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14話 信じたい
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病院の駐車場に向かう途中、円花さんは「私、ひとりでぶらぶらしてみるね」と言って僕から離れて、駆けて行った。呼び止める間もなく。
「どうした?」
叔父さんに呼ばれて、声をかけるのを諦めた。
EV車に乗り込み、移動する。
「食べたい物あるか?」
運転席から叔父さんに聞かれて、僕は首をひねる。
「別に何でもいいよ」
「そんなこと言うなよ。たまにしか顔を合わせないんだからさ」
叔父さん夫婦とは、毎年正月に会っている。今年もだから、結構会ってる方だと思う。両親が離婚してからずっとだから、叔父さんなりに父親代わりをしてくれているのかなと、僕は考えている。
「焼肉行くか」
「あ、うん」
連れて行ってくれたのは、食べ方放題じゃない焼肉屋だった。
二人に任せた注文の肉や野菜がテーブルに届き、焼きながら話をする。最近の母さんの体調や働き方、僕の勉強や学校でのことなど、質問に僕が答えていく形で話が進む。
ある程度、お腹が満たされて、箸の進みがゆっくりになったところで、
「ところで祐嗣くん、また憑かれてないかい?」
叔父さんに問いかけられ、僕はどきっとする。
円花さんの姿が叔父さんに見えていたようだ。
叔母さんにちらっと目を向ける。こんな話をして大丈夫なのかなと。
「眞紗美さんは知ってるよ」
「霊感体質のことでしょう。篤志くんから聞いてるよ。だって篤志くんもそうでしょう」
何気ない口調。叔母さんの表情に、変化はない。見守るような穏やかな目で、僕を見ている。
それなら、と僕は円花さんの話をした。
叔父さんは口を挟まずに、最後まで聞いてくれた。
「記憶がない幽霊か。叔父さんは、見えるだけで詳しくはないから、一般的な知識と変わらないんだけどね。幽霊は未練があると、現世に留まると言われているよね。あの女の子が成仏するために過去を探しているのか、未練を見つけるために過去を探しているのか。目的は聞いた?」
「いや、そこまでは。過去を探して欲しいとしか。でもさ、自分が誰かわからないまま成仏するって、不安じゃないかな」
「うん、まあ、そうだね」
「もう関わっちゃったし、途中でやめるのは悪いから、最後まで付き合ってやろうかなって」
「未練を解消してあげるだけなら、過去をすべて知る必要はないかなと思うけど、その未練がわかっていないなら、過去を探すしかなさそうだな」
「彼女、本当に死者なのかなって、思ったことがあったんだ。踊ってる時、すごく生き生きしてて、生のエネルギーに満ちてるように見えたんだ」
「実は叔父さんも、他の幽霊とは少し違うような気がしてたんだ。具体的にどうとはわからないけど」
「未練って、なんだろう。まさかずっと幽霊のまま踊っていたい、とかじゃないよね」
「踊りの経験者として、どう思う?」
「ええ? 私? 幽霊になったことがないから、わからないわ。んー、でも、魂と心と肉体があってこそかなと私は思うわ」
「魂と心と肉体があってこそ、ですか?」
叔母さんの言葉に興味を惹かれた。
「ええ。心で感じたことを、肉体を使って表現する。表現するには技術が必要で、技術を覚えるために、技術を表現する体を鍛えるために魂が必要。って私は考えているのね。三つのバランスが取れてこそ、人に見てもらえるダンスができると思っているの。技術だけでも褒めてくれる人はいるけれど、心がこもっていると、人の心を打つものができる。それが感動に繋がるの。感動したら、また見たいって思ってもらえるでしょう」
「たしかに」
うんうんと僕は頷く。
「幽霊さんの場合、心はあるのかもしれないけれど、肉体は今のところ祐嗣くんにしか見てもらえていないじゃない。自身が満足できればいいだけなら、それで構わないけど、いずれ物足りなくなると思うわ」
「え!? じゃあ肉体を求めるようになるってこと? ホラーじゃね」
肉体を求めるゾンビが頭に浮かんだ。
「踊れる肉体が欲しいとか言われても、困るな。でも、そんな子じゃないと思うんだ。まだ数日の付き合いだけど」
「生まれ変わりたいって思うかも、っていう話じゃないのかな」
叔父さんに言われて、そういうことかと納得した。
「祐嗣くんは、彼女を信じたいと思ったってことかな?」
「‥‥‥うん。久しぶりに、十年とかになるのかな。人をーー彼女なら、信じられるかもって、思ったんだ」
「叔父さんも、素直そうでいい子そうな印象は持った。見ただけだから、本当のところはわからないけどな。いつでも何でも、叔父さんに相談して。姉さんには言えないだろうから」
「うん、ありがとう」
会計中にお手洗いに行った叔母さんを車で待っている間、僕は叔父さんから一族にまつわる不思議な力の話を聞かされた。
それはすぐには信じられない、半信半疑な内容だった。
