16 / 33
2章 届くはずのない手紙
5. 私が王子様?!
しおりを挟む
二日後、登園の時間に佑斗くんのお母さんから手紙を預かった。
峯山さんとの話し合いの結果は、その日のうちに橋爪さんに伝え、謝罪文で構わないとの了承を得ている。
そして昨日のうちに、橋爪さんからも謝罪文を預かっていた。
エプロンのポケットから預かったお手紙を取り出し、峯山さんにお渡しすると、
「悪いのはうちなのに、恐れ入ります」
恐縮しながら、手紙を受け取った。
それから、トラブルがあった日の夕方の帰り際にお父さんが放った侮辱の言葉に対しても、謝罪してくれた。
「主人と話したんです。高梨先生は子供をちゃんと見てくれている、信頼できる先生だと。無能だなんて言って申し訳なかったと、主人は反省しておりました。後日、主人からも謝罪すると申しております」
投げつけられた言葉は、私を傷つけた。心を抉り、ぐちゃぐちゃにされた。
だけど私にも慢心があったかもしれないと、気づかせてくれた。
「主人は感情的になると、言葉に遠慮がなくなって。私も嫌なのですが、聞く耳を持ってくれないので、耐えてやり過ごすようになっていました。ケンカになってでも制止しなければと、私も反省いたしました」
掛けられたくない言葉だったし、口に出したら取り消せない。けれど峯山さんたちの関係が良いものになったのなら、良しとしよう。
私は謝罪を受け入れ、頭を下げた。
「佑斗のことをちゃんと考えて、叱ってくださる先生で良かったです。今後ともよろしくお願いいたします」
峯山さんを見送りながら、私は目の端をそっと拭った。
この日のお迎えの時間。峯山さんからお父さんの過去の話を聞いた。忙しい先生の時間を長く奪うのはいけないと、お迎えの時に話してくれた。
峯山さんのお父さんは小学校低学年の頃、友達が学校に持ってきていたカードが羨ましくて、盗んだ。
生活や勉強に不必要なものは買わない、という主義の両親だったため、羨望や嫉妬は人より強かった。
ところが母親に見つかってしまい問い詰められ、もらったと嘘をついた。
父親にも報告され、『もらったというならもういいだろう』、と言われ、それで終わった。
両親に怒られずに済んだことにほっとしたお父さん。
学校でも大騒ぎになったが、名乗りでなかった。禁止されている物を持ってきた本人も悪いと、警察に届けられることもなかった。
ところが、日を追うごとに盗んだことが気にかかっていったお父さんは、盗んだカードをその子の机の中にこっそり戻した。
このことを、園長から『隠蔽』と言われた瞬間に思い出していた。
自分の罪を隠蔽したけれど、記憶に刻まれ、子供が同じ罪を犯し、父親と同じことをしていた。
園長に指摘されたことがすべて事実で、大声を上げるが勝ちだと思い人生を生きてきたのだと。
「主人は、あれでも佑斗を愛しているんです。口調は乱暴でときどき手も出しますけど、休みの日は遊びに連れて行きますし、寝かしつけもしてくれます。園長先生に叱られて、人が変わったみたいに短気でなくなりました。いつまでもつかはわかりませんけど」
お母さんもすっきりした顔で、佑斗くんと手を繋いで帰って行った。
佑斗くんと手を繋いで帰って行く峯山さん親子を見送っていると、同じように別の園児を連れてきて、見送っていた麻香先生がささやいてきた。
「峯山さんのお母さん、あの時かっこよかったですね」
あの時というのは、きっとお父さんに反論した時のことだろう。
私たちは震えて、園長に任せることしかできなかった。
「母親の愛情、感じちゃいました」
「わかる。母強しだったよね。勇気もらったもん」
教室に戻りながら、私も頷く。
「真衣先生もあたしを守ってくれたじゃないですか。あの時はありがとうございました」
「え? ああ、お父さんに詰め寄られてた時かな」
「ですです」
「麻香先生、狼に睨まれたリスみたいだったから、なんとかしないとって思って。体が動いたの」
