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3章 絵ハガキの交流
幕間:お正月の遊び
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「う~、寒い寒い~」
ポストを覗いてから家の中に戻ってきたタヌキは、ぶるりと体を震わせた。
雪は積もっていないけれど、大晦日からぐっと冷え込み、底冷えのするお正月を迎えた。
戻ってきたタヌキは、こたつの中に入る。
三匹は集まって、こたつの中に潜り込んでいた。
電気は通っていないけど、こたつ布団が掛かったままなので、三匹が集まると暖まる。
「おばあちゃんのおせち、食べたいわねえ」
ウサギが思い出すようにしみじみと言った。
「栗きんとん、旨かったなあ」
キツネがじゅるりと涎を垂らす。
「ボクは伊達巻が好きだな~」
うっとりするタヌキ。
「あたしはお餅が好きだわ」
「おせちに入ってねえじゃねえか」
ウサギからおせちの話題を振っておきながら、お餅が好きと言ったウサギに、キツネの軽い突っ込みが入る。
「そうだったわね。だったら黒豆と数の子が好きだわ」
「それも旨いなあ」
三匹はだらだらと寝正月をしていたが、ウサギがはっ、と瞼を開けた。
「タヌキ、年賀状は?」
「来てなかったよ~」
「残念だわ。来ないのかしら」
頭を起こしていたウサギは再び横になった。
「真衣からの手紙がないと、寂しいわね」
こたつの中に、ぽつりと言葉が落ちた。
真衣からの年賀状は一月三日に無事に到着し、ポストを見に行ったウサギは歓喜で飛び跳ねながら、戻ってきた。
「届いた。届いたわよー」
「本当か!」
「ほんと~? やった~」
キツネもタヌキも、こたつから飛び出した。
「早く開けろよ」
「待ってなさいよ」
ウサギが前歯を使って封を開けるのを、急かす。
「開いたわ。読むわね」
ウサギは真衣からの年賀状を読み上げた。
「真衣、クリスマスカード喜んでくれたんだな」
キツネが嬉しそうに、はしゃいだ声を上げる。
「リスの人形、まだ大切に持っていたのね」
ウサギはぐずっと鼻を鳴らした。感極まっているのだろうか。
「でも、ボクたちのことは、覚えてないね~」
「そうなのよ。私たちの自画像描いてあるのに、思い出してもらえてないわね」
タヌキの指摘に、ウサギの涙がぴたっと止まる。
「二十年ぐらい前のことなんて、記憶の奥に奥にしまい込まれているんだろうさ」
キツネは意外にもカラッとしている。
「オレもよく忘れるから、気持ちわかるよ」と続けた。
ウサギはしょぼんとうなだれる。
「真衣は小学校の高学年頃には、あたしたちのこと見えなくなっていたもんね。おばあちゃんは見えていたのに」
キツネはウサギの頭にぽんと手を乗せた。
「大人になったら忘れちまうんだよ。みんなそうだった」
遊びに来ていた近所の子供たちも、それまで遊んでいた三匹のことが見えなくなったり、忘れてしまったり。次第にこの家からも、足が遠のいていった。
ウサギの鼻が再びぐずぐずと鳴る。
「絵ハガキ描こうぜ。いつか思い出してもらえるようにさ」
頭をぽんぽんと叩かれたウサギは、頭を振ってキツネの手を振り払った。
「重いのよ。キツネの手は」
「元気になったな。それでこそ、オレたちのリーダーだ」
にししとキツネが笑った。
「いつから、あたしはあなたたちのリーダーになったのよ」
ウサギはキツネの言葉を否定しながらも、声の調子は嬉しそうだった。
「まあいいわ。今回は何を描く」
「そりゃ、決まってんだろ」
「お正月遊びだね~」
ハガキを床に置き、色鉛筆を手に取った。
「あたしは福笑い好きだったの。とんでもない顔に仕上がって楽しかった」
ウサギは自分が福笑いを楽しんでいる絵を描いた。
「オレはコマ回しだな。じいちゃんが技繰り出してて、かっこよかったんだ」
キツネはコマと自分を描く。
「ボクはね~凧揚げが好きだった~」
タヌキは凧を揚げる自分を描いた。
いつの日か、真衣に自分たちを思い出してもらえることを願って。
