり、日曜日にとまり木に、という流れになった。
次回⇒6.繋がりのある別れ
母に教えてもらいながら、鯖の皮に包丁を入れる。
「次に、霜降りっていって、鯖に熱湯をかけるの。臭み取りになるからね」
ボウルに鯖を入れて、沸かしておいた熱湯をかける。お湯が汚れて、白濁した。
「これが臭みの元?」
「そうそう。生臭いの食べられないからね。お水で洗って、霜降りは完了。生姜を薄切りにして一緒に煮込むことで、臭みが取れるからね」
生姜の繊維を断つように薄く切って、水を張ったお鍋に入れる。料理酒と砂糖も入れて火にかけて、沸いてきたら鯖を入れる。皮を上にして。
「あくが出てきたら取ってね」
気泡が立ち、やがてぐつぐつと音がしだした。あくをすくって、火を止める。
お玉で煮汁を一杯分ボウルに取り、味噌を溶かして、お鍋に戻した。
火をつけ、煮汁が再沸騰したら火を弱めて、鍋より少し小さい木の蓋を乗せる。
「蓋がなかったら、アルミホイルに穴を何カ所あけて乗せたら蓋になるからね」
母から落し蓋の代替の仕方を教えてもらった。
このまま五分ほど煮込めば鯖の味噌煮は出来上がる。だけれど、一度火から離して冷ました方が、味がよく染みるらしい。
けんちん汁、きんぴらごぼう、鯖の味噌煮が出来上がり、ご飯も炊きあがった。
テーブルからキッチンの様子を見ていた父が、「そろそろ、お父さんも作っていいか?」と腕まくりを始めた。
キッチンにやってきた父は、冷蔵庫から木綿豆腐を取り出す。豆腐をキッチンペーパーで包み、電子レンジに入れた。余分な水分を取るらしい。
熱々の豆腐を、油を温めたフライパンに入れる。塩を振りかけ、ざっくりと割り、焼いていく。
美味しそうに茶色く色付いた豆腐をいったんバットにあげた。
フライパンに豚バラ肉を炒め、塩を振る。
スライスされたゴーヤを投入し、豚と一緒に炒めていく。香りが立ち、すごく美味しそう。
豆腐を戻して、炒め、少し醤油を垂らした。
火を止めて、溶き卵を回しかけ、余熱で火を通す。
「さあ、出来上がったぞ」
味見をした父は、納得するようにうんうんと頷いた。
料理をする父の手は手慣れていた。
食卓にすべての料理が並び、
「いただきます」
手を合わせた。
両親がどれから食べるのか。気になって見ていると、二人はけんちん汁から口をつけた。
おつゆを口に含んだ二人は、おおーと目を見開いた。
「美味しい」
「うん。いい味だ」
良かった、と胸をなでおろす。
私もけんちん汁を飲む。野菜の旨味が溶け込んだ醤油ベースのおつゆが、優しい味をしている。こっくりと煮た野菜も、とても美味しい。体が温まる。
次に鯖の味噌煮を食べた。
味噌に混ざって生姜がほんの少し香る。生臭さはまったくない。とても美味しくできた。
料理の行程は難しくなかったから、ひとりでも作れそう。
きんぴらごぼうもしゃきしゃきした歯ごたえがちょうどよくて、美味しい。
さて、初めてのゴーヤチャンプルー。
両親はばくばく食べている。「沖縄の材料じゃなくても、美味しくできるのね」と言いながら。
私も一口取って、食べてみた。
「苦い」
思わずうわーとなってしまう苦さ。味付けがシンプルなだけに、ゴーヤの苦さが際立った。
「この苦さがいいんだよ」
「お母さんも平気」
「依織の舌は、まだまだお子ちゃまだな」
父にからかわれた。
ちょっと悔しくて、向きになっても食べてみたけど、苦いものは慣れない。
豆腐と豚肉は美味しいから、ゴーヤをよけながら食べることにした。
「ご馳走様でした」
実家で、家族全員が揃っての食事。ようやく帰省した実感が湧いた。場所だけでは、成立しない。やっぱり三人が揃ってこその、家族なんだ。
いまさらながら、嬉しさがこみ上げた。
「明日、お昼を食べたら私は向こうに戻るけど、年に数回こうやって顔を合わせられたらいいな」
「そうね。お母さんも、家族みんなが元気で、お腹いっぱいご飯が食べれて、幸せだなって思ってた」
「また帰ってくるよ。それに沖縄旅行においで。お父さんが案内するよ」
なんだか祭りの後の静けさ、みたいで少し寂しくなった。
里心がついてしまったのか、名残惜しい。
「お母さんの仕事が休みの日に、お店に来てよ。年末年始は休業だから、それまでに。グルメバーガー食べに来て。私が完食できちゃうほど美味しいんだから」
食後に食べ物の話はどうかと思うけど、両親にとまり木に来てほしい。大好きなグルメバーガーを食べてほしい。
いきなり訪ねてきた父に私はそっけない対応をしてしまったけど、今ならそんな態度は取らない。とまり木で美味しく楽しく食事をしてほしいから。
「そうね。大家さんにもお会いしたいから、依織ちゃん、段取りしてくれる?」
「うん。沙耶さんの都合を聞いてみるね」
後片付けをしてくれるという両親に任せて私は沙耶さんにメッセージを送った。
沙耶さんはすぐにスマホを見てくれて、いつでもOKだよ、と返信をくれた。≪お客さん用のお布団があるから、泊まってもらって大丈夫だよ。と提案までしてくれた。
お泊りなんてご迷惑だからと母は渋ったけれど、結局折れた。土曜日の午後に来てもらって、松本宅に泊まり、日曜日にとまり木に、という流れになった。
次回⇒6.繋がりのある別れ
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