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42. 心の扉
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食事を終えて、お酒を飲んで、きれいな景色を眺めて、良い気持ちになった。
けれど終わりの時間がくる。
片づけを手伝ってから、帰りは馬ではなく歩いて丘を降りる。
私は足を止め、振り返った。すり鉢部分は見えないけれど、美しい光景は私の胸に刻んだ。いつでも思い出せるようにと。
「どうされました?」
フランツ様も足を止めて、私を見ていた。隣に並んで、足を進める。
「家族にこの場所を教えたいなと思いまして。構いませんか」
馬車でここまで来られれば、あとは徒歩で登ればいいだけ。のんびり過ごすのに、とても良い所だった。
お弁当を手作りしてもいいし、少しお金を出してお店で作ってもらってもいいかも。
前世の世界でいう、お花見や紅葉狩りのように。家族や恋人とお弁当を食べ、自然の中を散歩して、語らい。特に新婚のレオに勧めたい。
「もちろん構いませんよ。ご両親や、跡取り夫妻と一緒にぜひどうぞ。ここは家内が大好きな場所でしてね。冬が特に気に入っていました。湖以外の場所が雪で覆われてまっ白で。足元が悪くなるから、滅多に連れてきてやれませんでしたが」
「想像するだけで、絶景なのがわかります。山ほど標高が高いわけではないですが、事故があってはいけませんものね」
「屋敷からよく眺めていましたよ。絵にもしてもらったのに、絵では物足りないとね。僕は春が好きなのですよ。可憐な花が一面に咲くのですよ」
「お花の絨毯のようですね」
「それはもう、色とりどりの絨毯は見ものですよ」
「素敵ですね。でも、もう家族でお出かけなんてする歳でもないですから。弟にこっそり教えて、シンシアを喜ばせるように伝えて、私はひとりで来ようと思います」
「リアーナ嬢、あなたはまだお若いのですから、これから良いご縁に恵まれる可能性があると思いますが」
フランツ様は以外に口がお上手だったのね。
「出戻りですよ。後妻であればあるのかもですけれど、つらい思いをなさった方を支えてさしあげられるか、わかりません。それに会社を興したばかりですから。仕事と家庭と、両方をというのは私には無理かもしれません。小さい子供さんがいれば、子育ての経験のない私には難しいと思います」
子供がいない、もしくは成人している相手からの後妻の話なら、受けられるけれど。もし話があったとしても、もう私は結婚しないかな。
こっそり胸の内で結論を出した。
「以前、元夫から頭が固く融通が利かないと言われて、悲しんでおられましたね。あなたがやりたいこと、思うことを曲げる必要はありませんが、可能性を自ら手放してしまうのはもったいなと思ってしまいます」
「え?」
そんな話になると思っていなくて、驚いてフランツ様のお顔を見つめる。
「あっ」
足元への注意が逸れ、転びそうになった。フランツ様が肩を支えてくださり、転倒はせずにすんだ。
「大丈夫ですか」
「はい。ありがとうございます」
動悸が早まっているのは、転びそうになったからよね。
なんでもないと言い聞かせて、私を気遣ってくれながら歩き出したフランツ様に続く。
「人はたくさんの可能性を持っています。内にも未来にも。会社を興すときに、無理だったら諦めていましたか?」
足元に気を付けながら、ユアマリッジを立ち上げたときのことを思い返す。
「絶対的に不可能な事態にならなければ、諦めなかったと思います」
「仕事も結婚も同じだと思いますよ。飛び込んでしまえばいいじゃないですか。あなたなら、大丈夫ですよ、きっと」
「飛び込むというのは、難しく考えないでいい、いうことでしょうか」
「意外とどうにかなるもんですよ」
フランツ様は、はははと楽しそうに笑った。
意外とどうにかなる。たしかにそうかもしれない。
会社を興すときもそうだった。
「無理だと決めつけずに、あるかもしれない、できるかもしれない精神で、心の扉を開けておこうと思います」
なんでも決めつけはよくない。一緒にいたいと思える人に出会うかもしれない。そとのときに心を閉ざしていたら、見逃してしまいそう。
「心の扉を開けておく。いいですね。その意気ですよ」
フランツ様の言い方が楽しそうで、思わず笑みが零れた。
平地に到着し、荷物を積み込んだ馬車が王都に向けて進む。
「今日は思い出の場所に連れて来てくださって、ありがとうございます。とても楽しかったです」
「ともに楽しんでくださってありがとう。僕も楽しかったですよ。ぜひまたお付き合いください」
「はい。私でよろしければぜひ、おともをさせてくださいませ」
