31 / 41
31話 過去に戻る決心
しおりを挟む
叔父さんに連絡をし、今の円花さんの状態を電話口で説明した。
『いったん落ち着こうか』
叔父さんにたしなめられて、興奮していたことに気がついた。
そりゃ、興奮もするよ。死亡してしまったと思っていた円花さんが、生きていたんだから。
『命を繋いでくれていたことは、叔父さんも嬉しいよ。だけど、祐嗣くんが過去に戻る必要があるのかどうか、もう一度よく考えて。一回のチャンスを、今使ってしまっていいのかい? 魂も肉体もあるのなら、何もしなくて目覚める可能性があるんだよ』
よく考えた上でそれでも戻るなら、連絡をしてきなさいと諭された。
両親と一緒にいると言う円花さんと別れて、僕はひとりで自宅に戻る。
道中も、帰宅してからも、僕はずっと考えた。過去に戻るかどうか。
叔父さんの言うことももっともだ。円花さんの魂と体がいつか引き合ってひとつに戻れる可能性はあると思う。
でもいつのことだろう。
それまで円花さんの体が持つんだろうか。
3月末の事故から、一カ月以上がたっている。
布団がかけられていたから体形が痩せているかわからなかったけれど、顔色が良くなかった。息をしていないのかと疑ってしまいそうなほど青白く、健康的な人が眠っているだけの状態とは違って見えた。
同じ場所に魂と肉体があるのに、ひとつに戻れない理由。
それは円花さんの心残りにあると、僕は勝手に思っていた。
最後に戻った記憶。交通事故の原因となる出来事。
その心残りを消せるなら、元の状態に戻れるんじゃないかと。
それは、僕が消してやりたいと思った出来事でもある。
谷恭也が絡んだその一連の出来事について、覚えている限り聞き出してメモしてある。
この最初の地点に戻って、円花さんとの関わりを阻む。
過去に戻るのが一回だけだとしても、阻止するチャンスは何度かある。最後の、あの交差点だけは絶対に失敗が許されないけど。
円花さんもそんなに細かく覚えているわけではなかった。だけど、目安にはなる。
僕はメモをしっかりと記憶に叩きこむ。持って行けるのは僕の記憶だけだろうから、間違えないようにしないといけない。
叔父さんの言葉は、もう頭になかった。
翌朝、僕は叔父さんに連絡をした。
「やっぱりやります」
と宣言すると、叔父さんはもう引き留めず、家に来なさいと言ってくれた。
叔父さん家に行く前に、病院に寄った。
円花さんは昨日とまったく変わらない。眠っているというより、精巧な人形が横になっているだけに見える。
透明な方の円花さんは、いなかった。またしても、自宅を聞き忘れてしまったことを思い出した。
眠る円花さんに向けて、
「行ってくる」
と声をかけた。
叔父さん宅に行くと、眞紗美叔母さんと一緒に僕を出迎えてくれた。
僕を和室に案内してくれる。
和室には布団が用意してあった。
「過去にいる時に入れるのは自分の体だけ。力を使っている間、肉体は眠っている状態にある。祐嗣くんが過去から戻ってこない限り目覚めない。過去の何日が、こちらの何日なのか、叔父さんはわからない。だけど、できるだけ早く戻ってきなさい。体が衰弱してしまうといけないから」
「わかった」
一応頷いたけど、僕はあまりわかっていないし、気にしていなかった。
僕のことより、円花さんの方が心配だったから。
「未来に戻るには、逆を辿るんだよ」
戻り方も教えてもらい、僕はさっそく横になった。瞼を閉じる。
「戻る日にちは、明確に決まっているのかい?」
「決まってるよ」
「なら、その日に戻ることだけを強く思って。体が浮き出たら、円花さんの所に行って、体を重ねて」
「え? エロくない?」
思わず目を開いて、叔父さんを見た。
「こら。真面目に取り組んで」
注意されたけど、叔父さんも叔母さんも、軽く笑っていた。
二人の顔を見て、なんだか体から良い感じに力が抜けた。
一度だけのチャンスだから、プレッシャーを感じていたのかもしれない。
僕は再び目を閉じ、戻る日にちを頭に思い浮かべた。
戻るのは、去年の12月上旬。バトントワリングの全国大会がある日。
谷恭也が会場にいた日。
次回⇒32話 過去へ
『いったん落ち着こうか』
叔父さんにたしなめられて、興奮していたことに気がついた。
そりゃ、興奮もするよ。死亡してしまったと思っていた円花さんが、生きていたんだから。
『命を繋いでくれていたことは、叔父さんも嬉しいよ。だけど、祐嗣くんが過去に戻る必要があるのかどうか、もう一度よく考えて。一回のチャンスを、今使ってしまっていいのかい? 魂も肉体もあるのなら、何もしなくて目覚める可能性があるんだよ』
よく考えた上でそれでも戻るなら、連絡をしてきなさいと諭された。
両親と一緒にいると言う円花さんと別れて、僕はひとりで自宅に戻る。
道中も、帰宅してからも、僕はずっと考えた。過去に戻るかどうか。
叔父さんの言うことももっともだ。円花さんの魂と体がいつか引き合ってひとつに戻れる可能性はあると思う。
でもいつのことだろう。
それまで円花さんの体が持つんだろうか。
3月末の事故から、一カ月以上がたっている。
布団がかけられていたから体形が痩せているかわからなかったけれど、顔色が良くなかった。息をしていないのかと疑ってしまいそうなほど青白く、健康的な人が眠っているだけの状態とは違って見えた。
同じ場所に魂と肉体があるのに、ひとつに戻れない理由。
それは円花さんの心残りにあると、僕は勝手に思っていた。
