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8. 愛情のこもった笑顔
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お婆さんがアリサさんとの思い出を話してくれた。
穏やかで優しくて、温かい笑顔で。
お婆さんにとって、とても大切な思い出なんだとわかる。
「もう会えないと思うと、寂しいわね。会えるときに、もっとたくさん会っておけば良かった」
お婆さんが最後にこぼした言葉が、僕の心をきゅうっとしめつける。
不思議なトンネルをくぐって、ここがお婆さんの思い出の中だと聞いたときに、うすうすわかっていた。お婆さんが幽霊犬たちと同じ世界にいる人なんじゃないかって。
「お婆さんがこっちの世界にきて、どれくらいたつんですか?」
「どれくらい? どれくらいかしら。ずいぶん長い間のような気がするし、来たばかりのような気もするわね。ここにいると、時間の感覚がわからなくなるの。行きたい場所、行きたい時間にすぐ飛べるし、眠くならないし、お腹も空かないの」
「犬たちは、僕たちのご飯の時間になると、美味しそうって喜んでます」
「まあ、そうなの。かわいいわね。思い出の中にずっといるのと、幽霊になっても現世にいるのと、何か違いがあるのかもしれないわね」
「求めているものの違いとか……」
「ああ、そうね。ワンちゃんたちは食事を求めていて、私は家族を求めているから、かしらね」
にっこりと笑って、犬たちを見ている。アリサさんのことを思い出しているときとは、笑顔の質が違っていた。
アリサさんを愛おしいと思っている気持ちが、たくさん伝わってくる。
その笑顔は、おもちゃ修理を終えたときのじいじの笑顔に似ている気がした。僕を見つめるばあばにも似ているかも。
じいじとばあばの顔を見たくなった。
不思議な世界にやってきた僕は、祖父母のいる所に帰れるのかな。
「そろそろ帰ったほうがいいかもしれないわね。引き止めてしまってごめんなさいね」
お婆さんに促されて、ヒメが僕の足の上からぴょんと飛び降りた。モモタとコタローも立ち上がった。
「帰り方はわからないんですけど、犬たちに連れてこられたので、犬たちを信じてついて行ってみます」
「ええ。そうなさいな。あなたが無事にお家に帰れるように、祈っているわね」
背中を向ける前に、お婆さんに訊ねた。
「ありがとうございます。アリサさんに、伝えておくことはありますか」
お婆さんは「え?」と驚いた顔を見せた。少し考えてから、首を横に振った。
「いいえ。私とヒナタくんは会ったことがないんだから、有紗が変に思っちゃうわ。壊れた人形を捨てずに修理をして、大切に持っていてくれることがわかって、嬉しかった。ヒナタくん、ありがとう」
「いいえ。僕は何も……」
していない、と言おうとしたら、お婆さんの手が伸びてきて、僕の頭を撫でた。
「そこは、『力になれて良かったです』でいいのよ。優しいヒナタくん。さようなら」
3匹の犬たちが、いっせいに駆け出していく。
(ヒナタ、帰ろう)
モモタを先頭に、コタローとヒメが続く。
「お婆さん、さようなら」
お婆さんに頭を下げてから、犬たちに置いていかれないように、僕も駆け出した。
穏やかで優しくて、温かい笑顔で。
お婆さんにとって、とても大切な思い出なんだとわかる。
「もう会えないと思うと、寂しいわね。会えるときに、もっとたくさん会っておけば良かった」
お婆さんが最後にこぼした言葉が、僕の心をきゅうっとしめつける。
不思議なトンネルをくぐって、ここがお婆さんの思い出の中だと聞いたときに、うすうすわかっていた。お婆さんが幽霊犬たちと同じ世界にいる人なんじゃないかって。
「お婆さんがこっちの世界にきて、どれくらいたつんですか?」
「どれくらい? どれくらいかしら。ずいぶん長い間のような気がするし、来たばかりのような気もするわね。ここにいると、時間の感覚がわからなくなるの。行きたい場所、行きたい時間にすぐ飛べるし、眠くならないし、お腹も空かないの」
「犬たちは、僕たちのご飯の時間になると、美味しそうって喜んでます」
「まあ、そうなの。かわいいわね。思い出の中にずっといるのと、幽霊になっても現世にいるのと、何か違いがあるのかもしれないわね」
「求めているものの違いとか……」
「ああ、そうね。ワンちゃんたちは食事を求めていて、私は家族を求めているから、かしらね」
にっこりと笑って、犬たちを見ている。アリサさんのことを思い出しているときとは、笑顔の質が違っていた。
アリサさんを愛おしいと思っている気持ちが、たくさん伝わってくる。
その笑顔は、おもちゃ修理を終えたときのじいじの笑顔に似ている気がした。僕を見つめるばあばにも似ているかも。
じいじとばあばの顔を見たくなった。
不思議な世界にやってきた僕は、祖父母のいる所に帰れるのかな。
「そろそろ帰ったほうがいいかもしれないわね。引き止めてしまってごめんなさいね」
お婆さんに促されて、ヒメが僕の足の上からぴょんと飛び降りた。モモタとコタローも立ち上がった。
「帰り方はわからないんですけど、犬たちに連れてこられたので、犬たちを信じてついて行ってみます」
「ええ。そうなさいな。あなたが無事にお家に帰れるように、祈っているわね」
背中を向ける前に、お婆さんに訊ねた。
「ありがとうございます。アリサさんに、伝えておくことはありますか」
お婆さんは「え?」と驚いた顔を見せた。少し考えてから、首を横に振った。
「いいえ。私とヒナタくんは会ったことがないんだから、有紗が変に思っちゃうわ。壊れた人形を捨てずに修理をして、大切に持っていてくれることがわかって、嬉しかった。ヒナタくん、ありがとう」
「いいえ。僕は何も……」
していない、と言おうとしたら、お婆さんの手が伸びてきて、僕の頭を撫でた。
「そこは、『力になれて良かったです』でいいのよ。優しいヒナタくん。さようなら」
3匹の犬たちが、いっせいに駆け出していく。
(ヒナタ、帰ろう)
モモタを先頭に、コタローとヒメが続く。
「お婆さん、さようなら」
お婆さんに頭を下げてから、犬たちに置いていかれないように、僕も駆け出した。
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