「王子様みたいでかっこよかったです。きゅんってしちゃいました」
「うそ? 私、王子様みたいだった?」
麻香先生と笑い合っていると、
「まい先生、王子様なの?」
興味津々で会話に参加してきたのは山本ひよりちゃん。大きな瞳で私たちを見上げてくる。
「先生は王子様じゃないよ。王子様は男の人のことなんだよ」
腰を下げて目線を合わせて、ひよりちゃんが持っている人形をつついた。
ひよりちゃんはお人形でのごっこ遊びが大好き。なかでも囚われの身のお姫様を助けにいく王子様の物語が大好きで、猫のぬいぐるみをお姫様、犬のお巡りさんの人形を王子様に見立ててごっご遊びをしている。
お父さんが警察官だから、ご家庭での教育もあるのだろう。
「いいじゃないですか。女性が王子様でも。人を助けられる人はみんな王子様だと思いますよ」
麻香先生がそう言うと、ひよりちゃんは目を輝かせて、
「まい先生、王子様して?」
と犬の人形を渡してくる。
「よおし、任せて。お姫様を助けに行くよー」
「行くー」
私は人形を受け取って、他の人形が置いてある場所にひよりちゃんと向かった。
次回⇒6.誰かからの絵ハガキ
峯山さんとの話し合いの結果は、その日のうちに橋爪さんに伝え、謝罪文で構わないとの了承を得ている。
そして昨日のうちに、橋爪さんからも謝罪文を預かっていた。
エプロンのポケットから預かったお手紙を取り出し、峯山さんにお渡しすると、
「悪いのはうちなのに、恐れ入ります」
恐縮しながら、手紙を受け取った。
それから、トラブルがあった日の夕方の帰り際にお父さんが放った侮辱の言葉に対しても、謝罪してくれた。
「主人と話したんです。高梨先生は子供をちゃんと見てくれている、信頼できる先生だと。無能だなんて言って申し訳なかったと、主人は反省しておりました。後日、主人からも謝罪すると申しております」
投げつけられた言葉は、私を傷つけた。心を抉り、ぐちゃぐちゃにされた。
だけど私にも慢心があったかもしれないと、気づかせてくれた。
「主人は感情的になると、言葉に遠慮がなくなって。私も嫌なのですが、聞く耳を持ってくれないので、耐えてやり過ごすようになっていました。ケンカになってでも制止しなければと、私も反省いたしました」
掛けられたくない言葉だったし、口に出したら取り消せない。けれど峯山さんたちの関係が良いものになったのなら、良しとしよう。
私は謝罪を受け入れ、頭を下げた。
「佑斗のことをちゃんと考えて、叱ってくださる先生で良かったです。今後ともよろしくお願いいたします」
峯山さんを見送りながら、私は目の端をそっと拭った。
この日のお迎えの時間。峯山さんからお父さんの過去の話を聞いた。忙しい先生の時間を長く奪うのはいけないと、お迎えの時に話してくれた。
峯山さんのお父さんは小学校低学年の頃、友達が学校に持ってきていたカードが羨ましくて、盗んだ。
生活や勉強に不必要なものは買わない、という主義の両親だったため、羨望や嫉妬は人より強かった。
ところが母親に見つかってしまい問い詰められ、もらったと嘘をついた。
父親にも報告され、『もらったというならもういいだろう』、と言われ、それで終わった。
両親に怒られずに済んだことにほっとしたお父さん。
学校でも大騒ぎになったが、名乗りでなかった。禁止されている物を持ってきた本人も悪いと、警察に届けられることもなかった。
ところが、日を追うごとに盗んだことが気にかかっていったお父さんは、盗んだカードをその子の机の中にこっそり戻した。
このことを、園長から『隠蔽』と言われた瞬間に思い出していた。
自分の罪を隠蔽したけれど、記憶に刻まれ、子供が同じ罪を犯し、父親と同じことをしていた。
園長に指摘されたことがすべて事実で、大声を上げるが勝ちだと思い人生を生きてきたのだと。