最後に戻った記憶。交通事故の原因となる出来事。
その心残りを消せるなら、元の状態に戻れるんじゃないかと。
それは、僕が消してやりたいと思った出来事でもある。
谷恭也が絡んだその一連の出来事について、覚えている限り聞き出してメモしてある。
この最初の地点に戻って、円花さんとの関わりを阻む。
過去に戻るのが一回だけだとしても、阻止するチャンスは何度かある。最後の、あの交差点だけは絶対に失敗が許されないけど。
円花さんもそんなに細かく覚えているわけではなかった。だけど、目安にはなる。
僕はメモをしっかりと記憶に叩きこむ。持って行けるのは僕の記憶だけだろうから、間違えないようにしないといけない。
叔父さんの言葉は、もう頭になかった。
翌朝、僕は叔父さんに連絡をした。
「やっぱりやります」
と宣言すると、叔父さんはもう引き留めず、家に来なさいと言ってくれた。
叔父さん家に行く前に、病院に寄った。
円花さんは昨日とまったく変わらない。眠っているというより、精巧な人形が横になっているだけに見える。
透明な方の円花さんは、いなかった。またしても、自宅を聞き忘れてしまったことを思い出した。
眠る円花さんに向けて、
「行ってくる」
と声をかけた。
叔父さん宅に行くと、眞紗美叔母さんと一緒に僕を出迎えてくれた。
僕を和室に案内してくれる。
和室には布団が用意してあった。
「過去にいる時に入れるのは自分の体だけ。力を使っている間、肉体は眠っている状態にある。祐嗣くんが過去から戻ってこない限り目覚めない。過去の何日が、こちらの何日なのか、叔父さんはわからない。だけど、できるだけ早く戻ってきなさい。体が衰弱してしまうといけないから」
「わかった」
一応頷いたけど、僕はあまりわかっていないし、気にしていなかった。
僕のことより、円花さんの方が心配だったから。
「未来に戻るには、逆を辿るんだよ」
戻り方も教えてもらい、僕はさっそく横になった。瞼を閉じる。
「戻る日にちは、明確に決まっているのかい?」
「決まってるよ」
「なら、その日に戻ることだけを強く思って。体が浮き出たら、円花さんの所に行って、体を重ねて」
「え? エロくない?」
思わず目を開いて、叔父さんを見た。
「こら。真面目に取り組んで」
注意されたけど、叔父さんも叔母さんも、軽く笑っていた。
二人の顔を見て、なんだか体から良い感じに力が抜けた。
一度だけのチャンスだから、プレッシャーを感じていたのかもしれない。
僕は再び目を閉じ、戻る日にちを頭に思い浮かべた。
戻るのは、去年の12月上旬。バトントワリングの全国大会がある日。
谷恭也が会場にいた日。
次回⇒32話 過去へ
21
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
隣人はクールな同期でした。
氷萌
恋愛
それなりに有名な出版会社に入社して早6年。
30歳を前にして
未婚で恋人もいないけれど。
マンションの隣に住む同期の男と
酒を酌み交わす日々。
心許すアイツとは
”同期以上、恋人未満―――”
1度は愛した元カレと再会し心を搔き乱され
恋敵の幼馴染には刃を向けられる。
広報部所属
●七星 セツナ●-Setuna Nanase-(29歳)
編集部所属 副編集長
●煌月 ジン●-Jin Kouduki-(29歳)
本当に好きな人は…誰?
己の気持ちに向き合う最後の恋。
“ただの恋愛物語”ってだけじゃない
命と、人との
向き合うという事。
現実に、なさそうな
だけどちょっとあり得るかもしれない
複雑に絡み合う人間模様を描いた
等身大のラブストーリー。
靴屋の娘と三人のお兄様
こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!?
※小説家になろうにも投稿しています。
罪悪と愛情
暦海
恋愛
地元の家電メーカー・天の香具山に勤務する20代後半の男性・古城真織は幼い頃に両親を亡くし、それ以降は父方の祖父母に預けられ日々を過ごしてきた。
だけど、祖父母は両親の残した遺産を目当てに真織を引き取ったに過ぎず、真織のことは最低限の衣食を与えるだけでそれ以外は基本的に放置。祖父母が自身を疎ましく思っていることを知っていた真織は、高校卒業と共に就職し祖父母の元を離れる。業務上などの必要なやり取り以外では基本的に人と関わらないので友人のような存在もいない真織だったが、どうしてかそんな彼に積極的に接する後輩が一人。その後輩とは、頗る優秀かつ息を呑むほどの美少女である降宮蒔乃で――
魔性の大公の甘く淫らな執愛の檻に囚われて
アマイ
恋愛
優れた癒しの力を持つ家系に生まれながら、伯爵家当主であるクロエにはその力が発現しなかった。しかし血筋を絶やしたくない皇帝の意向により、クロエは早急に後継を作らねばならなくなった。相手を求め渋々参加した夜会で、クロエは謎めいた美貌の男・ルアと出会う。
二人は契約を交わし、割り切った体の関係を結ぶのだが――
【完結】結婚式の隣の席
山田森湖
恋愛
親友の結婚式、隣の席に座ったのは——かつて同じ人を想っていた男性だった。
ふとした共感から始まった、ふたりの一夜とその先の関係。
「幸せになってやろう」
過去の想いを超えて、新たな恋に踏み出すラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる