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第三部 仲良し姉妹
42 レンアイ?
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「調理科、楽しいか?」
「うん。楽しいよ。料理だけしていられるわけじゃないから大変だけど。栄養学とか衛生学とか、座学もちゃんとやらないといけないし」
「途中からってのも、大変だったろ」
「あ、うん。そうだね」
航には言えないけど、お姉ちゃんがいてくれるから、なんとかなっている気がする。一人だとまた脱落していたかもしれない。一度挫折しているだけに、自分への信頼はちょっと低い。
「今は三年か。就職するのか?」
「実は、短大に進学しようと思ってるんだ」
「まだ、勉強するんだ。就職するのかと思ってた」
「進路に迷ってるなら、進学してゆっくり考えるのもありだよって教えられて。推薦取れるかはまだわからないけど」
「推薦がダメだったら?」
「その時は、腹くくって就職かな。働きながら、自分のやりたい事を見つけようかなって」
「料理っつっても、道はたくさんあるもんな。メーカーやお店に就職、学校や教室で講師。あとYouTuberもあるな」
「YouTuberって、あたしが?」
YouTubeをやるなんて考えたこともない。でも、料理系の動画は好きで、けっこう見る。
「楽しいかも」
「その気になったのか?」
航の目がいたずらっ子みたいに、キランと光った。航がやりたいんじゃないの?
「その時は俺が手伝ってやるよ」
「YouTubeに興味あるんだ」
「前に言ったろ。どんな道でも、麻帆が選んだなら、俺は応援するって。言葉だけじゃないぞ。必要なら行動するから」
お姉ちゃんから教えてもらった。二年前のお正月のこと。航は何があっても、麻帆の味方でいてくれる人だからって。
航はきょうだいみたいに育ったけど、でもきょうだいじゃない。それなのに、どうしていつも寄り添ってくれるんだろう。
それに、航に会うと、なんか安心するし。
「航はさ、良い奴だよねえ」
「‥‥‥おう」
「食べに来てくれて、ありがとう。明日も頑張るよ」
「おうっ! 頑張れ」
なぜか頭をくしゃくしゃされて、「それはやめて」と言いながら、これからファミレスでアルバイトだという航と別れた。
片付ける食器を持って厨房に戻ると、みんなから興味津々の目を向けられた。
「海野。今の彼氏? 大学生? 約束してたの?」
山口さんにがしっと肩を組まれる。
パン担当の山口さんはお姉ちゃんが最初に声をかけたグループにいた人。山口さんたちのお陰で早くクラスに溶け込めたと、お姉ちゃんが日記に書いていた。
「ただの幼馴染だよ。あたしが前菜作ってるって知って、食べに来ただけ」
「幼馴染? 響きが萌えだわ」
「萌える? どこが?」
「近いのに、遠い。絶妙な距離感。あぁ、こんなにも好きなのに、手も握れない」
山口さんは、空いていた手を宙に掲げて、何かを掴む仕草をする。何その動き。謎だけど、おもしろい。
「あはは、なにそれ。別に手ぐらい握れるでしょ。航とはお風呂も一緒に入ってた仲なんだよ」
冷静に返すと、
「それ、いつの話よ」
演劇口調を変え、早口で山口さんが言った。
「え? まあ、幼稚園児の頃だけど」
「何十年たってんのよ。あたしたちはもう成人したのよ。海野はまだだっけ。でも来年は成人式あるんだよ。いつまでも幼馴染って言ってないで、認めちゃいなさい」
肩を組んでいた手を離すと、背中をバンと叩かれた。
「イタタ。何を認めるの?」
「彼が好きってことをよ」
「やめてよね。そんなマンガみたいな展開あるわけないじゃん。あたしたちは幼馴染。それ以上でも以下でもないから」
「わざわざ高校の文化祭に来て、幼馴染が作った物だけ食べて帰る?」
「カナッペだけじゃないよ。テリーヌも食べた」
「それはついででしょ。海野が作ったカナッペを食べにわざわざ来たのよ。彼氏、どこに住んでんの?」
「彼氏じゃないってば」
航が一人暮らしをしている場所を言うと、
「そんなに遠くなかったか」
残念そうに山口さんが言った。
「航は、あたしの料理を好きなだけ。あたしが好きで来たんじゃないよ」
「胃袋はすでに掴んだな。よしよし」
「幼馴染くっつけたがるの、山口さんの趣味でしょ」
「幼馴染があれこれの果てにくっつくのいいぞ。海野も観るか、あたしのコレクション」
「あたしはいいよ。そこに萌えを感じてないから。好みはいいけど、それをリアルに持ち込まないでよ」
「リアル恋愛ショーも好きなんだ」
「そんな告白されても‥‥‥あたしは恋愛に興味ないから。考えることいっぱいで、余裕ないんだよ」
「余裕ができたらでいいから、観察させてよお」
「勝手に妄想しててよ。リアルを巻き込むなー」
「やった。妄想の許可は得た」
「やっぱり取り消す。やめて」
「言質は取ったからなー」
ふはははーと変な笑い声を上げながら、山口さんは厨房を飛び出していった。
「なにあれ?」
「山口さん、おもしろい子だよね」
頭の中でお姉ちゃんが笑う。
「勝手にくっつけるなっての」
山口さんのことは好きだけど、趣味の遊び道具にされるのは困っちゃうな。
やりやれと溜め息をついて、明日のテリーヌ作りに取り掛かった。
「うん。楽しいよ。料理だけしていられるわけじゃないから大変だけど。栄養学とか衛生学とか、座学もちゃんとやらないといけないし」
「途中からってのも、大変だったろ」
「あ、うん。そうだね」
航には言えないけど、お姉ちゃんがいてくれるから、なんとかなっている気がする。一人だとまた脱落していたかもしれない。一度挫折しているだけに、自分への信頼はちょっと低い。
「今は三年か。就職するのか?」
「実は、短大に進学しようと思ってるんだ」
「まだ、勉強するんだ。就職するのかと思ってた」
「進路に迷ってるなら、進学してゆっくり考えるのもありだよって教えられて。推薦取れるかはまだわからないけど」
「推薦がダメだったら?」
「その時は、腹くくって就職かな。働きながら、自分のやりたい事を見つけようかなって」
「料理っつっても、道はたくさんあるもんな。メーカーやお店に就職、学校や教室で講師。あとYouTuberもあるな」
「YouTuberって、あたしが?」
YouTubeをやるなんて考えたこともない。でも、料理系の動画は好きで、けっこう見る。
「楽しいかも」
「その気になったのか?」
航の目がいたずらっ子みたいに、キランと光った。航がやりたいんじゃないの?
