【完結】婚約者と養い親に不要といわれたので、幼馴染の側近と国を出ます

衿乃 光希@書籍発売中!

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第二部 帰郷

5話 養父の葬儀

 三日後、重くたれこめた雲が空を覆う中、養父の葬儀が行われた。
 ルクディア国教会の神父とともにかけつけた弔問客が祈りを捧げたあと、献花が進んでいる。
 養女となり、ブランヴィル家に入った私も参列しないわけにはいかない。献花を終えた遺族たちに並んで頭を下げる。

 弔問客の中には見知った顔の貴族やかつての学友たちを、少ないながらも見かけた。その中にはアドリック殿下とジュスト様も含まれている。
 おそらく国王陛下の名代として参列なさったのだろう。
 私に目を留めたアドリック殿下は、軽く眉毛を上げたけれど、話しかけてくることはなく、献花を終えて席にお戻りになった。
 ジュスト様は何か話したそうだったけれど、状況を察し口を閉じた。

 アランとリュカは、ホテルでお留守番。二人が遺族として私と並ぶことを、喪主である長男ルーファスと養母が反対した。
 私たちも逆らはなかった。夫婦だと主張したところで、二人が考えを覆らせることは絶対にないし、ルクディアの身分制度に反しているのは私たち。最初から我を張るつもりはなかったから、素直に従った。

 王都での告別式がすんだあと、養父の亡骸はブランヴィル領に運ばれ、棺ごと埋葬されることが決まっている。
 私たちは明日ブランヴィルに移動をし、到着後、領内でもう一度葬儀を行う。

 アランとリュカは、明日ボーヴォワールに向けて移動することになった。私は葬儀の終了後、クリストフお兄様と一緒にボーヴォワールに移動し、落ちあうことになっている。

 王都からブランヴィル領までは馬車で東に向かって二日。
 王都からボーヴォワール領までは、南東に四日。
 ブランヴィル領からボーヴォワール領までは三日。

 一週間ほど二人に会えなくなる。そんなに離れたことがないからとても寂しいし心細い。
 クリストフお兄様とお姉様が気遣ってくださるので、甘えさせてもらえて、ありがたく感じていた。

 すべての参列者の献花が終わり、花で覆われた棺の蓋が閉められた。
 ルーファスお兄様が挨拶を述べる。
 養母は背筋を伸ばし、毅然とした態度だった。目は赤いけれど、人前では一筋の涙も流していないようだった。

 伴侶を失ったときでも、感情を出さないことを徹底しているなんて。参列した貴族からは、貴族の鑑と映っているのだろうか。
 けれど、大切な人を失ったときぐらい、取り乱すほどでなければ感情を出してもいいんじゃないかなと私は考える。

 アランがいなくなってしまったら、私は取り乱してしまうだろう。
 考えたくないけれど、いつかは必ず永遠の別れがやってくる。父と母のように病気でかもしれないし、事故で突然かもしれない。それは誰にもわからない。

 父と母は病死だったとはいえ、突然に近かった。
 最初は王都にいた父が食事の最中に嘔吐し、寝たきりになった。
 父の体調が戻らないうちに、母も体調を崩して寝たきりになり、ほぼ同時に身まかったらしい。

 8歳だった私はボーヴォワール領にいた。だから両親が棺に入って戻ってきたことの状況が呑み込めなかった。
 棺が埋葬されるとき、生きている両親に会えないと悟り、声を上げて泣いた。
 誰も泣いてはならないとは言わなかった。言ってくれる両親は他界し、執事もメイドも、みんな嘆き悲しんでいた。家庭教師ですら、私を叱らなかった。

 子供の頃のことを思い出して涙ぐんでいる間に、献花が進み、まもなく告別式が終了した。親族も弔問客も、誰も涙を流さないまま。
 泣かないからといって、悲しみがないわけではないとわかったのは、養母の元に集まった貴族たちから励ます声が聞こえてきたから。

 気を落とさないようにね。
 長男とともに、しっかり領地を守っていかないとね。
 落ち着いたら、お手紙をくださいな。お茶会にご招待するわね。

 養母と仲の良い方々なのだろう。こんなときに励ましてくれる友人がいて、ありがたいと養母は思っているだろう。
 私にとっては意地悪な養い親だったけれど、亡くなって良かったなんて思う気持ちはカケラもない。寂しく思うこともないけれど、人の死を悼む気持ちは持ち合わせている。

 有志の手で養父の棺が馬車に乗せられ、動き出す。
 静かに黙とうが捧げられた。

 教会の前は、貴族たちの馬車で渋滞している。私とクリストフお兄様とセラフィーナお姉様は残って事後処理をしていた。
 ルーファスお兄様と養母は、棺とともに先に教会を出ている。
 事後処理といっても、先に戻る二人に代わって、帰宅する弔問客にお礼を伝えるだけ。

 途中で抜けさせてもらって、化粧室に向かった私は、噂話を耳にした。
「こんなにも貴族の死が相次ぐと、気持ちが沈みますわね」
「気持ちもですけれど、懐も厳しいですわ。上が空いたのですから、出世しないかしら、我が夫は」

 声は押し殺しているけれど、私以外に人がいないため、よく聞こえてきた。
 貴族といえど、この人たちは仲が良いのだろう。自宅にでもいる感覚で話しをしているようだ。
 こんな場所で話していて大丈夫なのかしら、と少し心配になる。家格が高い順に帰っているから、ここにいる二人は下位の貴族の奥様と思われる。

 二人と鉢合わせをしては面倒だなと考えた私は、別の場所にある化粧室に向かうことにした。
 貴族の死が相次いでいるって、どれくらいの期間でどれくらいの人数なのだろうか、と気になりながら。
 



              次回⇒6話 ボーヴォワールへ
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