前略、お祖母ちゃん ~ええ?! 文通相手はもふもふたち? 私を癒す25通の絵ハガキ~

衿乃 光希

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2章 届くはずのない手紙

4.対話

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「高梨先生は、子供さん同士の謝罪は済んでいると言いましたね」
 再び園長が話を進める。

「はい。佑斗君もAさんもごめんなさいと、頭を下げ合いました」
 私に確認を取った園長が頷くと、佑斗くんに視線を向けた。

「佑斗くんは、どうしてごめんなさいをしたか、わかっていますか」

 それまでの口調と一転して、角が取れたような、とても優しい話し方になった。
 園長の視線を受けた佑斗くんは、不安そうに瞳を揺らしたあと、きゅっと表情を引き締めた。

「オレがドロボーした。置いてたスコップ持って行くのはドロボーだよね」
 園長に向けて、しっかりした口調で佑斗くんは言った。
 自分がしでかした事を、ちゃんとわかっていた。

「そうですね」
「オレ知らなくて。悪いことしたから、ごめんなさいした」
「正しい行動ができて、すばらしいですね」

 園長はにっこりと微笑んで、佑斗くんを褒める。
 強張っていた佑斗くんの顔がゆっくりと和らいでいった。叱られると思っていたのかもしれない。

「これからは、どうしますか」
「これから? 持っていかない。忘れてたら、ケーサツに持って行く」
「よくできました」

 園長は拍手をして、佑斗くんをさらに褒めた。
 佑斗くんが子供らしい、素直な笑顔を浮かべた。

 いい顔。
 ずっと不安そうにしていた佑斗くんの笑顔は、私の心をじんわりと温めてくれた。

 園長が、視線を佑斗くんからお父さんに戻す。

「さて、お父様に伺います。お相手からの謝罪を求めますか?」
「当たり前だろうが」

「ではお父様も謝罪なさるお気持ちがおありなのですね」
「あ? 俺が?」

 お父さんは一瞬ぽかんと口を開けたあと、目を剥いた。
「なんでだ? 俺が謝る必要はねえだろ」
「あるでしょう」
 と言ったのはお母さんだった。
 一度反論したことで、傍観者でいるのをやめてくれたようだ。

「相手の子供さんは何も間違っていないのに、あなたは怒鳴りつけて怖がらせたのよ。佑斗と同じまだ三歳のお子さんに」
「いちゃもんつけられたら、守るだろうがよ」
「あなたは気に食わないから怒鳴り散らしただけよ」

 思わず拍手をしそうになった。
 お母さんの言うとおりだ。

「おまえな!」
「お父様」
 顔を赤くしたお父さんが声を荒らげようとしたのを止めたのは、またも園長だった。

「子供さんが事実を認め反省しているのに、その機会を奪うだけでなく否定なさるのですか」
「俺の子供を犯罪者にしようとしてんのは、おまえらだろうが」

「今、あなたがすべきことは、罪を認めた子供さんに寄り添うことです」
「だから守ろうとしてんだろうがよ」

「お父様のそれは守っているのではありません。隠蔽です」
「隠蔽、だと?」
 お父さんが眉を顰めたあと、はっとしたように目を見開いた。

「事実を捻じ曲げれば自分たちの勝ち。声の大きい、ごねた方が勝ちだと思っているだけです。それでは子供に悪いことを教えてしまいます。大人は子供の手本とならねばなりません。間違いは認め謝罪する。あたりまえのことですよ」

 自分の間違いを認めるのは、大人になればなるほど難しくなる。
 そして誤魔化しや隠すことを覚える。

 峯山さんのお父さんは、それができない人なんだ。大きな声を上げれば誤魔化せる。相手が委縮して、先に謝る。
 そうすれば自分は謝らずに済む上に、間違っていても正しいことになる。
 それを繰り返していれば、正しさの基準は歪む。自分が正しいんだと思い込む。

 諭してくれる人がいなかったのか、そういう家庭で育ったのか。
 お父さんも、ある意味気の毒な人なのかもしれない。
 口に出したら怒声を浴びせられるだろうから言わないけど。
 そう思うと、お父さんに対する恐怖心が、少し和らいだ。

 園長が話している間、お父さんは静かだった。
 睨みつけることもなく、何か考えているような、一点を見つめたまま黙っていた。

 そして、
「……わかった。俺が悪かった」
 ようやく頷いてくれた。

 ほっーと、私の口から息が漏れる。
 相手側だけに謝罪を求めていたお父さんがわかってくれるとは……。

 でも、律くんと会わせていいのかな、という疑問が湧き上がった。
 律くんが話してくれたときの、すがるような目。間違っていないはずなのに、どうして怒られたのかわからず、悲しげだった。
 トラウマになっていてもおかしくない。直接の謝罪は、避けた方がいいのかもしれない。

「お父様を信用いたします」
 答える園長の声から、慈愛のような優しさを感じた。
 このメリハリが、園長のすごいところ。

 お父さんが謝ると言ったところに水を差すのは気が引けるけど、
「あの、園長先生。Aさんは怖がらないでしょうか?」
 私は臆せず、口に出した。

「そうですね」
 園長が顎に手を当てた。

「怖いでしょうね。どれだけ言葉を尽くして謝ったとしても、恐怖心が先にあれば、言葉は届かないでしょう。トラウマを植え付けることになってはいけませんね」
「それに、今後も園の行事で顔を合わせることになります。お互いが気まずいのではないかと思います」

「担任が言うのなら、間違いないですね。直接はやめておきましょう。代替案はありますか?」
 私が担任だからと、意見を呑んでもらえた。
 認めてもらえたようで、嬉しい。

「謝罪文はどうでしょうか?」
「よろしいですね。峯山さんは、いかがですか? 他にご希望の方法がありましたら、ご提案いただければ検討いたしますよ」

 私は峯山さんに目を遣る。
 あんなに怒っていたのが嘘みたいに、妙にすっきりした顔をしていた。まるで憑き物が落ちたみたいに。

「わかったよ。書けばいいんだろう。俺は字が下手だけど、構わねえか」
「読めないほどであればどうかと思いますが、お心がこもっていれば、よろしいと思います」
 園長の言葉に、お父さんは素直に頷いた。

「あの、私も一緒に考えますので……この度はご迷惑をおかけしまして、申し訳ございませんでした」
 お母さんが頭を下げた。

「いいえ。厳しいことを申し上げましたね。これからも二人三脚で協力してまいりましょう」
 心を尽くした話し合いは、園長のおかげでうまく落としどころが見つかった。

 次回⇒5.私が王子様?!
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