【完結】タヌキとキツネの飴屋さん 第8回ほっこりじんわり大賞奨励賞

衿乃 光希

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1.タヌキとキツネの食べ歩き

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「このわらび餅、口ん中で溶ける~ぅ」
「美味しいなあ。幸せやなあ」

 京都、嵐山。
 山を背中に、渡月橋を流れる川を眺めながら、二人は買ったばかりのわらび餅を堪能していた。

「ぷるぷるやん」
「きなこ、こだわってはるだけあって、ええ味してるわぁ」

 あ~んと口に含んだわらび餅は、ぷるぷるした触感を楽しんだ直後に、溶けるようになくなっていく。
 ほっぺが落ちそう、と自分の頬を押さえて、ソラは隣のハナに目をやり、ぎょっとした。きなこが喉に軽く詰まる。

「ハナちゃん……ケホ……耳出てしもうてる」
 ハナの金色でなめらかな髪の隙間から、三角の耳がぴょこんと飛び出していた。

「あ、しまった」
 ソラに指摘されて、ハナが耳を閉じた。
 元どおり、人と同じ頭部になる。

「美味しいもん食べると、つい出てしまうわ」
 ハナがぺろっと舌をだした。

 ハナの金色で尖った耳が、ソラはかっこよくて大好き。ソラの髪は濃い茶色で、耳は丸いから。
 だけど人に化けている今、耳が出るのはまずい。

「いっそのこと、キツネ耳のカチューシャつけたら?」
 冗談半分、本気半分でソラが言うと、

「奈良のシカ耳カチューシャみたいなん? そうやなあ。どっかで見かけたら買おうかなあ」
 ハナも、冗談か本気かわからない返答をした。

 先日、京都から奈良へかき氷を食べに行ったとき、観光客がシカ耳のカチューシャをつけているのを見かけた。
 学生さんだけじゃなくて、体が大きい外国人の男性もカチューシャをつけて電車に乗っていて、微笑ましい気持ちになった。
 ソラもハナも、シカ耳カチューシャを買わなかったけれど。

 奈良のシカは神様の使い。
 ソラとハナも、仕える神様は違うけれど、同じ仕事をしている。ライバルともいえる存在の耳をつけるわけにはいかない。

 ソラの本当の姿はタヌキ。
 ハナの本当の姿はキツネ。

 甘いものが大好きな二人は、ときどき人に化けて、人が作ったスイーツを食べ歩きするのが大好き。

 わらび餅を食べ終えた二人は立ち上がった。
 浴衣のお尻を少し払う。

 ソラの浴衣は空色に朝顔文様、帯は白。
 ハナの浴衣は白地に赤い金魚が泳ぐ、帯は淡い黄色。 
 髪はお互いに結いあった。

 ソラはハナのロングヘアを活かして、低い位置のポニーテールを三つ編みにし、右サイドに大振りな白い花の髪飾りをつけた。
 こめかみからおくれ毛を作るのも忘れていない。
 ハナが人に化けると、目がぱっちりした華やかな女の子になるから、女性らしい髪型がとても似合う。

 ハナはセミロングのソラの髪型を耳の下あたりでツインのお団子にし、空色のシュシュで仕上げた。
 お団子ヘアはかわいいけれど、ショーウインドウに写る自分の姿を見たソラは、似合っていないような気がして、少し恥ずかしかった。

「次はソフトクリーム食べよう」
 うきうきと声を弾ませるハナと、手を繋いでお店に向かった。

 抹茶のソフトクリームを食べながら、渡月橋を渡る。
「このお抹茶、濃厚やなあ」
 ソフトクリームを味わいながら、ちらりとハナを見る。
「うん、美味しい」
 ハナが頬を緩ませている。耳は、大丈夫。出ていない。

 暑い陽射しが降り注ぐ中、ひんやりと喉を通るソフトクリームの甘さと冷たさを楽しんでいると、
「お姉さんたち、地元の子?」 
 背後から軽い口調の男が声をかけてきた。
 無視していると、前に回り込んでくる。男は二人連れだった。

「俺たち旅行に来たんだけど、良かったら案内してくれない?」
 口調から想像したとおり、男の見た目もちゃらい。

 黒いタンクトップから丸太のような太い二の腕を出し、一人は膝丈のハイビスカス柄のズボン、もう一人のズボンは白。二人ともビーチサンダルを履いていた。
 髪色は二人とも明るい茶色で、シルバーのピアスとネックレスをつけている。

 まるで沖縄にいるみたいだなとソラが思っていると、「髪、かわいいね」と言いながら、白いズボンの男が手を伸ばしてきた。
 ソラが動けないでいると、向かってきていた手がはたかれた。手を払い除けたのは、ハナだった。

「悪いけど、他の子に当たって。あたしらスイーツしか見てないから、邪魔せんといて」
「関西弁すごくかわいい。教えてよ」
 興味がないと言っているのに、男たちはニヤニヤしている。
 ソラは気持ち悪いなと思う。

「邪魔せんといてって言うてるやん。行こう」
 苛立つ色を声に滲ませたハナに手首を掴まれ、引っ張られる。掴まれた手首はソフトクリームを持っている右手だった。ソラは離れていくソフトクリームを追いかける。

「冷たいこと言わないでよ」
 左手首に男の手が触れた。今度は体が動いた。
 即座に振り払う。そのとき、ほんの少しだけ、爪を立てた。

「痛って」
「ごめんなさーい」
 足を止めて手を見ている男に、一応謝りながら、ハナと渡月橋を走り抜けた。

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