25 / 33
3章 絵ハガキの交流
2. 十月 芋掘り体験
しおりを挟む
サツマイモのつるをつかんだ本郷剛志くんが、力を込めて、うんしょうんしょと引っ張っている。
「がんばれー、がんばれー」
私は周囲の園児たちと一緒に、掛け声をかけて剛志くんを応援した。
お父さんは、剛志くんの後ろで手を出したそうにしながら見守っている。
やがて根っこが連なったサツマイモが、すこーんと抜けた。
「わー抜けた。すごいね」
「やったー、抜けたー」
剛志くんは、誇らしそうな笑みを浮かべて、たくさんぶら下がっているサツマイモを持ち上げた。
十月、天候に恵まれたこの日、ひよこ組のみんなは親子で遠足にやってきた。
旅行用のバスを借りた親子遠足は、二回目。春にも行われた。
春のときは大きな公園に行って遊具で遊び、お弁当を食べて、お花を見て回った。
今回の遠足は収穫体験。
提携農家さんが植えてくれたサツマイモ掘りを体験させてもらう。
土に触れ、野菜本来の姿を見ることは貴重な体験となるし、苦手を克服した園児もいることから、食育にもなる。
「まい先生、見て見て」
大きなサツマイモを抱えてやってきたのは、並木遥香ちゃん。
「わあ! 大きいのが採れたね」
見せに来てくれたサツマイモは、遥香ちゃんの顔ぐらい大きい。
「何作ってもらおうか」
「うーんとね、甘くて、黒いつぶつぶしてるのがついてるの作ってもらうの」
やや舌足らずなしゃべり方がかわいい。
甘くて、黒いつぶつぶ……黒ゴマだろうか。スイートポテトか、大学芋かな。
「この大きさだったら、たくさん作ってもらえるね」
「うん!」
遥香ちゃんは太陽のような笑顔で頷き、サツマイモを抱えてお母さんの元に走っていった。
サツマイモの収穫のあとは、お弁当の時間。レジャーシートを広げ、家族単位だったり仲の良い園児と親御さんが集まったりと、思い思いの場所で楽しく過ごしていた。
食事を終えると、農家さんが飼っているニワトリとウサギを見に行った。
柵の外からたくさんの園児たちに覗かれたニワトリが、ココココと鳴きながら落ち着きなさそうに動き回っている。
「あ! たまご?」
「どれ? 見えない」
平飼い養鶏という、地面でニワトリを飼っているため、ニワトリの足元に卵が落ちている。それを見つけた園児が指を差し、興味を持った子が覗き込もうとしていた。
「まい先生。ウサギの赤ちゃんいる!」
ウサギ小屋では赤ちゃんウサギが園児たちの心をつかみ、大人気だった。
「ほんとだ。かわいいね」
ほわほわした毛の仔ウサギ同士で遊んでいたり、ぽーっとしていたり。
とてもかわいくて、私も園児たちと一緒になって覗き込んだ。
「農家さんに、お礼を言いましょう」
「ありがとう、ございました」
帰りのバスに乗り込む前に、みんなで農家さんにお礼を伝え、焼きあがったサツマイモをお土産にもらった。
バスの中は香ばしいサツマイモの香りが満ちていた。
収穫したサツマイモは、三日ほど経ってから調理した方が美味しくなりますよ、と事前に保護者さんに伝えておいたけれど、幼稚園から帰る時にも繰り返した。
園児たちが頑張って収穫したものだから、美味しい状態で食べてもらいたい。
今日の収穫には、宿題として作ったものを写真に撮り、連絡用の端末に送信をお願いした。
数日後、続々と届いたサツマイモ料理の写真を印刷し、授業に使った。
自分の手で掘ったサツマイモが、スイートポテトや大学芋、甘露煮などのスイーツ系や、サツマイモご飯、天ぷらやサラダなどのおかず系と、さまざまな料理に変身することを知り、また同じ名前の料理でも作る人によって形が違い、味や触感も違うんだよ、という勉強をしてもらった。
例えばスイートポテト。
細長い形が多い中、四角だったり、絞ってあったり、カップケーキのようだったり。
子供たちは、
「これ、お祖母ちゃんが作ってくれたの、美味しかった」
と自分の家族が作った料理を自慢したり、
「美味しそう」
とよその家庭の料理に興味を持ったり。
再来週、クッキング体験をすることになっている。
ふかすのは私と麻香先生がして、つぶすのを園児たちにしてもらう。ビニール袋に入れて、もみもみしてもらい、つぶれたサツマイモをボウルに集める。
私たちが牛乳と砂糖を混ぜ合わせ、成型するのは園児たちにおまかせ。
きっとみんな楽しんでくれるだろう。
どんな形のスイートポテトが出来上がるのか、私も楽しみにしている。
「来月、このスイートポテトを作るからね。みんな覚えててね」
「はーい」
元気いっぱいに手が上がる。園児たちの笑顔がきらきらと輝いていた。
次回⇒幕間:焼き芋
「がんばれー、がんばれー」
私は周囲の園児たちと一緒に、掛け声をかけて剛志くんを応援した。
お父さんは、剛志くんの後ろで手を出したそうにしながら見守っている。
やがて根っこが連なったサツマイモが、すこーんと抜けた。
「わー抜けた。すごいね」
「やったー、抜けたー」
剛志くんは、誇らしそうな笑みを浮かべて、たくさんぶら下がっているサツマイモを持ち上げた。
十月、天候に恵まれたこの日、ひよこ組のみんなは親子で遠足にやってきた。
旅行用のバスを借りた親子遠足は、二回目。春にも行われた。
春のときは大きな公園に行って遊具で遊び、お弁当を食べて、お花を見て回った。
今回の遠足は収穫体験。
提携農家さんが植えてくれたサツマイモ掘りを体験させてもらう。
土に触れ、野菜本来の姿を見ることは貴重な体験となるし、苦手を克服した園児もいることから、食育にもなる。
