前略、お祖母ちゃん ~ええ?! 文通相手はもふもふたち? 私を癒す25通の絵ハガキ~

衿乃 光希

文字の大きさ
17 / 33
2章 届くはずのない手紙

6.誰かからの絵ハガキ

しおりを挟む
 ひよりちゃんとのごっこ遊びは、思わぬ形に発展していった。
 私が声を低くして王子様役をしていると、聞きつけた保護者さんから「真衣先生、かっこいい」と褒められた。男性役がはまっていたらしい。

 大人がはしゃぐと子供たちも真似をする。
「まい先生は、王子様」
 と年長さん、年中さんからもヒーロー扱いされる結果となり、嬉しいやら照れるやら恥ずかしいやら。職員室でもからかわれることになった。

 いつになくほんわかした気分で仕事を終えて、いつものお弁当屋さんに向かう。
「こんばんは」
 扉を開けると、例の子がレジにいた。

「あ……らっしゃいませ」
 愛想がないのはいつもと同じ。でも今日はスマホを見ていない。さすがに注意されたのかも。

「んーと、ヒレカツ弁当ください」
「ヒレカツっす」
「はーい」
 厨房から中谷さんの声が聞こえて、味噌汁をサービスしてもらったことを思い出した。

「お味噌汁もください」
「味噌汁追加っす」
「はいはーい」

 今日はちゃんと注文をした。
 お客用のイスに座ろうとしたタイミングで、

「今日は食欲、あるんすね」
 レジの子に話しかけられた。
 びっくりして、座ろうとした姿勢のまま固まった。

「前より楽しそうな顔してっるっすよ」
 ちょっとびっくりしたけど、なんとか平常心を取り戻して、腰を掛ける。

「今日は嬉しいことがあったから奮発しようと思って」
「へえ。良かったっすね」

 彼が一瞬だけ口角を上げた。
 おや。案外良い子かも?

 素っ気ない子だと思っていたけど、お客の表情を読むのが上手いのかも。それにわざわざ話しかけるなんて。
 第一印象は良くなかったけど、それだけで人を決めつけ、偏見を持つのはいけないなと反省した。

 店頭でスマホを触っていたのには、何か事情があったのかもしれない。
 顔を上げなかったのは、スマホの中身に気を取られていたからとか。

 私も初めてのバイトの日は緊張して、どもったり言い間違えたり、お釣りを落としたり、いろいろあった。
 中谷さんもお客さんも、叱らないでくれたから委縮せず、徐々に慣れていった。
 よっぽど失礼じゃない限りは、寛容になろう。

「はい。お待ち」
 中谷さんが厨房から顔を出す。
 私は立ち上がって、支払いながら話をする。

「中谷さん、この間はお味噌汁ごちそうでした。温かくて、安心しました」
「いいのよ。頑張ってる真衣ちゃんを勝手に応援してるだけだから」

「ここがあるおかげで頑張れます」
「いつでもいらっしゃい。腕によりをかけて美味しいお弁当作らせてもらうからね」

「百人力ですね」
 中谷さんのエールに背中を押されながら、私は軽々と自転車を漕いだ。

 玄関を入って、まだ放置していた空の芳香剤を手に取る。持って入って、ごみ箱に捨てた。
 明日、新しい芳香剤を買ってこよう。お祖母ちゃんの便せんに描かれていた、ラベンダーにしようかな。

「ただいま」
 写真にただいまを言ってから、
「いただきます」
 お弁当を食べる。
 揚げたばかりのヒレカツが温かいというか熱い。レンジでの温めとやっぱり違う。中谷さんに感謝だ。

