前略、お祖母ちゃん ~ええ?! 文通相手はもふもふたち? 私を癒す25通の絵ハガキ~

衿乃 光希

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2章 届くはずのない手紙

6.誰かからの絵ハガキ

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 ひよりちゃんとのごっこ遊びは、思わぬ形に発展していった。
 私が声を低くして王子様役をしていると、聞きつけた保護者さんから「真衣先生、かっこいい」と褒められた。男性役がはまっていたらしい。

 大人がはしゃぐと子供たちも真似をする。
「まい先生は、王子様」
 と年長さん、年中さんからもヒーロー扱いされる結果となり、嬉しいやら照れるやら恥ずかしいやら。職員室でもからかわれることになった。

 いつになくほんわかした気分で仕事を終えて、いつものお弁当屋さんに向かう。
「こんばんは」
 扉を開けると、例の子がレジにいた。

「あ……らっしゃいませ」
 愛想がないのはいつもと同じ。でも今日はスマホを見ていない。さすがに注意されたのかも。

「んーと、ヒレカツ弁当ください」
「ヒレカツっす」
「はーい」
 厨房から中谷さんの声が聞こえて、味噌汁をサービスしてもらったことを思い出した。

「お味噌汁もください」
「味噌汁追加っす」
「はいはーい」

 今日はちゃんと注文をした。
 お客用のイスに座ろうとしたタイミングで、

「今日は食欲、あるんすね」
 レジの子に話しかけられた。
 びっくりして、座ろうとした姿勢のまま固まった。

「前より楽しそうな顔してっるっすよ」
 ちょっとびっくりしたけど、なんとか平常心を取り戻して、腰を掛ける。

「今日は嬉しいことがあったから奮発しようと思って」
「へえ。良かったっすね」

 彼が一瞬だけ口角を上げた。
 おや。案外良い子かも?

 素っ気ない子だと思っていたけど、お客の表情を読むのが上手いのかも。それにわざわざ話しかけるなんて。
 第一印象は良くなかったけど、それだけで人を決めつけ、偏見を持つのはいけないなと反省した。

 店頭でスマホを触っていたのには、何か事情があったのかもしれない。
 顔を上げなかったのは、スマホの中身に気を取られていたからとか。

 私も初めてのバイトの日は緊張して、どもったり言い間違えたり、お釣りを落としたり、いろいろあった。
 中谷さんもお客さんも、叱らないでくれたから委縮せず、徐々に慣れていった。
 よっぽど失礼じゃない限りは、寛容になろう。

「はい。お待ち」
 中谷さんが厨房から顔を出す。
 私は立ち上がって、支払いながら話をする。

「中谷さん、この間はお味噌汁ごちそうでした。温かくて、安心しました」
「いいのよ。頑張ってる真衣ちゃんを勝手に応援してるだけだから」

「ここがあるおかげで頑張れます」
「いつでもいらっしゃい。腕によりをかけて美味しいお弁当作らせてもらうからね」

「百人力ですね」
 中谷さんのエールに背中を押されながら、私は軽々と自転車を漕いだ。

 玄関を入って、まだ放置していた空の芳香剤を手に取る。持って入って、ごみ箱に捨てた。
 明日、新しい芳香剤を買ってこよう。お祖母ちゃんの便せんに描かれていた、ラベンダーにしようかな。

「ただいま」
 写真にただいまを言ってから、
「いただきます」
 お弁当を食べる。
 揚げたばかりのヒレカツが温かいというか熱い。レンジでの温めとやっぱり違う。中谷さんに感謝だ。

 食べ終わってから、ポストを見ていなかったことを思い出した。
 何かが送られてくる予定がなくても見ておかないと、チラシが溜まると面倒だから。

 ポストを開くと、ハガキが一枚入っていた。宛名面には私の住所と名前だけ。差出人の表記はない。
 DMかなと思いながら裏返すと、

「絵?」
 人と動物が畑のようなところで野菜らしきものを収穫している絵がクレヨンで描かれていた。

 動物はウサギとキツネとタヌキ?
 収穫中の野菜はトマト・ピーマン・ナス。

 絵本のようにタッチが柔らかくて、心がほわんと温かくなってきた。
 自然と笑みが溢れてくる。

 人は誰だろう? ボブヘアの女の子。つぶらな瞳に、口角が大きく上がっている。
 とっても楽しそうに収穫をしている一人と三匹。

 これを描いたのはたぶん小学校低学年ぐらいかなあ。
 幼稚園児にしては上手。何が描いてあるのか本人に聞かなくてもわかる。

 幼い子の描く絵は自由だから。形も色も。
 ぐるぐるだったり、往復線だったり、点々だったり。

 幼稚園に通う年齢になるとぐるぐるから円を閉じられるようになっていて、円の中に点々で顔を描けるようになっている。

 大人の目からは何が描かれているのかわからなくても、描いた本人はちゃんと表現をしている。
 家族の笑顔や、ペット、公園遊びや旅行体験。

 上手だね。誰を描いたの? 何を描いたの? 何をしているところなの? 楽しかったんだね。
 コミュニケーションを取りながら、一緒に楽しむようにしている。

 この絵は一目瞭然。
 楽しそうに野菜を収穫している。お家に畑があるのか、旅行先で収穫体験をしたのか。
 良い体験をしている絵だなって思う。

 問題は、誰がこれを描いて送ってきてくれたのか。
 幼稚園の先生になって五年目だから、園児だった子たちは小学生になっている。

 幼稚園時代にできなかったこともできている年齢だから、絵の癖などから読み解くのは無理だ。
 せめて名前だけでも書いてくれていたらよかったのに。書き忘れているからわからない。

 私の住所を知っているのも不思議。トラブル防止のために、住所を保護者に教えることはないから。
 個人宛に年賀状や手紙が届くこともあるけれど、園に届いて、園の住所で返信している。

 消印を見ると、お祖母ちゃんの家がある地名だった。
 となると高校時代の友達かなあ。

 今でも付き合いのある子はとても少ないけど、メッセージアプリには数人の連絡先を登録している。
 そこから住所を知った子が、子供の絵を送ってくれたのかな。何のためかわからないけど。

 他に考えられるのは、私が送った封筒が祖父母宅の近所に誤配された、とか。
 他人宛ての郵便物の封を開けるのは犯罪だけど、それを知らない子供がやってしまった可能性は、あるかもしれない。

 書いてある内容は理解できなくても、落ち込んでるみたいだから励ましてあげよう。とか思って描いて送ってくれたのかも?

 真相はわからないけど、私は今この絵葉書のおかげで、心がとても温かくなっている。

 感激して感情のままに喜んだり、泣いたりするんじゃなくて、傷口をゆっくり直してくれるような、温泉に浸かって身も心もほぐされていくような。
 ゆったりとした温もりに癒されていくような感覚があった。

 誰が描いてくれたのかわからなくても、この絵には私を癒す力があった。
 じっくりと絵を観賞してから、写真の隣に絵を飾ることにした。
 いつでも見える場所で、ほっこりと癒されたくて。


 次回⇒7.七夕の願いごと
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