姫様を幸せにするために恋愛フラグを回避しまくります!

夕闇蒼馬

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笑顔(ただし絶対零度)を浮かべた彼

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 ある日のこと。
 いつも通り私は地下牢の中で何もすることがなく、ルーナが差し入れてくれた本を読みふけっている時のことだ。――地下牢にいることが当たり前のようになっているのが甚だ不本意だが、まぁとにかく私は地下牢で本を読んでいた。


 カツンカツンと、いつもよりも高くヒール音を鳴らしながら誰かが近づいてくる気配がした。

「あらルーナ、今日はどうしてそんなに……」

 怒っているの、と声をかけようとし――その声は私の喉の奥に吸い込まれた。
 いつもの調子で牢の外を見れば、そこにはルーナではない人物が立っていた。

「これはこれは、ご機嫌麗しゅう。お久しぶりですね、アイリスさん?」

 並大抵の人なら泣いて逃げ出すであろう冷笑を浮かべた悪魔ヴェロールが、そこにいた。


「……なぜ貴女がこのような場所にいるのですか?……おかしいと思ったんですよ。いつもならルーナが罪人の情報や証言などを事細かに教えてくれると言うのに今回に限ってはそれがほとんどない。ただ『ベルベット姫の身近にいて、無実を訴え続けている人』とだけしか言われない。だから絶対なにか裏があると思ったんですよね。そうして来てみれば案の定、まさかファンクラブ会員番号1番ともあろう貴女が姫様毒殺未遂事件の容疑者だと地下牢に入れられてるではありませんか。これは一体どうしたことでしょうかねぇ」

 怖い怖いなにこれ……!?
 終始笑顔(ただし絶対零度)を浮かべた彼が、普段それほど口数は多くない彼が、一方的に、まくし立てるように喋っている。

「……あ、あのー」

「おや、これからどんな言い訳が始まるのでしょうか。私めの心を散々もてあそんでおいてその後姿を見せず、でもさすがに姫様ファンクラブの茶会には来るだろうと期待を胸に行けばなんですか、貴女はいないじゃないですか。あぁ、貴女はどれだけ私めを惑わせれば気が済むのですか。貴女のその姿を見た瞬間の心情なんて、どうせ貴女には分からないでしょうね。ビックリの一言では済みませんよ。それはもう、脳天に雷が落ちたのかと思うくらいの驚きでしたよ。……ふふっ、貴女は人を驚かせるのがお好きなようだ。それで?この私めのふつふつと沸き上がる何とも形容しがたいこの感情を落ち着かせる上手な言い訳は準備出来てるのですよね?あぁ楽しみだ」

 ニッコニコしながら噛まずに言い切った。すごい。……じゃなくて。

「……すみませんでした」

 ここは日本人らしく、とりあえず謝っておけの精神で乗り切れないかどうか試してみた。

「謝るということは何か思い当たる節があるんですかねぇ?どうして自分がここまでネチネチネチネチ言われているのかしっかり理解した上で謝っているんですよねきっと」

 とりあえず謝っておけはヴェロールには通じないのか……!厄介すぎる人間だなぁ。

「……貴方にはわたくしがここにいることを、ヴェロール様には黙っていてと、ルーナに頼んだことです」
「ほう、ルーナに……何故私めには黙っておきたかったんでしょう?」
「……そ、それは」

 ――惚れた弱みってやつですね!
 ルーナのキラキラと眩しい笑顔と、彼女の爆弾発言が脳裏をよぎる。

「……ち、違うけど違わない……なんて言えばいいんだこれは……!」
「……今の私めはそれほど気を長く待てないのでね、さっさとしていただけませんかね」

 腕を組んで、トントントントンと右足を床に叩きつけて私を見下ろす姿が大変恐ろしい。これが攻略対象サマのすることか!?

「……それはいいじゃないですか、今は関係ありません。とにかく、貴方を煩わせてしまったようでしたので謝ろうかと思いまして。本当にすみませんでした」
 カシャカシャ鎖を鳴らしながら直角に礼をした。
 ヴェロールは少し目を細めて「……まぁいいでしょう。私めも散々言えて多少はスッキリしましたからね」と言った。

「ただし」

 安心したのもつかの間、冷たい声が降り注いだ。

「貴女が姫様を毒殺しようとしたのか、私めは気になりましてね。そこのところはどうなのですか?」
「はぁ?だからルーナには何度も言いましたけど、わたくしが姫様を毒殺する理由はありません。そもそもする気もないですし」
「……でしょうね。ならば一体誰が犯人なのかという話になるのですけど」
「大方予想はついてます」
「ほう?」
「……でも、確証は持てません」
 そう、今の今まで犯人を考えてみたが、候補は何人か上がった。だが、確証がないので何とも言えない状況なのだ。

「一応聞いてみましょう。誰ですか」
「……疑いたくはないのだけれど、あの料理人たちの中の誰か」
「随分ざっくりしてますね。して、理由は?」

「わたくしが紅茶を準備する際、使ったのはあの料理場だけです。しかも、準備が終わったものをワゴンに載せて運んだのはわたくし自身。ならば必然的にあの料理人たちの中に刺客が紛れ込んでいるとか……あるいは、料理場に潜り込んで毒を仕込んで王宮を抜け出した外部からの刺客とか、そこらへんしか容疑者はいないですよね。わたくしでないならば」

「……なるほど。理にかなっています。しかし、貴女の無実がまだ証明されてないので私めはその意見をどうすることも出来ません。貴女の無実が証明された時、私めはその話をしてみましょう。現段階で貴女が騒ぎ立てても信じてもらえるはずがないですし、私めが言ったところで貴女が全て嘘を伝えたのかもしれないと疑われるだけです」
「……えぇ、そうですね」
 逆にヴェロールが私のことを真っ先に疑わず、話もちゃんと聞いて信じてくれたことに驚くべきだろう。

「……ですから」
「はい」

「貴女はもう少し、あと少しだけ耐えてください。必ずここから出して差し上げますから」

 強い意志のこもった双眸が私を射抜く。そして、私を安心させるようにニコリと笑った。悪意の欠片も感じない、真っ白な笑顔だ。

「……はい」

 私はその表情を前に、はいと答える以外なかった。
 ヴェロールは私を必ず助けてくれると言ったのだ。その言葉に嘘偽りはないと信じている。
 だから。

「……よろしくお願いします」

 再びこうべを垂れる。
 これしかできない自分に歯がゆさを感じる。

「えぇ、よろしくされました。……あとひとつ、絶対に守って欲しいことがあるのですが」
「はい、なんでしょう」
「何があっても、何がなんでも、自分の罪を認めるようなことはしないでください。してもいない罪を問われているのなら、尚更」
「……はい」

 私が少しでも罪を認めるようなことを言ってしまえばそれは有罪にする理由になってしまうのだ。
 私はヴェロールの言葉に強く頷く。

「よろしい。それでは、私めはそろそろ行かねばなりません。また来るので、その時までどうかお元気で」
「……はい。ヴェロール様こそ、お元気で」

 ふたりは視線を交わし、また会うことを誓い合った。
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