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16.お幸せに!
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二人が署名をした婚姻届を手に、外に出る。後ろから家族や友人たちがついていく。
「新郎新婦の門出を祝って、拍手で見送りましょう」
最後尾になった私が手を叩くと、みんなが釣られたように拍手を送る。
アルバートとセシルは振り返り、頭を一度下げてから、役所に向かって通りを歩いていった。
「行ってしまったな」
叔父さんが二人の背中を見送りながら、ぽつりと寂しそうに呟く。
私は何も言わず、叔父さんの隣に立った。
腕を組んで歩く二人は、道行く人に話しかけられている。おめでとうと祝ってもらっているのかもしれない。
「セシルは初めての子だったから、どう接すればいいのかわからず、従業員を育てるのと同じように厳しくしたときもあった。それでも俺を大好きだと言ってくっついてくるセシルが愛おしく感じられて、人に愛情を向ける行為を学んだ。未熟だった俺を、子供たちが育ててくれた。俺の方こそ、生まれてきてくれてありがとうという思いだよ」
しんみりと私に語ってくれる叔父さんの言葉に、私はまた胸を打たれた。視界が滲んでしまって、目尻を拭う。
「もう一緒に暮らすことはないと思うと寂しいが、女の子を持つ父親の試練だな。幸せを祈って受け入れるしかない。俺が母さんをもらったときも、義父に寂しい思いを味わわせたんだからな」
「セシルは幸せになる努力ができる子です。困難があってもあっても、前向きに取り組む強さを持っています。きっと幸せになりますよ」
「リアーナ。こんなに素晴らしい結婚式というものを催してくれて、ありがとう。俺にとっても、いい区切りになると思うよ」
「出戻った私が中心になって動いていいのかしらと思ったけれど、みんな楽しんでくれたみたいですね。やってよかったと思います」
「出戻りとか関係ない。リアーナが込めた真心が伝わったんだよ。本当に、すごく良い催しだった。リアーナには人のために何かをするのが、向いてるんだろうな。結婚式をする会社を興してみるのもおもしろいかもな」
「え?」
その言葉に私が狼狽えている間に、叔父さんはみんなのところに戻っていった。
結婚式をする会社を興す? 私が? ウェディング会社の社長に?
前世も今世も雇われた先で働くのが当たり前だと思っていた。自分が会社を興す選択肢すらなかった。
アストラール国で結婚式は誰も始めていない事業。需要があるなら、成功する可能性がある。
再び、ウェディングプランナーとして働けるかもしれない。
心が沸き立つのがわかった。頬が上がっているのを自覚する。
楽しそう。やりたいかも。
むくむくと期待が持ち上がる。
けれど、今はひとまず抑え込む。今日の式はまだ終わっていない。最後にフラワーシャワーが残っている。
室内に戻り、別室に保管していた籠を持って、みんなが戻っていた居間に入る。
「皆さん、もうひとつだけご参加ください。届けを提出して戻ってきた二人を、花びらで迎えてあげて欲しいんです」
籠の中身を見せる。赤・黄・白・ピンク、色とりどりの花びら。
「花の香りには、災難を祓うといわれていいます。二人を囲んで、花びらを降り注いであげて欲しいんです。とてもきれいですよ」
「花びらを? ステキ!」
「やりたいです!」
フィオナとフローラが率先して盛り上げてくれる。こういう人がいると、スムーズに進むのでとてもありがたい。
こんな風に、と花びらを振りまくふりで練習をして、あとのことはフィオナとフローラに任せて、私は外に出た。通りを見つめて、アルバートとセシルが戻ってくるのを待つ。
ほどなく、二人がこちらを向いて歩いてくる姿が見えた。セシルの赤いドレスは人目を惹く。鮮やかで華やか。
だけど、セシルには白がきっと似合ったはず。結婚式は成功したと思うけれど、私はやっぱり白いドレスにこだわりたかった。それとベールも。
いつか白い生地が手に取れる価格になればいいのになと、未来に期待しながら、居間に戻ってみんなに声をかけた。
玄関でみんなが並んで待つ。
私は通りに戻って二人を出迎えて、婚姻届の受理を確認した。
「さあ、みんなが待ちかねてるわよ。本日、最後の祝福を受け取って」
私に誘導された二人が敷地内に入ると、二人の頭上から花びらが次々と舞い落ちる。
後ろから見つめていた私は、そのきれいな景色を心に刻みつけた。
フラワーシャワーが終わると、全員が室内に戻った。セシルが着替えている間に、一部屋にまとめていた引っ越し用の荷物を馬車に詰め込む。
普段着姿に戻ったセシルは、両親とフィオナと抱き合う。元気でいてねとお互いに労り、涙を拭いた。
新しい家族に向き合ったとき、涙はもう止まっていた。
アルバートたちとともに歩き出し、玄関の外に向かう。
新郎家族らは振り返り、新婦家族に軽く一礼をする。
手を振ろうとしたセシルは、思い直したのか手を下げ、新郎家族と同じように頭を下げた。
馬車に乗る直前、私のところへやってきた。
「リアーナお姉さん、今日はありがとう。とても楽しかった。なんだか区切りがつけられた気がするわ。心に残る結婚式をありがとう」
私の手を両手で握って、まぶしい笑顔を見せた。
「セシル、結婚おめでとう。幸せになってね」
大きく頷くと、身をひるがえし、新しい家族が待つ馬車に乗り込んだ。
馬車には全員乗れないため、アルバートの弟とフローラは歩いて帰った。