「その時は俺が手伝ってやるよ」
「YouTubeに興味あるんだ」
「前に言ったろ。どんな道でも、麻帆が選んだなら、俺は応援するって。言葉だけじゃないぞ。必要なら行動するから」
お姉ちゃんから教えてもらった。二年前のお正月のこと。航は何があっても、麻帆の味方でいてくれる人だからって。
航はきょうだいみたいに育ったけど、でもきょうだいじゃない。それなのに、どうしていつも寄り添ってくれるんだろう。
それに、航に会うと、なんか安心するし。
「航はさ、良い奴だよねえ」
「‥‥‥おう」
「食べに来てくれて、ありがとう。明日も頑張るよ」
「おうっ! 頑張れ」
なぜか頭をくしゃくしゃされて、「それはやめて」と言いながら、これからファミレスでアルバイトだという航と別れた。
片付ける食器を持って厨房に戻ると、みんなから興味津々の目を向けられた。
「海野。今の彼氏? 大学生? 約束してたの?」
山口さんにがしっと肩を組まれる。
パン担当の山口さんはお姉ちゃんが最初に声をかけたグループにいた人。山口さんたちのお陰で早くクラスに溶け込めたと、お姉ちゃんが日記に書いていた。
「ただの幼馴染だよ。あたしが前菜作ってるって知って、食べに来ただけ」
「幼馴染? 響きが萌えだわ」
「萌える? どこが?」
「近いのに、遠い。絶妙な距離感。あぁ、こんなにも好きなのに、手も握れない」
山口さんは、空いていた手を宙に掲げて、何かを掴む仕草をする。何その動き。謎だけど、おもしろい。
「あはは、なにそれ。別に手ぐらい握れるでしょ。航とはお風呂も一緒に入ってた仲なんだよ」
冷静に返すと、
「それ、いつの話よ」
演劇口調を変え、早口で山口さんが言った。
「え? まあ、幼稚園児の頃だけど」
「何十年たってんのよ。あたしたちはもう成人したのよ。海野はまだだっけ。でも来年は成人式あるんだよ。いつまでも幼馴染って言ってないで、認めちゃいなさい」
肩を組んでいた手を離すと、背中をバンと叩かれた。
「イタタ。何を認めるの?」
「彼が好きってことをよ」
「やめてよね。そんなマンガみたいな展開あるわけないじゃん。あたしたちは幼馴染。それ以上でも以下でもないから」
「わざわざ高校の文化祭に来て、幼馴染が作った物だけ食べて帰る?」
「カナッペだけじゃないよ。テリーヌも食べた」
「それはついででしょ。海野が作ったカナッペを食べにわざわざ来たのよ。彼氏、どこに住んでんの?」
「彼氏じゃないってば」
航が一人暮らしをしている場所を言うと、
「そんなに遠くなかったか」
残念そうに山口さんが言った。
「航は、あたしの料理を好きなだけ。あたしが好きで来たんじゃないよ」
「胃袋はすでに掴んだな。よしよし」
「幼馴染くっつけたがるの、山口さんの趣味でしょ」
「幼馴染があれこれの果てにくっつくのいいぞ。海野も観るか、あたしのコレクション」
「あたしはいいよ。そこに萌えを感じてないから。好みはいいけど、それをリアルに持ち込まないでよ」
「リアル恋愛ショーも好きなんだ」
「そんな告白されても‥‥‥あたしは恋愛に興味ないから。考えることいっぱいで、余裕ないんだよ」
「余裕ができたらでいいから、観察させてよお」
「勝手に妄想しててよ。リアルを巻き込むなー」
「やった。妄想の許可は得た」
「やっぱり取り消す。やめて」
「言質は取ったからなー」
ふはははーと変な笑い声を上げながら、山口さんは厨房を飛び出していった。
「なにあれ?」
「山口さん、おもしろい子だよね」
頭の中でお姉ちゃんが笑う。
「勝手にくっつけるなっての」
山口さんのことは好きだけど、趣味の遊び道具にされるのは困っちゃうな。
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