フランツ様とお話をして、途中で気がついた。人称が“僕”なんだなと。いつもは“わたくし”だったから、少し砕けたフランツ様を知れて、嬉しい一日だった。
けれど終わりの時間がくる。
片づけを手伝ってから、帰りは馬ではなく歩いて丘を降りる。
私は足を止め、振り返った。すり鉢部分は見えないけれど、美しい光景は私の胸に刻んだ。いつでも思い出せるようにと。
「どうされました?」
フランツ様も足を止めて、私を見ていた。隣に並んで、足を進める。
「家族にこの場所を教えたいなと思いまして。構いませんか」
馬車でここまで来られれば、あとは徒歩で登ればいいだけ。のんびり過ごすのに、とても良い所だった。
お弁当を手作りしてもいいし、少しお金を出してお店で作ってもらってもいいかも。
前世の世界でいう、お花見や紅葉狩りのように。家族や恋人とお弁当を食べ、自然の中を散歩して、語らい。特に新婚のレオに勧めたい。
「もちろん構いませんよ。ご両親や、跡取り夫妻と一緒にぜひどうぞ。ここは家内が大好きな場所でしてね。冬が特に気に入っていました。湖以外の場所が雪で覆われてまっ白で。足元が悪くなるから、滅多に連れてきてやれませんでしたが」
「想像するだけで、絶景なのがわかります。山ほど標高が高いわけではないですが、事故があってはいけませんものね」
「屋敷からよく眺めていましたよ。絵にもしてもらったのに、絵では物足りないとね。僕は春が好きなのですよ。可憐な花が一面に咲くのですよ」
「お花の絨毯のようですね」
「それはもう、色とりどりの絨毯は見ものですよ」
「素敵ですね。でも、もう家族でお出かけなんてする歳でもないですから。弟にこっそり教えて、シンシアを喜ばせるように伝えて、私はひとりで来ようと思います」
「リアーナ嬢、あなたはまだお若いのですから、これから良いご縁に恵まれる可能性があると思いますが」
フランツ様は以外に口がお上手だったのね。
「出戻りですよ。後妻であればあるのかもですけれど、つらい思いをなさった方を支えてさしあげられるか、わかりません。それに会社を興したばかりですから。仕事と家庭と、両方をというのは私には無理かもしれません。小さい子供さんがいれば、子育ての経験のない私には難しいと思います」
子供がいない、もしくは成人している相手からの後妻の話なら、受けられるけれど。もし話があったとしても、もう私は結婚しないかな。
こっそり胸の内で結論を出した。
「以前、元夫から頭が固く融通が利かないと言われて、悲しんでおられましたね。あなたがやりたいこと、思うことを曲げる必要はありませんが、可能性を自ら手放してしまうのはもったいなと思ってしまいます」
「え?」
そんな話になると思っていなくて、驚いてフランツ様のお顔を見つめる。
「あっ」
足元への注意が逸れ、転びそうになった。フランツ様が肩を支えてくださり、転倒はせずにすんだ。
「大丈夫ですか」
「はい。ありがとうございます」
動悸が早まっているのは、転びそうになったからよね。
なんでもないと言い聞かせて、私を気遣ってくれながら歩き出したフランツ様に続く。
「人はたくさんの可能性を持っています。内にも未来にも。会社を興すときに、無理だったら諦めていましたか?」
足元に気を付けながら、ユアマリッジを立ち上げたときのことを思い返す。
「絶対的に不可能な事態にならなければ、諦めなかったと思います」
「仕事も結婚も同じだと思いますよ。飛び込んでしまえばいいじゃないですか。あなたなら、大丈夫ですよ、きっと」
「飛び込むというのは、難しく考えないでいい、いうことでしょうか」
「意外とどうにかなるもんですよ」
フランツ様は、はははと楽しそうに笑った。
意外とどうにかなる。たしかにそうかもしれない。
会社を興すときもそうだった。
「無理だと決めつけずに、あるかもしれない、できるかもしれない精神で、心の扉を開けておこうと思います」
なんでも決めつけはよくない。一緒にいたいと思える人に出会うかもしれない。そとのときに心を閉ざしていたら、見逃してしまいそう。
「心の扉を開けておく。いいですね。その意気ですよ」
フランツ様の言い方が楽しそうで、思わず笑みが零れた。
平地に到着し、荷物を積み込んだ馬車が王都に向けて進む。
「今日は思い出の場所に連れて来てくださって、ありがとうございます。とても楽しかったです」
「ともに楽しんでくださってありがとう。僕も楽しかったですよ。ぜひまたお付き合いください」
「はい。私でよろしければぜひ、おともをさせてくださいませ」
フランツ様とお話をして、途中で気がついた。人称が“僕”なんだなと。いつもは“わたくし”だったから、少し砕けたフランツ様を知れて、嬉しい一日だった。
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