帰り際、フローラは「私が結婚するとき、こんな結婚式をしたいです」と頬を上気させて伝えてくれた。
次回⇒17. 一念発起
「新郎新婦の門出を祝って、拍手で見送りましょう」
最後尾になった私が手を叩くと、みんなが釣られたように拍手を送る。
アルバートとセシルは振り返り、頭を一度下げてから、役所に向かって通りを歩いていった。
「行ってしまったな」
叔父さんが二人の背中を見送りながら、ぽつりと寂しそうに呟く。
私は何も言わず、叔父さんの隣に立った。
腕を組んで歩く二人は、道行く人に話しかけられている。おめでとうと祝ってもらっているのかもしれない。
「セシルは初めての子だったから、どう接すればいいのかわからず、従業員を育てるのと同じように厳しくしたときもあった。それでも俺を大好きだと言ってくっついてくるセシルが愛おしく感じられて、人に愛情を向ける行為を学んだ。未熟だった俺を、子供たちが育ててくれた。俺の方こそ、生まれてきてくれてありがとうという思いだよ」
しんみりと私に語ってくれる叔父さんの言葉に、私はまた胸を打たれた。視界が滲んでしまって、目尻を拭う。
「もう一緒に暮らすことはないと思うと寂しいが、女の子を持つ父親の試練だな。幸せを祈って受け入れるしかない。俺が母さんをもらったときも、義父に寂しい思いを味わわせたんだからな」
「セシルは幸せになる努力ができる子です。困難があってもあっても、前向きに取り組む強さを持っています。きっと幸せになりますよ」
「リアーナ。こんなに素晴らしい結婚式というものを催してくれて、ありがとう。俺にとっても、いい区切りになると思うよ」
「出戻った私が中心になって動いていいのかしらと思ったけれど、みんな楽しんでくれたみたいですね。やってよかったと思います」
「出戻りとか関係ない。リアーナが込めた真心が伝わったんだよ。本当に、すごく良い催しだった。リアーナには人のために何かをするのが、向いてるんだろうな。結婚式をする会社を興してみるのもおもしろいかもな」
「え?」
その言葉に私が狼狽えている間に、叔父さんはみんなのところに戻っていった。
結婚式をする会社を興す? 私が? ウェディング会社の社長に?
前世も今世も雇われた先で働くのが当たり前だと思っていた。自分が会社を興す選択肢すらなかった。
アストラール国で結婚式は誰も始めていない事業。需要があるなら、成功する可能性がある。
再び、ウェディングプランナーとして働けるかもしれない。
心が沸き立つのがわかった。頬が上がっているのを自覚する。
楽しそう。やりたいかも。
むくむくと期待が持ち上がる。
けれど、今はひとまず抑え込む。今日の式はまだ終わっていない。最後にフラワーシャワーが残っている。
室内に戻り、別室に保管していた籠を持って、みんなが戻っていた居間に入る。
「皆さん、もうひとつだけご参加ください。届けを提出して戻ってきた二人を、花びらで迎えてあげて欲しいんです」
籠の中身を見せる。赤・黄・白・ピンク、色とりどりの花びら。
「花の香りには、災難を祓うといわれていいます。二人を囲んで、花びらを降り注いであげて欲しいんです。とてもきれいですよ」
「花びらを? ステキ!」
「やりたいです!」
フィオナとフローラが率先して盛り上げてくれる。こういう人がいると、スムーズに進むのでとてもありがたい。
こんな風に、と花びらを振りまくふりで練習をして、あとのことはフィオナとフローラに任せて、私は外に出た。通りを見つめて、アルバートとセシルが戻ってくるのを待つ。
ほどなく、二人がこちらを向いて歩いてくる姿が見えた。セシルの赤いドレスは人目を惹く。鮮やかで華やか。
だけど、セシルには白がきっと似合ったはず。結婚式は成功したと思うけれど、私はやっぱり白いドレスにこだわりたかった。それとベールも。
いつか白い生地が手に取れる価格になればいいのになと、未来に期待しながら、居間に戻ってみんなに声をかけた。
玄関でみんなが並んで待つ。
私は通りに戻って二人を出迎えて、婚姻届の受理を確認した。
「さあ、みんなが待ちかねてるわよ。本日、最後の祝福を受け取って」
私に誘導された二人が敷地内に入ると、二人の頭上から花びらが次々と舞い落ちる。
後ろから見つめていた私は、そのきれいな景色を心に刻みつけた。
フラワーシャワーが終わると、全員が室内に戻った。セシルが着替えている間に、一部屋にまとめていた引っ越し用の荷物を馬車に詰め込む。
普段着姿に戻ったセシルは、両親とフィオナと抱き合う。元気でいてねとお互いに労り、涙を拭いた。
新しい家族に向き合ったとき、涙はもう止まっていた。
アルバートたちとともに歩き出し、玄関の外に向かう。
新郎家族らは振り返り、新婦家族に軽く一礼をする。
手を振ろうとしたセシルは、思い直したのか手を下げ、新郎家族と同じように頭を下げた。
馬車に乗る直前、私のところへやってきた。
「リアーナお姉さん、今日はありがとう。とても楽しかった。なんだか区切りがつけられた気がするわ。心に残る結婚式をありがとう」
私の手を両手で握って、まぶしい笑顔を見せた。
「セシル、結婚おめでとう。幸せになってね」
大きく頷くと、身をひるがえし、新しい家族が待つ馬車に乗り込んだ。
馬車には全員乗れないため、アルバートの弟とフローラは歩いて帰った。
帰り際、フローラは「私が結婚するとき、こんな結婚式をしたいです」と頬を上気させて伝えてくれた。
次回⇒17. 一念発起
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