「まい先生、見て見て」
大きなサツマイモを抱えてやってきたのは、並木遥香ちゃん。
「わあ! 大きいのが採れたね」
見せに来てくれたサツマイモは、遥香ちゃんの顔ぐらい大きい。
「何作ってもらおうか」
「うーんとね、甘くて、黒いつぶつぶしてるのがついてるの作ってもらうの」
やや舌足らずなしゃべり方がかわいい。
甘くて、黒いつぶつぶ……黒ゴマだろうか。スイートポテトか、大学芋かな。
「この大きさだったら、たくさん作ってもらえるね」
「うん!」
遥香ちゃんは太陽のような笑顔で頷き、サツマイモを抱えてお母さんの元に走っていった。
サツマイモの収穫のあとは、お弁当の時間。レジャーシートを広げ、家族単位だったり仲の良い園児と親御さんが集まったりと、思い思いの場所で楽しく過ごしていた。
食事を終えると、農家さんが飼っているニワトリとウサギを見に行った。
柵の外からたくさんの園児たちに覗かれたニワトリが、ココココと鳴きながら落ち着きなさそうに動き回っている。
「あ! たまご?」
「どれ? 見えない」
平飼い養鶏という、地面でニワトリを飼っているため、ニワトリの足元に卵が落ちている。それを見つけた園児が指を差し、興味を持った子が覗き込もうとしていた。
「まい先生。ウサギの赤ちゃんいる!」
ウサギ小屋では赤ちゃんウサギが園児たちの心をつかみ、大人気だった。
「ほんとだ。かわいいね」
ほわほわした毛の仔ウサギ同士で遊んでいたり、ぽーっとしていたり。
とてもかわいくて、私も園児たちと一緒になって覗き込んだ。
「農家さんに、お礼を言いましょう」
「ありがとう、ございました」
帰りのバスに乗り込む前に、みんなで農家さんにお礼を伝え、焼きあがったサツマイモをお土産にもらった。
バスの中は香ばしいサツマイモの香りが満ちていた。
収穫したサツマイモは、三日ほど経ってから調理した方が美味しくなりますよ、と事前に保護者さんに伝えておいたけれど、幼稚園から帰る時にも繰り返した。
園児たちが頑張って収穫したものだから、美味しい状態で食べてもらいたい。
今日の収穫には、宿題として作ったものを写真に撮り、連絡用の端末に送信をお願いした。
数日後、続々と届いたサツマイモ料理の写真を印刷し、授業に使った。
自分の手で掘ったサツマイモが、スイートポテトや大学芋、甘露煮などのスイーツ系や、サツマイモご飯、天ぷらやサラダなどのおかず系と、さまざまな料理に変身することを知り、また同じ名前の料理でも作る人によって形が違い、味や触感も違うんだよ、という勉強をしてもらった。
例えばスイートポテト。
細長い形が多い中、四角だったり、絞ってあったり、カップケーキのようだったり。
子供たちは、
「これ、お祖母ちゃんが作ってくれたの、美味しかった」
と自分の家族が作った料理を自慢したり、
「美味しそう」
とよその家庭の料理に興味を持ったり。
再来週、クッキング体験をすることになっている。
ふかすのは私と麻香先生がして、つぶすのを園児たちにしてもらう。ビニール袋に入れて、もみもみしてもらい、つぶれたサツマイモをボウルに集める。
私たちが牛乳と砂糖を混ぜ合わせ、成型するのは園児たちにおまかせ。
きっとみんな楽しんでくれるだろう。
どんな形のスイートポテトが出来上がるのか、私も楽しみにしている。
「来月、このスイートポテトを作るからね。みんな覚えててね」
「はーい」
元気いっぱいに手が上がる。園児たちの笑顔がきらきらと輝いていた。
次回⇒幕間:焼き芋
32
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
お茶をしましょう、若菜さん。〜強面自衛官、スイーツと君の笑顔を守ります〜
ユーリ(佐伯瑠璃)
ライト文芸
陸上自衛隊衛生科所属の安達四季陸曹長は、見た目がどうもヤのつく人ににていて怖い。
「だって顔に大きな傷があるんだもん!」
体力徽章もレンジャー徽章も持った看護官は、鬼神のように荒野を走る。
実は怖いのは顔だけで、本当はとても優しくて怒鳴ったりイライラしたりしない自衛官。
寺の住職になった方が良いのでは?そう思うくらいに懐が大きく、上官からも部下からも慕われ頼りにされている。
スイーツ大好き、奥さん大好きな安達陸曹長の若かりし日々を振り返るお話です。
※フィクションです。
※カクヨム、小説家になろうにも公開しています。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。
true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。
それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。
これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。
日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。
彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。
※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。
※内部進行完結済みです。毎日連載です。
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる