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35話 ファーストコンタクトを阻止せよ
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「当日で、あってる?」
円花さんが周囲をきょろきょろと見渡す。僕らがやって来たのは、例の横断歩道。どうしてここなんだろう。
「わかんないけど、たぶん合ってるんじゃないかな。何時に話しかけられたの?」
「練習後だから、夕方たぶん4時ぐらいだったと思う」
「今、何時だろう」
円花さんがスマホを触っている人のところに行って、覗き込むと戻って来た。
「日にちあってるよ。時間はもうじき3時になるとこ」
「話しかけられる場所は?」
「小学校の近く。もうじき練習終わるころだから、私はクラブに行ってるね」
「ん、じゃあ円花さんの体が無事に家に着いたら、僕ん家で待ってて」
「わかった。あとでね」
手を振り合って円花さんと別れ、僕は谷恭也の家に行ってみる。
谷恭也は不在だった。大学に行っているのか、すでにどこかで円花さんを待ち伏せしているのかもしれない。
僕は空中を移動し、恭也の姿を捜しながら円花さんがいるはずのクラブに立ち寄った。
透明な円花さんと、過去の円花さんが一緒に踊っている。僕の目には双子が完璧なシンクロで踊っているようにみえた。同一人物だから、当たり前なんだけど。
もっと見ていたいけど見惚れている場合じゃないなと気がつき、後ろ髪を引かれながらクラブを出た。
声を掛けられたという小学校のある地域を飛び回っていると、第一中学の敷地内にいる恭也を見つけた。
「何をやってるんだ?」
体育館の外で、腹ばいになって換気窓から中を覗きこんでいる。
「完全に変態だな」
同性から見てもあまりにも愚かで、情けない姿。しかもスマホを手にしてるから、撮影しているんだろう。
取り上げたいけど、この姿ではどうすることもできない。急いで帰宅して、自分の体で戻ってきても、学校には入れない。通報したくても、恭也がいることを確認してからでないとイタズラだと疑われるだろう。
生身の肉体がない状態は、自由に動けて便利ではあるけれど、現実と連絡が取れないのは不便でもあった。
体に入ってから探した方が良かったかもしれない。
でも今日はたぶん時間がない。このまま恭也を監視しよう。
しばらくして満足したのか、恭也はフェンス越しに移動して、周囲を見渡してからすっと正門を出た。
何もなかったような顔をして、北に向かって歩いて行く。このまま行くと小学校だ。
僕は途中で道を替え、円花さんを捜した。
円花さんはスポーツバッグを肩にかけ、横断歩道を渡ったところだった。
仲間なのだろう、バイバイと二人に手を振って、一人になった。
「円花さん」
中に未来の円花さんが入っている可能性を信じて声をかけると、
「あ、ユージくん」
僕に気がついて、ぱっと笑顔になった。
うわー、円花さんが生きてる。
透けていない円花さんが、僕を見て明るい笑顔を見せてくれた。
感動して、しばらく魅入っていると、
「どうしたの?」
円花さんが怪訝そうな顔をした。
僕はわざとだとバレる咳払いをしてごまかして、谷恭也の現在地を教えた。
「一中から小学校の道だね。OK。道替えるね」
逆に南に向かい、一中を大回りして自宅に戻ると言う。
僕は谷恭也のその後の行方を追った。
小学校まで来ると、恭也は東に足を向けていた。そのまま行くとあの横断歩道に出る。
円花さんが道を替えていなければ、出くわしていた。回避できたことにほっとする。
しばらく恭也の動きを見張っていたけれど、今日はもう大丈夫だろうと思い、僕は自宅に戻った。
透明の円花さんは家に上がらず、美容室のドアの前で待っていた。
「どうしたの? 上がってていいのに」
「だって、ユージくん私が見えるでしょう? まずいかなあと思って」
「あ、そっか。この頃の僕は、円花さんを知らないんだったよ。うっかりしてた」
僕が過去の僕の中に入っていれば問題ないけど、入っているかどうか見た目からはわからない。
気づいてくれた円花さんに感謝だ。
「まずは一つ目クリアだな。この次は?」
「一週間後ぐらいだったと思う。それから週一ぐらいで声をかけられて――。たぶんどこかで見張ってたんだと思う」
円花さんの瞳が不安そうに揺れる。
見張られていたら、回避は難しい。
中学校に侵入していた谷恭也を思い出して、ぞっとした。
「ここから先は僕が体に入って、注意を逸らすようにしてみるよ」
「危なくない? 過去のユージくんに何かあったら、未来のユージくんに影響出ないかな?」
「影響はあるかもだけど、気をつけるしかない、かな」
僕は最初から自分の体に入って阻止するつもりだったから、怖気づく気持ちなんかない。
だけど、円花さんが僕を心配してくれる気持ちはわかる。谷恭也の変態性は、気持ち悪かった。逆上して危害を加えられる可能性も考えられる。
「ねえ、ユージくん。あの事故の日に行かない?」
「その間がどうなってるのかわからなくなるけど、いいの? 話しかけられてるかもしれないのに」
「何度もうまくいくかわからないよ? ユージくんがケガとかしたら嫌だ」
僕を心配してくれるのは嬉しいけど、円花さんを助けるために戻ってきたんだから。
「チャンスは一度だけだよ。谷恭也を怖がらない未来があれば、事故に遭う可能性も下がると思うんだ」
納得できない顔をしながらも、僕の説得に円花さんは頷いて、人差し指を立てた。
「じゃあ、一度だけ。一度だけ回避して欲しい。そしたら、事故の日に行こう」
「わかった。円花さんがいいなら」
根負けした僕は了承した。間に何があったとしても、事故を回避することが目的なんだから、やることは変わらない。
円花さんの手を取り、僕たちは二回目のコンタクトの日に跳んだ。
円花さんが周囲をきょろきょろと見渡す。僕らがやって来たのは、例の横断歩道。どうしてここなんだろう。
「わかんないけど、たぶん合ってるんじゃないかな。何時に話しかけられたの?」
「練習後だから、夕方たぶん4時ぐらいだったと思う」
「今、何時だろう」
円花さんがスマホを触っている人のところに行って、覗き込むと戻って来た。
「日にちあってるよ。時間はもうじき3時になるとこ」
「話しかけられる場所は?」
「小学校の近く。もうじき練習終わるころだから、私はクラブに行ってるね」
「ん、じゃあ円花さんの体が無事に家に着いたら、僕ん家で待ってて」
「わかった。あとでね」
手を振り合って円花さんと別れ、僕は谷恭也の家に行ってみる。
谷恭也は不在だった。大学に行っているのか、すでにどこかで円花さんを待ち伏せしているのかもしれない。
僕は空中を移動し、恭也の姿を捜しながら円花さんがいるはずのクラブに立ち寄った。
透明な円花さんと、過去の円花さんが一緒に踊っている。僕の目には双子が完璧なシンクロで踊っているようにみえた。同一人物だから、当たり前なんだけど。
もっと見ていたいけど見惚れている場合じゃないなと気がつき、後ろ髪を引かれながらクラブを出た。
声を掛けられたという小学校のある地域を飛び回っていると、第一中学の敷地内にいる恭也を見つけた。
「何をやってるんだ?」
体育館の外で、腹ばいになって換気窓から中を覗きこんでいる。
「完全に変態だな」
同性から見てもあまりにも愚かで、情けない姿。しかもスマホを手にしてるから、撮影しているんだろう。
取り上げたいけど、この姿ではどうすることもできない。急いで帰宅して、自分の体で戻ってきても、学校には入れない。通報したくても、恭也がいることを確認してからでないとイタズラだと疑われるだろう。
生身の肉体がない状態は、自由に動けて便利ではあるけれど、現実と連絡が取れないのは不便でもあった。
体に入ってから探した方が良かったかもしれない。
でも今日はたぶん時間がない。このまま恭也を監視しよう。
しばらくして満足したのか、恭也はフェンス越しに移動して、周囲を見渡してからすっと正門を出た。
何もなかったような顔をして、北に向かって歩いて行く。このまま行くと小学校だ。
僕は途中で道を替え、円花さんを捜した。
円花さんはスポーツバッグを肩にかけ、横断歩道を渡ったところだった。
仲間なのだろう、バイバイと二人に手を振って、一人になった。
「円花さん」
中に未来の円花さんが入っている可能性を信じて声をかけると、
「あ、ユージくん」
僕に気がついて、ぱっと笑顔になった。
うわー、円花さんが生きてる。
透けていない円花さんが、僕を見て明るい笑顔を見せてくれた。
感動して、しばらく魅入っていると、
「どうしたの?」
円花さんが怪訝そうな顔をした。
僕はわざとだとバレる咳払いをしてごまかして、谷恭也の現在地を教えた。
「一中から小学校の道だね。OK。道替えるね」
逆に南に向かい、一中を大回りして自宅に戻ると言う。
僕は谷恭也のその後の行方を追った。
小学校まで来ると、恭也は東に足を向けていた。そのまま行くとあの横断歩道に出る。
円花さんが道を替えていなければ、出くわしていた。回避できたことにほっとする。
しばらく恭也の動きを見張っていたけれど、今日はもう大丈夫だろうと思い、僕は自宅に戻った。
透明の円花さんは家に上がらず、美容室のドアの前で待っていた。
「どうしたの? 上がってていいのに」
「だって、ユージくん私が見えるでしょう? まずいかなあと思って」
「あ、そっか。この頃の僕は、円花さんを知らないんだったよ。うっかりしてた」
僕が過去の僕の中に入っていれば問題ないけど、入っているかどうか見た目からはわからない。
気づいてくれた円花さんに感謝だ。
「まずは一つ目クリアだな。この次は?」
「一週間後ぐらいだったと思う。それから週一ぐらいで声をかけられて――。たぶんどこかで見張ってたんだと思う」
円花さんの瞳が不安そうに揺れる。
見張られていたら、回避は難しい。
中学校に侵入していた谷恭也を思い出して、ぞっとした。
「ここから先は僕が体に入って、注意を逸らすようにしてみるよ」
「危なくない? 過去のユージくんに何かあったら、未来のユージくんに影響出ないかな?」
「影響はあるかもだけど、気をつけるしかない、かな」
僕は最初から自分の体に入って阻止するつもりだったから、怖気づく気持ちなんかない。
だけど、円花さんが僕を心配してくれる気持ちはわかる。谷恭也の変態性は、気持ち悪かった。逆上して危害を加えられる可能性も考えられる。
「ねえ、ユージくん。あの事故の日に行かない?」
「その間がどうなってるのかわからなくなるけど、いいの? 話しかけられてるかもしれないのに」
「何度もうまくいくかわからないよ? ユージくんがケガとかしたら嫌だ」
僕を心配してくれるのは嬉しいけど、円花さんを助けるために戻ってきたんだから。
「チャンスは一度だけだよ。谷恭也を怖がらない未来があれば、事故に遭う可能性も下がると思うんだ」
納得できない顔をしながらも、僕の説得に円花さんは頷いて、人差し指を立てた。
「じゃあ、一度だけ。一度だけ回避して欲しい。そしたら、事故の日に行こう」
「わかった。円花さんがいいなら」
根負けした僕は了承した。間に何があったとしても、事故を回避することが目的なんだから、やることは変わらない。
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