「主人は、あれでも佑斗を愛しているんです。口調は乱暴でときどき手も出しますけど、休みの日は遊びに連れて行きますし、寝かしつけもしてくれます。園長先生に叱られて、人が変わったみたいに短気でなくなりました。いつまでもつかはわかりませんけど」
お母さんもすっきりした顔で、佑斗くんと手を繋いで帰って行った。
佑斗くんと手を繋いで帰って行く峯山さん親子を見送っていると、同じように別の園児を連れてきて、見送っていた麻香先生がささやいてきた。
「峯山さんのお母さん、あの時かっこよかったですね」
あの時というのは、きっとお父さんに反論した時のことだろう。
私たちは震えて、園長に任せることしかできなかった。
「母親の愛情、感じちゃいました」
「わかる。母強しだったよね。勇気もらったもん」
教室に戻りながら、私も頷く。
「真衣先生もあたしを守ってくれたじゃないですか。あの時はありがとうございました」
「え? ああ、お父さんに詰め寄られてた時かな」
「ですです」
「麻香先生、狼に睨まれたリスみたいだったから、なんとかしないとって思って。体が動いたの」
「王子様みたいでかっこよかったです。きゅんってしちゃいました」
「うそ? 私、王子様みたいだった?」
麻香先生と笑い合っていると、
「まい先生、王子様なの?」
興味津々で会話に参加してきたのは山本ひよりちゃん。大きな瞳で私たちを見上げてくる。
「先生は王子様じゃないよ。王子様は男の人のことなんだよ」
腰を下げて目線を合わせて、ひよりちゃんが持っている人形をつついた。
ひよりちゃんはお人形でのごっこ遊びが大好き。なかでも囚われの身のお姫様を助けにいく王子様の物語が大好きで、猫のぬいぐるみをお姫様、犬のお巡りさんの人形を王子様に見立ててごっご遊びをしている。
お父さんが警察官だから、ご家庭での教育もあるのだろう。
「いいじゃないですか。女性が王子様でも。人を助けられる人はみんな王子様だと思いますよ」
麻香先生がそう言うと、ひよりちゃんは目を輝かせて、
「まい先生、王子様して?」
と犬の人形を渡してくる。
「よおし、任せて。お姫様を助けに行くよー」
「行くー」
私は人形を受け取って、他の人形が置いてある場所にひよりちゃんと向かった。
次回⇒6.誰かからの絵ハガキ
51
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
クラスのマドンナがなぜか俺のメイドになっていた件について
沢田美
恋愛
名家の御曹司として何不自由ない生活を送りながらも、内気で陰気な性格のせいで孤独に生きてきた裕貴真一郎(ゆうき しんいちろう)。
かつてのいじめが原因で、彼は1年間も学校から遠ざかっていた。
しかし、久しぶりに登校したその日――彼は運命の出会いを果たす。
現れたのは、まるで絵から飛び出してきたかのような美少女。
その瞳にはどこかミステリアスな輝きが宿り、真一郎の心をかき乱していく。
「今日から私、あなたのメイドになります!」
なんと彼女は、突然メイドとして彼の家で働くことに!?
謎めいた美少女と陰キャ御曹司の、予測不能な主従ラブコメが幕を開ける!
カクヨム、小説家になろうの方でも連載しています!
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
無属性魔法しか使えない少年冒険者!!
藤城満定
ファンタジー
「祝福の儀式」で授かった属性魔法は無属性魔法だった。無属性と書いてハズレや役立たずと読まれている属性魔法を極めて馬鹿にしてきた奴らの常識を覆して見返す「ざまあ」系ストーリー。
不定期投稿作品です。
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗@オートスキル第1巻発売中
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる