【完結】タヌキとキツネの飴屋さん 第8回ほっこりじんわり大賞奨励賞

衿乃 光希

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4.きょうだいたち

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 巣穴にきょうだいだちはいなかった。ソラはほっと息をつく。

 一緒の巣穴を使っているのは、同時期に生まれた4頭のきょうだいタヌキたち。
 兄のリク、次兄のカイ、姉のセイ、そしてソラ。母は三度目の出産だった。
 一度目、二度目に生まれたきょうだいたちは、とっくに独り立ちして別の巣穴で家族と暮らしている。

 ソラたちはタヌキ生としては5歳だけど、神様の力のお陰か体や精神の成長が早い。
 今は人の年齢でいうと高校生ぐらい。
 さらに細かく分けるとリクは高校を卒業し、カイは高校三年、セイは高校二年、ソラは高校一年あたり。
 精神年齢の違いは、性格のせいなのか、育てられ方なのか、ソラにはわからない。
 末っ子というだけで、ソラは子供扱いされてきた。

 リクだけは面倒見が良いけれど、カイとセイには虐められたり、揶揄からかわれたり、馬鹿にされたり、八つ当たりされたり。
 だから次兄と姉とは、適度な距離を取るようにしていた。

 よりによって今日、姉に見られていたなんて。
 ハナの正体がバレていないといいのだけど。そのことが一番気になった。

 ハナは人間だと言い張ろう。耳を出したのは一回だけ。あれさえ見られていなければ、大丈夫なはず。キツネの尻尾も出ていないし。

 そう決めると、きょうだいが帰ってくる前に、ソラは寝てしまうことにした。
 枯れ葉の上で、どたっと横たわる。お腹がいっぱいだからか、すぐに眠くなった。

 ふと目を覚ましたとき、目の前に照らされた光が眩しくて、慌てて顔を背けた。
 巣穴に陽の光は届かない。それなのにどうして眩しかったんだろう。
 ソラは目をしょぼしょぼさせて、手で顔を隠しつつ隙間から光源を見る。
 光りに浮かび上がっているのは、ソラとよく似た顔のタヌキ。

「セイ?」
 姉のセイが、ソラに向けてスマホをかざしていた。

「ソラ、お腹ぶよぶよになってない?」
 お腹をつつかれ、ソラは飛び起きる。寝起きでぼんやりしていたのが一瞬で覚醒し、嵐山での飲食をセイに見られていたのを思い出した。

「あんた、甘いもんようけ食べとったなあ。クレープとかたい焼きとか。よう胸やけせえへんなあ。感心するわ。あ、だからぽちゃぽちゃなんか」
 あはは、とセイが笑う。

 同じ体型をしているのによく言うなと思うけれど、黙っていた。放っておいて、寝てしまおう。横になると、
「タヌキ寝入りしなや」
 とセイに起こされた。

「あんたに話あるねん」
「なんやの?」
 相手にしたくないけど、このまま寝かせてはもらえなさそうで、ソラは仕方なく体を起こす。

「スマホ、こっちに向けんといて」
 セイが明かりをつけたままのスマホをセイに向けていた。払いのけるような仕草をすると、セイはスマホを上に向けた。巣穴全体がほんのりと明るくなる。

「今日嵐山で一緒におった女の子、キツネやな」
 どきりとする。ハナの耳を見られていたのだろうか。動揺を表に出さないように気をつけて、否定する。

「なに言うてんの。あの子は人間や」
「いいや。あれはキツネや。あたしにはわかるんや。キツネは嘘つきやからな」

「ハナちゃんはめっちゃええ子や。勝手に決めつけんといて」
「キツネにころっと騙されて。そのうち痛い目見るで」

「そんな心配せんでいい。それにキツネちゃうから。もうええやろ」
 否定し続けて、話を打ち切ろうした。

「キツネの三角耳」
 寝ようとして、セイの言葉にはっとする。体が強張る。
 セイを見ると、ニヤニヤと薄笑いを浮かべていた。
 やっぱり見られていたのか。それともカマをかけているのか。

「耳がどないしたん?」
 ソラはシラを切り続ける選択をした。認めなければいいのだと。

「ソフトクリーム食べてるとき、耳出てたよなあ」
「耳? 何を言うてんの。目大丈夫?」
 心臓は早鐘を打っている。平静を装えているか、心配になった。

「すぐそこにおったんちゃうけど、見間違えてない。あれはキツネの耳やった。隣におって耳見えてへんほうが、目おかしいわ。あんた、キツネはうちらの敵やってわかってて、キツネと仲良うしてんの?」

「だから、人間やって」
「キツネなんか信用したらあかんよ。小さい頃から教えられてきたやろ」

「しつこい! もうええて」
 セイのあまりのしつこさに、ソラは珍しく声を荒らげた。
 背を丸め、毛を逆立たせる。

「あたしが誰と仲良うしようと、セイに関係ないやろう。生まれて数分しか違わへんのに、姉面するんやめて」
「心配したってんのに、その言い方なんなん」

「心配してほしいなんて、誰も頼んでないやん」
「あとで泣かへんですむように、忠告したってのに。かわいげないな、あんたは」

「セイにかわいいなんて思われたないし、思ったこともないやろ」

「その辺にしとけ」
 姉妹ケンカに口を挟んだのは、リクだった。隣に次兄のカイもいる。

「意味のある話し合いなら止めへんけど、どっちも引く気のない、不毛なケンカはうるさいだけや」
 ソラは口を閉じた。生まれたのが数分違いでも、リクには反論しづらい。今日は仕事の尻ぬぐいをしてもらったし。

 でもセイは違った。
「ソラはキツネと仲良うしてねん。止めさせた方がええと思うけど」

「キツネと!? 男か!?」
 先に反応したのはカイだった。

「ちゃうちゃう。女。セイが男とおるなんて、想像つかへんわ」
「いやいやわからへんぞ。案外スケベやったりするねん」

「止めて! しょうもない」
 情報を得ようとしているのか、カイが鼻をひくひくさせているのが嫌だった。

「しょうもないことちゃうやろ。みんないずれはつがい見つけて、後継者育てていかなあかんやろが」
 カイはもっともらしいことを言っているけど、顔がにニヤついているから説得力がない。
 これ以上ここにいると、セイとカイに揶揄れるだけだと察した。

「いちいち人の行動にケチつけんといて」
 一番言いたかった言葉を吐いてから、リクとカイの間を抜けて、ソラは巣穴の出入り口に向かった。
 一瞬だけ足を止めて、リクに顔を向ける。

「リク、今日は面倒をかけたみたいでごめん。気をつける」
 言うだけ言うと、リクの反応も見ずに、ソラは巣穴を飛び出した。
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