叔母さんが戻ってきたから、質問ができないまま自宅に送ってもらって、叔父さん夫婦とは別れた。
次回⇒15話 僕にできる事
「どうした?」
叔父さんに呼ばれて、声をかけるのを諦めた。
EV車に乗り込み、移動する。
「食べたい物あるか?」
運転席から叔父さんに聞かれて、僕は首をひねる。
「別に何でもいいよ」
「そんなこと言うなよ。たまにしか顔を合わせないんだからさ」
叔父さん夫婦とは、毎年正月に会っている。今年もだから、結構会ってる方だと思う。両親が離婚してからずっとだから、叔父さんなりに父親代わりをしてくれているのかなと、僕は考えている。
「焼肉行くか」
「あ、うん」
連れて行ってくれたのは、食べ方放題じゃない焼肉屋だった。
二人に任せた注文の肉や野菜がテーブルに届き、焼きながら話をする。最近の母さんの体調や働き方、僕の勉強や学校でのことなど、質問に僕が答えていく形で話が進む。
ある程度、お腹が満たされて、箸の進みがゆっくりになったところで、
「ところで祐嗣くん、また憑かれてないかい?」
叔父さんに問いかけられ、僕はどきっとする。
円花さんの姿が叔父さんに見えていたようだ。
叔母さんにちらっと目を向ける。こんな話をして大丈夫なのかなと。
「眞紗美さんは知ってるよ」
「霊感体質のことでしょう。篤志くんから聞いてるよ。だって篤志くんもそうでしょう」
何気ない口調。叔母さんの表情に、変化はない。見守るような穏やかな目で、僕を見ている。
それなら、と僕は円花さんの話をした。
叔父さんは口を挟まずに、最後まで聞いてくれた。
「記憶がない幽霊か。叔父さんは、見えるだけで詳しくはないから、一般的な知識と変わらないんだけどね。幽霊は未練があると、現世に留まると言われているよね。あの女の子が成仏するために過去を探しているのか、未練を見つけるために過去を探しているのか。目的は聞いた?」
「いや、そこまでは。過去を探して欲しいとしか。でもさ、自分が誰かわからないまま成仏するって、不安じゃないかな」
「うん、まあ、そうだね」
「もう関わっちゃったし、途中でやめるのは悪いから、最後まで付き合ってやろうかなって」
「未練を解消してあげるだけなら、過去をすべて知る必要はないかなと思うけど、その未練がわかっていないなら、過去を探すしかなさそうだな」
「彼女、本当に死者なのかなって、思ったことがあったんだ。踊ってる時、すごく生き生きしてて、生のエネルギーに満ちてるように見えたんだ」
「実は叔父さんも、他の幽霊とは少し違うような気がしてたんだ。具体的にどうとはわからないけど」
「未練って、なんだろう。まさかずっと幽霊のまま踊っていたい、とかじゃないよね」
「踊りの経験者として、どう思う?」
「ええ? 私? 幽霊になったことがないから、わからないわ。んー、でも、魂と心と肉体があってこそかなと私は思うわ」
「魂と心と肉体があってこそ、ですか?」
叔母さんの言葉に興味を惹かれた。
「ええ。心で感じたことを、肉体を使って表現する。表現するには技術が必要で、技術を覚えるために、技術を表現する体を鍛えるために魂が必要。って私は考えているのね。三つのバランスが取れてこそ、人に見てもらえるダンスができると思っているの。技術だけでも褒めてくれる人はいるけれど、心がこもっていると、人の心を打つものができる。それが感動に繋がるの。感動したら、また見たいって思ってもらえるでしょう」
「たしかに」
うんうんと僕は頷く。
「幽霊さんの場合、心はあるのかもしれないけれど、肉体は今のところ祐嗣くんにしか見てもらえていないじゃない。自身が満足できればいいだけなら、それで構わないけど、いずれ物足りなくなると思うわ」
「え!? じゃあ肉体を求めるようになるってこと? ホラーじゃね」
肉体を求めるゾンビが頭に浮かんだ。
「踊れる肉体が欲しいとか言われても、困るな。でも、そんな子じゃないと思うんだ。まだ数日の付き合いだけど」
「生まれ変わりたいって思うかも、っていう話じゃないのかな」
叔父さんに言われて、そういうことかと納得した。
「祐嗣くんは、彼女を信じたいと思ったってことかな?」
「‥‥‥うん。久しぶりに、十年とかになるのかな。人をーー彼女なら、信じられるかもって、思ったんだ」
「叔父さんも、素直そうでいい子そうな印象は持った。見ただけだから、本当のところはわからないけどな。いつでも何でも、叔父さんに相談して。姉さんには言えないだろうから」
「うん、ありがとう」
会計中にお手洗いに行った叔母さんを車で待っている間、僕は叔父さんから一族にまつわる不思議な力の話を聞かされた。
それはすぐには信じられない、半信半疑な内容だった。
叔母さんが戻ってきたから、質問ができないまま自宅に送ってもらって、叔父さん夫婦とは別れた。
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