【完結】雨の日に会えるあなたに恋をした。 第7回ほっこりじんわり大賞奨励賞受賞

衿乃 光希

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41.  俊介さんの父親

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 仕事を定時に終え、休みだった母と待ち合わせた。

「彩綺と出掛けるなんて、いつぶりかしらね」
「中学の卒業式ぶり?」

「高校の卒業式の後は、那美ちゃんたちと遊びに行っちゃったもんね。子どもたちに置いて行かれた親だけでお茶行ったのよ。ほとんど誰かわからないのに」
「そうだったの?」

 卒業式の後、もう高校生じゃなくなっちゃった。寂しい。遊び行こう。と那美ちゃんたちとケーキバイキングに行った。学割できるの? 一般料金になるの? みんなでドキドキしていたのを思い出す。
 結果的に3月いっぱいは学割ができると言ってもらえて、みんなで喜んだ。

 あれももう9年前になるの?!
 時が経つのが早いなとびっくりする。

 那美ちゃんは昨年スタイリストに昇格した。お客さんもついていて、バリバリ働いている。

 私はみんなよりスタートが遅れているから、年下の先輩もいる。だけど技術職に限らず、社会に出たら年齢は関係ないんだなあと感じている。

「お母さん、緊張してきちゃったな」
「ええ? お母さんが緊張するの?」

「するわよ。彩綺の初めての彼氏の家に招待されたのよ。しかも大豪邸だって言うじゃない。粗相しちゃって、私のせいで彩綺が嫌われたらどうしようとかさ、考えちゃうの。片親だし」
「そういうの気にする人じゃないから」

「ご両親はわからないでしょう。あ、お母様は亡くなられてたんだっけ」
「そう。去年の8月かな」

 供えてもらうお花と線香を用意してきた。お母様には一度しかお会いできなかったけど、三年経っていても覚えている。キュートな方だった。

 車内のアナウンスがまもなく最寄り駅に到着すると告げる。

「お母さんの緊張が移っちゃったな」
 息苦しくなってきた気がして、私は何度か深呼吸をした。

 でも、今日は小野家に向かう前に、松原植物園に寄ることにしていた。美鈴さんはまだ働いて、連絡しておいた。
 植物園が見えてくると、少し気持ちが落ち着いた。お世話になったのは四ヶ月間だけだけど、ここでの仕事は楽しかった。

 私がかつて座っていた場所で、50代頃のスタッフさんに入館料を払う。二人で二百円。ほんとに安すぎる。

「優しい香りがするわね」
 母と園内を見て回る。

 マリーゴールド、マーガレット、ゼラニウム、キンギョソウ。私にもわかる花やわからない花が色とりどりに咲き、庭を華やかに染めている。

 紫外線量が上がるこの時期の花を、俊介さんは見られない。
 私は彼に見せてあげたくて、写真を撮った。

「あなた、すごい所で働いてたのね」
「紹介したの、お母さんだよ」

「予想以上の場所だったわ。公園とは違って花がメインっていいわね。ゆっくりできて」
「静かな職場だったよ」

「ここで、知り合ったのね。小野さんと」
「うん。そう」

 私から声をかけたことを伝えると、やっぱりお母さんの子ね、と言われた。

 植物園から喫茶に入ると、美鈴さんがキッチンから手を振ってくれた。

 お客様は50代後半頃のロマンスグレーの紳士がおひとり。

 美鈴さんにかつてのお礼と近況報告をして、小野家に向かおうとした時、
「そちらのお嬢様方」
 そのお客に声をかけられた。

 糊の利いたぱりっとした白いシャツを細身のスラックスにインさせた、清潔感の漂う紳士。

「お迎えに上がりました。小野俊介の父です。息子がお世話になっております」

 まさか植物園に迎えに来てくれているとは知らなかった。
 サプライズはやめてーと内心で慌てていると、

「こちらこそ、娘がお世話になっております。滝川と申します。本日はお招きいただきまして、ありがとうございます」
 母が挨拶をしてくれた。私も会わせて頭を下げた。

 喫茶を出て、小野家に向かう。

「彩綺さんがお誕生日で、お祝いをしたいと俊介から聞きまして、それならばぜひお越しいただきなさいと。私もお会いしたかったのですよ。彩綺さんのことは、家内から聞いていましたので」

 なんて言っていたのか気になるけれど、そこは掘り下げる勇気はない。

「あの、お母様のこと、お聞きしました。改めてお悔やみを申し上げます。お線香を上げさせていただきたいのですが」

「ぜひ、上げてやってください。喜ぶと思います」
 お父様はどことなく俊介さんに雰囲気の似た笑みを浮かべた。

 小野家に到着する。
 やっぱり大きくて立派だなと圧倒された。

 母は仕事柄、さまざまな物件を見てきているからか、平然としている。さすがだなと感心していたんだけど、後で聞いたらそう見せないように平静を保っていただけで、やっぱり圧倒されていたらしい。

 私たちが階段を上がり、開けてもらった玄関ドアをくぐると、
「お待ちしていました」
 と俊介さんが出迎えてくれた。


   次回⇒42. 誕生日パーティ
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