【完結】僕らの恋は青くない

衿乃 光希

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31話 過去に戻る決心

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 叔父さんに連絡をし、今の円花さんの状態を電話口で説明した。

『いったん落ち着こうか』
 叔父さんにたしなめられて、興奮していたことに気がついた。

 そりゃ、興奮もするよ。死亡してしまったと思っていた円花さんが、生きていたんだから。

『命を繋いでくれていたことは、叔父さんも嬉しいよ。だけど、祐嗣くんが過去に戻る必要があるのかどうか、もう一度よく考えて。一回のチャンスを、今使ってしまっていいのかい? 魂も肉体もあるのなら、何もしなくて目覚める可能性があるんだよ』

 よく考えた上でそれでも戻るなら、連絡をしてきなさいと諭された。

 両親と一緒にいると言う円花さんと別れて、僕はひとりで自宅に戻る。
 道中も、帰宅してからも、僕はずっと考えた。過去に戻るかどうか。

 叔父さんの言うことももっともだ。円花さんの魂と体がいつか引き合ってひとつに戻れる可能性はあると思う。
 でもいつのことだろう。
 それまで円花さんの体が持つんだろうか。

 3月末の事故から、一カ月以上がたっている。
 布団がかけられていたから体形が痩せているかわからなかったけれど、顔色が良くなかった。息をしていないのかと疑ってしまいそうなほど青白く、健康的な人が眠っているだけの状態とは違って見えた。

 同じ場所に魂と肉体があるのに、ひとつに戻れない理由。

 それは円花さんの心残りにあると、僕は勝手に思っていた。
 最後に戻った記憶。交通事故の原因となる出来事。
 その心残りを消せるなら、元の状態に戻れるんじゃないかと。

 それは、僕が消してやりたいと思った出来事でもある。
 谷恭也が絡んだその一連の出来事について、覚えている限り聞き出してメモしてある。
 この最初の地点に戻って、円花さんとの関わりを阻む。

 過去に戻るのが一回だけだとしても、阻止するチャンスは何度かある。最後の、あの交差点だけは絶対に失敗が許されないけど。

 円花さんもそんなに細かく覚えているわけではなかった。だけど、目安にはなる。

 僕はメモをしっかりと記憶に叩きこむ。持って行けるのは僕の記憶だけだろうから、間違えないようにしないといけない。

 叔父さんの言葉は、もう頭になかった。

 翌朝、僕は叔父さんに連絡をした。
「やっぱりやります」
 と宣言すると、叔父さんはもう引き留めず、家に来なさいと言ってくれた。

 叔父さん家に行く前に、病院に寄った。

 円花さんは昨日とまったく変わらない。眠っているというより、精巧な人形が横になっているだけに見える。
 透明な方の円花さんは、いなかった。またしても、自宅を聞き忘れてしまったことを思い出した。

 眠る円花さんに向けて、
「行ってくる」
 と声をかけた。

 叔父さん宅に行くと、眞紗美叔母さんと一緒に僕を出迎えてくれた。

 僕を和室に案内してくれる。
 和室には布団が用意してあった。

「過去にいる時に入れるのは自分の体だけ。力を使っている間、肉体は眠っている状態にある。祐嗣くんが過去から戻ってこない限り目覚めない。過去の何日が、こちらの何日なのか、叔父さんはわからない。だけど、できるだけ早く戻ってきなさい。体が衰弱してしまうといけないから」

「わかった」
 一応頷いたけど、僕はあまりわかっていないし、気にしていなかった。
 僕のことより、円花さんの方が心配だったから。

「未来に戻るには、逆を辿るんだよ」
 戻り方も教えてもらい、僕はさっそく横になった。瞼を閉じる。

「戻る日にちは、明確に決まっているのかい?」
「決まってるよ」

「なら、その日に戻ることだけを強く思って。体が浮き出たら、円花さんの所に行って、体を重ねて」

「え? エロくない?」
 思わず目を開いて、叔父さんを見た。

「こら。真面目に取り組んで」
 注意されたけど、叔父さんも叔母さんも、軽く笑っていた。

 二人の顔を見て、なんだか体から良い感じに力が抜けた。
 一度だけのチャンスだから、プレッシャーを感じていたのかもしれない。

 僕は再び目を閉じ、戻る日にちを頭に思い浮かべた。

 戻るのは、去年の12月上旬。バトントワリングの全国大会がある日。

 谷恭也が会場にいた日。



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