次回⇒6.お正月の遊び
ポストを覗いてから家の中に戻ってきたタヌキは、ぶるりと体を震わせた。
雪は積もっていないけれど、大晦日からぐっと冷え込み、底冷えのするお正月を迎えた。
戻ってきたタヌキは、こたつの中に入る。
三匹は集まって、こたつの中に潜り込んでいた。
電気は通っていないけど、こたつ布団が掛かったままなので、三匹が集まると暖まる。
「おばあちゃんのおせち、食べたいわねえ」
ウサギが思い出すようにしみじみと言った。
「栗きんとん、旨かったなあ」
キツネがじゅるりと涎を垂らす。
「ボクは伊達巻が好きだな~」
うっとりするタヌキ。
「あたしはお餅が好きだわ」
「おせちに入ってねえじゃねえか」
ウサギからおせちの話題を振っておきながら、お餅が好きと言ったウサギに、キツネの軽い突っ込みが入る。
「そうだったわね。だったら黒豆と数の子が好きだわ」
「それも旨いなあ」
三匹はだらだらと寝正月をしていたが、ウサギがはっ、と瞼を開けた。
「タヌキ、年賀状は?」
「来てなかったよ~」
「残念だわ。来ないのかしら」
頭を起こしていたウサギは再び横になった。
「真衣からの手紙がないと、寂しいわね」
こたつの中に、ぽつりと言葉が落ちた。
真衣からの年賀状は一月三日に無事に到着し、ポストを見に行ったウサギは歓喜で飛び跳ねながら、戻ってきた。
「届いた。届いたわよー」
「本当か!」
「ほんと~? やった~」
キツネもタヌキも、こたつから飛び出した。
「早く開けろよ」
「待ってなさいよ」
ウサギが前歯を使って封を開けるのを、急かす。
「開いたわ。読むわね」
ウサギは真衣からの年賀状を読み上げた。
「真衣、クリスマスカード喜んでくれたんだな」
キツネが嬉しそうに、はしゃいだ声を上げる。
「リスの人形、まだ大切に持っていたのね」
ウサギはぐずっと鼻を鳴らした。感極まっているのだろうか。
「でも、ボクたちのことは、覚えてないね~」
「そうなのよ。私たちの自画像描いてあるのに、思い出してもらえてないわね」
タヌキの指摘に、ウサギの涙がぴたっと止まる。
「二十年ぐらい前のことなんて、記憶の奥に奥にしまい込まれているんだろうさ」
キツネは意外にもカラッとしている。
「オレもよく忘れるから、気持ちわかるよ」と続けた。
ウサギはしょぼんとうなだれる。
「真衣は小学校の高学年頃には、あたしたちのこと見えなくなっていたもんね。おばあちゃんは見えていたのに」
キツネはウサギの頭にぽんと手を乗せた。
「大人になったら忘れちまうんだよ。みんなそうだった」
遊びに来ていた近所の子供たちも、それまで遊んでいた三匹のことが見えなくなったり、忘れてしまったり。次第にこの家からも、足が遠のいていった。
ウサギの鼻が再びぐずぐずと鳴る。
「絵ハガキ描こうぜ。いつか思い出してもらえるようにさ」
頭をぽんぽんと叩かれたウサギは、頭を振ってキツネの手を振り払った。
「重いのよ。キツネの手は」
「元気になったな。それでこそ、オレたちのリーダーだ」
にししとキツネが笑った。
「いつから、あたしはあなたたちのリーダーになったのよ」
ウサギはキツネの言葉を否定しながらも、声の調子は嬉しそうだった。
「まあいいわ。今回は何を描く」
「そりゃ、決まってんだろ」
「お正月遊びだね~」
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「あたしは福笑い好きだったの。とんでもない顔に仕上がって楽しかった」
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「オレはコマ回しだな。じいちゃんが技繰り出してて、かっこよかったんだ」
キツネはコマと自分を描く。
「ボクはね~凧揚げが好きだった~」
タヌキは凧を揚げる自分を描いた。
いつの日か、真衣に自分たちを思い出してもらえることを願って。
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