 食べ終わってから、ポストを見ていなかったことを思い出した。
 何かが送られてくる予定がなくても見ておかないと、チラシが溜まると面倒だから。

 ポストを開くと、ハガキが一枚入っていた。宛名面には私の住所と名前だけ。差出人の表記はない。
 DMかなと思いながら裏返すと、

「絵?」
 人と動物が畑のようなところで野菜らしきものを収穫している絵がクレヨンで描かれていた。

 動物はウサギとキツネとタヌキ?
 収穫中の野菜はトマト・ピーマン・ナス。

 絵本のようにタッチが柔らかくて、心がほわんと温かくなってきた。
 自然と笑みが溢れてくる。

 人は誰だろう? ボブヘアの女の子。つぶらな瞳に、口角が大きく上がっている。
 とっても楽しそうに収穫をしている一人と三匹。

 これを描いたのはたぶん小学校低学年ぐらいかなあ。
 幼稚園児にしては上手。何が描いてあるのか本人に聞かなくてもわかる。

 幼い子の描く絵は自由だから。形も色も。
 ぐるぐるだったり、往復線だったり、点々だったり。

 幼稚園に通う年齢になるとぐるぐるから円を閉じられるようになっていて、円の中に点々で顔を描けるようになっている。

 大人の目からは何が描かれているのかわからなくても、描いた本人はちゃんと表現をしている。
 家族の笑顔や、ペット、公園遊びや旅行体験。

 上手だね。誰を描いたの? 何を描いたの? 何をしているところなの? 楽しかったんだね。
 コミュニケーションを取りながら、一緒に楽しむようにしている。

 この絵は一目瞭然。
 楽しそうに野菜を収穫している。お家に畑があるのか、旅行先で収穫体験をしたのか。
 良い体験をしている絵だなって思う。

 問題は、誰がこれを描いて送ってきてくれたのか。
 幼稚園の先生になって五年目だから、園児だった子たちは小学生になっている。

 幼稚園時代にできなかったこともできている年齢だから、絵の癖などから読み解くのは無理だ。
 せめて名前だけでも書いてくれていたらよかったのに。書き忘れているからわからない。

 私の住所を知っているのも不思議。トラブル防止のために、住所を保護者に教えることはないから。
 個人宛に年賀状や手紙が届くこともあるけれど、園に届いて、園の住所で返信している。

 消印を見ると、お祖母ちゃんの家がある地名だった。
 となると高校時代の友達かなあ。

 今でも付き合いのある子はとても少ないけど、メッセージアプリには数人の連絡先を登録している。
 そこから住所を知った子が、子供の絵を送ってくれたのかな。何のためかわからないけど。

 他に考えられるのは、私が送った封筒が祖父母宅の近所に誤配された、とか。
 他人宛ての郵便物の封を開けるのは犯罪だけど、それを知らない子供がやってしまった可能性は、あるかもしれない。

 書いてある内容は理解できなくても、落ち込んでるみたいだから励ましてあげよう。とか思って描いて送ってくれたのかも?

 真相はわからないけど、私は今この絵葉書のおかげで、心がとても温かくなっている。

 感激して感情のままに喜んだり、泣いたりするんじゃなくて、傷口をゆっくり直してくれるような、温泉に浸かって身も心もほぐされていくような。
 ゆったりとした温もりに癒されていくような感覚があった。

 誰が描いてくれたのかわからなくても、この絵には私を癒す力があった。
 じっくりと絵を観賞してから、写真の隣に絵を飾ることにした。
 いつでも見える場所で、ほっこりと癒されたくて。


 次回⇒7.七夕の願いごと
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

お茶をしましょう、若菜さん。〜強面自衛官、スイーツと君の笑顔を守ります〜

ユーリ(佐伯瑠璃)
ライト文芸
陸上自衛隊衛生科所属の安達四季陸曹長は、見た目がどうもヤのつく人ににていて怖い。 「だって顔に大きな傷があるんだもん!」 体力徽章もレンジャー徽章も持った看護官は、鬼神のように荒野を走る。 実は怖いのは顔だけで、本当はとても優しくて怒鳴ったりイライラしたりしない自衛官。 寺の住職になった方が良いのでは?そう思うくらいに懐が大きく、上官からも部下からも慕われ頼りにされている。 スイーツ大好き、奥さん大好きな安達陸曹長の若かりし日々を振り返るお話です。 ※フィクションです。 ※カクヨム、小説家になろうにも公開しています。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

処理中です...